食うために軍人になりました。

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第六章

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「なにか不埒な事を考えておられませんか?」

「ふ、不埒だとっ!? 失礼なっ! そんな事は考えおらぬ!」

 このメイドめ……不遜さといい、妙に鋭いところといい、あの男にそっくりではないか。
 リクトの屋敷の使用人は一体どうなってるんだ?
 いや! 今はそれどころではない!

「今は刻が惜しい! アリシア! ファンティーヌ! イリア! クリスティーヌ!  帝国存亡の危機である! これより暫くは不休となるぞ! よいか!?」

「はっ!」

「うむ! アリシアは兵の混乱を収めよ! 貴官には一時的に東方方面軍の指揮権を与える。指揮系統を再編成し、如何なる状況にも対応できるようにしておけ!」

「了解!」

「ファンティーヌは物資を確保せよ! 必要な物は何を何処から集めて構わぬ! 情けは無用! 戦時徴発だ!」

「はぁ~い!」

「イリアとクリスティーヌは中央の軍を率いて全ての外門を固めよ! コクトー、バランディン、テーニセンも使って構わん! 怪しい者は全て捕らえてよい!」

「拝命致しました!」

「鼠一匹逃しませんわ」

 かなり無茶な事をしているな。
 一介の少佐に方面軍の指揮権を与え、戦時でもないのに徴発を行い、辺境伯の許可なく領都を封鎖するなどあり得ん事だ。
 だが、今はやるしかない。
 今は軍内部の混乱を早急に収め、フェンドラの攻勢に備える姿勢を見せねばならん。
 もし、私達が浮き足立ったまま体勢を整えられないと知れば、フェンドラが好機と見て攻めてくる可能性も無くはないからな。

「どうやらまるっきり無能でも無かったようですね。安心致しました」

「ふん、安心してもらえたのは良いが、今の我々は軍をまとめるので精一杯だ。リクトの捜索までは手が回らない。お前達だけに任せてよいのか?」

「問題ありません。テラーズ様は屋敷の使用人を全て呼び寄せました。本日中には揃うので、総出で捜索にあたります……一つ御忠告を。当家のメイド長はおそらくかなり気が立っておいでですので、刺激しないようにお願い致します」

 メイド長が?
 ふむ、ヒステリックな熟年の女性なのだろう。
 そういえば我が家のメイド長のテレサもよくピリピリしている時があるな。
 ああいう時は小言がいつもより多くなるから敵わぬ。
 どこも同じというわけか。

「わかった。あまり刺激しないようにするとしよう」

「よろしくお願い申し上げます。お怒りになると手がつけられなくなりますので」

「そんなにか? わかった。皆にも行って聞かせておこう。何か目立つ特徴があれば教えてもらえるか?」

「そうですね。一番異様な風貌の者です」

「異様な風貌?」

「はい。おそらく初めての方はびっくりすると思いますよ」

 メイド長を見てびっくりするとはどういう事だ?
 リクト、お前の屋敷の使用人はどうなってるのだ?
 
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