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第一章

孤児院からの依頼⑧

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 エレンちゃんの気持ちはわからないでもないが、ちょっと熱くなりすぎてるようだ。
 若気の至りって怖いもんだ。
 自分では止められないんだからなぁ。
 仕方ない。
 ここは人生経験豊富なお兄さんが止めてあげましょう。

「どうしてかと聞かれたら、エレンちゃんが殺す理由がないからだよ」

「理由はある! 私の兄姉達はこいつに苦しめられて、今だってどんな目に遭わされているかわからない! だから、私がこいつを殺さなきゃみんなが報われないんだ!」

「いや、エレンちゃんが手を汚しても報われないだろ? 君のお兄さんやお姉さんがどんな人だったかは知らないよ? でも、君に手を汚して欲しいとは思ってなかったんじゃない?」

「どうしてそんな事が貴方にわかる!? きっとみんなは……」

「エレンちゃんは孤児院に残して来た子達に仇を討って欲しいと思っているのかい?」

「……えっ?」

 魔王みたいな顔でザウェルの骸を睨んでいたエレンが、ようやく俺の方を向いた。
 よしよし、いい子だ。
 
「エレンちゃんは残された子達に幸せになって欲しいと思ったから、自分の身を犠牲にしてきたんじゃないの?」

「そ、それは……」

「仇を討ってほしいと思う人間なんて、そういるもんじゃない。大抵の人間は残して来た人の幸せを願っているもんさ。ほれ、君の大切な人達の顔を思い出してみ。その人達は君が手を汚す事を笑ってくれているか?」

「うぅぅ……うわぁああああ!!」

 泣きじゃくるエレンの手から剣が滑り落ちた。
 うんうん、それでいいんだ。
 大切な人が悲しむような事はしなくていいし、しちゃいけないんだ。
 エレンがザウェルを殺してもきっと誰も喜んでくれないし、エレン自身の気分も晴れないだろう。
 手を汚す必要がない奴は汚さなくていい。
 そのために俺みたいな奴がいるんだからね。
 泣きじゃくるエレンを介抱しつつ、俺は彼女を連れて孤児院へと戻り、寝かしつけてからギルドに帰って、事の顛末をじいちゃんに説明した。
 色々頑張ったからもっとくれるかと思ったけど、追加報酬は無かったので、後の始末を全て押しつけて帰ってやったぜ!
 ふふん、ワイルドだろう?

 後日の話になるが、何の前触れもなく騎士隊長のホーベンフルト伯爵の子息の病死が大々的に発表された。
 こうやって公にする事で変な詮索を誤魔化す算段なんだろう。
 毎度の事だけど、貴族の根回し手回しの早さは本当に呆れを通り越して賞賛したくなる。
 騎士団や衛兵隊を黙らせるためにどんだけ金を使ったのやら。
 まぁ、孤児院に寄付さえしてくれれば、伯爵がどんだけ金を使おうと知った事じゃないけどね。
 そうそう、孤児院の方は新たに責任者となったテレス婆さんの元で問題なく活動できている。
 テレスは皺くちゃの頑固婆だけど、やっぱり子どもは嫌いじゃないようだ。
 厳しいながらも思いやり溢れる教育のおかげで、子ども達は健やかに過ごせている。
 エレンも今は笑顔で幸せに暮らしているそうだ。
 あの時、彼女がザウェルを殺していたらこんな風に笑って過ごせてはいなかっただろう。
 笑顔でいられるって事は本当に素晴らしい事だ。
 
「さて、今日は誰を笑顔にしてあげようか?  待ってろよ、まだ見ぬ美女達よ! 俺が君を笑顔にしてあげるからね!」

 俺は貧民街の歓楽地で有り金を全部使って、みんなを笑顔にしてあげた。
 帰り道、俺だけが泣いていたのは言うまでもない。
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