食うために軍人になりました。

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第七章

元侯爵

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 フォルネアに殴られた兵士は一瞬のうちに背中から壁に叩きつけられ、そのまま床に崩れるように倒れてた。
 ピ、ピクリとも動かないぞ?
 死んだんじゃないか!?
 
「ど、どういうつもりだ!? フォルネア! お前が殴ったら一兵士なんかひとたまりもないんだぞ! すぐに手当を……」

「近づくな!」

 フォルネアらしからぬ低く威圧感のある声に、俺は兵士へと向かう足を止めた。
 ウォーレイク閣下もフォルネアの異変に気づいたようで兵士から距離をとって静観している。
 そうだ。
 フォルネアは確かに人間に対して良い感情を持っているわけではないが、理不尽な行動をした事は無い。 
 今の行動にも何か理由があるはずだ。

「おっ? もう怒らないのか?」

「何か理由があるんだろ? それくらいの信頼感はある」

「へぇ。お前、いい男になってきたじゃないか。すぐに感情的にならないのはクールでいい。僕の好みだよ」

 あほか。
 今はフォルネアの好みにこだわっている場合じゃない。
 それに、よくよく考えれば妙な状況なんだ。
 あの兵士は床に倒れている。
 もうそれがおかしいんだよ。
 さっきのフォルネアの一撃はかなり魔力がこもっていたものだった。
 それなのにあの兵士は原形を留めたままなんだ。
 普通の人間なら原形を留めておけるわけがないんだ。
 ってことは……っ!

「うぉおおおお!」

 俺は魔力を高めて戦闘態勢に入った。
 それに合わせて、倒れていた兵士の体がピクッと動く。
 やっぱりこいつは生きている!

「臨戦態勢に入るのが遅い。僕が警戒していなければ、お前もウォーレイクもとっくに殺されていたぞ?」

「そのとおりだ。さすがだね」

 そう言いながら、兵士はゆっくりと起き上がってきた。
 青白い顔に切れ長の瞳孔が縦に開いた眼、魔族だ。
 それにあの顔、フォルネアに殴られたってのにケガ一つしてないぞ。
 化け物め!

「こんなところで裏切り者に会うとは、何の因果だろうね。フォルネア?」

「裏切り者呼ばわりされる筋合いはないよ。僕を国から追放したのはお前達の方だろ?」

「だからと言って人間に味方するとはね。魔族の誇りまで捨てるとは見下げ果てた奴だ。これが元侯爵の末路かと思うと、同じ侯爵として怒りを通り越して憐れみを覚えるよ」

 裏切り者? 侯爵? 
 どういう事だ?
 そんな話は聞いた事がないぞ。

「お前に同情される程落ちぶれてないさ。それに同じ侯爵でも格の違いはあるんだよ。ガラビアくん?」

「貴様……バール様の温情で生きながらえた生命をここで終わらせたいのか?」

「温情? あの男が殺し損ねただけだろ?」

 フォルネアの言葉にガラビアと呼ばれた男の顔が一気に歪んだ。
 それに、魔力がどんどん上昇していってる!
 こいつは強いぞ!

「おのれ、フォルネア! このガラビア・ルーン・コルンガだけでなく、偉大なる王であるバール様まで愚弄するとは許せぬ! この場で嬲り殺しにしてくれるわ!」

「お前に出来るかな?」

「ほざけっ!」

 怒り狂ったガラビアはフォルネアに向かって、音を置き去りて突撃した。
 それは許さない!
 俺は二人の間に割って入り、ガラビアの一撃を食い止めた。
 なんて重くて速い攻撃だ。
 これが魔族の力なのか。

「ぬっ! 貴様、人間如きがこの俺に触れるのは万死に値するぞ!」

「ばーか。そいつはただの人間じゃないよ。僕の相棒パートナーだ。お前の相手は相棒で十分だよ。やっちゃえ、リクト」

「はぁああああ!」

「ぐはっ!」

 フォルネアの合図で俺はガラビアの腹に魔力をのせた一撃を喰らわせた。
 お前が何者で、フォルネアとどんな関係があるか知らないけど、フォルネアに危害を加えようってんなら容赦はしないぞ!
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