食うために軍人になりました。

KBT

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第五章

2年ぶり

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「なっ……お、お前、リ、リクトか!?」

 2年ぶりの再会で驚いた表情を見せたのは、《帝国軍の女神》の二つの名を持つ、シャーロット・フォン・ジェニングス中将だ。
 2年前と全く変わらない美貌は健在で、とにかく美しいとしか言いようがない。
 しかし、何で高等士官学校の前にいるんだろ?
 とりあえず敬礼して挨拶だな。

「お久しぶりです。ジェニングス閣下」

 俺の挨拶にも閣下の驚いた表情は変わらなかった。
 そんなに驚くような事があったんだろうか?

「ほ、本当にリクトか? み、見違えたぞ……」

 閣下は絞り出したような声でそう言った。
 見違えた?
 そんなに変わったとは思えないんだけど、むしろ変わったのは閣下の方だ。
 なんというか美貌はそのままに可愛くなったような……縮んだような?

「ま、まさかお前に見下ろされる日が来るとはな。デカくなったな」

「そうでしょうか? 確かに背が少しは伸びたと思いますけど」

「自身の成長など毎日見ている己にはわからんだろ。だが、2年ぶりに会うこっちからすれば驚きもするさ。身長は10……いや、12は伸びたか?」

 元の身長なんか覚えてないからよくわからないけど、言われてみれば前はジェニングス閣下と同じくらいだったし、今の差から考えたらそれぐらいは伸びたのかな?

「顔も精悍になり、良い顔になったな。ふっ、最近この辺りが騒がしいと聞いて寄ってみたんだが、納得したよ。なるほど、騒がしくなるわけだ」

「騒がしい? 何かあったのですか?」

 俺の言葉に呆れたような顔をして、こちらを覗き込む閣下。
 うーん、上目遣いの破壊力がヤバい。

「知らんのか? 近頃、この高等士官学校の近辺に街娘や女性軍人、果ては貴族の令嬢まで彷徨くようになって騒がしくなっているんだよ。ほれ、見てみろ」

 閣下に促されて見ると、士官学校前の通りから遠巻きにこちらを見ている人達がいる。
 そういえば最近なんか人通りが増えたなよなぁ。

「確かに何人かいらっしゃいますね。何が原因なんでしょうか?」

 覗き混んでいる閣下の呆れ顔が険しくなった。
 こんな表情されたら普通は不愉快なんだろうけど、閣下ほどの美女ともなると全く不愉快に感じないのが不思議だ。

「お前という奴は……にぶちんは変わってないようだな。わからんのか? 全員お前が目当てなんだよ!」

「小官が目当て? 恨まれるような憶えは何もありませんが……」

「バカタレ! 半年くらい前から帝都中に高等士官学校にかっこいい軍人が通っていると噂が流れているのだ! そいつは若くて強くて聡明で婚約者もおらず、身持ちも固く、皇帝陛下のお気に入りで栄達も間違い無いという尾鰭までついてな! そいつを自分のモノにしようと女どもが集まっているのだ!」

 へぇ~、そんな完璧なやつが此処にいるとは知らなかった。
 
「そんな羨ましい男がいるんですね。是非、小官も一度は会ってみたいものです」

 ビキッ!

 うおっ! 
 嫌な音と共に閣下のこめかみに怒りのマークが浮かんだ! 
 俺の勘が警報を鳴らしている。
 これは絶対に怒られるやつだ!

「では、小官は時間に遅れますのでこれにて失礼します!」

 俺は脱兎の如く門をくぐって学舎へと逃げ込んだ。

「お、おいっ! 待て……ったく。やれやれ、あいつめ。鼻まで効くようになったか。しかし、2年であそこまで成長するものか……あの4人がいない間が最後のチャンスだったかもしれん……しくじったかな?」
 
 学舎へ逃げこんだ後も閣下は何か呟いているようだったが、やがて憂さ晴らしをするかのように、士官学校周りにいた人達を怒鳴りつけて散らしていた。
 マジで怖いよ……
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