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第八章
本命
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ファルケンウッド城の横に併設されている北方方面軍訓練所は、大隊クラスの演習が可能な広さがある。
普通なら問題ないんだけど、今の俺達には少し手狭となってしまった。
こうして見ると、自分が人間から遠く離れた存在になった気がするなぁ。
ん? こんな朝早くなのに、既に誰かいるぞ?
「おっ、シュナイデンにルーストレームじゃないか。御両人揃って戦争前に逢引かな?」
訓練所に先に来ていた人物が、少しニヤけた顔で茶化してきた。
こんな顔してこんな台詞を言ってるのに不思議と腹が立たないのは、この人の魅力なんだろうか?
「訓練所にいらっしゃるなんて珍しいですね、バランディン様」
聖剣妖精の声を片手に、軽く汗を流していたのはバランディン様だった。
普段は妖精達とのおしゃべりに余念が無いのに、訓練所で鍛錬とは本当に珍しい。
「妖精はタフな男が好きだからね。たまには身体を動かしておかないといけないのさ。それよりこんな所で逢引なんて、少しロマンに欠けるんじゃないかな?」
ルーストレームの場合は『逢引』というより『合挽』だな。
下手なこと言ったらミンチにされそうだしね。
「ねぇ……また失礼な事考えてないかしら?」
つくづく勘の鋭い奴だ。
しかも本気で殺気を向けてきやがる。
だから怖いんだよ。
「別に何も。バランディン様、私達は食後の軽い運動に来ただけですよ。逢引なんて、私には……」
「そうかい? でも、君もそろそろ本命の彼女を決めておいた方がいいよ。恋多き男もいいけど、最後に帰る場所だけはしっかり作っておかなきゃいけないからね」
「最後に帰る場所……ですか?」
「うん。僕達はこの戦争で生きて帰れるかわからない。だから、訃報や死体を何処に届けるかはとても重要なんだよ。きみには家督もあるしね」
ああ、そういうことか。
確かに俺が死んだらシュナイデン男爵家は廃爵だろうけど、その財産をどうするかは問題になる。
特に使用人達にはある程度の金を渡してやりたい。
路頭に迷わすなんて絶対に嫌だからな。
「ありがとうございます。考えておきます」
「うん。いい返事だ。あっ、でも世継ぎを作るのは後にした方がいいよ? 彼女達が戦線から離れるのは今の状況では厳しいからね」
「いえ、私のような若輩者にはまだ早いですよ。それに、こんな戦争の真っ只中に世継ぎなんて……」
「こんな時代だからこそだよ。僕達の戦いは新しい世代のための戦いだからね」
おおおっ、なんと高潔な精神だ!
この人は軽薄そうに見えるけど、実は誰よりも深い考えを持っているんじゃないか?
本気で感銘を受けたぞ。
「じゃあ、そろそろ僕は行くよ。君たちもほどほどにね」
そう言いながらバランディン様は手をヒラヒラと振りながら城へと戻っていった。
新しい世代のための戦い、か。
本当にその通りだ。
新たな世代のため、この戦いは負けられない。
バランディン様の高潔な精神を見習って……
「意外だった。あの人、ただのナンパ野郎じゃなかったのね」
ルーストレームがバランディン様の背中を見ながら小さく呟いた。
ナンパ野郎って、まさか……
やっぱり見習うのはやめておこう。
俺は悪食にはなれん。
普通なら問題ないんだけど、今の俺達には少し手狭となってしまった。
こうして見ると、自分が人間から遠く離れた存在になった気がするなぁ。
ん? こんな朝早くなのに、既に誰かいるぞ?
「おっ、シュナイデンにルーストレームじゃないか。御両人揃って戦争前に逢引かな?」
訓練所に先に来ていた人物が、少しニヤけた顔で茶化してきた。
こんな顔してこんな台詞を言ってるのに不思議と腹が立たないのは、この人の魅力なんだろうか?
「訓練所にいらっしゃるなんて珍しいですね、バランディン様」
聖剣妖精の声を片手に、軽く汗を流していたのはバランディン様だった。
普段は妖精達とのおしゃべりに余念が無いのに、訓練所で鍛錬とは本当に珍しい。
「妖精はタフな男が好きだからね。たまには身体を動かしておかないといけないのさ。それよりこんな所で逢引なんて、少しロマンに欠けるんじゃないかな?」
ルーストレームの場合は『逢引』というより『合挽』だな。
下手なこと言ったらミンチにされそうだしね。
「ねぇ……また失礼な事考えてないかしら?」
つくづく勘の鋭い奴だ。
しかも本気で殺気を向けてきやがる。
だから怖いんだよ。
「別に何も。バランディン様、私達は食後の軽い運動に来ただけですよ。逢引なんて、私には……」
「そうかい? でも、君もそろそろ本命の彼女を決めておいた方がいいよ。恋多き男もいいけど、最後に帰る場所だけはしっかり作っておかなきゃいけないからね」
「最後に帰る場所……ですか?」
「うん。僕達はこの戦争で生きて帰れるかわからない。だから、訃報や死体を何処に届けるかはとても重要なんだよ。きみには家督もあるしね」
ああ、そういうことか。
確かに俺が死んだらシュナイデン男爵家は廃爵だろうけど、その財産をどうするかは問題になる。
特に使用人達にはある程度の金を渡してやりたい。
路頭に迷わすなんて絶対に嫌だからな。
「ありがとうございます。考えておきます」
「うん。いい返事だ。あっ、でも世継ぎを作るのは後にした方がいいよ? 彼女達が戦線から離れるのは今の状況では厳しいからね」
「いえ、私のような若輩者にはまだ早いですよ。それに、こんな戦争の真っ只中に世継ぎなんて……」
「こんな時代だからこそだよ。僕達の戦いは新しい世代のための戦いだからね」
おおおっ、なんと高潔な精神だ!
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本気で感銘を受けたぞ。
「じゃあ、そろそろ僕は行くよ。君たちもほどほどにね」
そう言いながらバランディン様は手をヒラヒラと振りながら城へと戻っていった。
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本当にその通りだ。
新たな世代のため、この戦いは負けられない。
バランディン様の高潔な精神を見習って……
「意外だった。あの人、ただのナンパ野郎じゃなかったのね」
ルーストレームがバランディン様の背中を見ながら小さく呟いた。
ナンパ野郎って、まさか……
やっぱり見習うのはやめておこう。
俺は悪食にはなれん。
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