食うために軍人になりました。

第四章

和解？

「シュナイデン卿、卿の意見が……正しい」

「我ら2人が諌めねばならんのに、娘可愛さに醜態を晒すとは、面目次第もない」

　しばらくの沈黙の後に、2人はそう言って頭を下げた。
　本来なら階位が上の者が下の者に頭を下げる事なんてないんだけど、この行動だけで2人がマトモな人物だとわかった。
　それがせめても収穫だな。

「ち、父上！　申し訳ありません！　全ては私の自尊心が招いた失態！　父上に頭を下げさせるなどなんと愚かな……この命をもって償いを！」

「お父様ぁ……先立つ私をお許しくださいぃ。せめて汚名をすすげるよう立派な最後を……」

　っ！　短刀を首にあてたっ！？
　自害する気かっ！
　この2人……いい加減にしろよ！

「やめろ！」

　俺は2人の側に走り寄って乱暴に短刀を取り上げた。
　振り払うような形になってしまい、2人は床に倒れ込んでしまったが、そんな事知った事じゃない。
　こんなふざけた真似しやがって、絶対に許さんからな！

「なっ、何をす……」

「ふざけるな！　自ら死んで罪を償うなど、それは都合よく逃げているだけだ！　本当に罪の意識があるならば汚辱に塗れようと生きて償え！　死ぬのは相手が望んだ時にしろ！　勝手に逃げるな！」

「な、成り上がりの貴方に何がわかるって言うのよ！　貴族として生まれた私達には貴族の自尊心プライドがあるのよ！　家紋の名誉を汚したまま生きるなんて耐えられない事なのよ！」

「耐えられない事から逃げるのが貴族の生き様だと言うのかっ！？　貴族に生まれなかった者には自尊心が無いとでも言うのかっ！　人のナメるのも大概にしとけよ、コラァ！」

「ひっ……」

「あ……あっ、あ……」

　座り込んだ2人は顔面蒼白なってガタガタと小刻みに震え始めた。
　ちょっと怒り過ぎたか？

「シュナイデン卿！　無礼は承知！　しかし、この場は私の顔に免じて納めてもらえないかっ！？　娘には私から相応の処罰を下す！　どうか、この通りだ！」

「私からも頼む！　馬鹿な親と笑ってくれて構わない！　罰は私が受ける！　だからクリスティーヌを見逃してくれまいか！　頼む！」

　ヤバい……完全にやってしまった。
　どうやら怒りのあまり、殺気が全開になってたようだ。

「いえ、此方も失礼しました。ここは失礼同士、おあいこという事にしましょう」

「そうか……ありがたい。しかし、これが卿の本気か？　なんとも凄まじいものよ……」

「まったくだよ。我らも教官と言われ、少し気持ちが緩んでいたのかもしれないな。もう少しで呑み込まれるところだったよ」

　やっぱりやり過ぎたみたいだ。
　でも、どうにも命を軽んじるような人が許せないんだよなぁ。
　俺たち軍人はいつ死んでも仕方ないと思う。
　でも死にたいと思っているわけじゃない。
　大切なものを守るために命を賭けてるんだ。
　上官には絶対その事を忘れないでほしい。

「シュナイデン卿、今日はこれで失礼する。詫びに関しては後日改めて連絡してから参る」

「私もだ。おっと、これは拒否しないでくれ。我らにも人としての誇りがあるんだよ」

　人の誇りと言われたら断るのも無粋か。
　仕方ないね。

「わかりました。お2人も怖い思いをさせてすいませんでした。でも、軽々しく命を散らさないでください。こんな美人が2人も居なくなるなんて悲しいですから」

　俺は未だにビクビクしているイリアさんとクリスティーヌさんを、最大限の笑顔で立ち上がらせた。
　2人は視線も合わせないまま、子爵達と共に家を出ていき、馬車へと足早に乗り込んでいった。
　うーん、完全に怖がらせちゃったかな。
　これはこっちが詫びに行かないとダメかも……短期は損気とはよく言ったもんだ。