食うために軍人になりました。

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第六章

離反

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「ば、馬鹿なっ! アマナ王国は宣戦布告も無しにいきなり我が国に攻め込んで来たと言うのか!? そんな非常識な!」

 この代議士は馬鹿なの?
 ライブランドがアマナ王国に攻め込んだ時にも宣戦布告なんてしてなかったじゃない。
 それに戦争自体が非常識な事を忘れるなんて、平和ボケもいいところよ。
 報告に来た兵士も可哀想だこと。

「遺憾ながら事実であります! 近隣の村々にも敵の部隊が向かっていると報告もありました。おそらく、あの辺りの村々はもう……」

「な、なんて事だ……ど、どうする? どうすればいい!? 誰か意見をっ!」

「だから私は防衛線を強化すべきと言ったのだ! 貴様らが反対するからこうなったんだぞ! どう責任をとるつもりだっ!?」

「そうだ! 反対した者は責任をとって辞職しろ!」

 本当に呆れたわ。
 敵が攻めてきている時に辞職なんて言葉が出てくるなんてね。
 この連中にはもう任せておけないわ。
 とにかく後手に回ったのは最悪。
 共和国は帝国との戦争のために、兵力を南部に集中させているから、西部のソーメル地方まで軍を移動させるとなると、かなりの日数がかかる。
 多分、敵もそれを知っていて電撃戦を仕掛けてきたんでしょう。
 向こうはこの国の情報を持っているのに、こちらは敵の情報がほとんど無い。
 このまま敵の進軍を止められなければ、一気に首都まで攻め込まれるわ。
 なら、仕方ないわね。

「ダイン、新たな防衛線をメンラで展開させて。それと西部、北部の全戦力をそこに集結させなさい」

「それは……」

 ダインはやっぱり動かないわね。
 それどころか私を睨んでくる始末。
 全くこれだから困るのよね。
 選ばれた英雄ってのは。

「ルーストレーム、メンラで防衛線を張るというならソーメルはどうするんだ?」

「決まってるじゃない。見殺しよ」

「そんな事が出来るわけないだろ! お前は自分が何を言っているのかわかっているのか!?」

 議事堂内にこだまするダインの怒号は、そこにいる者達全員の注目を集めるのには十分だったようね。
 ちょうどいいわ。

「わかっているわ。ソーメルは放棄して、メンラで敵を迎撃する。南に展開している軍も全てそちらに回してちょうだい」

「馬鹿なっ! それでは帝国への備えが……」

「帝国に備えてる場合かも判断できないの? 貴方、それでも第三席?」

「むぅ……だ、だが、どちらにしてもソーメルを見捨てる事など……」

「そ、そうだ! ソーメル地方には私の地盤があるのだぞ!? あそこの支持を得られなければ、私は次の選挙で勝ち残れん! すぐにソーメルに援軍を送れ!」

 なに? ダインもこの代議士も状況が読めないの?
 今の内に手を打たなければ、共和国の未来はないのよ?
 もう……付き合いきれないわ。

「そう。なら、もう勝手になさい。私は降りるわ」

「ル、ルーストレーム! 貴様、逃げる気かっ!?」

「代議士の先生方には何も見えていないようなので。私は愚者と一緒に地獄に落ちる気はないだけよ。後は好きになさい。アルフォンス・サウデンベルク。残念だけど、ご一緒はできないみたい」

「いえいえ。私も地元に戻って戦況を見るつもりですので、宜しければご一緒しませんか?」

「サウデンベルクくんっ!?」

 あら、意外ね。
 さっきまでと全く態度も口調も違うじゃない。
 議長さんも大慌てね。

「私はルーストレーム様の提案に賛成します。ですが、皆さんは反対のようですので、邪魔者はこれで失礼します」

 へぇ、さっきまでと違って随分と煽った言い方をするじゃない。
 栄えある重鎮の先輩達が顔を真っ赤にして怒ってるわ。
 どうやら敬う理由がなくなったようね。
 いいわ、合格にしてあげる。
 
「じゃあ、ご一緒しますわ。他の勇士の中で付いて来たい者がいれば来なさい。情に流されてまともに戦況も読めない男と、保身しか頭にない男達と運命を共にしたくなければね」

 そう言って、私とアルフォンスが議事堂から出て行くと、何人かが顔を伏せながらも付いて来た。
 議事堂内では今も罵声が飛び交っているだけで、何の妙案も出てこない様子。
 この様子だと、ここにいるのが共和国の最後の戦力となりそうね。
 そんな事を考えながら、もう二度と戻る事のできないであろう国政議事堂を、私達は後にした。
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