食うために軍人になりました。

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第六章

愚者

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「私を見つめる暇があるのかしら? だったら拝顔料でも戴いてから、帰っていいかしら?」

「なっ、スティーグ・ルーストレーム! 口を慎めっ! 何様のつもりだっ!?」

 顔を真っ赤にして怒る皺だらけのハゲ爺。
 そっちこそ何様なの?
 高い椅子に座って怒鳴って、多額のお金を税から取っていくだけの人よね?
 私は害虫に様なんか付けないわよ。

「共和国の大英雄、じゃなかったかしら? 2年前にこの御大層なお名前を付けてくれたのは、どちら様だったかしら?」

「くっ……き、貴様……」

 自尊心プライドだけは一人前ね。
 でも、睨まれたところで痛くも痒くも、何も感じないわ。
 貴方のその睨みが効くのは、貴方の部下だけよ。
 使う相手を間違えたら、余生が無くなるって教えてあげた方がいいかしら?

「ルーストレーム、よせ。これ以上、混乱を招くな」

「ダイン。貴方は甘過ぎるのよ。不遇な扱いを受ける飼い犬なら、時には飼い主の手を噛まないといけないわ。でないと、愚者はつけ上がるだけですもの」

「ぐ、愚者だとっ!? おのれ、ルーストレーム! つけ上がっているのは貴様の方ではないかっ!」

「そうだ! ファルケンウッド城を陥せなかった貴様が偉そうな口をきくな!」

「図に乗りおって、軍法会議にかけるぞ!」

 あら、言ってくれるわね。
 これは……噛みついていいわよね?
 
「双方やめよ! ここは国政議事堂、これ以上の無作法は容認できんぞ!」

 議長が何かほざいているけど、関係ないわ。
 もう、こいつら全員の首を持って何処かに亡命しましょう。
 帝国は駄目ね。
 リクトくんと戦えなくなっちゃうから。

「ルーストレーム! やめろ! お前がその剣を抜けば、ここにいる68人の勇士がお前の敵となるぞ!」

「構わないわよ。それに、たった68人で私を止められる気なの? 貴方以外は雑魚ばっかりよ、ダイン」

 今日ここにいる中で、一桁の席官は私とダインだけ、後は殆どが五十席以下。
 比較的まともに戦える人なんて、片手で足りるくらいしかいないのに。
 こんな戦力で私に勝てるなんて安く見られたもんだわ。
 失礼しちゃう。

「お前の敵は誰だ? 祖国ではないだろう!」

「ダイン、それは盲信よ。祖国でも、それが悪なら敵になるのよ。祖国だからと何でも容認していては駄目。こいつらは自分の命じゃなくて、他人の生命で賭けをする愚者よ。そんな奴等を守る価値がある? 私が守るのはこの国の良民であって、愚者ではないわ」

「ぬっ、むぅ……」

 相変わらず実直な正論男ね、ダインは。
 ちょっとそれっぽい事言ったら、すぐ考え込んじゃうんだもの。
 それが良いところなんでしょうけど、思考も戦い方も真っ直ぐ過ぎてつまらないのよね。
 ああ、本当に全部殺しちゃおうかしら?

「では、ルーストレームさん。私に一つ提案があるのですが、協力していただけませんか?」

 あら? あの一番後ろの席にいるのは誰かしら?
 雑音を押し退けて、あそこから私に声を届かせるなんて、なかなかの胆力じゃない。
 代議士にも、まともなのがいるとは思わなかったわ。

「いいわ、お話を聞きましょう。紳士ジェントルマン

「これは失礼。私はアルフォンス・サウデンベルク。この国政議事堂の末席を預かる者です」

「そう。それで、その末席のアルフォンス君が私にどんな協力をして欲しいのかしら?」

「ええ。私と一緒にアマナ王国に行ってくれませんか?」

 その言葉に議事堂内が更に騒つく。
 でも、私には関係ない。
 この男に少し興味が湧いたわ。
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