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聖騎士と異端者
第33話 - 貴族の手がかり
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数日経ってフレデリクに呼び出された
また外壁沿いの人気のない場所だ
きっと何か証拠に繋がるものを掴んだんだろう
フレデリクは先についており、俺とマドロアが着くと手をあげて静かに迎えた
「エーサー殿、そちらは何か掴んだか?」
エーサーは首を振る
「いや、穢れた女たちの哀れな姿を見ただけだ」
フレデリクは小さく頷きながら目を閉じた
「正義と高潔を尊ぶ法の落とし穴だな…理想と現実の違いには俺も悩まされる」
「どうにかしてやれないのか?」
「その話なんだがな」
フレデリクは顔をあげ状況を説明した
どうやら牢に入れられていた女たちは皆姿を消したらしい
修道院長も修道女たちも皆朝起きたらいなかったと言う
都合のよすぎる神隠しに胡散臭さを感じずにはいられなかった
フレデリクが推察するにこれも貴族などの内部に犯人がいるだろうという話しだ
修道院は外壁のそばにあるが壁を越えてこれるオークはいない
さらに修道院の者たちに気づかれず事を進めるのは不可能だ
おそらく修道院側も共犯がいる可能性が高いという
さらに、穢れた女たちの身元を調べると一人だけ貴族の家に仕えている侍女がいたという話だった
いなくなった者たちはこれまで平民が多く、男女無差別に消えていたらしい
今回だけ侍女が含まれているのは何か貴族側に不都合があり消された可能性があると見て調べたそうだ
「貴族はヤニク家、テオドールと言う男が当主を務めている。神隠しの調査という名目で聞き込みもしてある」
「なるほど、聞かせてくれ」
「侍女は元々娼婦でな、テオードル伯のお気に入りだったらしい。ある日息子と恋仲に陥り駆け落ちをしたらしいんだが、娼婦と息子が一緒に逃げたという噂が広まれば末代までの恥だ。水面下で巨額の資金が動いて息子は連れ戻された…と、その後侍女の行方が途絶えている」
痴情のもつれというやつか
と言う事は侍女の存在が疎ましい人物が犯人か
テオドール伯か奥方だろうか
「フレデリクは誰が犯人だと思うんだ?」
「侍女の存在が疎ましい人物はテオドール伯か奥方になるだろうが奥方は遠い昔にオークに攫われたっきり行方知れずだ。確実にテオドール伯が犯行に及んでいる」
ヤニク家にはこれから十数人の監視が絶えず付くことになったそうだ
いずれ犯行の現場を押さえられれば証拠を揃えて裁判になるという話しだ
この件はもうフレデリクに任せる事になった
よそ者の俺が嗅ぎまわれば余計な問題を起こすことになると諭され、承諾した
◆ ◆ ◆
宿に戻り、自室で物思いにふける
まさか俺以外にもオークの言葉を話すなんて輩がいるとは思いもしなかった
マドロアから聞く限り、聖騎士の最高権力者オーレオンは厳格な性格だ
オークと取引するなど間違いなく粛清対象だろう
貴族がオークと取引する理由はなんだ?なぜこの街でそれほどのリスクを負う必要がある
コンコン
「マドロアです」
「入ってくれ」
悲しい表情をしたマドロアがやってきた
紅茶を二人分用意すると、マドロアはテーブルに着いた
「エーサー殿…正義とはなんでしょうか」
それを狂戦士に聞くのか
正義などという崇高な使命もなければ勇気もない
呪いに身を任せて報復を続ける狂人だ
「俺は憎しみに身を焦がす復讐者だ。正義のことなどわからん」
マドロアは俺の話には耳を傾けず話し続ける
「正義とは、道徳的に正しいとされる行為を行う事を指します。少なくとも…この国では」
正義か、俺には正しい報復のために力を振るう行為のように見える
正義という名の元に敵を討つのだから
正しい、大義があれば殺すことができる
殺しを正当化し、罪を免れるための措置ではないだろうか
「道徳的に正しいとは、裏切りや人殺しなどの人を貶める事を避ける事です。高潔とは弱きを助け、横暴を挫く行為です」
俺もそう思っていた
「ですが、穢れた女たちに投げつけられる言葉は罪人に投げつけられる石よりも深い傷を残します。彼女たちは守られていません、隔離され牢に入れられ家畜にも劣る扱いを受けていました。正義と高潔を成すための法が彼女たちを生かし続け死ぬことを許しません。私は…信じるべきものがわからなくなりました」
確かに異常だ、死なせてやるのが正しい事なのかと問われればわからない
だが未来に絶望している者がひどい扱いを受けてしまっているのも事実だ
心折れ、予想される試練に耐え続けようと強い意志をもって挑める者はどれくらいいるのだろうか
人生に望まぬ大きな汚点を残し、法が許さぬからと祈りを捧げる事を強要する
彼女らはいつ神に赦されるのか
本来ならばただ、まっとうに働いて周りに合わせながら生きていくだけでいい
穢れた女たちはそれに加え傷を抉る言葉に耐えながら生きていかねばならない
死んだほうがマシだと思うのが普通なんだろう
だがそれは法が許さない、複雑だ
マドロアは今まで正しいと思ってきたことをしてきたがそれが揺らいでいる
俺は…何を思って生きている?
父、フルーフ、クベア達のために、魔物を憎み殺す事だけだ
「そうだな…俺が何かを信じるとすれば魔物を殺す行為だけだ。それだけが俺を支えている」
「エーサー殿のように生きられれば。私はこれほど悩まずに済んだでしょうか」
「どうかな…止めようのない怒りに終わりの見えない憎悪と付き合い続けられるなら」
マドロアはうつむいた
「どちらにせよ…険しい道ですね」
また外壁沿いの人気のない場所だ
きっと何か証拠に繋がるものを掴んだんだろう
フレデリクは先についており、俺とマドロアが着くと手をあげて静かに迎えた
「エーサー殿、そちらは何か掴んだか?」
エーサーは首を振る
「いや、穢れた女たちの哀れな姿を見ただけだ」
フレデリクは小さく頷きながら目を閉じた
「正義と高潔を尊ぶ法の落とし穴だな…理想と現実の違いには俺も悩まされる」
「どうにかしてやれないのか?」
「その話なんだがな」
フレデリクは顔をあげ状況を説明した
どうやら牢に入れられていた女たちは皆姿を消したらしい
修道院長も修道女たちも皆朝起きたらいなかったと言う
都合のよすぎる神隠しに胡散臭さを感じずにはいられなかった
フレデリクが推察するにこれも貴族などの内部に犯人がいるだろうという話しだ
修道院は外壁のそばにあるが壁を越えてこれるオークはいない
さらに修道院の者たちに気づかれず事を進めるのは不可能だ
おそらく修道院側も共犯がいる可能性が高いという
さらに、穢れた女たちの身元を調べると一人だけ貴族の家に仕えている侍女がいたという話だった
いなくなった者たちはこれまで平民が多く、男女無差別に消えていたらしい
今回だけ侍女が含まれているのは何か貴族側に不都合があり消された可能性があると見て調べたそうだ
「貴族はヤニク家、テオドールと言う男が当主を務めている。神隠しの調査という名目で聞き込みもしてある」
「なるほど、聞かせてくれ」
「侍女は元々娼婦でな、テオードル伯のお気に入りだったらしい。ある日息子と恋仲に陥り駆け落ちをしたらしいんだが、娼婦と息子が一緒に逃げたという噂が広まれば末代までの恥だ。水面下で巨額の資金が動いて息子は連れ戻された…と、その後侍女の行方が途絶えている」
痴情のもつれというやつか
と言う事は侍女の存在が疎ましい人物が犯人か
テオドール伯か奥方だろうか
「フレデリクは誰が犯人だと思うんだ?」
「侍女の存在が疎ましい人物はテオドール伯か奥方になるだろうが奥方は遠い昔にオークに攫われたっきり行方知れずだ。確実にテオドール伯が犯行に及んでいる」
ヤニク家にはこれから十数人の監視が絶えず付くことになったそうだ
いずれ犯行の現場を押さえられれば証拠を揃えて裁判になるという話しだ
この件はもうフレデリクに任せる事になった
よそ者の俺が嗅ぎまわれば余計な問題を起こすことになると諭され、承諾した
◆ ◆ ◆
宿に戻り、自室で物思いにふける
まさか俺以外にもオークの言葉を話すなんて輩がいるとは思いもしなかった
マドロアから聞く限り、聖騎士の最高権力者オーレオンは厳格な性格だ
オークと取引するなど間違いなく粛清対象だろう
貴族がオークと取引する理由はなんだ?なぜこの街でそれほどのリスクを負う必要がある
コンコン
「マドロアです」
「入ってくれ」
悲しい表情をしたマドロアがやってきた
紅茶を二人分用意すると、マドロアはテーブルに着いた
「エーサー殿…正義とはなんでしょうか」
それを狂戦士に聞くのか
正義などという崇高な使命もなければ勇気もない
呪いに身を任せて報復を続ける狂人だ
「俺は憎しみに身を焦がす復讐者だ。正義のことなどわからん」
マドロアは俺の話には耳を傾けず話し続ける
「正義とは、道徳的に正しいとされる行為を行う事を指します。少なくとも…この国では」
正義か、俺には正しい報復のために力を振るう行為のように見える
正義という名の元に敵を討つのだから
正しい、大義があれば殺すことができる
殺しを正当化し、罪を免れるための措置ではないだろうか
「道徳的に正しいとは、裏切りや人殺しなどの人を貶める事を避ける事です。高潔とは弱きを助け、横暴を挫く行為です」
俺もそう思っていた
「ですが、穢れた女たちに投げつけられる言葉は罪人に投げつけられる石よりも深い傷を残します。彼女たちは守られていません、隔離され牢に入れられ家畜にも劣る扱いを受けていました。正義と高潔を成すための法が彼女たちを生かし続け死ぬことを許しません。私は…信じるべきものがわからなくなりました」
確かに異常だ、死なせてやるのが正しい事なのかと問われればわからない
だが未来に絶望している者がひどい扱いを受けてしまっているのも事実だ
心折れ、予想される試練に耐え続けようと強い意志をもって挑める者はどれくらいいるのだろうか
人生に望まぬ大きな汚点を残し、法が許さぬからと祈りを捧げる事を強要する
彼女らはいつ神に赦されるのか
本来ならばただ、まっとうに働いて周りに合わせながら生きていくだけでいい
穢れた女たちはそれに加え傷を抉る言葉に耐えながら生きていかねばならない
死んだほうがマシだと思うのが普通なんだろう
だがそれは法が許さない、複雑だ
マドロアは今まで正しいと思ってきたことをしてきたがそれが揺らいでいる
俺は…何を思って生きている?
父、フルーフ、クベア達のために、魔物を憎み殺す事だけだ
「そうだな…俺が何かを信じるとすれば魔物を殺す行為だけだ。それだけが俺を支えている」
「エーサー殿のように生きられれば。私はこれほど悩まずに済んだでしょうか」
「どうかな…止めようのない怒りに終わりの見えない憎悪と付き合い続けられるなら」
マドロアはうつむいた
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