食うために軍人になりました。

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第六章

領都サザントール

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 気になる眼だ。
 侮蔑の眼なんか軍にいれば嫌というほど見るから気にもならないけど、あの眼をしている奴が次にとる行動はわかっている。

「パトリックには監視をつけている」

 俺の心の中を読んだようにジェニングス辺境伯が小さくそう言った。
 どうやら単なる親馬鹿ではないらしい。
 
「ジェニングス様! それはあんまりではありませんかっ!?」

 コクトー様が語気を荒くして抗議したが、辺境伯は首を横に振るだけだった。

「手に入れた財宝を谷に捨てる事ができる人間は少ない。我が愚息もその内の一人だっただけの事だ」

「し、しかし……」

「コクトー。パトリックの指南役としてパトリックの事を親身になって考えてくれる事には礼を言おう。だが、事は帝国の存亡に関わる事だ。今は情に流されてはならない」

 へぇ、コクトー様って指南役だったんだ。
 だからパトリック様の擁護をしていたわけか。
 だが、辺境伯の言う通りフェンドラが極秘裏にとはいえ攻めてくる時にフェンドラの肩を持つ可能性のある人物を野放しには出来ない。
 コクトー様もそれは理解しているようだから、苦々しい顔をしながらもそれ以上は何も言わないのだろう。
 親と指南役、お二人とも辛いだろうなぁ。

「シュナイデン卿。身内の見苦しいところを見せたな。申し訳ない」

「い、いえ……私は何も……それよりパトリック様は随分とフェンドラを信頼なさっているんですね。何か理由がおありなのでしょうか?」

「それはサザントールの繁栄だろう。今でこそ発展しているが、フェンドラが貿易に来るまでは他領とさして変わらぬ程度の領地だったのだ。それがフェンドラと取引するようになると、帝国中の商人が珍しい物を手に入れようと集まるようになり、そして我が領地は潤い、発展したのだ」

「つまりフェンドラと戦争……いえ、関係が悪化するだけでも今後の貿易に支障が出るというわけですか」

「そうだ。パトリックは次期辺境伯としてこの地が寂れ、民の生活が悪化する事を危惧しているのであろう」

 まるっきり馬鹿って訳でもないのか。
 民を守ろうとする姿勢には共感できるな。
 だけど、本質がわかっていない。
 フェンドラが何故貿易をしているのかって事だ。
 奴等はサザントールの発展のために貿易をしている訳じゃない。
 あくまで自分達に利益があるから貿易をしているんだ。
 そう考えると今回の件もサザントールの経済を発展させた上で、肥えたところを自分達の支配下に置く計画だったのかもしれない。
 長い年月をかけてこのジェニングス領をを蝕んできた事を考えると、奴らの計画の周到さがよくわかる。
 気を引き締めておかないと足元を掬われかねないぞ。
 出動準備を整えている少佐やクラリス達も伝えて……

「ジェニングス辺境伯! 大変です!」

 軍服を着た男が執務室の扉を開け放ち、転がり込むように入って来た。
 肩章からして大尉のようだ。

「何事だ?」

「み、港の倉庫区画で大規模な火災が発生しました! 現在消化活動を行なっておりますが、手がつけられない状態にあります!」

 しまった!
 奴等め! 一番嫌な方法で攻めて来やがったな!







 




 
 




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