食うために軍人になりました。

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第七章

総裁

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 頬を汗が伝う。
 僕が冷汗をかくなんて、ここ100年は無かったな。

「久しいな。侯爵」

 聞き間違えようのない声が僕の元爵位を呼んだ。
 こう言われては礼節を欠くことはできないよ。

「お久しぶりです。ルバス総裁」

 振り返って礼をした先には、思っていた通りの人物が立っていた。
 獅子のように猛々しい髪に、巨大で強靭な肉体。
 着ている礼服がはち切れそうになっていて、いつ破れるか冷や冷やするのも変わってない。
 そして、この人には勝てる気が全くしないのも変わってない。

「息災のようで何よりだが、王を裏切った君が息災でいる事を喜んでいいものか。ふむ、この感想は控えておくとしよう」

「それがよろしいかと。それで、ルバス総統。単刀直入にお聞きしますが、こちらにはどのような御用向きで?」

 はっきり言ってこの人は存在感だけでもヤバい。
 普通の人間なら気を失っていてもおかしくないくらいだ。
 ウォーレイクは大したもんだよ。
 気圧されながらも震えは微塵も見えない。
 さすがはリクトの上官なだけはある。

「君は結論を急ぐのだね。せっかくの再会だと言うのに、寂しいことだ」

「今は戦時中ではありませんか? 悠長にしていられる時間はございません」

 一瞬たりとも気が抜けない。
 総統が本気になれば僕でもどうなるかわからない。
 最悪の場合、リクトだけ連れて逃げる。
 ウォーレイクや他の者達は見殺しにする。
 全員死ぬよりは遥かにマシだからな。

「ふっ、そう構えずともよい。私はガルビアを連れ戻しに来ただけだ」

「連れ戻す、とは?」

「そのままの意味だ。今は魔王様を讃える祭りの時期。御前を人間の血で穢すなどあり得ぬ事だ」

 今、祭りの時期と言ったって事は総裁は穏健派か。
 だったらまだ望みはある。

「総裁! 御言葉ですが、先に仕掛けてきたのは人間の方です! 何故、容赦しなければならないのですか!?」

 連れ戻すの言葉に、ガルビアは激しく異議を立てた。
 強硬派のガルビアからすれば、今の発言は容認出来ないものだったからな。
 だけど、こいつは冷静さを欠いている。
 誰に口答えしているつもりだ?
 ほら、来たぞ。

「ぶぅえっ!」

 ガルビアが腹を抱えて跪き、頭を地面に擦り付けるようにしながら悶え苦しんでる。
 口からは吐瀉物が漏れ出して、周囲に不快な臭いを振り撒いていた。
 馬鹿が、この体勢では見えないが、おそらくは腹が陥没して内腑がぐちゃぐちゃになっているんだろう。
 【上位種】でなければ、とっくに死んでるダメージなのは間違いない。

「貴様、誰に向かって口を聞いているか? ガルビア」

「も、申し訳ありません……ルバス総裁」

 蹲るガルビアの後頭部を踏む総裁。
 容赦のないところも変わってないな。
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