食うために軍人になりました。

KBT

文字の大きさ
上 下
450 / 480
第七章

仇敵

しおりを挟む
「場の空気を変えるのに良いかと思っていましたが、さすがにやり過ぎです。ジェニングス中将、私的な話は後日としてください」

「うっ……醜態を晒して申し訳ありません、閣下」

 ウォーレイク閣下に諌められて、ジェニングス中将の顔が戻った。
 何かよくわからないが、助かった。
 いや、後から追求されるんだから怖いのが先送りになっただけか。
 うん、先の事は先の俺に任せるとしよう。
 それよりも、こいつに挨拶しておかないとな。

「あの時はどうも。変わりがないようで良かったよ。ルーストレームさん」

 俺は仇敵であるルーストレームに視線を向けた。
 3年前と容姿はまるで変わっていないが、あの時よりは強くなっている。
 もっとも今の俺と比べると差があり過ぎるけどね。

「ふふふっ、お久しぶりね。貴方は随分と
いい男になっちゃったじゃない。外見も強さも。『俺のものになれ』って言われたら、この場でも服従しちゃいそうだわ」

 勘弁してくれ。
 外見は美女でも、こんな危ない奴とずっと一緒にいるなんて気が休まる日が無くなってしまう。
 それに、ルーストレームは魔殻を破れば俺に匹敵する強さを得るだろう。
 そうなったら、どっちかが死ぬまで終わらない戦争が始まる。
 それだけは絶対に嫌だ。
 
「そんなに嫌そうな眼で見られたら、私だって傷つくわよ。今は同盟国のお仲間なんだから仲良くしましょ!」

「仲良くはともかく、貴女が魔殻を破って強くなれば戦力的には助かる。もちろん、魔殻を破った反動で死ななければの話だけど」

「あら? 心配してくれるの? ふふっ、優しいのね。大丈夫、貴方と同じ高みに昇って戦えるなら、私が何が何でも生にしがみつくから。たとえ、死神が引き剥がしにきてもね」

 不敵な笑みに背筋が寒くなる。
 相変わらず恐ろしい人だ。
 敵としてこれほど嫌な相手もいない。
 だけど、味方にすればこれほど安心できる相手もいない。
 今回の戦争では特にね。

「それで? 帝国で魔殻とやらを破って強くなったのは、そちらの中将さんだけかしら?」

「いや、中将とその部下が4名。それにバランディン、コクトー、テーニセンの3人だ。俺の使用人達も良い機会だから試させようかなと思っている」

「そう。フェンドラが海神十二将全員となると、共和国は私だけってわけにもいかないわね……ねぇ、サウデンベルクさん」

 ルーストレームは一緒に来た代議士であろう人に声をかけた。
 急に声をかけられて、少し驚いた顔をしていたが、すぐに取り繕えるあたりは流石と言うべきだろう。
 政をする者がこの程度で狼狽していては話にならないからね。

「私に何か?」

「残っている百勇士に声をかけられないか試してほしいの。第三席のダインは死んでも、第一席や第五席は生きてるわ。このままだと、戦争後に戦力差が開いちゃうわよ」

 確かにその通りだ。
 帝国は俺を含めると9人、使用人達も含めると15人になる。
 フェンドラは12人。
 戦争だから全員無事とはいかないだろうけど、共和国は今のままだとルーストレーム1人だけだ。
 戦争後の事を考えると、確かに戦力差はあるだろう。

「散り散りになっている彼らを集めるのは難しいと思いますが、やってみましょう。未来のために」

「お願いね。まぁ、駄目だったら私は帝国に付くだけだけど。そうならないように頑張ってね」

 ルーストレームが再び不敵な笑みを浮かべた。
 頑張ってくれ、代議士さん!
 本当に頼むよ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...