食うために軍人になりました。

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第四章

決闘始め

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 帝都の西に建てられた決闘場コロシアムには大勢の人が詰めかけていた。
 座る場所は違っても貴族や平民がこれでもかってくらいに詰めかけている。
 チラッと聞いた話では平民達は新しい帝国の英雄を見に、貴族達は俺の品定めに来ているようだ。
 急遽決まった決闘だってのに、みんな暇なんだね。

「よろしかったのですか? 少佐。小官が付添人で」

 ファーレンハイト大尉が真っ直ぐな視線を俺に向けている。
 相変わらず硬いなぁ。

「ああ、急な話で申し訳なかったね。大尉」

「いえ、ウォーレイク元帥からの命もあったので問題ありません。しかし、次から次へと、話題に事欠きませんね」

「望んでるわけじゃないんだけどね。これが済んだら明日からの学生生活はのんびり過ごす事にするよ」

「それを決めるのは少佐ではありませんが、そうなる事を願っています」

 変なフラグ立てないで欲しいね。
 俺は平和な生活を望んでるんだよ。
 ああ、ダウスターが恋しくなってきた。

「少佐、そろそろ時間のようです。参りましょう」

「わかった。行こう」

 俺は陛下から下賜された刀を腰に差して、部屋を出た。
 殺風景な石造の廊下を歩くとコツコツと足音が鳴って、音が反響している。

「少佐はご存知ですか? 昔、この決闘場では捕らえた敵兵同士を戦わせていたそうです」

「悪趣味だな」

「悪趣味というより戦い方を知るためにだったそうです」

「それは建前だろ? どうせ後方支援ですら戦場に出ない貴族達の戯れに決まってるさ。賭けまで行われてたりしてな」

「今の彼等の振舞いを見ればその可能性否定はできません」
 
 貴族の腐敗と悪趣味は昔からあったわけだ。
 もしかしたら今回の件でもそれが絡んでたりしてね。
 それは考え過ぎかな?

「少佐。ここでお待ちください。まもなく立会人による放送があるはずです」

 大尉がそう言った時、決闘場から大きな歓声が響き渡った。

「只今よりシュナイデン家、リクト・フォン・シュナイデン男爵とヴォルガング家イリア・フォン・ヴォルガング、リンテール家、クリスティーヌ・フォン・リンテールの決闘を行います。両者、中央へ!」

 まるっきり見世物だな。
 と思いながら、決闘場内に入るとさっきよりも大きな歓声が地鳴りのように湧き起こった。
 中には悪口も含まれてるけどね。
 主に門閥貴族達からだろうが、いちいち気にしていられないから放っておく。
 中央へ進んで行くと、反対側から2人の女性が歩いてくるのが見える。
 なるほど、よく似ているな。
 ヴォルガング家の妹君は少佐よりもキツい視線で冷酷さを感じる。
 リンテール家の姉君の方はよく似ているけど、身長が高いし胸も大きくない。
 2人ともやる気満々のようで、しっかり武装を整えてきている。
 でも俺は軍服に帯刀しているだけ。
 鎧も面倒だから置いてきた。
 それに2人は御立腹のようだ。

「シュナイデン卿。失礼だが、どういうおつもりか?」

「まさかぁ、負けた時の言い訳じゃないですよねぇ?」

 負ける気は微塵もない。
 はっきり言って2人がさっきから殺気を向けているけど、圧力はほとんど感じない。
 これはルーストレームのせいで感覚がおかしくなってるな。

「なんとか仰ったらどうですか?」

「それとも怖くてぇ……」

「お2人は口喧嘩をしにわざわざ此処まで来られたのか? それとも喋ってないと不安なのかな?」

「き、貴様っ!」

「くぅ……」

 安い挑発に簡単に乗ってくる。
 若い証拠だ。

「双方、それぐらいにしていただきましょう。決闘は神聖なもの、これ以上汚すことのなき様、お願い致します。それではこちらの誓約書にサインを」

 誓約書か。
 なになに、俺が負けた時はアリシア・フォン・ヴォルガングに終生近づかないこと、軍を辞して隠居することか。
 随分と勝手なことだ。
 おまけに俺が勝った時は2人とも俺に終生仕えるって……こんな事を俺は微塵も望んでないんだけどね。
 まぁ、あとで放逐すればいいか。
 サッとサインして勝負して帰ろ。

「うむ。双方のサインを確認した。ここに決闘は成立した。では、これより決闘を始めるが、シュナイデン卿は本当によろしいか?」

「ああ、2人同時で構わない」

 決闘を受ける際に俺が出した条件は一つだけ。
 イリア、クリスティーヌの両名と同時に戦う事だ。
 相手に得しかないと思われるけど、実は違う。
 俺にもちゃんと得はある。
 だって、その方が早く済むから。

「後悔するなよ」

「後悔する暇も与えないんだからぁ」

 2人はそう言うと定位置に着いたので、俺も定位置に着いた。

「それでは決闘、始め!」
 
 立会人が号令を発した。
 さぁ、かかってきなさい。
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