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第一章
孤児院からの依頼⑤
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「うぎゃぁああああああ! わ、私の手が! 手がぁああああああ!!」
右手に穴を空けたシモンが醜く地面をのたうち回る。
見事なもんだ。
背中が痒い犬でもここまではしないだろう。
「こんばんわ」
「き、貴様! 何者だ!? この御方をどなたと思っているんだ!?」
礼儀正しく挨拶をして現れた俺に、護衛の男達が剣を抜いた。
見た感じは騎士じゃないが、それなりに手練のようだ。
数はこの場に四人、森の中に六人くらい隠れている。
散歩に出るのに十人も必要なら、外に出るのは控えるべきだ。
「聞いているのか!? この御方は映えある騎士隊長様の……」
「人身売買をする奴が騎士隊長様の何んだ?」
「うっ……い、いや……それは……」
男はわかりやすく狼狽し始めた。
こっちから言わないとマズいって事に気づかないなんて、間抜けもいいところだよ。
育ちが知れてるね。
「まぁ、元から知っているからいいけどさ。それにしてもザウェルさん。随分と悪どい……いや、人の道に外れた事してるじゃないの?」
「な、何っ!? お、お前はこの前の!? わ、儂が何をしたと言うんじゃ!?」
俺の顔を見て思い出したのか、額に汗を浮かべながらも啖呵を切って来た。
今の状況を見られてシラを切るとは恐れ入ったよ。
この前の好々爺然とした顔は何処へやら、随分と醜悪な顔だこと。
「何をしたって決まってるじゃん。人身売買だよ。孤児院と称して子どもを集めて、それを教育しては変態どもに売り捌いてるんだろう?」
「そ、そのような事は……」
「見りゃわかるっての。貧民街の隅にある孤児院に経済的余裕があるはずない。何処の孤児院でも慎ましやかに生きてるもんだ。なのに、あんたの所の子ども達は全員が飢えた様子もなく、健康そのものだ。これはどういう事だい?」
「そ、それは心ある方の寄付で……」
「寄付か、そいつは重畳だね。おかげで子ども達は飢える事もなく、全員仲良く、まるで家族のように過ごせるってわけだ」
「そ、そうだ! それの何がいけないんじゃ!? 子どもが飢えずに仲良く暮らしている事の何が問題だと言うんじゃ!?」
「それが枷、なんだろ?」
ザウェルの顔が更に卑しく歪む。
遂に本性を表しやがった。
「子ども達は仲良くなればなるほど、互いに情が深くなる。そうすれば、あとはお前の言いなりだ。『お前が言う事を聞かないと小さい子達が飢えて死ぬ事になる』とでも言ったか? それで売られる子達はお前にも、買い主にも逆らえなくなる。命令に背かない従順な奴隷の出来上がりってわけだ」
「ふ、ふはははっ! よくわかったな! そうだ! その通りだ! まったく頭の悪いガキは扱いやすくて助かるわい! ちょいとガキの悲鳴を聞かせてやれば泣いて許しを乞うて、儂の言いなりになるんだからな!」
吐き気を催す程の醜悪さだ。
出てくる反吐の方が綺麗に見える。
こいつは聖職者どころか、人として狂ってやがる。
許す理由はない。
「覚悟はできているか?」
「ふん! お前は何を言っている? 儂が何をした? 儂はただ孤児を育て、しかるべき家に奉公に出しているだけだ。何も問題はない! それとも人身売買の証拠でもあるのか? 言っておくが、儂は書類を残すようなヘマはしておらんからな! ふはははははっ!」
確かに書類は残ってなかった。
小さな子達もザウェルさんは良い人だと言っていたよ。
だからこそ、許せない。
子どもの純粋な心を踏みにじった事がよ!
「問題があるのは貴様の方だ。こちらにおられる御方は歴とした貴族様。何をしたかは知らんが、怪我を負わせたのは間違いない。貴様には不敬罪が適用される。そうですよね? シモン様」
さっきまで地面を転げていたシモンが手を押さえながら恨みがましい憎悪に歪んだ眼で俺を睨んでいる。
背中の痒みはとれたのかな?
「ああ、許さない! 絶対に許さないからな! お前の一族郎党、全て不敬罪で処刑して城下に首を晒してやる! お前はこの場で嬲り殺し……いや、お前は生きた玩具として死ぬまで遊んでやる!」
「おいおい、いい年してお人形遊びが趣味なのか? だったら孤児院で子ども達にお人形劇でも見せてくれよ。喜ぶぜ?」
「貴様ぁあああ! 許さない! お前達、この男の手足を切り落とせぇええええ!!」
主人の奇声に隠れていた周りの男達も含めて全員が一斉に襲いかかってきた。
自分で来ないところが、正に貴族のボンボンって感じだな。
右手に穴を空けたシモンが醜く地面をのたうち回る。
見事なもんだ。
背中が痒い犬でもここまではしないだろう。
「こんばんわ」
「き、貴様! 何者だ!? この御方をどなたと思っているんだ!?」
礼儀正しく挨拶をして現れた俺に、護衛の男達が剣を抜いた。
見た感じは騎士じゃないが、それなりに手練のようだ。
数はこの場に四人、森の中に六人くらい隠れている。
散歩に出るのに十人も必要なら、外に出るのは控えるべきだ。
「聞いているのか!? この御方は映えある騎士隊長様の……」
「人身売買をする奴が騎士隊長様の何んだ?」
「うっ……い、いや……それは……」
男はわかりやすく狼狽し始めた。
こっちから言わないとマズいって事に気づかないなんて、間抜けもいいところだよ。
育ちが知れてるね。
「まぁ、元から知っているからいいけどさ。それにしてもザウェルさん。随分と悪どい……いや、人の道に外れた事してるじゃないの?」
「な、何っ!? お、お前はこの前の!? わ、儂が何をしたと言うんじゃ!?」
俺の顔を見て思い出したのか、額に汗を浮かべながらも啖呵を切って来た。
今の状況を見られてシラを切るとは恐れ入ったよ。
この前の好々爺然とした顔は何処へやら、随分と醜悪な顔だこと。
「何をしたって決まってるじゃん。人身売買だよ。孤児院と称して子どもを集めて、それを教育しては変態どもに売り捌いてるんだろう?」
「そ、そのような事は……」
「見りゃわかるっての。貧民街の隅にある孤児院に経済的余裕があるはずない。何処の孤児院でも慎ましやかに生きてるもんだ。なのに、あんたの所の子ども達は全員が飢えた様子もなく、健康そのものだ。これはどういう事だい?」
「そ、それは心ある方の寄付で……」
「寄付か、そいつは重畳だね。おかげで子ども達は飢える事もなく、全員仲良く、まるで家族のように過ごせるってわけだ」
「そ、そうだ! それの何がいけないんじゃ!? 子どもが飢えずに仲良く暮らしている事の何が問題だと言うんじゃ!?」
「それが枷、なんだろ?」
ザウェルの顔が更に卑しく歪む。
遂に本性を表しやがった。
「子ども達は仲良くなればなるほど、互いに情が深くなる。そうすれば、あとはお前の言いなりだ。『お前が言う事を聞かないと小さい子達が飢えて死ぬ事になる』とでも言ったか? それで売られる子達はお前にも、買い主にも逆らえなくなる。命令に背かない従順な奴隷の出来上がりってわけだ」
「ふ、ふはははっ! よくわかったな! そうだ! その通りだ! まったく頭の悪いガキは扱いやすくて助かるわい! ちょいとガキの悲鳴を聞かせてやれば泣いて許しを乞うて、儂の言いなりになるんだからな!」
吐き気を催す程の醜悪さだ。
出てくる反吐の方が綺麗に見える。
こいつは聖職者どころか、人として狂ってやがる。
許す理由はない。
「覚悟はできているか?」
「ふん! お前は何を言っている? 儂が何をした? 儂はただ孤児を育て、しかるべき家に奉公に出しているだけだ。何も問題はない! それとも人身売買の証拠でもあるのか? 言っておくが、儂は書類を残すようなヘマはしておらんからな! ふはははははっ!」
確かに書類は残ってなかった。
小さな子達もザウェルさんは良い人だと言っていたよ。
だからこそ、許せない。
子どもの純粋な心を踏みにじった事がよ!
「問題があるのは貴様の方だ。こちらにおられる御方は歴とした貴族様。何をしたかは知らんが、怪我を負わせたのは間違いない。貴様には不敬罪が適用される。そうですよね? シモン様」
さっきまで地面を転げていたシモンが手を押さえながら恨みがましい憎悪に歪んだ眼で俺を睨んでいる。
背中の痒みはとれたのかな?
「ああ、許さない! 絶対に許さないからな! お前の一族郎党、全て不敬罪で処刑して城下に首を晒してやる! お前はこの場で嬲り殺し……いや、お前は生きた玩具として死ぬまで遊んでやる!」
「おいおい、いい年してお人形遊びが趣味なのか? だったら孤児院で子ども達にお人形劇でも見せてくれよ。喜ぶぜ?」
「貴様ぁあああ! 許さない! お前達、この男の手足を切り落とせぇええええ!!」
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自分で来ないところが、正に貴族のボンボンって感じだな。
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