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Version 1 - ヴァルケンヘクセ

Ver 1.13 全力で追い詰める

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朝目が覚め、宿の食堂で朝食を取っているとペトラがやって来た

「リタさん、イズルさん…顔を出すようお伝えしたはずですが…」
「あ……」

ペトラは大人し気な表情のままリタにプレッシャーをかける
リタは苦笑いしながら謝っていた

◆ ◆ ◆

冒険者ギルド 執務室

ペトラに案内され、冒険者ギルド二階の執務室へ通された
執務用の机、来客用のソファーがあり、既にギルドマスターのドゥアルトが座って待っている

「おう、そこに座ってくれ」

リタと二人でドゥアルト向かいのソファーに座った

「変異スライムを倒したんだってな」

勝手にダンジョン行くのを止める立場だと言われていたので説教を覚悟していたがドゥアルトの物腰は柔らかかった

「ん?怒られるのかと思ったが…」
「そりゃお前…怒るけどよ」

怒るのかよ、言わなきゃよかった

ドゥアルトはため息をついてくどくどと説教を始めた

「なんで止めるかって適切な難易度のダンジョンに挑まず死ぬのは構わねーが、街は魔物の素材や魔石で生活してる。冒険者が減ると困るんだ、だからギルドからすると冒険者ってのは従業員なわけよ。生きて魔物素材を持ち帰って欲しいんだ。じっくり鍛えれば優秀な冒険者になるかもしれないのに無知が原因で死んだらもったいないだろ」

なるほど、ギルドもタダで運営できるわけじゃない
冒険者たちをまとめ、仕事の仲介、さらには魔物の素材買取り
さらには街を発展させるために素材を供給してるってわけか

「だいたい仲間が死んだ冒険者のパーティってのは辛気臭くてかなわん。可哀想だが完全に自分たちの過失が原因だ。ギルドの他のやつらにまで辛気臭さが伝染すると弱気になっちまって傷を負うやつも増える。被害を受けるのは死んだやつ、残された仲間、さらにはギルドのやつらも含まれるんだ。更に依頼が達成されない依頼主も困る。冒険者が死ぬってのは罪だと思え」

よくわからん超理論だと思ったが微妙に辻褄が合っていて反論に困る
要は命を無駄にするなの一言だが、ドゥアルト流の優しさなんだろうか

「で、イズル。お前まだ冒険者になるつもりはあるか?無くてもダンジョンに挑むなら試験は受けろ。スキルだけで判断してたのは正直ギルド側の過失だ、これからはきちんと試験をするようになる。受けろ」

聞いているのか命令しているのかよくわからん
こいつも脳筋か?

「まぁ、ダンジョンには行くことになる」
「そうか、じゃあついてこい」

ドゥアルトはギルドの裏手にある民家に案内した

「試験はここでやる、民家だがギルドが買い取ってる。解体する金が惜しいんで派手にぶっ壊していいぞ。結界魔法で覆ってあるから周りの事は心配するな。試験官は今回特別に俺だ、喜べよ。先に入れ」

イズルが言われるがままに中に入ると外から呪文を唱える声が聞こえてくる

「いくぞー!?火球連弾!」

大きな音と共に建物が崩れていく

「ちょ!殺す気か!!障壁展開!火球x4…行け!」

イズルは瓦礫を吹き飛ばすように火球を放ち、窓を割って外に出る
ガラガラと崩れ、燃える建物の向こう側でドゥアルトは剣を構え、次の攻撃を繰り出す

「次だ!」

ジグザグに動きながらたった数歩でイズルの前までたどり着き、剣を横に薙ぐ
イズルの物理障壁が剣を受け止めた

「追跡、魔力矢…展開」
「うおっと!」

ドゥアルトは素早く距離を取り、追跡してくる魔力矢を剣で防いだ

「マジかよ、お前詠唱しないのか。それに追跡までさせるってのはなかなか高度だぞ」
「俺も魔力矢を剣で受け止められたのは初めてだ…」

威力を上げるか手数で押すかしないと決着が着きそうにないな

「めんどくせぇな…俺は魔法が得意じゃないんだ」

俺も食らえば一撃なんで必死なんだよ
新しく付与した術式も試すか

「魔視、物理障壁、魔力障壁…展開」

魔視の術式で周りを見ると結界があるせいか魔力が濃い

「これなら手数で勝負できそうだな」
「あん?」
「拡散、魔力矢x3…展開」

追跡しない拡散する魔力矢をイズルは何度も放ち、建物を砕いていく

「な!あっぶねぇ、建物で押しつぶす気か!?」
「まだまだ、追跡、拡散、魔力矢x3…展開」

追跡しない魔力矢の中に追跡する魔力矢を織り交ぜ、あたり一面に魔力矢をばら撒き建物も人もお構いなしに攻撃の手を強めていく

「ちょっ…こいつは…!?うおぉぉぉぉぉ!!」

ドゥアルトは魔力障壁と物理障壁を駆使しながら逃げ回り、結界内にあった4軒の家が原型をとどめ無くなる頃、両手を挙げた

「降参だ!降参!!シャレになんねーよ!それほど強くない魔法でもそれだけ連射されたらたまったもんじゃない。文句なしで合格だ」

リタもペトラも目を丸くして結界の外から眺めていた

「リタさん、イズルさんて本当に魔力無いんですか…?なんであんなに魔法使えるんでしょう」
「うん…脳筋をこじらせたらあーなったんじゃないかな」
「え?」

詠唱が必要な魔導士なら普通はイズルほど魔法は連射なんてできない
自分の魔力を使うので残りの魔力の事も考えなければならない
より効果的に魔法を使う事を考えるのが普通だが
イズルは気合で魔力が無くても魔法を使う術式を開発してしまったためオツムが魔導士になっていない
発想が威力と回転を上げればいいみたいな事を考えてしまう脳筋魔導士だった

戦闘音を聞きつけ、ギルドに残っていた冒険者達も駆けつけている
ドゥアルトとイズルの戦闘を見て拍手を送り始めた

「すげーのが来たな。あいつちょっと前にギルドを燃やそうとしたやつだろ」
「なんであれでスキル無しなんだ?魔力も無いって聞いたぞ」
「ドゥアルトは弱くない、ってか強い部類なんだけどな、圧倒的だ」

ドゥアルトは結界の外に出て手招きするとギルドに戻って行った
ついていくとギルド内の受付でペトラに何か指示をし、ペトラが奥へ走っていく

「今冒険者証を発行してやる、これからは冒険者として依頼を受けろ。素材も当然ここで買い取る。あとはペトラから聞け」

それだけ言い残してドゥアルトは二階に戻って行った
ペトラが戻ってくると受付のカウンターへ、両端に小さな魔石が二つついた楕円状の金属板を差し出した

「試験合格おめでとうございます。これからイズルさんも冒険者ですよ」
「ありがとう、これは?」
「これが冒険者証になります。ランクは21となりました。ご説明しますね」

冒険者ギルドではパーティで狩りをすることが多いらしい
ダンジョンは魔物の数が多く、少人数で挑むのは危険なんだそうだ

依頼を受けて納品すると達成
報酬がもらえる

依頼の内容は討伐や採集、製作依頼など多岐にわたる
ソロ(一人)用とクラン(冒険者の集団)用ランクに分かれており
ソロ用は依頼達成数、討伐した魔物の難易度から算出され、高いほど信用が高くなる
みんなランク1からスタートするがランク10,20,30と10刻みで特定の難易度の魔物を倒さないと次のランクへは行けない

ランク分けされている理由は指名依頼があるからだ
特定のランク以上の人に対して発行される依頼がある
主に討伐依頼が多い

クラン用ランクは人数、依頼達成数、クランハウス規模などから算出される
ランク1~4までが銅、5~9までが銀、10以上は金
これもクラン専用依頼などがある
ダンジョンから溢れた魔物の討伐だったりボス討伐などに駆り出される

「説明は以上です。イズルさんは既に変異スライムを討伐しているので21という評価になっています」
「へぇ、ランクなんてあったんだな。ちなみにリタは?」
「リタさんは30です。小鬼の巣窟なら一人で全種類の魔物を倒せるくらいの評価ですね」

リタ強いな

「1対1なら、だよ。囲まれたらどんなランクでも無傷は無理」

リタがイズルに注意するように付け加えた

「なるほどな、相性もありそうだ」
「そうだね、この間の変異スライムだとあたし一人じゃ無理だなー」
「あれはちょっと危なかったな」
「うんうん、イズルのおかげで助かった。あっ!この後クリスのとこいかない?きっと喜ぶよ」
「そうだな…送り出してくれたし。見せに行くか」
「そうしよ!じゃあペトラ、依頼はまた今度見に来るね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
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