穢れの螺旋

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聖騎士と異端者

第26話 - オルレンヌ皇国

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オルレンヌ皇国 王都

王都は大人五人分はゆうに超える巨大な壁に囲まれた街だった
オルレンヌ皇国の旗がはためき、銀色の甲冑に包まれた騎士が門衛に立つ
青い衣の法衣を鎧の上に羽織り背中には白いロザリオが描かれている

白を基調とした大理石の建築が目立つ都市で荘厳な雰囲気があちこちから漂ってくる

門にたどり着くと門衛に止められ、身分証の開示を求められた

「止まれ、身分証を見せよ」

ミリアの冒険者証を取り出し、渡すと門衛は眉をひそめていた

「はぁ、ゴブリンに襲われた街か…疫病を持ってきているかもしれん。帰れ」

閉鎖的な国だ…噂は早いものだな、まだそう時間は経っていないのに
フルーフの聖騎士証を見せ、せめてこれを家族に渡してほしいと食い下がった

「ここにフルーフと言う騎士隊長が昔いたか?聖騎士証を預かっている。親元へ返してあげたいんだが」

門衛はくるくると聖騎士証を裏返しながら何度も見る

「本物だな…お前何者だ?なぜこれを持っている」
「命を助けられ、しばらく一緒に戦っていたが死んだんだ」
「ふむ、お前のような小汚い男が聖騎士と?信用ならん。少し待て」

酷い言われようだ…言われたい放題だな
門衛は街の中に入り、一時間ほど待たされた

◆ ◆ ◆

門の近くで馬に草を食わせていると3人の聖騎士が現れた

「君がフルーフの聖騎士証を届けてくれた男か?」

振り返ると他の二人とは装いの違う鎧を着た背の高い男がフルーフの聖騎士証を持っていた

「…そうだ」

男は悲しい顔をして聖騎士証を握りしめる
大きくため息をついて首を左右に振ると顔を上げる

「そうか…俺はフレデリク=ジェレミ、二人は男の方がロスベール=ロドリュカ、女の方がマドロア=ミリエンヌだ。君の話を聞かせてほしい、ついてきてくれ」

フレデリクに案内され、大理石で作られた巨大な神殿にも似た兵舎に案内された
案内された部屋は大きな応接室のついた部屋で冒険者ギルドマスターの部屋を思い出す
紅茶を出され、草の匂いを楽しみにながら飲んだ

フレデリクと他二人が向かいに座る

「いきなりで悪いが君にはこの二人を目付け役につける。今はミリアからの難民が多くてな、王都に人を入れるのを嫌う人が多い。二人がいれば案内もしてくれるし便利なはずだ」
「助かる」

フレデリクは両手を組み、前のめりになって俺を睨む

「それで、フルーフはどうなったんだ…」

彼らは聖騎士だ…下手な事は言わないほうがいいとは思うが俺が流民であることを知ったらどう思うのだろうか…

「その…話しにくいこともあるんだが」
「安心してくれ、神に誓って口外しない。俺はフルーフの…恋人だと…思う、はっきりと示し合わせた訳ではないが。お互い愛していた…はずだ。真実が知りたい」

随分歯切れが悪い、示し合わせたわけではないからか…
フレデリクに続き他の二人も同様に神に誓った

ここには俺たちしかいない、真実を語るために俺も隠し事をするわけにはいかないだろう

目を閉じ、ゆっくりと
流民村が襲われた事、そこに住んでいたこと
フルーフに助けられた事、呪印を刻まれた事、打ち明けられた事
集落を襲った話や砦で壮絶な死を遂げた事を順を追って話した

フレデリクは目頭を抑え
マドロアは両手を顔に当て大粒の涙を流していた

「彼女がいなくなってから8年経つ、よく…届けてくれた。礼を言う」

やはりここの聖騎士で間違いないのか
俺はフルーフがなぜ失踪したのか気になった
隊長の地位まで得ていた女がどうして出ていったのか

「なぜ、フルーフは出ていったんだ?聖騎士証には隊長とあるが…」

フレデリクは小さくゆっくりと頷く

「君にも知る権利がある。聞いてくれ」

フルーフがオークバーサーカーを倒し、隊長となった経緯
解放軍となり街を開放するために戦った事
囚われた事、救い出した事を話した

「そのあとなぜ出ていったのか、俺はわからないんだ…」

マドロアがフレデリクにを見る

「私が知る範囲でなら…」

フレデリクは驚き、ゆっくりとマドロアを見る

「知っているのか?君が?なぜ今まで言わなかった…」
「お伝えするには勇気がいるので…」
「いい、教えてくれ」
「承知しました」

マドロアは深呼吸すると静かに話始めた

フルーフを傷つけた侍女達の噂話を彼女も聞いていたのだ
フレデリクと俺はその話を聞いて顔を伏せたまま動けなかった

「マドロア、ありがとう。穢れた女に未来はない…俺が助けたのは間違っていたのか」
「そんなことは無いと思います…ただ世間がまだ受け入れる状況では」
「そうだろうか、彼女は何を憎んだんだろうか。生き残っていたとして、帰っては来なかっただろう」

しばらく沈黙が続いた

フレデリクは何度も首を振っては小さく頷き、ひとつずつ情報を飲み込んでいた
目を開けると俺を見る

「それにしても、君は壮絶な戦いをしてきたんだな…王都にも兵器ギルドがある、そこで義手を新調するといい、予備も含めて作ってくれ。費用は聖騎士ギルドが持つ。マドロア、ロスベール、エーサー殿を宿へ案内せよ」

◆ ◆ ◆

宿へ着くとロスベールは離れ、マドロアが同じ宿に部屋を取った

マドロアと一緒に食事をすることになった

「あの、ロスベールと言う男は来ないのか?」
「あぁ、目付けの仕事です。報告をしに行ったんですよ、明日には戻ってきます。私が四六時中一緒にいるので何かあれば私を頼ってください」
「そうか」
「明日は兵器ギルドへ向かいましょう。腕利きの技師がいるんです、その特殊な義手もすぐに複製してくれるでしょう。左手の分も作らねばなりませんね」
「そうだな…両腕がなくなると不便なものだ」
「ふふ、呼んで頂ければ着用はお手伝いしますよ。その義手がどうしてそんなに精巧に動くのか興味もあります」
「………」
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