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第一章
獣人 後編
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「本当にすいませんでした」
「不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
ミューさんとリーディアさんは家に入るなり、2人揃って深々と頭を下げて謝ってきた。
謝られる覚えは確かにあるけど、陽の落ちた暗い森の中をやって来る程じゃない。
次に会った時でも構わなかったのに、何を焦ってるんだ?
「ミューさんも、リーディアさんもそこまで謝らなくてもいいですよ。もう気にしてませんから」
「あ、ありがとうございます!」
「よ、良かった……次からは気をつけますわ。本当に」
「それにしても、わざわざこんな暗い中をやって来る事なかったのに。俺の家は街の郊外にあるこんな森の中ですよ? 次に会った時でも良かったんじゃないですか?」
「それが……」
「そうもいかなかったのよ……」
溜息混じりに肩を落とす2人の話によると、やっぱりさっきのギルドでの揉め事が原因らしい。
ギルドマスターは、ギルド内で秩序を保つはずの職員が揉め事を仲裁するどころか助長した事、大店のリーディア商会の会長の規約違反ギリギリの行為にかなりご立腹だったらしい。
更に相手が中々受け手のいない採取依頼を専門的に受けている俺だったから『機嫌を損ねて別の街に移籍されたらどうする!?』とまで言われ、許してもらえるまで帰って来るなと言われたそうだ。
出来なかったらミューさんは1年間の給料半額カット、リーディアさんはギルドへの依頼停止と告げられ、2人は泣く泣くこんな夜中に俺の家まで訪ねて来たってわけだ。
うーん、哀れ……
「許してくださってありがとうございます」
「本当ね。もうこりごりだわ」
心労なのか少し疲れが見えるな。
このまま帰すのはちょっと可哀想な気がする。
「2人ともお腹すいてませんか?」
「えっ? あっ、はい……」
「そういえば夕食の時間ね。今から帰って食べるとなると遅い夕食になりそうだわ」
「男飯でよかったら食べます?」
俺の提案に意外だったのか、2人は顔を見合わせていた。
「リョウさんはお料理もされるんですか? 私はお腹ぺこぺこなんで、お言葉に甘えさせていただきます」
「そうね。たまには庶民の食事でもいただこうかしら」
2人とも食べるのね。
多めに作って保存しておいて良かったよ。
「じゃあ、どうぞ。大した物じゃなくて悪いんだけど」
「これって……パスタですか?」
「……何か妙にドロッとしてるわね。焼いたベーコンが入ってるみたいだけど……大丈夫なの?」
んっ? ああ、そうか。
異世界のパスタってチーズと香辛料だけの物しかなくて、パスタのソースって概念すらないんだった。
そりゃ気にもなるか。
「これはカルボナーラって言うパスタですよ。お口に合えばいいんだけど」
「卵も入ってるみたいですね。全然味の想像がつかないです」
「まぁ、とりあえず一口いただくわ」
2人は見た事もないパスタに少し戸惑っていたけど、口に入れると眼を見開いて驚いていた。
「えっ!? お、美味しい! これ、凄く美味しいですよ! リョウさん!」
「な、何これ……焼いたベーコンにチーズと卵、それにこれは牛の乳? それらが合わさってクリーミーの舌触りと濃厚な味が一体となってる……こんなに美味しいなんて……」
最初はおそるおそるだった2人は気に入ったのか一心不乱に食べ出した。
いい食べっぷりだ。
俺も食べよっと。
「うん、美味い……けど、なんかもの足りないな」
ミューさんもリーディアさんも美味しそうに食べてくれているが、俺にはなんとなく一味足りない気がする。
はて、なんだ?
クリーミーで濃厚、それでいてまろやかで優しい味……あっ、アレだ。
アレを忘れてたわ。
後でかけようと思って忘れてた。
「どうしたんですか? リョウさん」
「ちょいと忘れ物があってね。2人もまだ残ってるなら置いといた方がいいよ。もっと美味くなるから」
「こ、これ以上に美味くですって!? も、もっと早く言ってくださらない!?」
そうは言われても俺は料理人じゃなくて、ただの料理好きだからな。
忘れる事も失敗する事もある。
おっ、あったあった。
「こいつを忘れてたんだ」
「黒い粒……ま、まさか胡椒ですか!?」
「嘘でしょ? ちょっと昔までは一袋に金貨1枚の値が付いてた高級品よ? 貴方、それをこんな簡単に……」
「あのねぇ……絵画なら綺麗に飾るし、宝石なら大切に身につけるよ? でも、食材は違うだろ? 食材は美味しくいただくためにあるんだから、金がかかろうが美味いんなら食うべきだよ」
な~んて偉そうに言ったけど、実はこれは買った物じゃないからお金はかかってない。
偶然だけど、この森の奥に野生の胡椒が自生しているのを見つけて、俺自身が採取したものだ。
俺だって流石に金貨1枚出して買ったものなら使うのに躊躇するよ。
でも、自分で採った物ならそこまで気にする必要はない。
だって俺には大金は必要ない。
持ってると碌な事がないから。
では、自ら採取した胡椒を一つまみ、自分の皿にパラっと落とす。
うーん、胡椒のいい香りがするね!
これで本当の完成だ!
さて……
「そんで? 2人はどうするの?」
「うぅ……い、いただきます!」
「当然よ!」
ならば、2人の皿にもパラっとかけてあげよう。
辛くなり過ぎてもいけないから量は調節するけどね。
「さぁ、食べてみて」
「胡椒をこんなに……いただきます! か、辛っ……えっ? す、すごい! さっきより美味しいです!」
「胡椒のピリッとした刺激が、まろやかな味わいを一層引き立てているわ! 美味しい! これは美味しいわよ!」
胡椒が気に入ったようで、2人は夢中になってカルボナーラを食べ、俺もつられて一気に皿を空にしてしまった。
誰かと食べる食事もたまには悪くないかな?
「ああ! 美味しかった! リョウさん! すっごく美味しかったです! 本当にありがとうございました!」
「本当に美味しかったわ。ねぇ? この料理のレシピって教えてもらえないかしら? もちろん御礼は弾むわよ」
「はははっ、気に入ってもらえたようで良かったよ。食後に何か……ん? げっ!?」
「どうしたんですか? 外に誰か……あああっ!」
「か、完全に忘れてたわ……」
窓の外に恐ろしい化け物……もとい、鼻息を荒くし、顔を真っ赤にさせたギルドマスターのオルテガが立っていた。
この2人だけでこんな遅くに俺の家まで来れるとは思ってなかったけど、オルテガが一緒だったのか。
2人が家の中で美味い飯を食ってる間、オルテガはずっと外で待っていたのか。
そりゃ怒るわな。
「ど、ど、どうしましょう!? ギルドマスターめっちゃ怒ってますよぉ!」
「し、知らないわよ! 許してもらったらすぐに帰るって言ってたのに……リ、リョウさん! なんとかしてくださいな! 一緒に夕食を楽しんだんですから同罪ですわ!」
「やめろぉおおお! 俺を巻き込むなぁあああああ! 俺は外にいるって知らなかったんだ!」
「そ、そんな……きゃあああ! マスターが扉を!!」
「怒りで我を失ってますわ! 扉をぶち破る気ですの!?」
「やめてぇえええええ! 俺の家を壊さないでぇええええ!!」
結局そのあと、再び俺の家で説教が始まり、俺まで巻き添えを食う羽目になった。
やっぱり食事は1人がいいよ!
「不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
ミューさんとリーディアさんは家に入るなり、2人揃って深々と頭を下げて謝ってきた。
謝られる覚えは確かにあるけど、陽の落ちた暗い森の中をやって来る程じゃない。
次に会った時でも構わなかったのに、何を焦ってるんだ?
「ミューさんも、リーディアさんもそこまで謝らなくてもいいですよ。もう気にしてませんから」
「あ、ありがとうございます!」
「よ、良かった……次からは気をつけますわ。本当に」
「それにしても、わざわざこんな暗い中をやって来る事なかったのに。俺の家は街の郊外にあるこんな森の中ですよ? 次に会った時でも良かったんじゃないですか?」
「それが……」
「そうもいかなかったのよ……」
溜息混じりに肩を落とす2人の話によると、やっぱりさっきのギルドでの揉め事が原因らしい。
ギルドマスターは、ギルド内で秩序を保つはずの職員が揉め事を仲裁するどころか助長した事、大店のリーディア商会の会長の規約違反ギリギリの行為にかなりご立腹だったらしい。
更に相手が中々受け手のいない採取依頼を専門的に受けている俺だったから『機嫌を損ねて別の街に移籍されたらどうする!?』とまで言われ、許してもらえるまで帰って来るなと言われたそうだ。
出来なかったらミューさんは1年間の給料半額カット、リーディアさんはギルドへの依頼停止と告げられ、2人は泣く泣くこんな夜中に俺の家まで訪ねて来たってわけだ。
うーん、哀れ……
「許してくださってありがとうございます」
「本当ね。もうこりごりだわ」
心労なのか少し疲れが見えるな。
このまま帰すのはちょっと可哀想な気がする。
「2人ともお腹すいてませんか?」
「えっ? あっ、はい……」
「そういえば夕食の時間ね。今から帰って食べるとなると遅い夕食になりそうだわ」
「男飯でよかったら食べます?」
俺の提案に意外だったのか、2人は顔を見合わせていた。
「リョウさんはお料理もされるんですか? 私はお腹ぺこぺこなんで、お言葉に甘えさせていただきます」
「そうね。たまには庶民の食事でもいただこうかしら」
2人とも食べるのね。
多めに作って保存しておいて良かったよ。
「じゃあ、どうぞ。大した物じゃなくて悪いんだけど」
「これって……パスタですか?」
「……何か妙にドロッとしてるわね。焼いたベーコンが入ってるみたいだけど……大丈夫なの?」
んっ? ああ、そうか。
異世界のパスタってチーズと香辛料だけの物しかなくて、パスタのソースって概念すらないんだった。
そりゃ気にもなるか。
「これはカルボナーラって言うパスタですよ。お口に合えばいいんだけど」
「卵も入ってるみたいですね。全然味の想像がつかないです」
「まぁ、とりあえず一口いただくわ」
2人は見た事もないパスタに少し戸惑っていたけど、口に入れると眼を見開いて驚いていた。
「えっ!? お、美味しい! これ、凄く美味しいですよ! リョウさん!」
「な、何これ……焼いたベーコンにチーズと卵、それにこれは牛の乳? それらが合わさってクリーミーの舌触りと濃厚な味が一体となってる……こんなに美味しいなんて……」
最初はおそるおそるだった2人は気に入ったのか一心不乱に食べ出した。
いい食べっぷりだ。
俺も食べよっと。
「うん、美味い……けど、なんかもの足りないな」
ミューさんもリーディアさんも美味しそうに食べてくれているが、俺にはなんとなく一味足りない気がする。
はて、なんだ?
クリーミーで濃厚、それでいてまろやかで優しい味……あっ、アレだ。
アレを忘れてたわ。
後でかけようと思って忘れてた。
「どうしたんですか? リョウさん」
「ちょいと忘れ物があってね。2人もまだ残ってるなら置いといた方がいいよ。もっと美味くなるから」
「こ、これ以上に美味くですって!? も、もっと早く言ってくださらない!?」
そうは言われても俺は料理人じゃなくて、ただの料理好きだからな。
忘れる事も失敗する事もある。
おっ、あったあった。
「こいつを忘れてたんだ」
「黒い粒……ま、まさか胡椒ですか!?」
「嘘でしょ? ちょっと昔までは一袋に金貨1枚の値が付いてた高級品よ? 貴方、それをこんな簡単に……」
「あのねぇ……絵画なら綺麗に飾るし、宝石なら大切に身につけるよ? でも、食材は違うだろ? 食材は美味しくいただくためにあるんだから、金がかかろうが美味いんなら食うべきだよ」
な~んて偉そうに言ったけど、実はこれは買った物じゃないからお金はかかってない。
偶然だけど、この森の奥に野生の胡椒が自生しているのを見つけて、俺自身が採取したものだ。
俺だって流石に金貨1枚出して買ったものなら使うのに躊躇するよ。
でも、自分で採った物ならそこまで気にする必要はない。
だって俺には大金は必要ない。
持ってると碌な事がないから。
では、自ら採取した胡椒を一つまみ、自分の皿にパラっと落とす。
うーん、胡椒のいい香りがするね!
これで本当の完成だ!
さて……
「そんで? 2人はどうするの?」
「うぅ……い、いただきます!」
「当然よ!」
ならば、2人の皿にもパラっとかけてあげよう。
辛くなり過ぎてもいけないから量は調節するけどね。
「さぁ、食べてみて」
「胡椒をこんなに……いただきます! か、辛っ……えっ? す、すごい! さっきより美味しいです!」
「胡椒のピリッとした刺激が、まろやかな味わいを一層引き立てているわ! 美味しい! これは美味しいわよ!」
胡椒が気に入ったようで、2人は夢中になってカルボナーラを食べ、俺もつられて一気に皿を空にしてしまった。
誰かと食べる食事もたまには悪くないかな?
「ああ! 美味しかった! リョウさん! すっごく美味しかったです! 本当にありがとうございました!」
「本当に美味しかったわ。ねぇ? この料理のレシピって教えてもらえないかしら? もちろん御礼は弾むわよ」
「はははっ、気に入ってもらえたようで良かったよ。食後に何か……ん? げっ!?」
「どうしたんですか? 外に誰か……あああっ!」
「か、完全に忘れてたわ……」
窓の外に恐ろしい化け物……もとい、鼻息を荒くし、顔を真っ赤にさせたギルドマスターのオルテガが立っていた。
この2人だけでこんな遅くに俺の家まで来れるとは思ってなかったけど、オルテガが一緒だったのか。
2人が家の中で美味い飯を食ってる間、オルテガはずっと外で待っていたのか。
そりゃ怒るわな。
「ど、ど、どうしましょう!? ギルドマスターめっちゃ怒ってますよぉ!」
「し、知らないわよ! 許してもらったらすぐに帰るって言ってたのに……リ、リョウさん! なんとかしてくださいな! 一緒に夕食を楽しんだんですから同罪ですわ!」
「やめろぉおおお! 俺を巻き込むなぁあああああ! 俺は外にいるって知らなかったんだ!」
「そ、そんな……きゃあああ! マスターが扉を!!」
「怒りで我を失ってますわ! 扉をぶち破る気ですの!?」
「やめてぇえええええ! 俺の家を壊さないでぇええええ!!」
結局そのあと、再び俺の家で説教が始まり、俺まで巻き添えを食う羽目になった。
やっぱり食事は1人がいいよ!
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