食うために軍人になりました。

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第一章

襲撃された部屋

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 うぅぅ、なんて居心地が悪いんだ。
 落ち着かない。
 おかしい……ここは俺の部屋のはずだ。
 なのに、居心地が悪い。
 その理由は。

「全く! 貴官のせいで酷い目にあったぞ!」

「本当だよぉ! あそこは話を合わせてくれないとぉ、困るんだからぁ」

 そんな文句言われても困るんですけど。
 っていうか、なんで大尉と少尉が俺の部屋にいるんだ?
 今日は休みだから部屋でのんびりしようと思ってたのに、扉をノックされて、開けたら2人が有無を言わさず入ってきた。
 そしてこの言いようですよ。
 理不尽にも程があるぞ。
  
「聞いているのか? 軍曹」

「聞いてますけど……それにしても、よく怒られただけで済みましたね。軍法会議とか言われるかと思いましたよ」

「それはないよぉ。プライベートな事ではジェニングス中将は権力を使ったりしないからねぇ。でもぉ、気をつけなよぉ。他の貴族や将校達の中には公私混同してる人が多いからぁ」

 やっぱりいるんだね。
 どこでも権力を使って馬鹿面を晒している奴らはいるもんだ。
 あの前ライエル男爵もそうだった。
 御子息が家督を継いだ後にわかった事だけど、あの出入りの商人に騙されてガラクタを高値で買わされてたみたいで、資産のほとんどを散財していたようだ。
 寄親のレヴァンス侯爵が援助した事でなんとか持ち直したが、断絶されてたかもしれなかったそうだからな。
 騙していた商人は地元であるオーマン伯爵領に逃げ帰ったらしく、レヴァンス侯爵とオーマン伯爵は仲があるパーティーの席で商人の処遇を巡って一悶着あったって話だ。
 帝都の公爵が仲裁に入ってその場は収まったそうだけど、火種は燻ったままで貴族の間でも敬遠されてると聞いた。
 中将の言うとおり、貴族ってのは本当にどうしようもない奴らが多いみたいだな。
 まだ良識がある方だと言われているレヴァンス侯爵ですらこうなんだからな。
 どこまで腐ってるか検討もつかないよ。

「リク……シュナイデン軍曹。貴官はこれからどうなるんだ?」

「どう、とは?」

「貴官の昇進だ。閣下が言っていただろう?」

「そういえば聞いてませんね。中将の部下になって曹長になるんでしょうか?」

「それは無いと思うなぁ。下士官って兵の教練とか事務的な仕事が多いからねぇ。君をそこにつけたところで閣下には何の得もないんだよぉ。私として早く私より出世してもらわないと困るんだけどなぁ」

 俺の出世になぜ少尉が関係あるんだ?
 大尉も頷いているけど意味がわからない。
 それにしても出世の仕組みがよく分からないなぁ。

「俺って特進ばっかりなんですけど、本来の出世って難しいものなのですか?」

田舎ここにいては難しいだろうな。軍の出世は《先任進級》と《抜擢進級》があるんだが、《先任進級》はある程度の年数が経てば進級できるが、尉官以上はかなりの年数がかかる。《抜擢進級》は戦功を挙げた者、優秀な成績を修めた者にしかない。前回の貴官の5階級特進は《抜擢進級》だ」

「ここだとぉ、戦争への参加も少ないだろうしぃ、《先任進級》だと私と同じ少尉になるまででもぉ……15年はかかるかなぁ。流石に待てないよぉ」

 何を待っているのかは知らないが、15年かぁ。
 今年成人したから少尉になるのは30歳。
 待てよ、サイモン上級曹長やロースター軍曹は確かもっと歳は上のはずだ。
 となると、結構早い方なのでは?

「とにかく、貴官にはなるべく早く私達より上の階級になってもらわねば困る。15年あったら戦功が無くても私は中佐、ファンティーヌは少佐だろう。差が開くばかりだ」

「なんとかしないとぉ、婚期が遅れちゃうぅ。私はまだしもアリシアちゃんはぁ……」

「おい……その先を言えば斬るぞ」

「大尉、小官の部屋で刃傷沙汰は困ります。それにお2人は綺麗ですから、引く手数多でしょう? 婚期が遅れるとは思いません」

 俺は思った事を口にしただけだが、2人は顔を見合わせてため息をついた。

「これは苦労しそうだな……」

「初めて見たわぁ、こんな鈍感な人はぁ……」

 なんの話だか、全然わからない。
 俺みたいな平民出にはわからないけど、きっと貴族の家系には色々あるんだろう。
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