穢れの螺旋

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理想と現実

第61話 - クレマリーの追跡 4

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クレマリーは涙を浮かべ話し出す

「異端者エーサー、妹はどこへ行ったんだ…」
「死んだと聞いた」
「貴様!やはり殺したんではないのか!マドロアは嬉しそうに貴様と結婚したと手紙を送ってきたんだぞ!!」

怒りに震え立ち上がるクレマリー
ゾフィが不安そうな顔でエーサーを見る

「なぜ殺したんだ!!マドロアはお前にとってなんだったんだ!!」
「俺が殺したんではない、オーレオンだ。マドロアは紛れもなく妻だったよ」

目を伏せ、淡々と語るエーサーを見てクレマリーは涙を流した

「信じられるか!聖騎士の鏡たるオーレオン様がなぜそんなことをする!」

エーサーは呼吸を整え、ゆっくりとオルレンヌ皇国で起きたことを話した
オークの取引を通じた汚職、マドロアとの結婚、解放軍で起きた事

デリックが怒りに満ちた顔で問いかけてくる

「嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ!ではなぜ穢れた女たちをここで集めている!オークの子を産ませるためではないのか!!」

エーサーはデリックを睨みつけ、首を掴んで引き寄せた

「口の利き方に気をつけろ、ここで穢れた女たちを傷つければ生きたまま腹を裂いて腸を引きずり出してやる」
「ぐ…やっぱり、オーレオン様を惨殺したのはお前か…」
「それは事実だ、マドロアを溶けた鉄に沈めたと言われればそうもなる」

クレマリーはうつむいたまま静止する

「デリックを放してやってくれ、悪気はないんだ。謝る」

デリックを突き飛ばすように放し、もうひと睨みするエーサー
げほげほと咳をし、恐れながらデリックは席に戻った

クレマリーはもう一度マドロアについて聞いた

「なぜマドロアは死んだんだ…」
「俺の責任である事は間違いない。異端と呼ばれるだけの痕跡を残し、解放軍が出発した直後フレデリクとマドロアはオーレオンに拷問された。オーレオン自身が言っていたことだ」
「ではなぜお前はオーク軍団を率いた」
「オルレンヌ西の遺跡で800にも及ぶオークを効率よく殺す方法がそうだっただけだ。元はオーレオンが俺に仕向けた刺客が4つに分かれた軍団の長だった。俺はそれを打ち負かし、シンラの命乞いを聞いて利用できると踏んだんだ」

エーサーはため息をつきながら続ける

「失敗だったのは情が移り、シンラに人間を襲わせないという約束を取り付け生かしたことだった。後日それを異端の材料として利用された」

クレマリーは右へ左へと目を泳がせる

「意味が解らない、なぜオークと会話をしたような言い方をする」
「知らんのか?俺はオーク語を喋れる。オーレオンも喋っていたぞ」

クレマリーは拳を握りしめ机を殴りつけた

「信じられるわけがない!貴様の証言は嘘で塗り固められている!」

エーサーはクレマリーの目を見据え、諭すように質問した

「フレデリクもマドロアも俺に繋がることはひとつとして喋らなかったらしい、なのになぜオーレオンは俺が軍団を率いたと突き止めたんだと思う?」

クレマリーは黙り込んだ

確かに…西の遺跡にはエーサーとマドロアしか向かっていないはずだ
マドロアが証言していないならオークを率いていた事実はオークに聞かなければわからない…当時エーサーの妻だったマドロアがそんな証言をするはずがない

デリックが頭を抱える

「嘘だろ…なんで辻褄が合うんだよ…ザールは無駄死にじゃねえか…」

クレマリーはどこともなく机をみつめながら最後の質問をした

「最後に聞きたい」
「なんだ」
「なぜここに穢れた女たちを集めている」

エーサーは大きなため息をついた

「オルレンヌではオークの巣を壊滅させ、穢れた女たちに救いを与えた。合計50人くらいはいただろう。疲れたんだ…救いのない彼女たちを救う方法は当時殺すしかなかった。だからここに土地を買って集めた、彼女たちを守るために」

クレマリーはうつ伏せに机に伏した

何という事だ
私はこれほど高潔な魂を持つ人間を犯罪者と決めつけ追っていたのか
聖騎士とはなんだったんだ
エーサー殿の方がよほど聖騎士らしいではないか
私は…どうすればいい…

「俺が話せる事はこれで全部だ。他に何かあるか」

クレマリーは大粒の涙を流しながら顔を上げた

「私は…どうしたらいい…」

しばらくクレマリーの顔を眺め、エーサーは言う

「知るかよ、故郷に帰れ」
「心から仕えてきた聖騎士とはなんだったんだ…私は何を信じて生きればいい」

見かねたアンリが提案する

「あの…こんなことをしておいてぶしつけですが…しばらく隊長をここで休ませてあげる事はできませんか…?」
「断る、ここにいるつもりならオークに穢してもらってこい」

ゾフィが目を丸くした

「え”!!ちょっとエーサー…それじゃあたしも穢れないといけ…ない?」
「お前は俺の妻として子を作るために来たんだろう?それは許さん、ヘルゼに殺されてしまう。何よりお前は女たちに生きがいを与え、傷つけるようなことはしない。だがこいつらは女たちを傷つける可能性を残しているにも関わらず俺たちに何ももたらさない」

ゾフィはほっと胸をなでおろしアンリは目を伏せた
デリックがクレマリーに声をかける

「隊長…戻りましょう…戻ったところで今やオーレオン様のいない聖騎士がどうなるかわかりませんが…」
「異端と宣誓された男を見逃して帰ってきたと報告するのか?どう説明する…我々も同罪とされるのが目に見えている」
「……そう…ですね…」
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