食うために軍人になりました。

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第六章

本能

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「ようこそ、我が根城へ。招かれざる諸君」

 祠から聴こえてくるか弱い幼子のような小さな声が、私の首を締めつけてくる。
 苦しくて身体が重たい。
 死ぬことは恐くないと思っていたが、どうやら機会がなかっただけのようだ。
 怖くて、堪らない。

「そんなに怖がらなくてもいいよ。ただ迷い込んだだけなら、このまま帰ればいいだけ。全てを忘れてね」

 優しい提案。
 だが、その裏には異議を認めない強さがあった。
 これは命令だ。
 拒否する事など出来ない。
 今の私でなければなっ!

「貴殿が……青い子ども殿か?」

 これが精一杯、か。
 威勢よく問いただしてやろうと思ったが、本能が恐れている。

『逆らうな』
 
 そう言って、本能が私の口を閉ざそうとしてくる。
 しかし、人は本能のみで生きているわけではない。
 私にも引けぬ事があるのだよ、本能よ。

「ふふふっ。震えちゃって可愛いね。でも、僕に口答えした胆力は大したもんだよ。普通の人なら、とっくに発狂してるだろうからね」

「お褒めにあずかり光栄だ。私はヴァランタイン帝国軍のシャーロット・フォン・ジェニングス中将だ」

「ほぅ。帝国軍、か」

 帝国軍という言葉に反応した?
 何か知っているのか?

「先に名乗った礼儀に免じて、最初の質問に答えよう。僕は君達の言う『青い子ども』で間違いないよ」

「そうか。では、もう一つだけ尋ねたい。貴殿は我が軍の……」

「おっと、質問はさっきので終わりだよ。これ以上は答える気はない。だいたい、最初に言ったはずだよ? 招かれざる諸君だと」

 くっ……内腑が締めつけられるようだ。
 だが、諦めるわけにはいかない。
 手がかりはもう、ここしかないんだ!

「頼む。教えてくれ」

「しつこいなぁ。僕は今は機嫌が良いからお話ししてあげてるだけなんだよ? 機嫌を損ねたらどうなるか、わからない程馬鹿なのかい?」

「わかるさ。貴殿がその気になれば、一瞬で殺される事は。でも、それでもしがみつかなければならないんだ! 頼む!」

 洞窟の床に額を打ちつける。
 陛下以外に頭を垂れる事などないと思っていた。
 いや、ここまでした事は陛下にすら無い。
 陛下に対する不敬と言われるかもしれない。
 部下達に情けないと思われるかもしれない。
 それでも、私にはこうするしかないのだ。

「頭をいくら下げられても、僕には何の意味もないよ」

 本当に意味がない事が声でわかる。
 それでも頭を上げるわけにはいかない。
 これしか出来ないんだから。

「もう、だから意味ないんだって。みんな、そろそろ頭を上げたら?」

 みんな? 
 そう言われて、チラッと視線を後ろに向けると、そこには私と同じように伏している4人の姿があった。
 お前達……

「参ったなぁ。もう面倒だから……一思いに……」

 空気がさらに重くなった!
 み、みんな殺される……っ!

「何やってんだ?」

 死を覚悟した瞬間に聞こえた間の抜けた声。
 それは私が一番聞きたかった声だった。
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