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最終章 道化師は神逆する
第300話 神逆#2
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クラウンの突き出した刀は真っ直ぐトウマの持つ笛に引き寄せられるように動いていき、その笛を真っ二つに破壊した。
「やるね」
「まだだ!―――――ぐっ!」
クラウンは突き出した刀でそのままトウマの首を突き刺そうとするが、それよりも先にトウマの蹴りがクラウンの腹部に入る。
その瞬間、クラウンの体は急速に逆向きに加速していき、雲の床を転がっていく。みぞおちにキレイに入ったのか嗚咽交じりの声が漏れた。
「この世界に唯一無二の笛を容赦なく壊すなんて。その笛があれば今後の暮らしが良くなったかもしれないのに」
「そんなことにまで気を回している余裕がないことぐらい理解している。だが、少なくともお前の武器は無くしたはずだ」
「僕の武器? くくく、ははははは!」
トウマはクラウンの返答を大声で嘲笑った。そのことにクラウンは僅かに眉をピクつかせる。すると、トウマは続けて答える。
「いや~、ごめんごめん。君があんまりにもおかしな話をするからさ。僕が単純にあの笛を使ったのは君たちの舞が見たかっただけだよ。僕の本当の武器はこの雄弁なる口から紡ぎだせる言葉さ。憎き存在を抑圧し、弾圧するために僕が作り出したまさに神の力」
「言霊魔法のことよね? 母さんから聞いたわ」
「あの女神から? なんだ。なら、ここまで盛り上げた僕がバカみたいじゃないか。まあいい。今日は記念すべき日だ。僕が神となってから、初の僕の所まで辿り着いた反逆者がいるからね。その僕に勝てば開けた未来がある世界が戻るという希望をぐちゃぐちゃにして、絶望という名の色に染めあげられるんだからね」
「白い絵の具に黒い絵の具を足せばもう二度と白には戻らないって言いたいのか? おいおい、現実を見ろよ。俺達はキャンパスに描かれた道を進んで歩いているんじゃねぇ。俺達は俺達の未来のために現実を生きてんだ。神なんだからもう少し現実見ようぜ? それとも、俗世から離れて理想論で思考が固まっちまったか?」
「ははは、良い煽りだ。この僕が少しだけイラッとさせられたよ。なら、見せて上げるよ。僕の魔法を―――――――反転」
トウマが腕を前に掲げると腕や頬に入っている緑色の蔦のようなタトゥーがネオンカラーに輝く。その瞬間、トウマの背後に三つの時計が現れた。
その時計のそれぞれの中心にⅠ、Ⅲ、Ⅴとローマ数字が刻まれている。そして、その時計には針が一本だけでバラバラの速度で動き始めた。
「Ⅰ」が一番速く、「Ⅲ」が次で、最後が「Ⅴ」で、それはカチカチという音もなくスーと一回転を始めていく。
「集えよ、武器」
トウマがそう言うとトウマの両サイドの空間から剣や槍、斧といった様々な武器が出現する。その数は無数だ。
「これが僕の言葉で武器を顕現させる魔法さ。さあ、自滅しないでくれよ?」
トウマはそういうと空間から現れたあらゆる武器を一斉に射出した。それは先ほどの聖樹と同じように光の速度で飛んでくる。
クラウン達はその武器の雨を避けたり、弾き飛ばしながらトウマの下へと近づいていく。そして、クラウンは糸で向かって来る武器を、リリスは重力で無理やり武器の軌道を捻じ曲げてトウマに襲わせた。
トウマは手元に顕現した武器でそれらの武器を弾き飛ばす―――――
「ぐはっ!」
「「!」」
――――――が、急所だけを外すだけで残りの武器は腕や足を掠めたり、肩に刺さったり、脇腹を抉ったりと避けようともしなかった。
そのことにクラウンとリリスは驚きが隠せなかった。それは神であるトウマがそれほどの攻撃を捌けないのかという意味でだ。
攻撃が通用しないから驚くではない。それはむしろ想定済みだ。しかし、ただ普通に立っている位置から横にずれればいい攻撃を避けずにダメージを受けたことに驚きが出ているのだ。
クラウンは咄嗟に考えを改めた。それはトウマの背後にある時計が相手の行動を遅らせたり、逆に自身の速度を高めるものではなかったということ。
時計のようなものが出てくればまず警戒するのはラズリと戦ったように自分の体が意図的にスロー状態にさせられること。そして、それを自分自身が認知していないこと。
だが、もしそうなっていればトウマが放った武器は容赦なく襲ってきて、今頃体はズタズタになっているはず。それをしなかったということは、ダメージを受けることで初めて意味を成す魔法であるということ。
それも憶測だ。それが間違っていた場合はただの魔力の無駄消費となる。しかし、分からない場合は確かめなければならない。となれば、ここは――――――
「クラウン、遠慮はなしよ」
「......わかった」
リリスに言う前に釘を刺されてしまった。ならば、仕方ない。そう思いつつもクラウンの口元は少し柔らかい。
クラウンはトウマまで接近すると刀を突き出す。しかし、それはトウマの右手に持っていた剣で受け止められ、反対側から攻めてきたリリスの蹴りはトウマの左腕で止められた。
トウマは素早く右手首を捻るとクラウンを斬り上げる。そして、左手はリリスの足を掴むと投げ飛ばす。
その一連の動きはクラウンとリリスには見切れなかった。クラウンは胴体を切り裂かれながら吹き飛んでいき、リリスは地面を転がっていく。
「存外痛いもんだね」
軽口を叩くトウマの言葉を聞きながら、二人はすぐに立ち上がるとトウマを間合いに入れていく。そして、クラウンは袈裟切りに、リリスは雷を纏わせた足を突き出した。
「がはっ!」
するとその瞬間、トウマは防御を取ろうとせず、そのまま袈裟切りに斬られ、胴体に蹴りが入り押し飛ばされていく。
紫電を纏ったトウマは背後にあった雲の階段に突っ込んでいく。その雲の階段は石のように硬いのかドゴンッという音を立てながら、トウマの体をめり込ませた。
そして、クラウンとリリスは更なる攻撃を加えようと動き出した時、トウマは告げた。
「時間だ」
「ぐぅおっ!」
「かはっ!」
クラウンとリリスの体から突然大量の血が溢れ始めた。まるで血が内側から肉体を破壊して外に出たかのように。
クラウンは腕や足、そして袈裟切りされたように血を吹く胴から、リリスも腕や足に、それから体に電撃を浴びたように紫電を纏わせている。
二人は吐血しながら立ち膝をつく。そして、壊れた階段から起き上がってきたトウマは無傷になっていた。
トウマに傷口には傷一つ見当たらず、まるで攻撃した個所がクラウンとリリスに跳ね返ったような感じだ。
「頭のいい君達ならなんとなくわかっているだろ? 僕が使ったのは『反転』だ。自分が受けたダメージを一分後に相手に跳ね返すというもの。つまり君達がいくら強い攻撃を浴びせようとも、たとえ首が吹き飛ばされようとも、一分経つまでに心臓が動いていれば元通り。そして、死ぬのは君達」
トウマは饒舌に話していく。別に話したところで何の支障もないかのように。
「この力で神と戦った時はそれはもうチョロかったよ。まあ、痛みはしっかり感じるからダメージを受けるのは嫌と言えば嫌なんだけどね。ちなみに、君たちが与えたダメージは蓄積される。これを知って君達が僕を攻撃しなくても、一分後には同じダメージが跳ね返ってくる。傷口に塩を塗るようなものさ。死にたくなるぐらい痛いはずさ。そして、解決方法も――――――」
「ゴタゴタ......うるせぇな。そんなんはもうわかった」
「『殺られる前に殺れ』至極単純なことよ。それに弱い犬ほどよく吠えるとも言うわね」
「そうかい。なら、頑張ってみてくれたまえ」
クラウンとリリスは立ち上がると同時に攻め込む。そして、クラウンは刀を突き出し、リリスは炎を纏わせた足でかかと落としを繰り出す。
しかし、トウマは涼しい顔をしてクラウンの攻撃を弾き、リリスの攻撃を腕で防ぐ。そして、リリスの足を掴んでクラウンに投げた。
クラウンはリリスを咄嗟に抱えるとトウマの振り下ろした剣を刀で受け流す。だが、受け流しきれずにそのまま吹き飛んでいく。
するとすぐに、その二人に武器の雨が来る。それを咄嗟にリリスが重力で押し曲げてトウマに放つ。そのうちに二人は体勢を立て直し、すぐに突っ込む。
「いや~、実にいい希望だ。とてもとても眩しくて―――――反吐が出る。少しだけ昔話をしよう。僕が神となる前には君達と同じ魔法のない星にいた」
クラウンは右手で持った刀を大振りに下ろした。それをトウマが剣で受け止めるとクラウンのもう片方の左手でトウマが射出した斧を持っていて、それを下から上に斬り上げる。
「僕は弱かった。いじめられていたんだ。惨めだった。悔しかった。でも、力が無かったからどうしよもなかった。だけど、そんなある日の放課後、僕が相変わらず教室で無惨にいじめられていると教室が光った。異世界転移だよ。君達も体験した、あの」
そして、それによってバランスを崩したリリスがトウマの胴体に残像が見えるほどの何十発の蹴りで吹き飛ばす。
それによって、トウマは近くの柱に叩きつけられる。柱は質量を持っていたのか音を立てて崩れ落ちていく。しかし、トウマは痛みに慣れている様子で声一つ上げることはない。
「イジメている奴らともどもだけど、僕は魔法のある国にやって来たんだ。そして、異世界から召喚された者はこの世界の誰よりも強い魔法を使えると言うじゃないか。そのことに僕は期待に胸を膨らませた。しかし、現実はいつまでも非情だった」
クラウンとリリスに唐突にダメージが入る。喉を通って口から血を吐血させた。血の味を舌全部で感じる。加えて、全身に痛みが駆けまわる。意識を抜けばぶっ倒れそうだ。
「僕は優秀な魔法使いだった。しかし、いじめっ子のリーダーは勇者と言うじゃないか。なぜだ? どうしてだ? そう考える僕の深層心理は至極真っ当なはずだ。その時から僕はたとえ世界を変えても運命は変えられない、自分の不遇は変えられないと悟り始めていた」
立ち上がったトウマはスッとクラウンとリリスの間に現れる。そして、二人の顔面を鷲掴むとそのまま床に叩きつける。それから、遠くへ投げ飛ばす。
クラウンとリリスは血で床に跡を作りながら、地面を転がっていく。
「いじめもたとえ世界が変わろうとも変わらなかった。けど、一つだけ違うことがあった。それは召喚した国の姫が僕のことを気遣ってくれたことだよ。その時はその優しさで僕は胸が一杯だった。明日へと歩く力がもらえた。けど、長くは続かなかった」
クラウンとリリスは自分がトウマに与えたダメージを骨身に感じながらも、歯を食いしばって立ち上がろうと腕を立てる。
「僕は勇者がどこぞで作ってきた事件の首謀者にされた。どんな事件だったかはもう古すぎる記憶だから覚えてないけど、とにかくそれは国を追放されるレベルであったことは確かだ。その時だよ、僕の心に絶望という最強の力を感じたのは。どんな世界でも結局弱くて、強い者に虐げられる自分の存在に嫌気が刺し、世界が変わっても自分の変わらぬ運命を呪った」
クラウンとリリスはなんとか立ち膝まで立ち上がってきた。しかし、自分達の与えたダメージが想像以上に重く、息切れと流れ出る血が絶えない。
「だからさ、手始めにリーダー以外の仲間を殺してやったよ。自分の力を過信してい奴はすごく殺しやすかった。僕よりも強いだけで、イキっている奴なんかは特にそう。例えばこんな風に」
空気が変わった。息苦しいほどに重々しく冷たい圧をトウマから感じる。そして、トウマは右手をスッと横に動かす。
その瞬間、クラウンは感じる寒気とともにリリスを糸で引っ張り上げ、空中に飛んだ。その刹那、クラウン達がいた場所に黒い斬撃をが通っていく。
「もう避けたか。すごいね。でも、そいつらはすぐに死んだ。だから、リーダーをいたぶるようにじわじわ仲の良かった奴らを殺した。そしたら、リーダーは恐怖気が狂ったらしくて、姫と無理心中したんだ。でも、死んだのは姫だけ。そのリーダーは姫を殺しておきながら、死ぬのが怖かったんだって。ほんと―――――神って残酷だよね」
「「.......」」
「僕は呪った。自分も世界の運命も神という存在も全て。僕からたった一人の大切な存在すら取り上げるんだもの。別に死んでもいいよね。そしたら、僕は絶望の力でこの最強の力を手に入れた。だから、これからも希望を持つ奴は殺そうと思って、そのために神になろうと思った。そういうわけだから、死んでくれない?」
「「あああああ!」」
クラウンとリリスに先ほどとは比べ物にならない衝撃と痛みが走る。それによって、止まりかけていた血が再び溢れ出る。
しかし、それでも二人の希望が消えることはなかった。むしろ、滾らせていた。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」
「ごちゃごちゃうるさいのよ」
二人は闇のような魔力のオーラを纏い始めた。そして、腕や額の一部に紋章が浮かび上がる。
「「少しは黙れ」」
声をそろえてそう告げた。
「やるね」
「まだだ!―――――ぐっ!」
クラウンは突き出した刀でそのままトウマの首を突き刺そうとするが、それよりも先にトウマの蹴りがクラウンの腹部に入る。
その瞬間、クラウンの体は急速に逆向きに加速していき、雲の床を転がっていく。みぞおちにキレイに入ったのか嗚咽交じりの声が漏れた。
「この世界に唯一無二の笛を容赦なく壊すなんて。その笛があれば今後の暮らしが良くなったかもしれないのに」
「そんなことにまで気を回している余裕がないことぐらい理解している。だが、少なくともお前の武器は無くしたはずだ」
「僕の武器? くくく、ははははは!」
トウマはクラウンの返答を大声で嘲笑った。そのことにクラウンは僅かに眉をピクつかせる。すると、トウマは続けて答える。
「いや~、ごめんごめん。君があんまりにもおかしな話をするからさ。僕が単純にあの笛を使ったのは君たちの舞が見たかっただけだよ。僕の本当の武器はこの雄弁なる口から紡ぎだせる言葉さ。憎き存在を抑圧し、弾圧するために僕が作り出したまさに神の力」
「言霊魔法のことよね? 母さんから聞いたわ」
「あの女神から? なんだ。なら、ここまで盛り上げた僕がバカみたいじゃないか。まあいい。今日は記念すべき日だ。僕が神となってから、初の僕の所まで辿り着いた反逆者がいるからね。その僕に勝てば開けた未来がある世界が戻るという希望をぐちゃぐちゃにして、絶望という名の色に染めあげられるんだからね」
「白い絵の具に黒い絵の具を足せばもう二度と白には戻らないって言いたいのか? おいおい、現実を見ろよ。俺達はキャンパスに描かれた道を進んで歩いているんじゃねぇ。俺達は俺達の未来のために現実を生きてんだ。神なんだからもう少し現実見ようぜ? それとも、俗世から離れて理想論で思考が固まっちまったか?」
「ははは、良い煽りだ。この僕が少しだけイラッとさせられたよ。なら、見せて上げるよ。僕の魔法を―――――――反転」
トウマが腕を前に掲げると腕や頬に入っている緑色の蔦のようなタトゥーがネオンカラーに輝く。その瞬間、トウマの背後に三つの時計が現れた。
その時計のそれぞれの中心にⅠ、Ⅲ、Ⅴとローマ数字が刻まれている。そして、その時計には針が一本だけでバラバラの速度で動き始めた。
「Ⅰ」が一番速く、「Ⅲ」が次で、最後が「Ⅴ」で、それはカチカチという音もなくスーと一回転を始めていく。
「集えよ、武器」
トウマがそう言うとトウマの両サイドの空間から剣や槍、斧といった様々な武器が出現する。その数は無数だ。
「これが僕の言葉で武器を顕現させる魔法さ。さあ、自滅しないでくれよ?」
トウマはそういうと空間から現れたあらゆる武器を一斉に射出した。それは先ほどの聖樹と同じように光の速度で飛んでくる。
クラウン達はその武器の雨を避けたり、弾き飛ばしながらトウマの下へと近づいていく。そして、クラウンは糸で向かって来る武器を、リリスは重力で無理やり武器の軌道を捻じ曲げてトウマに襲わせた。
トウマは手元に顕現した武器でそれらの武器を弾き飛ばす―――――
「ぐはっ!」
「「!」」
――――――が、急所だけを外すだけで残りの武器は腕や足を掠めたり、肩に刺さったり、脇腹を抉ったりと避けようともしなかった。
そのことにクラウンとリリスは驚きが隠せなかった。それは神であるトウマがそれほどの攻撃を捌けないのかという意味でだ。
攻撃が通用しないから驚くではない。それはむしろ想定済みだ。しかし、ただ普通に立っている位置から横にずれればいい攻撃を避けずにダメージを受けたことに驚きが出ているのだ。
クラウンは咄嗟に考えを改めた。それはトウマの背後にある時計が相手の行動を遅らせたり、逆に自身の速度を高めるものではなかったということ。
時計のようなものが出てくればまず警戒するのはラズリと戦ったように自分の体が意図的にスロー状態にさせられること。そして、それを自分自身が認知していないこと。
だが、もしそうなっていればトウマが放った武器は容赦なく襲ってきて、今頃体はズタズタになっているはず。それをしなかったということは、ダメージを受けることで初めて意味を成す魔法であるということ。
それも憶測だ。それが間違っていた場合はただの魔力の無駄消費となる。しかし、分からない場合は確かめなければならない。となれば、ここは――――――
「クラウン、遠慮はなしよ」
「......わかった」
リリスに言う前に釘を刺されてしまった。ならば、仕方ない。そう思いつつもクラウンの口元は少し柔らかい。
クラウンはトウマまで接近すると刀を突き出す。しかし、それはトウマの右手に持っていた剣で受け止められ、反対側から攻めてきたリリスの蹴りはトウマの左腕で止められた。
トウマは素早く右手首を捻るとクラウンを斬り上げる。そして、左手はリリスの足を掴むと投げ飛ばす。
その一連の動きはクラウンとリリスには見切れなかった。クラウンは胴体を切り裂かれながら吹き飛んでいき、リリスは地面を転がっていく。
「存外痛いもんだね」
軽口を叩くトウマの言葉を聞きながら、二人はすぐに立ち上がるとトウマを間合いに入れていく。そして、クラウンは袈裟切りに、リリスは雷を纏わせた足を突き出した。
「がはっ!」
するとその瞬間、トウマは防御を取ろうとせず、そのまま袈裟切りに斬られ、胴体に蹴りが入り押し飛ばされていく。
紫電を纏ったトウマは背後にあった雲の階段に突っ込んでいく。その雲の階段は石のように硬いのかドゴンッという音を立てながら、トウマの体をめり込ませた。
そして、クラウンとリリスは更なる攻撃を加えようと動き出した時、トウマは告げた。
「時間だ」
「ぐぅおっ!」
「かはっ!」
クラウンとリリスの体から突然大量の血が溢れ始めた。まるで血が内側から肉体を破壊して外に出たかのように。
クラウンは腕や足、そして袈裟切りされたように血を吹く胴から、リリスも腕や足に、それから体に電撃を浴びたように紫電を纏わせている。
二人は吐血しながら立ち膝をつく。そして、壊れた階段から起き上がってきたトウマは無傷になっていた。
トウマに傷口には傷一つ見当たらず、まるで攻撃した個所がクラウンとリリスに跳ね返ったような感じだ。
「頭のいい君達ならなんとなくわかっているだろ? 僕が使ったのは『反転』だ。自分が受けたダメージを一分後に相手に跳ね返すというもの。つまり君達がいくら強い攻撃を浴びせようとも、たとえ首が吹き飛ばされようとも、一分経つまでに心臓が動いていれば元通り。そして、死ぬのは君達」
トウマは饒舌に話していく。別に話したところで何の支障もないかのように。
「この力で神と戦った時はそれはもうチョロかったよ。まあ、痛みはしっかり感じるからダメージを受けるのは嫌と言えば嫌なんだけどね。ちなみに、君たちが与えたダメージは蓄積される。これを知って君達が僕を攻撃しなくても、一分後には同じダメージが跳ね返ってくる。傷口に塩を塗るようなものさ。死にたくなるぐらい痛いはずさ。そして、解決方法も――――――」
「ゴタゴタ......うるせぇな。そんなんはもうわかった」
「『殺られる前に殺れ』至極単純なことよ。それに弱い犬ほどよく吠えるとも言うわね」
「そうかい。なら、頑張ってみてくれたまえ」
クラウンとリリスは立ち上がると同時に攻め込む。そして、クラウンは刀を突き出し、リリスは炎を纏わせた足でかかと落としを繰り出す。
しかし、トウマは涼しい顔をしてクラウンの攻撃を弾き、リリスの攻撃を腕で防ぐ。そして、リリスの足を掴んでクラウンに投げた。
クラウンはリリスを咄嗟に抱えるとトウマの振り下ろした剣を刀で受け流す。だが、受け流しきれずにそのまま吹き飛んでいく。
するとすぐに、その二人に武器の雨が来る。それを咄嗟にリリスが重力で押し曲げてトウマに放つ。そのうちに二人は体勢を立て直し、すぐに突っ込む。
「いや~、実にいい希望だ。とてもとても眩しくて―――――反吐が出る。少しだけ昔話をしよう。僕が神となる前には君達と同じ魔法のない星にいた」
クラウンは右手で持った刀を大振りに下ろした。それをトウマが剣で受け止めるとクラウンのもう片方の左手でトウマが射出した斧を持っていて、それを下から上に斬り上げる。
「僕は弱かった。いじめられていたんだ。惨めだった。悔しかった。でも、力が無かったからどうしよもなかった。だけど、そんなある日の放課後、僕が相変わらず教室で無惨にいじめられていると教室が光った。異世界転移だよ。君達も体験した、あの」
そして、それによってバランスを崩したリリスがトウマの胴体に残像が見えるほどの何十発の蹴りで吹き飛ばす。
それによって、トウマは近くの柱に叩きつけられる。柱は質量を持っていたのか音を立てて崩れ落ちていく。しかし、トウマは痛みに慣れている様子で声一つ上げることはない。
「イジメている奴らともどもだけど、僕は魔法のある国にやって来たんだ。そして、異世界から召喚された者はこの世界の誰よりも強い魔法を使えると言うじゃないか。そのことに僕は期待に胸を膨らませた。しかし、現実はいつまでも非情だった」
クラウンとリリスに唐突にダメージが入る。喉を通って口から血を吐血させた。血の味を舌全部で感じる。加えて、全身に痛みが駆けまわる。意識を抜けばぶっ倒れそうだ。
「僕は優秀な魔法使いだった。しかし、いじめっ子のリーダーは勇者と言うじゃないか。なぜだ? どうしてだ? そう考える僕の深層心理は至極真っ当なはずだ。その時から僕はたとえ世界を変えても運命は変えられない、自分の不遇は変えられないと悟り始めていた」
立ち上がったトウマはスッとクラウンとリリスの間に現れる。そして、二人の顔面を鷲掴むとそのまま床に叩きつける。それから、遠くへ投げ飛ばす。
クラウンとリリスは血で床に跡を作りながら、地面を転がっていく。
「いじめもたとえ世界が変わろうとも変わらなかった。けど、一つだけ違うことがあった。それは召喚した国の姫が僕のことを気遣ってくれたことだよ。その時はその優しさで僕は胸が一杯だった。明日へと歩く力がもらえた。けど、長くは続かなかった」
クラウンとリリスは自分がトウマに与えたダメージを骨身に感じながらも、歯を食いしばって立ち上がろうと腕を立てる。
「僕は勇者がどこぞで作ってきた事件の首謀者にされた。どんな事件だったかはもう古すぎる記憶だから覚えてないけど、とにかくそれは国を追放されるレベルであったことは確かだ。その時だよ、僕の心に絶望という最強の力を感じたのは。どんな世界でも結局弱くて、強い者に虐げられる自分の存在に嫌気が刺し、世界が変わっても自分の変わらぬ運命を呪った」
クラウンとリリスはなんとか立ち膝まで立ち上がってきた。しかし、自分達の与えたダメージが想像以上に重く、息切れと流れ出る血が絶えない。
「だからさ、手始めにリーダー以外の仲間を殺してやったよ。自分の力を過信してい奴はすごく殺しやすかった。僕よりも強いだけで、イキっている奴なんかは特にそう。例えばこんな風に」
空気が変わった。息苦しいほどに重々しく冷たい圧をトウマから感じる。そして、トウマは右手をスッと横に動かす。
その瞬間、クラウンは感じる寒気とともにリリスを糸で引っ張り上げ、空中に飛んだ。その刹那、クラウン達がいた場所に黒い斬撃をが通っていく。
「もう避けたか。すごいね。でも、そいつらはすぐに死んだ。だから、リーダーをいたぶるようにじわじわ仲の良かった奴らを殺した。そしたら、リーダーは恐怖気が狂ったらしくて、姫と無理心中したんだ。でも、死んだのは姫だけ。そのリーダーは姫を殺しておきながら、死ぬのが怖かったんだって。ほんと―――――神って残酷だよね」
「「.......」」
「僕は呪った。自分も世界の運命も神という存在も全て。僕からたった一人の大切な存在すら取り上げるんだもの。別に死んでもいいよね。そしたら、僕は絶望の力でこの最強の力を手に入れた。だから、これからも希望を持つ奴は殺そうと思って、そのために神になろうと思った。そういうわけだから、死んでくれない?」
「「あああああ!」」
クラウンとリリスに先ほどとは比べ物にならない衝撃と痛みが走る。それによって、止まりかけていた血が再び溢れ出る。
しかし、それでも二人の希望が消えることはなかった。むしろ、滾らせていた。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」
「ごちゃごちゃうるさいのよ」
二人は闇のような魔力のオーラを纏い始めた。そして、腕や額の一部に紋章が浮かび上がる。
「「少しは黙れ」」
声をそろえてそう告げた。
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