穢れの螺旋

どーん

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聖騎士と異端者

第32話 - 修道院

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修道院

修道院長に会い、穢れた女たちの話を聞いた
修道院長は高齢で白髪が少し混じった人のよさそうな女性だった
応接室へ通され、話をする

「ようこそいらしてくださいました。修道院の長を務めております、ジョゼット=エロイーズです」
「エーサーだ」
「お元気そうで何よりでございます。ジョゼット修道院長」
「マドロアも元気そうね。聖騎士は慣れたかしら?」
「いえ、己の未熟を恥じ入る毎日でございます。まだまだ精進が足りません」
「あらあら、すっかり聖騎士らしくなっちゃったわね。お転婆な娘だったのに」

ジョゼットは微笑みながら紅茶を飲み、懐かしそうに話した

「ジョゼット修道院長…その…今日は用事があって伺ったのです」

マドロアは過去の話をされまいと話を遮った

どうしてこう大人というものは面倒を見た者たちの過去を暴きたがるのか
俺も流民村では事ある毎に父親が俺の恥ずかしい話を掘り起こしたものだ
これも愛されているという事なのだろうが

「あらあら、ごめんなさいね。用事があるのはエーサーさんかしら?どういったご用件でしょう」
「穢れた女たちはその後どうしている?生きている方がより辛いのではないかと、救ってしまった俺としては責任を感じている」

ジョゼットは眉を寄せ、小さくため息をついた
ゆっくりと紅茶をテーブルに置くと、目を閉じる

「ありがとう、貴方のような方ばかりなら彼女たちもきっと救われたでしょう。お察しの通り、修道院とて高潔な者ばかりではありません。高潔になるために修行をしている未熟者の方が多いのです。見かける度に注意はしておりますが…心の弱った娘たちは既に3人が自刃してしまいました」

やはり、耐えきれないか
だが生きる事を諦めていない女たちもいるんだな

「女たちに会えるだろうか?話を聞いてあげたい」

ジョゼットはゆっくりと頷く

「わかりました。一人オークの蔓延る街を救い、囚われた女たちを救う高潔な魂をお持ちのエーサー様の頼みです。ご案内します、ですが…驚かれませんよう」

随分と気が重いようだ
彼女たちは無事なのか

修道院地下に案内され牢のある間へ入っていく
どういうことだ、なぜ牢へ行く必要がある

ジョゼットは足を止め、広い牢の一室を見た

「こちらが彼女たちです」

女たちはさるぐつわをされ、拘束衣を着て無気力に横たわっている
俺は戦慄を覚えた

これではオークに囚われていたころと変わらない
何のために拘束しているんだ
俺は戸惑い、不安を隠しきれない顔でジョゼットを見る

「ジョゼット…これはどういうことなんだ…」

ジョゼットは深くため息をつき、目を閉じてうつむいた

「ここへ運ばれてすぐに、未熟な修道女達が弱った彼女たちの噂をしてしまったのです。それが彼女たちの耳に入り、一人、また一人と自刃を繰り返すため拘束せざるを得ませんでした。軽率な噂話を行った修道女たちは厳しい罰を受け今は反省しておりますが…今は彼女たちが回復してくれるまでこうする他無かったのです」

とんでもない正義だ…高潔とは何なのか
生き地獄を味合わせるために生かしておいているようなものだ
馬鹿げている

反省しているという女たちはオークに穢される恐怖を知らない
いずれまた繰り返すだろう
そのたびに穢れた女たちは生きていることを後悔する

俺は助けてしまったことを強く後悔した
無気力な彼女たちの目を見ていると、一人涙を流す女と目が合う

女は拘束衣のまま這いずりながら牢の一番手前まで来る

「こおひえ」

後悔の念が一層強くなり胸が痛い
殺してと懇願する彼女たちの姿は、クベアの事を思い出させる

その言葉に呼応するように、他の女たちも順に牢の手前まで這いずってきた
死を望みながらも叶わない哀れな女たちが自分の意思すら否定され、不自由な衣装のままゆっくりとすがるように俺の元へ集まってくる
俺は涙を流した

「すまん」

右手の義手を頭に乗せ、優しく撫でた後、ゆっくりと掌を上げる
義手の仕組みを知るマドロアが血相を変えて俺を止めた

「ダメです!エーサー殿!!!」

義手から飛び出した刃は女の頭に刺さることはなく空を斬った
女たちは一様に涙を流し、どこともなく床を眺めていた
涙を流す俺を見て、マドロアは激しく息を切らし静かに俺を強く抱きしめる
ジョゼットは悲しそうに顔を横に振った

「面会はここまでとします。女神にお祈りをしに行きましょう」

修道院の礼拝堂へ着くと見覚えのある大鎧の男が祈りを捧げていた
ジョゼットは男が祈りを捧げ終えるのを待ち、男が祈りを終えると話しかけた

「オーレオン様、本日もお越しでしたのですね」

オーレオンはジョゼットへ向きなおす

「うむ、哀れな者たちに女神の慈悲を」
「慈悲を」

オーレオンとジョゼットは手を胸の前で組み、祈りを捧げた
オーレオンは目を開き、俺に気づくと歩み寄る

「エーサー、君も見たか…正義と高潔は時に残酷だ。王都へ着けば保護せざるを得ない、お前は彼女たちの目に何を見た?成すべきことを成すべき時に成せ」

どこか哀れみに満ちた表情をし、鋭い目つきで俺を睨み、去って行った
オーレオンの言葉は難解だ
意味が解らない風の表情でいると、オーレオンが出ていくのを見送った後、ジョゼットが歩み寄る

「エーサーさん、女たちは王都へ着くと法により命を奪う事が出来なくなります。殺人は罪だからです。ですが、王都に着く前であれば、誰にも咎められることはありません。目撃者さえいなければ…成すべきことを成すべき時に」

ジョゼットは手を胸の前で組み、小さな声で話すと祈りを捧げる
女たちが望むなら王都に着く前に殺せという事か

”成すべきことを成すべき時に成せ”

彼女たちに生き地獄を選ばせたのは無知な俺の意思だった
死ぬより辛い生き地獄があるとも知らず
責任を感じるなどと聖人のような振る舞いに酔い
聖騎士たちが救ってくれると責任を押し付けていた
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