食うために軍人になりました。

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第一章

六剣士

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「それにしても、卿も無茶な名前を与えたものだな」

 珍しく朝食を一緒に摂っていたダウスター卿がまた同じ事を言ってきた。
 デカい図体の割に細かいことを気にする男だ。

「またシュナイデン軍曹の家名の事か? 本人がいいと言うならいいじゃないか」

「わかっているが言わずにおれんのだよ。今時、帝国建国期の英雄《六剣士》の名を名乗るなど、前代未聞の事だからな」

「何を言うか。他の五人の名は既に貴族名になっている。だが、最後の一人、闇の剣士シュナイデンの名は未だに使われておらぬ。故に誰が名乗ろうと何の問題もない」
 
 ダウスター卿は軽くため息を吐いた。
 私の物言いに呆れているようだが、私だって卿のしつこさには辟易しているのだぞ。

「名乗る者がいなくて当然だろう。最も多く敵を屠った闇の剣士シュナイデン。彼は六剣士の中でも異質な存在だ。六剣士の内、他の五人は帝国建国後は要職に就き、帝国の発展に尽くしたと言われておるが、シュナイデンだけは何処かに消え、行方不明になった。ただ人を殺したかっただけの凶人だったのではないかと言う者までおるくらいだ。そんな不名誉にもなりかねない名前をつけるものなどおらんだろ」

 ダウスター卿の力説は最もだが、私からすればそれは誤った理解だ。

「誰が言ったかは知らんが、それはおかしな話だ。建国前の帝国領は王国の辺境地域の一つでしかなかった。魔物が跋扈し、土地は痩せ、民達は貧しい暮らしを強いられていたと聞く」

「それは知っている。救助も援助もしない王国に対し、当時その土地の領主だったミリアルド陛下が独立を宣言して建国したと」

「ミリアルド陛下と直属の部下だった五人が中心となって王国と戦い、 その先鋒を務めたのがシュナイデンだ。確かに『数多の民衆を守った』と言われるミリアルド初代皇帝陛下も素晴らしいが、『数多の兵を殺した』シュナイデンがいればこそ、独立を勝ち得たのだ。その功績を野蛮だの、狂人だの言う者は本物の戦争を知らぬ理想論者に過ぎん。そんな輩は前線に放り出してやりたいくらいだ!」

「確かに。特に今の若い貴族連中は華やかさばかりを気にして現実を知らぬ。上級貴族の子弟が軍に入ろうと後方勤務ばかりで、戦場の事など知りはしないからな」

 その通りだ!
 帝都の軍務省内で『もっと優雅に戦争ができぬものか』などとほざいている貴族のボンボン共を何度前線に引きずり出してやろうかと思ったくらいだ!
 あの腐った軍内部を早く一掃したいものだ。
 そのために有能な人材を集めなければならない。
 シュナイデン軍曹。
 貴官にも大いに働いてもらうぞ。
 帝国のため、陛下のため、そして……。

 



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