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第一章
タウスター男爵
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「……間違いない。ダニート・フォン・ライエル男爵だ」
曹長はそう呟くと、そのまま固まってしまった。
あまりにも唐突な報告に曹長が困惑していたので、魔法鞄に保管しておいたライエル男爵の遺体を出したんだけど、これで信じてもらえたかな?
でも迂闊だったな。
魔法鞄の中って時間経過がないから遺体の状態は良好なんだけど、同時に生々しくもあるから心構えをしていなかった兵士の中には顔を青ざめさせ、嘔気を催す者もいた。
あっ、あいつは出ちゃったな。
そんな感じで静かに騒ついていたのが収まると、やっとその存在に気づいてもらえた軍曹達3名の事も改めて報告し、その際にロースター軍曹が今回の戦果の功労者である事も加えて報告した。
「そういう経緯があったのか。安心しろ。軍曹達は元々は同じ帝国軍であるし、今回の戦いは軍が認めた規模の大きな決闘のようなものだ。勝敗に関わらず、兵士が責を問われる事はない。むしろ、我が領軍の新兵に御助力いただいた事に深く感謝する」
曹長は軍曹に敬礼をし、謝辞を述べた。
良かったぁ。
軍曹が罰せられたらどうしようかと思ったよ。
言われてみれば、軍が認めた戦いで兵士が処罰されるのはあんまりだな。
あれ?
じゃあ、殺しちゃったのはまずかった?
「あの……曹長。私は今回の任務で幾人かを斬りましたが、この場合は……」
「問題ない。先も言ったが、今回の戦いは自国間における規模の大きな決闘だ。互いの自尊心をかけた決闘に生死をかけるのは当然の事。処罰される事はないぞ」
その自尊心をかけたのは貴族様であって、俺達兵士じゃないんだけど、仕方ないか。
帝国軍は徴兵制じゃない。
みんな俺と同じで自ら志願して軍人になったんだ。
どんな戦いや任務でも命を落とす危険はある。
その世界に自ら飛び込んだ以上、文句も言えないか。
「それより、今回の戦いは戦功記録に残るからな。楽しみにしているといいぞ!」
「戦功記録? ですか?」
興奮する曹長だったが、俺には意味がわからない。
何か良いことがあるんだろうか?
「戦功記録は貴官がどの戦いでどんな戦功を上げたかを軍令部が正式に記録として残すことだ。わかりやすく言うなら、昇進や褒賞が支給があるという事だ!」
「えっ! あ、ありがとうございます!」
やったぁ!
命がけの任務だったけど、やり遂げた甲斐があったよ!
田舎の領軍で出世なんて滅多にある事じゃないからな。
これは素直に嬉しいな。
「何の騒ぎだっ!」
俺が喜びの余韻に浸っていると、本陣の奥から准尉が大仰な態度でやってくる。
よく見ると、後髪が跳ねている。
まさか、寝てたんじゃないだろうな?
「准尉! 斥候に出ていたリクト二等兵が素晴らしい戦果と共に帰陣致しました!」
曹長が自分の事のように准尉に報告する。
しかし、准尉は何の事か理解できていないようで訝しげな表情をしたままだった。
理解できないのは察しが悪いからではなく、寝起きだからだと信じたい。
曹長が仕方なく、近くまで寄って詳細に説明している。
やれやれ、手のかかる事だ。
「なんだとっ! すでにライエル男爵を討った? そんな馬鹿な事があるかっ! 第一、斥候が敵将を討てるわけがないだろ!」
「准尉。お言葉ですが、斥候はその役割上、敵と遭遇する可能性は高いので、ないとは言い切れません」
「それは斥候同士であろう! 敵将が斥候していたわけではあるまいし、それとも斥候が敵陣まで単身、攻め入って敵将を討ったとでも言うのか!」
その通りであります! とは言わない。
今言っても火に油を注ぐようなもんだからな。
それに准尉が言ってる事もわからないでもない。
新兵に斥候やらせたら敵将を討ち取って帰ってきたなんて、普通ならあり得ないだろうからな。
今回だってライエル男爵が油断しまくっていたから出来た事だしね。
「それにこいつは二等兵ではないか! 装備は片刃だし、まだ若い! そんな者に敵将を討てるわけが……」
「それは関係ない事だ」
赤い顔をして捲し立てる准尉の言葉を遮り、本陣の奥から悠然とやって来る筋骨隆々、スキンヘッドの大男。
あの人こそ我らの領主であり、俺が所属するダウスター領軍の指揮官でもあるアーベル・フォン・ダウスター男爵だ。
幼子が見たら泣くからあまり街には来られないって話だけど、あの風貌だもんなぁ。
仕方ないね。
「准尉! 二等兵が指揮官を討ってはならない理屈はないし、装備が珍しい片刃であってもそれは変わらぬ。そういう融通が効かぬところは戦場では命取りとなるぞ。改めよ」
「くっ! しかし、父上……」
「馬鹿者っ! 戦場に私事を挟むでないわ! もうよい! 下がっておれ!」
筋骨隆々の大男からの怒声がよっぽど怖かったのだろう。
俺を少し睨んだ後で本陣の奥へと消えていった。
睨む相手が違いませんか?
「お前がリクト二等兵か?」
男爵が俺に声をかけてくる
准尉に話しかける時と威圧感は同じだ。
幼子が泣く? 違うね。
幼子なら失神してるよ!
「はっ! 私がリクト二等兵であります!」
「曹長から報告を聞いたが、見事な働きだ。敵将と6人の兵を討ち、下士官である軍曹と上等兵2名を捕虜にしたのは大手柄だ! 少々、独断専行が見られるが、准尉が許可を出していたようだし、お前に責はない。ご苦労だったな。今日はもう休んでいてよいぞ。ガッハハハハッ!」
男爵はそう言って、俺の肩を軽く叩いてから本陣の奥に戻って行った。
軽くってのは男爵にとってはね。
俺は危うく前のめりに倒されるところだったよ。
めっちゃ痛てぇよ。なんて馬鹿力だ。
「聞いた通りだ。リクト二等兵。街まで戻る事はできないが、本陣の天幕でゆっくり休むがよい。捕虜の3名は俺が預かるからな」
曹長はそう言って、俺の肩にポンと手を置いてから、ロースター軍曹と他2名を連れて行ってしまった。
ライエル男爵の遺体は領軍の魔法兵が保存の魔法で管理してくれるそうだし、俺は自分の天幕に戻って休ませてもらうとしよう。
こうして、俺の初陣は終わった。
曹長はそう呟くと、そのまま固まってしまった。
あまりにも唐突な報告に曹長が困惑していたので、魔法鞄に保管しておいたライエル男爵の遺体を出したんだけど、これで信じてもらえたかな?
でも迂闊だったな。
魔法鞄の中って時間経過がないから遺体の状態は良好なんだけど、同時に生々しくもあるから心構えをしていなかった兵士の中には顔を青ざめさせ、嘔気を催す者もいた。
あっ、あいつは出ちゃったな。
そんな感じで静かに騒ついていたのが収まると、やっとその存在に気づいてもらえた軍曹達3名の事も改めて報告し、その際にロースター軍曹が今回の戦果の功労者である事も加えて報告した。
「そういう経緯があったのか。安心しろ。軍曹達は元々は同じ帝国軍であるし、今回の戦いは軍が認めた規模の大きな決闘のようなものだ。勝敗に関わらず、兵士が責を問われる事はない。むしろ、我が領軍の新兵に御助力いただいた事に深く感謝する」
曹長は軍曹に敬礼をし、謝辞を述べた。
良かったぁ。
軍曹が罰せられたらどうしようかと思ったよ。
言われてみれば、軍が認めた戦いで兵士が処罰されるのはあんまりだな。
あれ?
じゃあ、殺しちゃったのはまずかった?
「あの……曹長。私は今回の任務で幾人かを斬りましたが、この場合は……」
「問題ない。先も言ったが、今回の戦いは自国間における規模の大きな決闘だ。互いの自尊心をかけた決闘に生死をかけるのは当然の事。処罰される事はないぞ」
その自尊心をかけたのは貴族様であって、俺達兵士じゃないんだけど、仕方ないか。
帝国軍は徴兵制じゃない。
みんな俺と同じで自ら志願して軍人になったんだ。
どんな戦いや任務でも命を落とす危険はある。
その世界に自ら飛び込んだ以上、文句も言えないか。
「それより、今回の戦いは戦功記録に残るからな。楽しみにしているといいぞ!」
「戦功記録? ですか?」
興奮する曹長だったが、俺には意味がわからない。
何か良いことがあるんだろうか?
「戦功記録は貴官がどの戦いでどんな戦功を上げたかを軍令部が正式に記録として残すことだ。わかりやすく言うなら、昇進や褒賞が支給があるという事だ!」
「えっ! あ、ありがとうございます!」
やったぁ!
命がけの任務だったけど、やり遂げた甲斐があったよ!
田舎の領軍で出世なんて滅多にある事じゃないからな。
これは素直に嬉しいな。
「何の騒ぎだっ!」
俺が喜びの余韻に浸っていると、本陣の奥から准尉が大仰な態度でやってくる。
よく見ると、後髪が跳ねている。
まさか、寝てたんじゃないだろうな?
「准尉! 斥候に出ていたリクト二等兵が素晴らしい戦果と共に帰陣致しました!」
曹長が自分の事のように准尉に報告する。
しかし、准尉は何の事か理解できていないようで訝しげな表情をしたままだった。
理解できないのは察しが悪いからではなく、寝起きだからだと信じたい。
曹長が仕方なく、近くまで寄って詳細に説明している。
やれやれ、手のかかる事だ。
「なんだとっ! すでにライエル男爵を討った? そんな馬鹿な事があるかっ! 第一、斥候が敵将を討てるわけがないだろ!」
「准尉。お言葉ですが、斥候はその役割上、敵と遭遇する可能性は高いので、ないとは言い切れません」
「それは斥候同士であろう! 敵将が斥候していたわけではあるまいし、それとも斥候が敵陣まで単身、攻め入って敵将を討ったとでも言うのか!」
その通りであります! とは言わない。
今言っても火に油を注ぐようなもんだからな。
それに准尉が言ってる事もわからないでもない。
新兵に斥候やらせたら敵将を討ち取って帰ってきたなんて、普通ならあり得ないだろうからな。
今回だってライエル男爵が油断しまくっていたから出来た事だしね。
「それにこいつは二等兵ではないか! 装備は片刃だし、まだ若い! そんな者に敵将を討てるわけが……」
「それは関係ない事だ」
赤い顔をして捲し立てる准尉の言葉を遮り、本陣の奥から悠然とやって来る筋骨隆々、スキンヘッドの大男。
あの人こそ我らの領主であり、俺が所属するダウスター領軍の指揮官でもあるアーベル・フォン・ダウスター男爵だ。
幼子が見たら泣くからあまり街には来られないって話だけど、あの風貌だもんなぁ。
仕方ないね。
「准尉! 二等兵が指揮官を討ってはならない理屈はないし、装備が珍しい片刃であってもそれは変わらぬ。そういう融通が効かぬところは戦場では命取りとなるぞ。改めよ」
「くっ! しかし、父上……」
「馬鹿者っ! 戦場に私事を挟むでないわ! もうよい! 下がっておれ!」
筋骨隆々の大男からの怒声がよっぽど怖かったのだろう。
俺を少し睨んだ後で本陣の奥へと消えていった。
睨む相手が違いませんか?
「お前がリクト二等兵か?」
男爵が俺に声をかけてくる
准尉に話しかける時と威圧感は同じだ。
幼子が泣く? 違うね。
幼子なら失神してるよ!
「はっ! 私がリクト二等兵であります!」
「曹長から報告を聞いたが、見事な働きだ。敵将と6人の兵を討ち、下士官である軍曹と上等兵2名を捕虜にしたのは大手柄だ! 少々、独断専行が見られるが、准尉が許可を出していたようだし、お前に責はない。ご苦労だったな。今日はもう休んでいてよいぞ。ガッハハハハッ!」
男爵はそう言って、俺の肩を軽く叩いてから本陣の奥に戻って行った。
軽くってのは男爵にとってはね。
俺は危うく前のめりに倒されるところだったよ。
めっちゃ痛てぇよ。なんて馬鹿力だ。
「聞いた通りだ。リクト二等兵。街まで戻る事はできないが、本陣の天幕でゆっくり休むがよい。捕虜の3名は俺が預かるからな」
曹長はそう言って、俺の肩にポンと手を置いてから、ロースター軍曹と他2名を連れて行ってしまった。
ライエル男爵の遺体は領軍の魔法兵が保存の魔法で管理してくれるそうだし、俺は自分の天幕に戻って休ませてもらうとしよう。
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