食うために軍人になりました。

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第六章

貴族の使用人

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「此処だ」

 旦那様のサザントールでの新しい屋敷。
 普通の屋敷だが、急場であれば致し方ないか。
 むっ……あれは使用人達が門から屋敷の入り口まで並んで立っているのか。
 理路整然と並ぶ様は流石は元上級貴族の使用人というべきか。

「で、でかい……」

「これはロンドベルゲンの屋敷よりも大きいですね」

「元の貴族が誰なのか知りたくないです……」

 それに比べて我が家の使用人達は狼狽えおって、情けない。
 元々ロンドベルゲンの屋敷は領主の館としては小さい方で、この屋敷でちょうどいいくらいだ。
 この程度で尻込みしているようでは話にならんぞ。
 
「テラーズ様。早く中へ参りましょう。旦那様のお屋敷として相応しいか確認せねばなりません」
 
「そうしよう。では、いくぞ」

 扉をくぐり抜けると使用人達が一斉に頭を下げた。
 教育が行き届いているのは良い事だ。

「お待ちしておりました。テラーズ様」

 入り口に立っていた、この屋敷の元執事が愛想のいい笑顔を浮かべて丁寧に礼をする。
 内心どう思っっているかはわかったものではないがな。

「出迎え御苦労。これよりこの屋敷はシュナイデン男爵家のものとなる。使用人達はそのまま働くも良し、去るも良し。好きにするがいい」

「はい。では、そうさせていただきます。皆、よろしいですね?」

「な、なんだっ!?」

「使用人達が出て行く……?」

「テラーズ様、これはっ!」

 これはまた……くだらぬ事を。
 やれやれ、品位の程度が知れるな。

「主人を変えるなど貴族に仕える者としてあるまじき行為。ましてや、次の主人が下級貴族などと我々の品位が許しません。貴方様の言う通り、我々は去るとしましょう。どうぞ、この屋敷を貴方達だけで管理してくださいませ」

 嫌がらせのつもりか。
 確かにいくら我々でもこの広さの屋敷の仕事全てを賄う事はできん。
 やはり、主人が主人なら使用人もこの程度というわけか。

「しかし、我々も悪魔ではありません。どうしても残って欲しいと言うのであれば、これまでの給金の2倍で……」

「品位を金で売る……か? 貴様ららしい条件だな」

「……言葉には気をつけなさい。なんなら条件をさらに上げてもいいんですよ?」

 度し難い。
 なんと醜悪で愚鈍で短慮なのだ。
 やはりここの主人を潰したのは間違いではなかったな。

「どう致しますか? テラーズ様。他の使用人達はみんな去ってしまいましたよ? 早く御決断された方がよろしいのではありませんか? 最も頼み方を誤ってはいけませんよ」

 下品な笑顔だ。
 他の使用人達も同じような顔をして近くで見物しているのだろう。
 虫唾が走る……これは捨ておけんな。
 
「では、決断するとしましょう」

「そうですか。賢明ですね。では、地面に頭を……」

「全ての使用人の首を取ってこい! 我等が主人シュナイデン男爵に対する不敬の罪で全員に死罪を申し付ける!」

「了解!」

 4人の顔が一瞬で戦士となり、四方へと飛び出していく。
 早く決断するのは良いことだな。

「な、何を!? 何のつもりだっ!?」

「聞こえなかったか? 不敬罪で全員死罪だと言ったのだ」

「馬鹿なっ! 我々が不敬などあり得ん! 我々は上級貴族の使用人で……」

「確かに上級貴族の使用人が下級貴族の使用人を貶したとしても不敬にはならぬ。だが、お前は勘違いしているぞ?」

「な、なんだとっ!?」

「お前達の主人は爵位返上となったのだ。わかるか? つまり今のお前はただのしょぼくれた爺に過ぎん! そのお前が我が主人に対して『品位が足りぬから仕えるに値しない』とは不敬に値し、万死に値するのだ!」

「そ、そんな馬鹿な……そんな馬鹿な話が!?」

「職を失ったくせに、仕える相手に上から物を言うなど、貴様らのようなクズはシュナイデン家に必要ない! あの世で元の主人に仕え続けるがよいわ!」

 元執事は項垂れるように膝から崩れ落ちた。
 屋敷の四方からは悲鳴が上がり、やがて静寂が訪れる。
 気の立っている者に軽い気持ちで触れるからこうなるのだ。
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