食うために軍人になりました。

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第二章

虎龍

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 ちょっと待て。
 さっき陛下が変なことを仰ったように聞こえたけど、突拍子が無さすぎる。
 うん、きっと刀の素晴らしさに気を取られて聞き間違いをしたようだ。
 いやいや、確かにこの刀は素晴らしい。
 特にこの波紋は乱刃らんば重花丁字じゅうかちょうじだったかな?
 花弁が重なったような美しい波紋には目を奪われても仕方がないよね。

「おい、聞こえなかったか? 卿に虎龍タイガードラゴンを討伐してもらいたいのだ」

 いやぁああああああああ!
 聞き間違いじゃなかったぁああああ!

「へ、陛下! 小官も帝国民の端くれ! 陛下の命に否と申したくはありませんが、それはあまりにも無体では……」

「確かに虎龍は強い。しかし、だからこそ卿しかおらんのだよ」

 そんなニッコリ笑われても……。
 虎龍ってあれだろ?
 虎と龍の性質を持った亜龍だよな? 
 虎の柔軟で強靭な身体に龍の翼と尾、鱗を持ち、体長は最大で10mメートルにもなる。
 おまけに性格は残虐非道で人も魔物もお構いなしに襲う最悪の魔物だ。
 そんな奴と戦いたくないんですけど……。
 
「帝国から北東に進んだ草原地帯に現れて、その地に住む帝国民を苦しめている。本来であれば北の辺境伯、レッドウッドが北方方面軍を動かす所だが、北の共和国に不穏な動きがあって動けないのだ」

「なら東方方面軍は……」

「東のジェニングス辺境伯も東の海から来る海洋国家の艦隊から目を離せんのだ。奴らは今のところ敵対はしていないが、方面軍が消えた瞬間に攻勢に出ないとも限らん」

 北と東は駄目か。
 残るは南と西だけど、南方方面軍は南の連邦と睨み合いしてるって言うし、唯一動けるのは西方方面軍だけど、虎龍のいる場所までは距離があり過ぎる。
 要するに帝国の四方を守る方面軍は動けないわけか。
 
「中央軍は動けるが、先のオーマン伯爵の件で遠征したばかりだからな。それに中央軍の損害が大きいと各方面軍から支援要請があった際に対応できん。情けない話だが、現在は国内の問題に中央軍や方面軍は動かせないのだ」

 だから俺に行けと?
 死ねって言ってるようなもんですよ?

「そんな目をするな。何も卿1人とは言わん。そうだな……ヴォルガングの娘とリンテールの娘をつけてやる。それならどうにかなるだろ?」

「確かにお二人とも強いですが、それでも……」

「それ以上は無理だ。これもさっきの話の延長だからな」

 つまり、ウォーレイク元帥の派閥である俺達だけで討伐して功績を上げろって事でしょ?
 なんて無茶を。

「これくらいの功績でないと昇進続きの卿を昇進させるのは無理なのだ。成功した暁にはヴォルガングは少佐に、リンテールは中尉に昇進させてやる」

「小官も中尉ですか?」

「いや、卿は大尉だ」

 はい? なんで二階級特進? 
 もしかして本当に死ねってこと?
 
 
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