穢れの螺旋

どーん

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聖騎士と異端者

第40話 - オーク軍団 5

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シャーマンは手下のオーク30匹と寝返る事を約束した
モルを説得できるかどうかはわからんがとりあえずこれでいいだろう
シンラをゴズ方面へ配置して俺はモルを暗殺すればいい

素早くモルを始末すればモルの軍勢はこちらに傾く、俺が指揮を執りモル軍を引けば襲ってくるゴズに対処するためズールがゴズに向かうだろう
ゴズはズールとシンラを相手にしなければいけなくなる、ズールがゴズの軍団を吸収すれば次の決戦でちょうどいい構図になる

決戦前夜には勝利を確実にするため、ゴズ陣営の鍋に腹を下す毒でも入れておいてやろう

◆ ◆ ◆

方針が固まり、拠点へ戻った

あとは決戦前夜まで動向をゆっくり探るだけだ
軍団長室へ向かうとシンラが見当たらない

部屋へ入るとシンラとマドロアが紅茶を飲みながら会話をしていた
たどたどしい言葉遣いでマドロアがオーク語を話し
シンラは笑顔でひたすらうんうん頷いている

マドロアが俺に気づく

「《ゴミ虫…突撃!》」

なんて言おうとしたんだ?
シンラもいい迷惑だろう、相手が伝えたい言葉が分からんのに正しい言葉を教えられるはずもない

「《シンラ、彼女は何がいいたいんだ?》」

シンラが笑顔で俺を見る

「《プゴッさっぱりわかりません》」

そうだろうな
俺は小さなため息をついてマドロアを見る

「何を言おうとしてるんだ?」

マドロアは残念そうな顔をする

「むぅ…オーク語を覚えればエーサー様の指示を代弁できるかと思いまして…」

決戦に参加するつもりだったのかよ
じゃあゴミ虫突撃で合ってるじゃないか

「決戦に参加するつもりか?そんな事はしなくていい」

マドロアは嬉しそうな顔で席を立ち、寄ってくる

「そんな…嬉しいです。心配していただけるなんて」

違う、普通の言葉を学んで話せばいいんだ
戦闘の指示を覚えなくていいという事だ

オークと話すより意思の疎通が難しく感じる
だいたい今も女たちは穢されているんだぞ、気にならないのか

俺がテーブルへ着くとシンラは交代するように部屋を出る
マドロアもテーブルに着いた

「マドロア、今もどこかでオーク達に女が穢されているのが悔しくないのか?」

マドロアは小さいため息をついた後、姿勢を正し強い意志を持って語り出した

「それはそれ、これはこれです。エーサー様がオークの軍を率いるならば妻たる私がエーサー様の味方です。世界がエーサー様を非難しようとも私は一生貴方様の味方です。軍の維持に必要ならば心を鬼にして女たちを差し出します」

………

覚悟を決めた女はどうしてこうも心に刺さる言葉を選ぶんだ

………

これでは俺の方が覚悟が足りなかったみたいだ
いつかここのオーク達を殺し、穢された女たちを殺し、マドロアもいずれ聖騎士ギルドに返し、俺は国を出るつもりだった
俺の個人的な報復につき合わせるつもりはない、と思っていた

既に彼女は覚悟を決めていたんだな
俺が甘えていただけだ、守る覚悟が足りない
守れないかもしれないと不安にかられてどこか距離を置いていた
マドロアにここまで言わせるんだ、俺がしっかりしなきゃな

俺はうつむき、しばらく考えていた
反応のない俺にマドロアが心配そうに声をかける

「あの…エーサー様…」

顔を上げ、マドロアを見る

「うん、一緒に行こう」
「はい」

マドロアは静かに返事をした

その後マドロアと今後の計画について話し合った

オーク軍をどのように同士討ちさせるか
ここを滅ぼした後どうするか
滅ぼす前にマドロアをどう逃がすかの経路について
穢れた女たちは王都に帰る意思が無いものを全て救う事も話した

マドロアは一通り話を聞いた後、少し困った顔をする

「こんなにいろいろ考えていらっしゃったんですね…」

顔をあげ、希望に満ちた目に変わり、元気よく話し始めた

「でも、嬉しいです。私も何かお役に立ちたいと思います。まずはオーク語を覚えるところからですね、そのあとは逃走経路について調べておきます。穢された女たちの場所についても調べておきましょう」
「わかった、オーク達は女を道具としか見ていない。十分に注意しろよ」
「もちろんです!シンラ殿にご同行願います」
「それならいい」

シンラならば俺に逆らう事はするまい

それから決戦当日まで毎日マドロアにオーク語の勉強と発音訓練をした
シンラとも仲良く話すようになり、毎日紅茶を飲みながら修道院や聖騎士たちの話をしていた
シンラは意外にも世俗に興味が強く、よく質問をしてはへぇへぇと楽しそうに話を聞く
たまに笑い声が聞こえるほどだ

そのおかげかシンラ軍は他の軍団に比べ至って平和で決戦への意欲も高く
シンラの代わりに俺がオークどもの話を聞きながら装備を与えて回った

部隊の士気も十分、決戦への工作もした、あとは前日にゴズの陣営に毒を混ぜるだけだ

ちょくちょくモルの陣営に行ってはシャーマンにも状況報告をさせた
モルは予定通りズールの方へ向かうようだ
ただ、シャーマンの怯えようが気になった
モルが日に日に荒くなっているらしい、手下を殺すことはなくなったがあちこち破壊して回るらしい
あと数日待てばこちらに引き入れてやる、しばらく待て
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