食うために軍人になりました。

KBT

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第五章

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「? アリシアちゃん? どうかしたのぉ?」

「別に」

 我ながら子供っぽい拗ねたような言い回しになってしまった。
 ファンティーヌは少し首を傾げただけで特に気にしていないようで良かったが、自分の事ながら狭量な事だ。
 今後は自重せねばなるまい。

「それよりファンティーヌ。我々がわかっていないとはどういう意味だ?」

「簡単だよぉ。アリシアちゃんはさっきのリッくんを見てどう思ったぁ?」

「だ、だからっ! 私は別に何も……」

「本当にぃ? それでいいのぉ?」

 ファンティーヌの顔が少しムッとなった。
 どうやら照れ隠しをしている場合ではないようだ。

「い、いい男になっていた……見違える程に……」

「他の二人はぁ?」

 ファンティーヌはイリアとクリスティーヌにも同じ質問をした。
 二人もこれは真剣な話だと認識したようで、照れながらも少し真顔になっている。

「あ、姉上と同じです。正直、今は直視する事すら私には難しいです……」

「……悔しいけど二人と同じよ。それで? これが男爵の隣に立つ事とどう関係するのかしら?」

 クリスティーヌの答えにファンティーヌは軽く溜息を吐いたように見えた。
 何か我々が見逃している事があるのか?

「わからないかなぁ? アリシアちゃん達はシュナイデン男爵が素敵だって思ったんでしょぉ?」

「ま、まぁ……そうだが……」

「それは他の人も同じだと思わないぃ?」

 他の人? 
 何故急に他の人が関係す…………
 そうか! そういう事か。

「なるほど、迂闊だった。いや、周りが見えていなかったと言った方が正しいな」

「あぅ……ど、どうしよう……」

「これは……相当マズいわね」

 イリアとクリスティーヌもファンティーヌの真意を理解したようで、苦い顔をしている。

「わかったぁ? リッくんは階級的には帝国軍中佐で階位的には第六位の帝国男爵。名声と実力は言うまでもないでしょぉ? そんな人が未婚で婚約者もいないとなるとぉ……」

「上級貴族や門閥貴族が黙っていないだろうな」

「一族の繁栄のためにシュナイデン男爵を一族に加えようと娘や孫娘の縁談を申し込んでくる……」

「それだけじゃないわ。政略結婚で腐った豚みたいな奴と結婚させられるかと脅えていた未婚の女達が一気に群がってくる可能性もあるわ。たとえ第二夫人でも第三夫人でも、シュナイデン男爵ならと考える輩は多いでしょうね」

 既に地位も名誉もあるリクトがこの競合戦で上位まで勝ち上がるか優勝したとなれば、その勢いは止められないだろう。
 そうなったら我々がリクトと添い遂げる可能性は先ずあり得なくなる。
 リクトは無理でも帝国においては一子爵家の娘でしかない我々を排除する事など、上級貴族や門閥貴族なら容易い事だろうからな。
 くそっ!
 腐った貴族社会がこんな所にまで関わってくるとはっ!
 やはりウォーレイク閣下のもとで改革を急ぐ必要があるな。
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