穢れの螺旋

どーん

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理想と現実

第69話 - 王の領域 4

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鉄杭はオークキングの頭に刺ささり、血が飛び出す

「《ぐぁぁぁ!いでぇぇぇ!》」

キングは頭を掻きむしり鉄杭を取り出し、眺めた

「《なんだぁこれ、おめぇが一番強いのかぁ》」

鋼鉄を貫く装備だぞ…なんでその程度なんだ
やはり至近距離で撃ち込まないとダメか

「《捕まえんのはダメだなぁ》」

オークキングは丸太を取りに戻り、後ろを向いた

無防備すぎるな…今ならいけるか

俺は走ってオークキングの背を追った

「《ちょっと待ってろよ》」

キングが振り返り、腕を振る
不覚にも虫を叩き落すかのようなその素振りに反応できず
直撃して吹き飛ばされてしまった

ゴロゴロと転がり体勢を立て直すために腕を立てる
口から血を吐き、左腕が動かない

くそっしくじった

俺の様子を見たゾフィが大声をあげる

「うわぁぁぁあ!おまえぇぇぇ!!!」
「《うるさいぞ》」

キングが拾った丸太で軽く薙ぐとゾフィは何度も回転しながら地面を跳ねる

「ゾフィ!」

残ったクレマリーの手下がゾフィを追う
かろうじて意識はあるようでなんとか上半身を起こすくらいはできるようだ

あまり使いたくないがもう他に手がない
俺は高級ポーションを飲み干し、更にオークの血を取り出して飲んだ

「《なんだ?お前は血を飲むのか?好物なのか?》」

もう一瓶オークの血を取り出し、首を上げて垂らしていく

「《今度は血を浴びるのか?なんなんだお前は》」
「呪鎧達はみんな下がれ!俺がいいと言うまで近づくな!!」

胸に火が着いたように熱い、懐かしい感覚だ
激しい怒りと憎悪が感情を塗りつぶしていく
血が巡る、肉が踊る

ゾフィはクレマリーの部下に助けられ、戦いの行方を見守っていた

「なにあれ…エーサー…」

およそ人の動きとは思えない速度で走り回り、義手でオークキングの肉を抉る
腹の肉を抉り、腕を折り、引きちぎる
さっきまで腕力で劣る者の動きではなかった

「《お前…呪われてるな…!》」
「………!!」

エーサーが飛び掛かるたびにキングの肉は抉れていく
翻弄されるように右へ左へと身体を入れ替えるキングは次第に膝が折れていく

「《その呪いは命を縮める決死の呪いだ…今までよく生きてこれたな》」

膝をつき、捥がれた腕の傷口を覆いながらオークキングはぜぇぜぇと息を切らす
エーサーはキングの肩に飛び乗ると目に腕を突っ込んだ

「《………!!……!!!》」

想像を絶する痛みにオークキングは仰け反り悶える
エーサーはキングの頭の中で鉄杭を飛ばす装備を起爆させ
小さな音と共にオークキングは力を失った
ゆっくりと前のめりに倒れ込む

エーサーは飛び降り、両腕を抱えるように苦しみだした

「うぅぅぅ………!!」

ぶるぶると震えオークキングに近寄っていく

「あれがエーサーに刻まれた呪いなの」

エーサーは義手をオークキングに突き刺し肉を抉っては口に運ぶ
血にまみれた姿は呪鎧に乗った女たちすべてを恐怖させた

◆ ◆ ◆

呪印がが満足するまでエーサーはキングの肉を喰い、血を飲んだ

怒りが収まり、肉が抉れたオークキングを見て吐いた

使うたびに呪印の効果である怒りが強くなる
戦闘をしていた時の記憶があいまいだ
息が切れ強い飢餓感がある

オークの血をこれだけ飲んだにも関わらずまだ飢えている
瓶を開け、ひとつ、ふたつ……5瓶開けてようやく収まった

「だんだん症状が重くなる…」

ゾフィが遠くで叫ぶ声が聞こえる

「エーサー!もう…大丈夫なの…?」

不安そうな声で安否を確認するゾフィへ振り返り
震える足でゆっくりと近寄った

呪鎧を脱ぎ、血を吐いたままの姿でゾフィは走り、俺に抱き着いた
俺の姿を見てクレマリーの部下は呪鎧を着たまま後ずさっていた

「エーサー…ごめんね…知らなかった」
「お前が無事でよかったよ」

◆ ◆ ◆

キングの家の中にはラミアなどの大型魔獣が何匹も腹を大きくしていた
クレマリーに回復してもらい、中に入った時はみんな声もでなかった

手枷などで繋がれている魔獣たちを麻痺毒で弱らせ仕留め終わると街を焼いて家路につく
帰りの馬車でゾフィとクレマリーが質問をしてきた

「エーサー、キングと戦った時のが狂戦士の呪印?」
「そうだ、あれに頼るほどに飢餓感が強くなる。血を飲む量も増えた、今までは1日1瓶だったがこれでまた増えそうだな」
「今回は助けられましたが恐ろしい力ですね…どうしてそんなものを…」
「元は俺が望んでつけたわけじゃない」

フルーフに会ったことと起きたことを話すとゾフィもクレマリーもうつむいたまましばらく喋らなかった

「エーサーはいろんな人に愛されてたんだね」
「フルーフ殿はオルレンヌでも英雄でした。最も若い聖騎士隊長でした…そんなことがあったんですね…」
「はぁ…ちょっと妬けちゃうなぁ」
「仕方ないですね…これだけ多くの女たちを救う方ですから」
「そう…だねぇ…妻としての器を見せるときだ!」
「どうだろうな、俺はフルーフの呪いに今も縛られている。結果何度もこの呪いに救われているけれど」
「ねぇエーサー」

ゾフィは膝を抱えて俺を見る

「フルーフさんとそんなことがあったんじゃ忘れられないのは仕方ない、でもあたしの事も忘れちゃだめだぞ」
「お前みたいな危ない娘を忘れるほうが難しいな」
「どういう意味だよー」
「助かってるよ。ありがとう」
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