穢れの螺旋

どーん

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聖騎士と異端者

第46話 - たくさんの戦 2

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これで俺はお尋ね者か

ロスベールが来たという事は他の聖騎士も来るだろう
移動しなければ

野営地を片付け、夜の闇に紛れて移動を開始した
聖騎士たちから逃れるように山の奥へと進んでいく

しばらく進むとオーク達の拠点が現れた
山の中を通る洞窟の別の入り口のようだ

注意深く観察していると中からオークジェネラルが現れる

どういうことだ?オークどもは昼行性だ
ジェネラルなら見張りは手下に任せ奥で寝ている時間だぞ

すると見慣れた大鎧の男が外から入り口にたどり着く

オーレオン…貴様がオークと通じている男か
しかも一人で現れるとは、オーク語も喋れると言う事か

俺はオーレオンの手駒を潰して回っていたというわけだ
廃墟に手を出したとき、修道院の穢れた女たちがいなくなる前、テオドール伯が粛清された後、オークと人の取引が関わるところに常にあいつは現れたな

オーレオンとオークジェネラルが会話をし始めた
何度もオークジェネラルが頷く

ゆっくりと歩き、近づいていくとオーレオン、オークジェネラル共に俺に気づいた

「《オーレオン、こいつはお前の手下か?》」
「《いや、異端者だ》」

オーク語で会話したな?オークジェネラルと密会とはいい趣味だ

「マドロアはどこだ」

オーレオンは鼻で笑い、向き直る

「会いたかったぞ、エーサー。ここまで邪魔になるとは思わなかった」

聖騎士というものはなぜいちいち会話をはぐらかす
聞いたことに答えろ

「マドロアはどこかと聞いている」
「シンラをどうやって抱き込んだ?あいつはそれなりに強かったはずだ」

クソッ…付き合ってやらねば答えないのか?

「簡単な話だ、腕力で屈服させた」
「オークジェネラルと渡り合えるとはな…見くびっていたよ」

関心したようにうんうんと頷く

ハッキリとは言わないが認めたな

「修道院の穢れた女たちを送ったのもお前か?」
「穢れは罪を産む、弱い人は穢れを罵り悪意に晒された穢れはいずれ罪を犯す。事が大きくなる前に処分したのだ」

外道め

「なぜオークと取引をする」
「平和のためだ、いくらかの犠牲で長い平和が約束される」
「オークが増えればスウォームが発生する、お前はスウォームを作っているんだぞ」
「スウォームごときに聖騎士は負けはしない、定期的に悪が起こらねば正義も成せん」

聖騎士の権威を保つためにオークの襲撃を利用しているのか
腐りきった男だ

「修道院の穢れた女たちをお前も見たはずだ。何も感じないのか」
「人は弱い、いらぬ不安を抱き、恐れ、罪を犯す。分かりやすい悪があれば己の優位を感じて安心するのだ。悪を討ち正義を成す秩序のために必要な事だ」
「お前たちの都合の良いように使って殺す事が正義と高潔なのか!お前に人は救えない、恐怖を煽り、犠牲を払って用意した安心を与えているだけだ。いずれ自分が犠牲になり得ると知れば簡単に瓦解する」

オーレオンは大きなため息をついた

「ならばお前が救って見せろ。愚かな全ての人々に大いなる叡智を授けて見せよ」

………

「出来もしないことを偉そうに言う。それを道化と言うのだ」
「それでもお前のやることは認めん。戯言には付き合ってやった、マドロアはどこだ」

オーレオンは話すかどうか迷っている素振りをする
右に顔を向け、左の空を見る、やがて俺を見据えた

「どうせ死ぬのだ。教えてやろう、異端に加担した者たちは全て死んだ。お前の事は何一つ喋らなかったよ。シンラを拷問せねば何もわからなかった」

オーレオンは思い出したようにマントの中を漁る

ガランッ

「お前の物だろう、返すぞ」

マドロアに渡した俺の手斧だ

目の前が暗くなる
動悸が早くなる
心臓の音が聞こえる

「ここでお前を殺せば後々面倒なのでな、オークと遊んでおれ」

オーレオンはオークジェネラルに指示を出し、背を向けた

「《あれはお前が始末せよ、約束の品は届ける。聖騎士たちはあまり殺すなよ》」

逃がすと思うのか…

「オーレオン!!」

地面を力いっぱい蹴り、歯を食いしばり、全力で駆けた
………急に視界がズレる

俺は宙に浮いた、オークジェネラルに邪魔されたようだ
空高く打ち上げられ、斜面を滑り落ちるように何度も地面に打ち付けられた

クソッ…オーレオン…よくも…オークやゴブリンのみならず人間も俺から奪うのか!
聖騎士…オーク、ここにいる者どもは全て屍に変えてやる

………

右腕と右足が言う事を聞かない
ジェネラルの攻撃をまともに受けたのか

鞄にから取り出した高級ポーションを飲み干し
起き上がるとオークジェネラルがのしのしと歩いてくる
右手に両手剣、左手には大きな鎌を持っている

「《俺は”首切り”ギルだ、お前の名前を聞いてやるぞ》」

まずはこいつから片付けなければならないか
ちょうどいい、こいつらを利用して聖騎士を一人残らず始末してやる

「《エーサーだ、お前の軍団を寄越せ》」
「《ハッハッハ!威勢がいいな!俺に勝てたら手下どもはお前になびくだろうさ》」

地面を蹴り、メイスを思い切り叩きつけるとギルは両手の武器で受けた
更に武器を狙ってメイスを振る、両手剣を弾き、大鎌の柄を折る
さらに畳みかけ5回ほど切り結んだ

ギルの両手剣はボロボロになりヒビが入っている

「《クソッどうなってんだお前本当にニンゲンか…》」

両手剣を振りかぶり、ギルは右から横に剣を振る
タイミングを合わせてメイスを両手剣に叩きつけると両手剣は大きな音を立てて折れた

「《クソッ!クソッ!》」

ギルは戦意を失うことなく掴みかかってくる
メイスを捨て、義手でギルと手を合わせて力比べをする

ギリギリと音を立ててギルの手がゆっくりと反っていく

「《グ…グゥゥ…》」
「《逆らわなければ生かしておいてやる、軍団を寄越せ》」

ギルは冷や汗をかきながら怯えたような目で答えた

「《ウ…ググ…わ、わかった…降参だ》
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