食うために軍人になりました。

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第四章

続・リンテール家騒動

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「この馬鹿姉ぇ! 少しはまともになったかと思ったのにぃ!」

「失礼ねぇ! 私は元々まともよぉ! ファナちゃんの方が野蛮なんでしょぉ!」

「誰が野蛮よっ! この陰湿女!」

 馬鹿姉に掴みかかろうとした時、私の前に大きな影が覆うように現れた。

「ふ、2人とも止めなさい!」

「お、お父様っ!」

 私達の間に割り込んできたのはお父様だった。
 慌てて走って来たのか、肩で息をしている姿が私をなんとも申し訳ない気分にさせた。

「ち、違うのぉ……こ、これは……その……」

「べ、別に喧嘩してたわけじゃないんですよぉ? ねっ? ファナちゃん」

 誤魔化そうとする私達を、ため息を吐きながらもお父様は優しく撫でてくれた。

「南方は過酷な地だ。そんな場所で2人がいがみ合っていたら、共倒れになってしまうよ」

「うっ……」

「ご、ごめんなさぁい……」

 お父様の言う通りだ。
 明日の朝には南方に向けて出立しないといけないんだから、最初から2人とも行くしかない。
 私もお姉様も現実逃避をしていたに過ぎないんだ。

「2人とも仲良くね。そして必ず無事に帰ってくるんだよ」

「はい。お姉様ぁ、ごめんなさい……」

「ううん。私が悪かったのよぉ。ファナちゃん、お父様の言う通り、姉妹で協力して乗り切りましょう」

 そう言ってお姉様は私の手を握ってくれた。
 優しい温もりに心が癒される気がしてくる。
 やっぱり姉妹で仲良く……

「そうそう、シュナイデン卿から手紙が届いていたんだ。それを……」

「「貸してぇええええ!」」

「あべしっ!」

 突き飛ばされたお父様が変な声を上げたけど、今はそれどころじゃない!
 リ、リッくんからの手紙!?
 何で早く渡してくれないのよぉ!
 お父様のばかばかばかばかぁ!!

「ファナちゃん! 早く手紙をぉ!」

 お姉様が目をギラつかせて迫ってくる。
 手紙が破られたらたまらないわ!
 早く読んでみよ!
 えっと……

 クリスティーヌ殿、ファンティーヌ殿
 突然、手紙を送る無礼をお許しください。
 急な勅命と聴き、不躾にも慌てて筆を走らせてしまった次第です。
 南方へ転属とお聞きしました。
 急に会えなくなる事、とても寂しく思いますが、私も高等士官学校で軍人として成長し、いつか貴女と肩を並べられればと思っています。
 2人の輝かしい未来のためにも頑張りましょう。
 どうか健康に留意しつつ、研鑽に励まれますように。

    帝国軍少佐
    リクト・フォン・シュナイデン

「…………」

「…………」

 私もお姉様も何も言えなかった。
 2人の輝かしい未来?
 それって、それってまさかのプ、プ、プ、プロポーズゥウウウウウ!?
 えええええええええええ!
 きゅ、急にそんな事言われてもこ、心の準備が出来てないよぉおおおおおお!

「ああ……リクト様ぁ、そんなに私を想っていただけてたなんて……クリスは嬉しゅうございます」

「はい?」

 幸せな気持ちを掻き消すお姉様の不穏な一言を私は聞き逃せなかった。
 何を言ってるんだろ? 

「お姉様ぁ? これはぁ、リッくんから私宛ての手紙ですよぉ? 何で入ってくるんですかぁ?」

「あらあら、ファナちゃん? どこにファナちゃん宛とあるのかしらぁ? それに私の名前が先に書いてあるんだからぁ、これは私宛でしょぉ?」

「名前の順番なんてただの歳の差でしょぉ? それぐらい常識ですよぉ? 教養ない人はリッくんには相応しくないですねぇ」

「あら~? さっきから男爵家の当主をくん付けで呼んでる愚妹に教養なんてあるのかしらぁ?」

「ふふふふふっ」

「おほほほほっ」

 最初は互いに笑顔を浮かべていたけど、段々と苛立ちが隠しきれなくなっていた。
 そして、半壊していた屋敷は結局全壊し、私とお姉様は明朝、瓦礫と化した屋敷を背に南方へと出立した。

 
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