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第一章

盗賊の英雄②

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「頭目の名前はカミュ。元スラーレン冒険者ギルドの金級ゴールド冒険者で、それなりに名声があった男だ」

金級ゴールドかよ。それだけでも十分面倒だって。それで? そんな名声のあった男が盗賊になった理由は何だったの?」

「それはわからん」

「はぁ? わからんって、スラーレンの裏ギルドは何やってんだよ? 依頼の背後事情も洗ってないの?」

「現在調査中らしい。ただ、ある貴族の御令嬢と関係があるのではないかと言われている」

「貴族の令嬢?」

「うむ。スラーレンで代官をしておるメルカッツ男爵の御令嬢のソアラ様だ。カミュが男爵の依頼で屋敷を訪れた際に知り合って以来、時々男爵邸に招かれてお茶をしているとの話があったそうだ」

 貴族の御令嬢と金級ゴールド冒険者か。
 二人の間に何があったのやら……もしかして、恋人関係になったけど、それを知った男爵に妨害されたとか、或いは既にソアラ嬢には家が決めた婚約者がいて引き裂かれたか。
 まぁ、この辺りは情報が不足し過ぎていて何とも言えないな。
 しかし、スラーレンの裏ギルドは事件の背景も調べられないなんて、質の低いと言われても仕方ないぞ。
 ちゃんとしてくれよ。

「とにかく、メルカッツ男爵家との関係についてはスラーレン側が責任を持って調べる。お前はテューレ山に向かってくれ」

「はいはい。俺がしばらく王都から離れる事になるけど大丈夫?」

「表向きは儂が配達の仕事を任せたという事にしておく。裏の仕事についてはリアにやらせる」

「リア? マジか、あいつで大丈夫なの?」

「お前の代わりと言えば喜んで働くじゃろう。どうじゃ? お前もいい歳じゃし、そろそろ身を固めても……」

「やなこった。じゃあ、面倒な数を相手にする事になるかもしれないから、準備をしてからテューレ山に向かうよ。馬は目立つだろうし、明日の朝に出る馬車の手配を頼むよ」

「やれやれ、ひ孫はまだ先か……よかろう。ギルドの方で馬車の手配はしておく。アルト、くれぐれも気をつけるようにな」

 それだけ言うと、じいちゃんは窓から颯爽と出て行った。
 壊れた窓をそのままにして……
 これをそのままにしてたら明日、女将にどやされちゃうじゃないか!
 まぁいいや。
 とりあえず300万の方を優先しよう。
 しかし、元金級ゴールド冒険者と20人の盗賊団ってだけでも面倒なのに、それが5倍に膨れ上がるってのは何とか阻止したいな。
 でも、盗賊連合なんて本当に実現するのか?
 我の強い盗賊達が同じ盗賊とは言え、他の組織と連携するとは思えないんだけどなぁ。
 冒険者カミュと盗賊団。
 メルカッツ男爵、その令嬢ソアラ。
 うーん、どうにもこの話には何か裏があるような気がしてならない。
 貿易都市スラーレンまでは王都から馬車で7日、馬なら4日だ。
 先にそっちを探ってみるか。
 これ以上厄介ごとに巻き込まれるのは御免だしね。
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