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第一章

エルフとドワーフ 後編

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 とりあえず、はしゃぐ2人を席につかせよう。
 そんでこいつらの分を取ってくるか。
 あぁ……米が無くなった。
 味噌汁もどきもギリギリだな、こりゃ。
 漬物はなんとか残りそうだけど、あの2人はめっちゃ食うから、今の量だと足りないだろうな。
 仕方ない、作り置きのアレを出すか。
 上朱鶏じょうしゅどりが無かったら絶対出して無かったな。

「はいよ。これがヴァイオレットの分、こっちはガンテスの分な」

「ありがとう! うーん、やっぱり良い香り! お腹が空いてきちゃうね!」

「こいつは立派な右盾魚みぎたてうおだな! むっ! こいつにも戦傷があるのか! 勇敢な戦士魚よ、有難く頂くからな!」

 うるさい奴らだなぁ。
 ヴァイオレットは醤油の匂いなんて嗅いだ事無いのに腹が減るもんなのか?
 それとガンテス、それは戦傷じゃないぞ。
 味が染み込みやすいようにするための切れ目だ。

「とりあえず食おう。じゃあ、いただきます」

「「いただきます!!」」

 これの意味わかってるんだろうか?
 まぁ、言ってもらえた方がこちらとしても気分がいいんだけどね。
 さて、少し冷めてしまったが、食べるとしよう。
 先ずは米から……美味い!
 こっちの世界ではあんまり食べないみたいだけど、この甘味のある味は外国のじゃなくて日本の米の味だな。
 そして黄土瓜おうどうりの味噌汁もどき……落ち着く味だな。
 まさか南瓜かぼちゃみたいな黄土瓜を裏漉ししたら味噌みたいな物が出来ると思わなかった。
 他にも黒墨樹こくぼくじゅの実は醤油、揺刃草ゆればぐさは昆布の味がする。
 他国に来て何が困るって飯の味が合わない事が一番困るからな。
 慣れ親しんだ味があるのは有難い事だ。
 しかし、それにしても……

「美味っ! 美味っ! 美味っ! 美味ぁあああい! この右盾魚! 身がふっくらしてて、この甘い汁がすごく合ってるっ! 焼いたのより断然美味しいよぉ!」

「こっちのオムレツも美味いぞ! 具なしだが、味がしっかり付いていてトロトロの食感が最高だ! これは手が止まらんぞ!」

 美味そうに食ってくれるのはいいんだけど、もうちょっと静かに食べれないもんかね。
 
「ねぇねぇ! リョウちゃん! この右盾魚ってどこにいるの? 私も捕まえに行きたい!」

「あほ。海の魚だぞ? 素人が簡単に捕まえられるようなもんじゃない。これだってツヴァイの市場で買ってきた物なんだからな」

「むっ、そうなのか? リョウは素材採取が上手いから、てっきり自分で採ってきた物かと思ったぞ」

「別に上手くない。普通だよ、普通」

「普通じゃないよぉ。ギルドの人達も喜んでたよ? それに素材採取の依頼って結構数はあるのに、受けてくれる人がほとんどいないから助かるって」

「それは仕方ないだろう。素材採取より魔物討伐の方が報酬は高額だ。ベテランになればなるほど素材採取の依頼は受けなくなる。俺達だって素材採取の依頼は滅多に受けないからな」

 確かにそんな話は聞いたな。
 冒険に富と名声を夢見るのが冒険者だからな。
 地味な素材採取なんて誰もやりたがらないし、報酬が安いわりに求められる能力は高い。
 前にも、ある冒険者が苦労して持ち帰った品が依頼品とは違うとか言われて、報酬を出す出さないで受付と揉めていたのを見た事がある。
 魔物討伐なら違っても素材やら魔石やらで金になるけど、素材系はほとんど金にならないからなぁ。

「だから素材採取を専門で受けてくれるリョウちゃんがありがたいんだよね~」

 別に俺も素材採取を専門にしてるわけじゃないけどな。
 自分の生活に必要な素材ものを集めるついでに生きていくだけの金を稼いぐために依頼を受けているだけだ。
 俺には富も名声も必要ないから、元々魔物討伐なんて受ける必要がないだけ。
 それに戦闘系の能力スキルはほとんどからね。

「ねぇ……リョウちゃん」

 またこの猫撫で声だ。
 見なくてもわかる。

「言っておくが、煮付けはもう無いからな」

「あううぅ……やっぱり?」

 チラッと見たヴァイオレットの皿は綺麗に空になっていて、残っているのは僅かな米と漬物だけだった。
 ガンテスの方も同じみたいだな。
 おかわりが無いと聞いて少ししょげている。
 本当ならいい感じに焼けてたから出来れば出したく無かったんだけど、やっぱり出すしか無いか。

「ちょっと待ってろ」

「リョウちゃん?」

 台所にある【保存ほぞん】の魔法がかけてある木箱。
 冷蔵庫もびっくりの焼き立ての状態でそれは保管してあった。
 文明の利器はなくとも魔法の叡智がある。
 うーん、異世界おそるべし。

「ほら、あとはこれでも食べてろ」

「ふわぁあああああ! 美味しそぉおおおおお! ありがとう! リョウちゃん! 大好きだよぉおおお!」

「こ、こいつは焼いたオーク肉か!? なんとも美味そうに焼けているじゃないか! 見ているだけで涎が出てくるぞ!」

 垂らすなよ! 絶対に垂らすなよ!
 やれやれ、昨日たまたま手に入ったオーク肉を焼き豚にして保存しておいたんだけどなぁ。
 
「お、おいひぃ! なんておいひさなの! オーク肉が柔らかくて舌の上で蕩けちゃうよぉおおお!」

「むぐむぐっ! このタレも美味いぞ! さっきの右盾魚といい、この焼きオークといい、やっぱりリョウは料理の天才だな!」

 ふ、ふん!
 そ、そんなに褒めたってもう何も無いんだからね!
 ……って、俺はツンデレか!
 美味そうに食ってるのを見るのが嫌いじゃないだけだ!

「あああっ! お腹いっぱいだよ。私は満足です!」

「ふぅ……まぁ、儂にはちと足りんが、これぐらいにしておくとしよう。明日の仕事に差し支えても困るからな」

 1キロのオーク肉を食って足りんと言うか!?
 一体どんな仕事すればそんなに腹が減るんだよ!
 
「仕事って今は何の依頼を受けてるんだ?」

「ゴブリンの討伐だ。奴等の棲家は酷い有様だからな。あまり食い過ぎてると、臭気で吐きそうになる」

「もう最悪! ゴブリン退治なんて嫌だったけど、それしか無かったのぉ」

「それしか無いって……そんな事ないだろ? 金級冒険者のヴァイオレットとガンテスのチームだぞ? 依頼が無いなんてあり得ないだろ?」
 
「明日の夜までに終わる依頼はこれしかなかったの」

 明日の夜まで?
 なんだ? どういう事だ?

「明日の夜になんか予定でもあるのか?」

「それはそれは大事な大事な用事がある! 食いそびれたら困るからな!」

 食いそびれたら困る?
 まさか……こいつらっ!?

「楽しみだねぇ~明日は上朱鶏がどんな料理になるのかなぁ?」

「ああ! きっと見たこともない美味い物が食えるぞ! 今から涎が出るわ!」

「お前達、上朱鶏コレが目当てで明日も来る気かぁ!? 帰れぇえええええ!!」

 俺の静かな夕食は明日も来そうにない。
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