穢れの螺旋

どーん

文字の大きさ
上 下
48 / 70
聖騎士と異端者

第48話 - 復讐の先に

しおりを挟む
オークの血が入った小瓶をいくつか開け、ようやく飢えと怒りが収まった
腸を引きずり出され、絶命したオーレオンを見て気分が悪くなった

どれだけ報復してもマドロアは救われない、虚しいだけだった
生きたまま溶けた鉄に沈めるなどそんな残酷な事をよくも思いつくものだ

マドロアの苦痛を想像するたび激しい怒りに包まれる
怒りに包まれるたびに目に見えるもの全てを破壊して回り
マドロアを思い出しては涙した

半日ほど繰り返し、落ち着いてきた

もうマドロアは帰らない、報復は果たした
フルーフ、クベアに続きマドロアも失った
俺に関わる人たちはみんな死んでいく
ゴブリン、オークに関わるものはみんな少なからずそういう危険はあった
だが今回は人間が敵だった

もっと力が欲しい、守り抜ける力が欲しい
暴力だけではダメだ、オーレオンは間違っていたが力はある
今も家族は王都で暮らしているんだろう
そして俺は異端者としてもう王都に入ることはできない
オーレオンは死んだが家族は安全なままだ
権力がいる、身を立て権力を身に着ければ少なくとももっと守りやすくなる
手勢もいる、たくさんいる
権力と土地を守るために

残った国はヴァルスト帝国だけだ
オルレンヌ皇国は異端者になったので入れない
アールテラ資本国家はフルーフとクベアの事を思い出してしまう
ヴァルストで権力を手に入れるんだ

考えがまとまると俺は立ちあがった
冷静に周りを見渡すとオークと聖騎士の死体の山がある
ここはまだオークの拠点の中だった

「そうだ…ここにいる女たちを解放しなきゃ」

洞窟をくまなく探し、オークの子たちと5人の女たちを見つけた
オークの子を全て殺し、女たちを解放すると一か所に集めた

正直哀れな女たちを殺すのは嫌だ
絶望に包まれた女たちに救いを求められ、殺す相手に感謝をする
横たわる女たちのトドメを刺して回る作業は気が狂いそうになる

女たちはうつろな目で床を眺め座り込んでいる

哀れな穢れた女たちも殺す以外の救いを与えたい
俺が、そういう女たちを受け入れる土地を持とう
哀れな女たちに仕事を与えて、俺が彼女たちを守ろう

そうすれば殺さなくて済む
哀れな女たちが少なくなれば俺の復讐も終えられる
もう嫌だ…怒りと飢えに支配されあらゆるものに復讐を続けていくのに疲れた

エーサーは一か所に集めた女たちにゆっくりと諭すように語り掛けた

「お前たち、これから俺についてこい。ヴァルストで穢された女たちで暮らす土地を得る、手伝ってくれ」

女たちは一様に顔を上げた、うつろな目ではあったが絶望に包まれてはいなかった
外に連れ出し、聖騎士たちの衣服をはぎ取り、補給物資を漁った

馬車を一台拝借し、女たちを乗せる
ヴァルスト帝国は遥か北にある

ゆっくりと馬車を走らせ、北へ向かった

◆ ◆ ◆

ゴトゴトと馬車の荷車の音が響き渡る
のどかな草原を横目に馬車はアールテラ資本国家の領土へ向かっていた

追手を避けるためだ
聖騎士たちを全滅させ、物資をしこたま奪ってきてしまった
いわゆるやりすぎだ
異端者どころか国家反逆したのである
アールテラ資本国家の王都もさすがに危ないと思う
まぁあの様子ならきっとジェネラル達と刺し違えたと思ってくれるだろう
現に5日は馬車を走らせているのに追手は来ていないからだ
アールテラ資本国家の街をめぐりながら補給しつつ、ヴァルスト帝国へ向かいたい

穢れた女たちは道中、全員出産した
オークの子を

みんなで協力して引き取り、全て隠した
残念ながら全て生きてはいない
産まれてくる子に罪はないがオークは成体になると女を襲う
一匹として逃がしはしない
女たちも子供に愛着はなかった、囚われていた記憶を思い出し発狂するほどだ
育てようというものはいなかった

◆ ◆ ◆

アールテラ資本国家の領土に無事入り、いくつか街を回って補給をしながら北へ向かう
女たちは馬車で待たせ、必要な物資を買って馬車に積み込んだ

女たちにもまともな衣装を与え、聖騎士から奪った衣類は全て燃やした
服を与えると野営を手伝うようになった

食事をするたびに涙を流すようにもなった
オークに囚われていた頃の話をしてくれるものもいる
よくわからない肉の団子を詰め込まれ水と一緒に流し込まれるんだそうだ
救出してしばらくは味もわからなかったと言う

これから作る穢れた女たちの土地にみんな目を輝かせている
みんな穢れた女がどんな扱いを受けるか知っているそうで親元には帰らないと言った
生きているだけで関わる人間全てが中傷されてしまうからだ

ヴァルスト帝国の一番大きな街まであと数日というところまで来ると名前を教えてくれた

====================

リリア 15歳 活発でよく話す
マドレ 20歳 大人しく面倒見のいいお姉さん
ガット 22歳 体力に自信のある力持ち
ガリー 33歳 知識が豊富で料理上手
エリザ 28歳 読み書きと計算ができる

====================

みんな少しずつ笑うようになってきた
体力が戻ってくるとそれぞれが役割を持ち、勝手に動き出している

オルレンヌ皇国を出発して2ヵ月が経過していた
もうヴァルスト帝国の街は目の前だ
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

子豚の冒険

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

知らないお兄さんたちに拉致監禁される男の子の話

BL / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:38

学園の落ちこぼれがトップを目指すそうですよ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

意地っ張りな俺とヘタレなあいつ

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:491

銃を片手に異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

処理中です...