食うために軍人になりました。

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第五章

大放出

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 石造りの闘技場の長い廊下を私達はひた走っていた。
 途中、警備兵達が何事かと焦っていたが、そんな事に構っている暇はない。
 とにかく今は一刻も早く何処か人気のないところに行かなければならないのだ。

「あっ、申し訳ありません。ここから先は出場される方のみしか……」

 行手を阻むかのように警備兵が道を塞いでいる。
 という事はこの先に控え室があるはずだ!

「アリシア・フォン・ヴォルガング少佐だ!」

「ファンティーヌ・フォン・リンテール中尉ぃ!」

「イ、イリア・フォン・ヴォルガング大尉……」

「クリスティーヌ・フォン・リンテール大尉よっ!」

「ひぃ! し、失礼しまし……」

「すまんが先を急ぐ!」

 怯んだ警備兵を押し退けるように先へと急ぐ。
 非礼は承知の上だが、今はそれどころではないのだ!
 許せっ!

「アリシアちゃん! あそこぉ!」

 ファンティーヌの指差す方向に私達の控え室が見えた。
 もう少しだ! 
 もう少しだけ耐えるんだっ!
 勢いそのままに扉を開けて、全員が入ったのを確認してから扉を閉じて鍵をかける。
 中には……誰もいないな。
 よし、全員で顔を見合わせてから大きく頷いて……

「「「「変わりすぎぃいいっ!!」」」」

 私達の同じ思いが一気に爆発して部屋の中に響き渡った!
 下手をすれば外にまで聴こえているかもしれないが、もう我慢できん!

「あのバカタレ! 変わるにしても程があるだろ!? なんで私より背が高くなってるんだっ! それにいきなり……あ、あ、あんなに近づきおって! ば、馬鹿ぁあああ!」

「無理ぃいい! 無理ぃいいいい! かっこ良すぎぃいいい! あんなの反則だよぉ! めっちゃドキドキして心臓止まるかと思ったぁあああ!」

「あ……あ……ぁああああああっ! 無理です無理です無理です無理ですぅううう! 顔も声も匂いも雰囲気も! 存在の全てが私の心を鷲掴みにぃいいいい!」

「くぅううう! 会ったら手玉にとってやろうと思ってたのにっ! な、何もできなかった! 予想超えるにもして限度があるでしょ!? もうもうもうもぉおおおおおおおう!」

 全員が思いの丈を放出している。
 当然だ!
 変わるにしてもあそこまで変わるか!?
 顔は精悍になってるくせに、どことなくあどけなさが残った顔しやがって!
 せっかく久しぶりに会うのだからかっこよく再会しようと思っていたのに!
 
「でもぉ……どうするのぉ?」

「な、何がだ!? べ、別に私はどうもせんぞ!」

「何言ってるのよぉ。あんなに見惚れてヨダレ垂らしてたくせにぃ」

「垂らしとらんわっ!」

 私がヨダレなど垂らすわけが……ないよな?

「私が言いたかったのはリッくん……じゃなくて、シュナイデン中佐と当たったら勝てるかってことぉ」

「無理だな」

「無理です」

「ファナちゃん、意地悪言うもんじゃないわよ。はっきり言って善戦できるかも怪しいレベルね」

 イリアもクリスティーヌも私と同意見で即答だったな。
 悔しいが、クリスティーヌの言う通り、実力差があり過ぎる。
 私達もこの二年で随分と実力を上げた。
 これは過信ではなく、客観的に見ても以前のリクトであれば五分の勝負が出来ると思うくらいにだ。
 だが、今のあいつはどうだ?
 ただ自然体でいるだけなのにリクトの身体の奥底から感じる圧倒的な重厚感と迫力。
 多分、以前の私達なら腰を抜かしていただろう。
 チッ、追いついたと思ったらすぐに先に行ってしまう!
 追いかける方の身にもなってほしいものだ!
 
「はぁ……自信失くすよねぇ。でもぉ、別にいいかぁ!」

「あら? ファナちゃんは悔しくないの?」

「悔しくないわけじゃないけどぉ、私はシュナイデン中佐の横に並ぶ事は諦めるぅ! 代わりにシュナイデン男爵のお嫁さんとして横に並ぶ事にするわぁ!」

「……あ?」

「はい?」

「この愚妹は……今はそんな事っ!」

 クリスティーヌの言葉をファンティーヌが手で制した。
 何か考えがあるようだ。

「チッチッチッ。愚かなのはそっちよぉ。状況が読めてなさすぎぃ~」
 
 ファンティーヌが呆れた顔をしながら腕組みをしてこちらをジッと見つめる。
 その仕草にも多少イラッとしたが、それよりイラッとするのがアレだ!
 あいつ……またデカくなってやがる!
 組んだ腕の上に胸が乗って、思いっきり上下に揺れてやがる!
 何故だ!?
 二年間同じ物を食べてきたはずなのに、なんでこいつだけ! 
 ズルい!
 
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