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第七章
西方の辺境伯
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「ふざけんなぁ! どういうつもりだ、この野郎!」
拗ねた子どもが癇癪を起こしたように、レッドウッドは礼を失して、ウォーレイクに向かって吼えた。
それに同調し、涼しい顔を捨てて立ち上がったのは、西方方面軍長官のジェニングス辺境伯だ。
「それに関しては私もレッドウッド辺境伯に同意する。我が領地を荒らした者どもとの共闘などあり得ない。アマナ王国の件がなければ、ルークリアより先に攻め入っていたところだ!」
珍しく語気が荒いが、それも当然だろう。
なんせ1年前の騒動でサザントールは混乱に陥り、治安は悪化し、一時は無法地帯と化した。更にフェンドラとの貿易も無くなってしまったせいで経済活動は破綻して、かつて栄えた都市は見る影もなく衰退した。
領主としては許せないのも無理はない。
「ウォーレイク元帥! アンタも部下をやられたんだぞ? よく、涼しい顔でそんな提案を受け入れられるな! それとも、あいつはそんなに大事じゃなかったのか? ああ!?」
「取り消してください、レッドウッド辺境伯! 今の発言、見過す事はできません!」
今度はウォーレイクまで熱くなりおった。
あいつの事となると、さすがに黙っておれんか。
ここは私が止めねば……
「うるさい奴らだね! いい加減に黙りなっ!」
室内に轟く天の声の如き怒声。
興奮した3人を落ち着かせるためとはいえ、陛下の前でよくやるものよ。
だが、効果は覿面だったようだな。
一様に静まり返っておるわ。
「ば、ばあさん……けどよ……」
「まだ無駄口を叩くかっ!? 黙れってんだよ! それ以上喚くなら尻が腫れあがるまでぶち回すよっ!?」
「うっ……そ、それだけは勘弁してくれ」
尻を叩かれるレッドウッド辺境伯の姿は笑えるが、下手なことを言ってこっちに飛び火してきたら敵わない。
こいつは辺境伯になっても何も変わらないだろうからな。
「フィンリー・フォン・オリオール辺境伯。それぐらいにしてやってくれ。話が進まない」
「これは申し訳ありません、陛下。帝国西部を預かる辺境伯となったからには、他の辺境伯のしつけも私の役目と考えておりますので、平にご容赦を」
やれやれ、いつの間にそんな役目を負ったのか。
まぁ、レッドウッドやジェニングスは40代、この場にいないミュラー辺境伯に至ってはまだ30にもなっておらんからな。
フィンリーから学ぶことも多かろう。
暫し任せるのも悪くはないか。
「程々にせよ。それで、フェンドラについてだが、私としては受けてもよいと考えている」
「へ、陛下っ! し、しかし……」
「聞け、ジェニングス辺境伯。卿の不満はわかるつもりだ。故に、奴等には相応の賠償金を払うなら応じる、と伝えるつもりだ」
「ちょっと待ってくれ、陛下! 金で解決なんて、それじゃあいつが……シュナイデンが浮かばねぇ! せめて、海神十二将の首くらいもらわないと俺は納得できねぇよ!」
レッドウッド辺境伯は本当にシュナイデン卿が気に入っていたのだな。
あんな沈痛な顔をされては、シュナイデン卿を惜しむ気持ちもわかるのだろう。
フィンリーも口を挟まないようだ。
「レッドウッド辺境伯。卿の進言はもっともだ。だが、今は奴等の物言わぬ首などに用はない。それより、もっと面白いものが見られるぞ」
陛下の顔が変わった。
あの含みを持たせた微笑は間違い無い。
あれはロクな事を考えておらん時の顔だ。
拗ねた子どもが癇癪を起こしたように、レッドウッドは礼を失して、ウォーレイクに向かって吼えた。
それに同調し、涼しい顔を捨てて立ち上がったのは、西方方面軍長官のジェニングス辺境伯だ。
「それに関しては私もレッドウッド辺境伯に同意する。我が領地を荒らした者どもとの共闘などあり得ない。アマナ王国の件がなければ、ルークリアより先に攻め入っていたところだ!」
珍しく語気が荒いが、それも当然だろう。
なんせ1年前の騒動でサザントールは混乱に陥り、治安は悪化し、一時は無法地帯と化した。更にフェンドラとの貿易も無くなってしまったせいで経済活動は破綻して、かつて栄えた都市は見る影もなく衰退した。
領主としては許せないのも無理はない。
「ウォーレイク元帥! アンタも部下をやられたんだぞ? よく、涼しい顔でそんな提案を受け入れられるな! それとも、あいつはそんなに大事じゃなかったのか? ああ!?」
「取り消してください、レッドウッド辺境伯! 今の発言、見過す事はできません!」
今度はウォーレイクまで熱くなりおった。
あいつの事となると、さすがに黙っておれんか。
ここは私が止めねば……
「うるさい奴らだね! いい加減に黙りなっ!」
室内に轟く天の声の如き怒声。
興奮した3人を落ち着かせるためとはいえ、陛下の前でよくやるものよ。
だが、効果は覿面だったようだな。
一様に静まり返っておるわ。
「ば、ばあさん……けどよ……」
「まだ無駄口を叩くかっ!? 黙れってんだよ! それ以上喚くなら尻が腫れあがるまでぶち回すよっ!?」
「うっ……そ、それだけは勘弁してくれ」
尻を叩かれるレッドウッド辺境伯の姿は笑えるが、下手なことを言ってこっちに飛び火してきたら敵わない。
こいつは辺境伯になっても何も変わらないだろうからな。
「フィンリー・フォン・オリオール辺境伯。それぐらいにしてやってくれ。話が進まない」
「これは申し訳ありません、陛下。帝国西部を預かる辺境伯となったからには、他の辺境伯のしつけも私の役目と考えておりますので、平にご容赦を」
やれやれ、いつの間にそんな役目を負ったのか。
まぁ、レッドウッドやジェニングスは40代、この場にいないミュラー辺境伯に至ってはまだ30にもなっておらんからな。
フィンリーから学ぶことも多かろう。
暫し任せるのも悪くはないか。
「程々にせよ。それで、フェンドラについてだが、私としては受けてもよいと考えている」
「へ、陛下っ! し、しかし……」
「聞け、ジェニングス辺境伯。卿の不満はわかるつもりだ。故に、奴等には相応の賠償金を払うなら応じる、と伝えるつもりだ」
「ちょっと待ってくれ、陛下! 金で解決なんて、それじゃあいつが……シュナイデンが浮かばねぇ! せめて、海神十二将の首くらいもらわないと俺は納得できねぇよ!」
レッドウッド辺境伯は本当にシュナイデン卿が気に入っていたのだな。
あんな沈痛な顔をされては、シュナイデン卿を惜しむ気持ちもわかるのだろう。
フィンリーも口を挟まないようだ。
「レッドウッド辺境伯。卿の進言はもっともだ。だが、今は奴等の物言わぬ首などに用はない。それより、もっと面白いものが見られるぞ」
陛下の顔が変わった。
あの含みを持たせた微笑は間違い無い。
あれはロクな事を考えておらん時の顔だ。
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