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二章 ウィダー王国編
家紋章
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「ちょうどリューネも戻ってきた。お前達にこれを渡しておこう」
マリエール辺境伯が懐から取り出したのは冒険者章に似たプレートだった。なんかの紋章が描かれているけど、なんだこれ?
「マリエール辺境伯家の家紋章っ!? こ、こんな畏れ多い物を頂くわけにはいきません!」
リューネが慌てて固辞しようとしているぞ? 家紋章とか言ってたけど、これってもしかしてヤバい物なのか?
「そう言わずに受け取るがいい。卿達は優秀な冒険者だ。繋がりを持っておいて損はない。それに先のエマの無礼の詫びでもある。受け取っておくがいい」
「し、しかし……」
「それにセイゴにとっては都合がいいだろう。この国では男は軽んじられるからな。これがあれば何かと動きやすい筈だが?」
「そ、それは……わかりました。お預かり致します」
「それで良い。セイゴも受け取れ」
「は、はい……あの、これは一体……?」
「卿は知らないか。それはウィダー貴族の家紋章だ。それを持つ者はその貴族の縁者である事を示す。それがあれば我が国内において、男であってもそれなりの扱いが受けられるだろう」
おおおっ! それは助かる!
毎回毎回変な目で見られるのは面倒だし、差別とか真っ平御免だからな。でも、落としたり無くしたりしたらヤバそうだな。
「貴族章の鎖に冒険者章を付けて一緒に首から下げておくがいい。その鎖は魔法付与されていて、そう簡単には切れんし、無くしても戻ってくる様になっているからな」
めっちゃ便利! そういう事ならありがたく頂戴しておこう。貴族待遇をしてほしいわけじゃないけど、無用の騒動に巻き込まれるのは嫌だからね。
「では、ありがたく……」
差し出された家紋章を受け取ろうとすると、辺境伯が急にそれを引っ込めた。
えっ? もう心変わりしたの?
「ふむ。リューネはともかく、卿に与えるだけなのはつまらんな。セイゴ。ちょっと付き合え。リューネを倒した卿に興味がある」
そう言われて案内されたのは屋敷の外にある訓練場っぽい所だった。たくさんの兵士達が汗を流しながら訓練している。辺境伯の姿を見て、一際大きい人が声をかけてきた。そこで辺境伯が俺のために訓練場を使う事を伝えると、あからさまに俺を白い目で見てきた。周りの兵士達からもヒソヒソと声が上がる。辺境伯がいるからか表立って何か言ってくる人はいなかったけど、あまり気分の良いものじゃないな。
「セイゴ。好きな得物を使うといい」
辺境伯の命令で様々な武器が目の前に用意された。片手剣、両手剣から槍や斧、見た事もない武器もあった。でも、どれも使った事ないんだよなぁ。強いて言うなら日本人としては日本刀がいいんだけど、さすがにないか。まぁ、剣術なんか全く出来ないけど。
「すいません。俺はいいです」
「なに? 卿の得物はこの中に無いと言うのか?」
「ああ、いえ、そういう訳ではなく。リューネと戦った時もそうだったんですけど、俺は無手なんですよ」
「無手だと? 卿はリューネを相手に無手、つまり素手で勝ったのか? 魔法剣の使い手であるリューネにか?」
「ええ、まぁ……」
周りの兵士達のヒソヒソ声がガヤガヤとなって、一層白眼視される。『嘘に決まっている』と言われるのは仕方ないとしても『男のくせに』って言われてもねぇ。
「俄には信じ難い話だ。リューネ、本当か?」
「はい。セイゴの言うとおり、私は素手のセイゴに負けました」
訓練場内にざわめきが起こる。確かに剣と素手じゃ、剣の方が圧倒的に有利だから無理もない。でも、俺だって命がけで【四字熟語】を4つも使って、楽勝だったわけじゃない。全身ズタボロの辛勝だった。はっきり言ってリューネが最初から本気だったら負けていただろうからな。
「閣下。どうやら我々は魔法剣のリューネの力を過大評価していたようです」
尊大とも言える態度でズガズカとやって来たのは、大槌を背負った大柄な女性だった。180センチくらいある上背にタンクトップ状の服からはみ出る盛り上がった筋肉、そして鉄製の大槌を軽々と背負っているのが常人ではない事を教えてくれる。絶対にお近づきになりたくない相手だな。
「マチルダ副長、それは私の目が節穴と言いたいのか?」
「滅相もありません。ただ、彼女が衰えた、もしくは骨抜きにされた可能性はあるかと」
さっきのエマとかいう執事の時と同じく、リューネは何も言わずにいた。負けた事は事実だから何も言わないんだろう。でなければプライドの高いリューネが馬鹿にされたまま黙っているはずがない。
「閣下、いかがでしょう? 私がこの者の実力を測ると言うのは?」
「ほぅ、面白い。いいだろう。セイゴ、この辺境伯軍副長のマチルダと戦え。勝てば卿の望みを叶えてやるぞ」
勝てば望みを叶えてくれる、か。そいつはやる気が出てくる話だ。そこの副長さんとやらに、リューネを馬鹿にした事を地に頭をつけて謝ってもらおうじゃないか!
マリエール辺境伯が懐から取り出したのは冒険者章に似たプレートだった。なんかの紋章が描かれているけど、なんだこれ?
「マリエール辺境伯家の家紋章っ!? こ、こんな畏れ多い物を頂くわけにはいきません!」
リューネが慌てて固辞しようとしているぞ? 家紋章とか言ってたけど、これってもしかしてヤバい物なのか?
「そう言わずに受け取るがいい。卿達は優秀な冒険者だ。繋がりを持っておいて損はない。それに先のエマの無礼の詫びでもある。受け取っておくがいい」
「し、しかし……」
「それにセイゴにとっては都合がいいだろう。この国では男は軽んじられるからな。これがあれば何かと動きやすい筈だが?」
「そ、それは……わかりました。お預かり致します」
「それで良い。セイゴも受け取れ」
「は、はい……あの、これは一体……?」
「卿は知らないか。それはウィダー貴族の家紋章だ。それを持つ者はその貴族の縁者である事を示す。それがあれば我が国内において、男であってもそれなりの扱いが受けられるだろう」
おおおっ! それは助かる!
毎回毎回変な目で見られるのは面倒だし、差別とか真っ平御免だからな。でも、落としたり無くしたりしたらヤバそうだな。
「貴族章の鎖に冒険者章を付けて一緒に首から下げておくがいい。その鎖は魔法付与されていて、そう簡単には切れんし、無くしても戻ってくる様になっているからな」
めっちゃ便利! そういう事ならありがたく頂戴しておこう。貴族待遇をしてほしいわけじゃないけど、無用の騒動に巻き込まれるのは嫌だからね。
「では、ありがたく……」
差し出された家紋章を受け取ろうとすると、辺境伯が急にそれを引っ込めた。
えっ? もう心変わりしたの?
「ふむ。リューネはともかく、卿に与えるだけなのはつまらんな。セイゴ。ちょっと付き合え。リューネを倒した卿に興味がある」
そう言われて案内されたのは屋敷の外にある訓練場っぽい所だった。たくさんの兵士達が汗を流しながら訓練している。辺境伯の姿を見て、一際大きい人が声をかけてきた。そこで辺境伯が俺のために訓練場を使う事を伝えると、あからさまに俺を白い目で見てきた。周りの兵士達からもヒソヒソと声が上がる。辺境伯がいるからか表立って何か言ってくる人はいなかったけど、あまり気分の良いものじゃないな。
「セイゴ。好きな得物を使うといい」
辺境伯の命令で様々な武器が目の前に用意された。片手剣、両手剣から槍や斧、見た事もない武器もあった。でも、どれも使った事ないんだよなぁ。強いて言うなら日本人としては日本刀がいいんだけど、さすがにないか。まぁ、剣術なんか全く出来ないけど。
「すいません。俺はいいです」
「なに? 卿の得物はこの中に無いと言うのか?」
「ああ、いえ、そういう訳ではなく。リューネと戦った時もそうだったんですけど、俺は無手なんですよ」
「無手だと? 卿はリューネを相手に無手、つまり素手で勝ったのか? 魔法剣の使い手であるリューネにか?」
「ええ、まぁ……」
周りの兵士達のヒソヒソ声がガヤガヤとなって、一層白眼視される。『嘘に決まっている』と言われるのは仕方ないとしても『男のくせに』って言われてもねぇ。
「俄には信じ難い話だ。リューネ、本当か?」
「はい。セイゴの言うとおり、私は素手のセイゴに負けました」
訓練場内にざわめきが起こる。確かに剣と素手じゃ、剣の方が圧倒的に有利だから無理もない。でも、俺だって命がけで【四字熟語】を4つも使って、楽勝だったわけじゃない。全身ズタボロの辛勝だった。はっきり言ってリューネが最初から本気だったら負けていただろうからな。
「閣下。どうやら我々は魔法剣のリューネの力を過大評価していたようです」
尊大とも言える態度でズガズカとやって来たのは、大槌を背負った大柄な女性だった。180センチくらいある上背にタンクトップ状の服からはみ出る盛り上がった筋肉、そして鉄製の大槌を軽々と背負っているのが常人ではない事を教えてくれる。絶対にお近づきになりたくない相手だな。
「マチルダ副長、それは私の目が節穴と言いたいのか?」
「滅相もありません。ただ、彼女が衰えた、もしくは骨抜きにされた可能性はあるかと」
さっきのエマとかいう執事の時と同じく、リューネは何も言わずにいた。負けた事は事実だから何も言わないんだろう。でなければプライドの高いリューネが馬鹿にされたまま黙っているはずがない。
「閣下、いかがでしょう? 私がこの者の実力を測ると言うのは?」
「ほぅ、面白い。いいだろう。セイゴ、この辺境伯軍副長のマチルダと戦え。勝てば卿の望みを叶えてやるぞ」
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