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最終章 道化師は神逆する
第297話 竜の闘争本能
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丁度、ベルとブランが熾烈な戦いを繰り広げている中、竜化(闘)となっているエキドナは自身よりも小さい男に苦戦していた。
その男はガタイの良い二メートルぐらいの大男であるが、十倍以上の竜であるエキドナに比べれば大した大きさでもない。
そして、その大きさに違いが生まれるということは体重差が生まれるということもであり、その体重差は一撃の威力に比例する。
故に、苦戦するはずもないのだが......やはり神の使徒と言うべきなのか。全くもって力の差で圧倒することは出来ない。
現在は何発か殴り合った後だが、竜化しているにもかかわらず突き合せた拳が押し負けるということが発生していた。
エキドナはその事実を払拭するように再び憤怒の使徒―――――アグリルへと大きく拳を振り上げながら、突っ込んでいく。
そして、腕を組んだままのアグリルに加速した勢いを乗せた強烈な一撃を叩き込む。
「ぬるいな。それでは、我の怒りの炎を鎮めることは出来ん」
「かはっ!」
しかし、その一撃はアグリルの左腕一本で受け止められた。それから、そのまま回転し始めると体重差も何も関係なく投げ飛ばした。
エキドナはそのまま地面に叩きつけられる。地面からは地響きが鳴り渡り、僅かに地面が揺れていることがわかる。
「なんのっ!」
エキドナはすぐに立ち上がるとアグリルに向かってブレスを放つ。高温のブレスは空気を灼熱に変えながら、アグリルに突っ込んでいく。
しかし、アグリルは大きく構えた右拳をブレスの前に叩きつけると拳圧だけで蹴散らしていく。だが、その次にはエキドナが迫っていた。
エキドナは手刀に変えた左手を鋭く突き出す。それをアグリルが突き出した右手で受け止めるとすぐにエキドナは右拳でフックを決める。だが、それも反対の手でアグリルに受け止められた。
とはいえ、それでエキドナの攻撃が終わったわけじゃない。竜と人の違いは翼と尻尾だ。エキドナは大きく翼を動かすとアグリルを強引に押し込む。
すると、アグリルは押し込まれまいと力を加えてくる。だが、それはあくまで前方へ力が加わっているだけで、踏ん張っているとしてもそれは空中だ。しかも、それは下向きに力が加わっているということ。
「それっ!」
「ぬっ!? ―――――――ぐっ!」
エキドナは尻尾を使ってアグリルの足を掴むとそのまま真下の地面へと投げ飛ばした。その勢いでアグリルは地面を突っ込んでいく。
エキドナはすかさず急降下しながら、大きく拳を振りかぶって、叩きつけた。
「その程度の速度と威力じゃ話にならんぞ」
「がっ!」
しかし、再び右腕一本で受け止められる。しかも、服が少し土埃がついただけでアグリル本人はほとんどノーダメである。
そして、アグリルはエキドナの拳を振り払うと反対の手で思いっきり腹部に叩きつけた。その瞬間、かなりの大きさの差がありながら、エキドナの体はくの字にひん曲がっていく。
そして、真上に飛ばされると先回りしていたアグリルがエキドナの顔面に回し蹴りを入れて、再び吹き飛ばす。
エキドナはきりもみ状態になりながらも、すぐさま翼で急停止する。しかし、内臓にダメージが入ったのか口元から血が流れ出ている。
「くっ、馬鹿力も厄介ね」
「これが我の唯一にして最強の魔法だからな」
アグリルの魔法は実に単純明快だ。司っている怒りを糧にしてそれを身体能力や攻撃力防御力に回しているのだ。
故に、特に目立った魔法は使えない。しかし、それを上回るほどの圧倒的なまでの力と速さ。ただタフで攻撃力バカだったなら未だしも、異常なまでのタフさで、とんでもない破壊力を持った攻撃力を有しているのだ。
単純な力だけで言えば、クラウン以上だ。だから、もしクラウンがこの相手と戦っていればかなりの苦戦を強いられただろう。
「......何がおかしい?」
「いえ、別に。気にしないで」
だから、嬉しい。こうしてクラウンの役に立てている自分という存在がいることに。クラウンの代わりを出来ていることに。
どこかで役に立ちたいとずっと思っていた。しかし、クラウンは役に立ってくれていると言ってくれていた。
でも、それでは物足りないのだ。自分の気が済まないのだ。自分が抱いた気持ちは、受け取った希望はこんなもので済むほど小さくないから。
ああ、だから思わず嬉しくなる。役に立てているような気分で高揚してくる。そして、勝ったらたくさん褒めて欲しい。
そのためには勝つことが必要で、勝つには力と速さが必要だ。それにこんな大きさの図体では相手に攻撃チャンスを増やしているようなものだ。
もっとコンパクトに、もっと力強く、もっと高速に。自分の覚醒魔力は何だ。<竜闘変化>――――――戦いや環境に応じて自身の肉体を変化させること。
そう、たとえば今のような状況だ!
「む?」
エキドナは魔力を高めていく。そして、自分のイメージする形に体を再構築していく。すると、エキドナの体は光に包まれると同時に、その体積を小さくしていった。
二十メートルほどの大きさがその半分の十メートルほどまで小さくしていく。顔も体も小型の竜種のようなシャープな顔つきと体つきになった。
そして、白い竜鱗はまるで白い鎧を着ているようになった。腕や脚にも所々篭手やすね当てみたいなものがある。
「.......小さくなったな。それで機動力を確保したつもりか?」
「試してみればいいでしょ!」
「!」
エキドナは翼をはためかせると一気に加速した。そして、数十メートル先にいたアグリルの眼前まで近づいていく。
その勢いのまま顔面を思いっきり殴った。その一撃はアグリルを回転させながら吹き飛ばしていく。だが、僅かに鼻血を出させるだけだった。
「威力も増しているな。だが、それまでだ!」
「がはっ!」
エキドナが気づいた時にはアグリルが振りかぶった状態で目の前に現れた。そして、思いっきり振り切った拳をエキドナの頭に直撃し、地面に叩き落される。
大きくできたクレーターの中心に額を切って血を流しているエキドナの姿がある。ボロボロで満身創痍といった感じだ。
しかし、エキドナの闘志は未だ燃えている。力を振り絞り体を起こすと立ち上がり、すぐに思考の再構築を行う。
今ので攻撃力も速さも増した。だが、それでもアグリルに通じるほどではなかった。ならば、通じるまでに再び構築していく。
エキドナの体は再び光に包まれ、さらに半分の大きさの五メートルほどになった。すると、顔は未だ竜の顔だが、体つきは人間味になり始めていた。三又だった手が五本指のある手に変わっている。
「これでどうよ!」
「ぬっ!?」
エキドナは地面を蹴ると翼をはためかせて先ほどよりもさらに速い速度で飛んでいく。そして、アグリルの顎に向かって思いっきり膝蹴りした。
それはアグリルの上体を大きく逸らさせるほどであり、大きくがら空きになった胴体に向かって回し蹴りをしていく。
蹴り飛ばすとアグリルの後を追いかけていく。そして、口から細切れにしたブレスを何発も放っていく。
「まだだ!」
「ぐはっ!」
しかし、アグリルは大きく胸を張ってその場に急停止すると大きく右ストレート。その拳圧はブレスを蹴散らしながら、エキドナを物理的に殴っているかのように反対側へ吹き飛ばした。
そして、エキドナを追って超加速して、追い抜くと真上に上がり、エキドナに向かって急降下。エキドナの胴体に両膝が叩き込まれ、そのまま一緒に地面へと叩きつけた。
エキドナ内臓を大きく傷つけられ、口から盛大に血反吐を吐く。すると、アグリルはすかさずエキドナ胴体を殴りにかかる。
「――――――まだよ」
「ぐぬっ!」
だが、その前にアグリルはエキドナの尻尾によって吹き飛ばされた。地面を少し転がったものの、すぐに体勢を立て直すとアグリルはエキドナを見る。
エキドナはさらに半分ほどの大きさになっていた。そして、顔は頬や額に竜鱗が残るもののエキドナの顔をしており、少し長かった首も人らしい長さになり、三又に分かれていた足は竜鱗で出来た靴を履いている。
所々血が流れていて、美しく白い竜燐は血濡れの赤に染まっている。そして、瞳孔は獣の目のように鋭く細くなっている。
「......貴様、どこまで進化するつもりだ」
アグリルは狂気的な笑みを浮かべるエキドナに恐怖のようなものを感じ始めていた。殴れば殴るほど強くなる敵など、確かに恐怖そのものだろう。
「どこまでも......どこまでもよ。ふふ、ふふふふふ、あなたが強くなり続ける限り、私も際限なく強くなる。ああ、これが戦闘本能というやつなのね。強くなることに笑みがこぼれてくる」
「......愚問だったな。貴様は竜人族であった。ならば、そうなることも必然なのだろう―――――とでも納得すると思うか!」
「ぐっ!」
アグリルは激情を爆発させると一気に加速してエキドナを殴り飛ばした。敵が自分を超えるために強くなるのだとしたら、強くなる前に倒すだけのこと。
それだけの一心で、吹き飛ばしたエキドナの尻尾を掴むとそのまま振り回して地面に何度も叩きつけていく。
そして、大きく叩きつけるとすかさずエキドナに渾身の拳を何度も叩きつけていく。それはやはり潜在的に感じた恐怖からの行動かもしれない。
殴って殴って殴って殴り続ける。相手の存在が一部も残らないほど粉々に粉砕して――――――
「痛いじゃない」
「ぐむっ!」
目が合った。鋭い瞳孔をした黄色い目だ。その目と言葉によって一瞬止まってしまったのが悪かった。その隙を逃さなかったエキドナによって、顔面を鷲掴みにされる。
アグリルは咄嗟に顔面を掴むエキドナの手を放そうとした。しかし、微動だにも動かない。ならば、と思って殴っても放す様子はない。
「女の顔をそんなに殴ることないじゃない」
「!」
立ち上がったエキドナの大きさは普段の大きさと変わりないほどまでになっていた。顔の頬や額にあった竜鱗も消えていて、アグリルを掴む手も素肌だ。
それでいて、エキドナを包む体は白い竜装甲で包まれている。少しゴツイパワードスーツを着たような恰好であるが、アグリルはその潜在的に感じる力に恐怖が隠しきれなくなっていた。
「女の顔は夫を立てるためにあると言っても過言じゃないの。その顔を散々殴ってくれるなんて......死んでも許さないわよ」
「がはっ!」
血の付いた顔から放たれる不敵な笑みを浮かべた脅しは普段のエキドナからしたら想像にも出来ない凶悪的なものだった。
エキドナはアグリルの腹部を思いっきり蹴り飛ばすとすぐに一つ息を整える。自分の可能性を信じた究極進化。
「顔は守らなくちゃね。竜闘変化――――――闘の極」
エキドナは光に包まれると大きさをそのままに少しだけ細身になった。そして、光が消えるとエキドナは頭に竜のヘルメットを被り、全身を白い装甲で纏った姿になった。同じく装甲で出来た尻尾と翼の存在がよく目立つ。
「我が.......我が力で負けるだと!? 認めん! 認めんぞおおおおぉぉぉぉ!―――――んなっ!?」
「ただの力馬鹿は私って嫌いなのよね。やっぱり、芯に骨がないと」
アグリルは怒りで自分を振るいだたせるとエキドナの顔面に向かって殴りつける。だが、その攻撃はエキドナの装甲によって弾かれた。
エキドナは防御すらしていない。ただ殴ってきたアグリルを傍観していただけだ。しかし、むしろダメージを受けたのはアグリルの方。
「これまでの全ての痛みを返してあげる」
「んがはっ!」
エキドナは目の前で無防備になっているアグリルに向かって殴りつける。それをアグリルは為すすべもなくボコボコに殴られ続ける。
エキドナはアグリルを思いっきり蹴り上げた。その瞬間、上空に飛んでいったアグリルの姿は瞬く間に小さくなっていく。
その後を追ってエキドナは飛んだ。いや、それはもはや消えたに等しく、一瞬にしてアグリルを抜き去ってその上に立っていた。
そして、今度は殴って地面に叩き落していく。すると、すぐに殴った右手のひらを向けて、左手で支える。
「存在価値すら消してあげる―――――逆鱗の息吹」
エキドナは手のひらに高エネルギーの魔力を溜めていくとそれを一気に撃ち放った。それはアグリルを容赦なく襲い、その姿すらも無くして巨大な爆発を起こした。
その男はガタイの良い二メートルぐらいの大男であるが、十倍以上の竜であるエキドナに比べれば大した大きさでもない。
そして、その大きさに違いが生まれるということは体重差が生まれるということもであり、その体重差は一撃の威力に比例する。
故に、苦戦するはずもないのだが......やはり神の使徒と言うべきなのか。全くもって力の差で圧倒することは出来ない。
現在は何発か殴り合った後だが、竜化しているにもかかわらず突き合せた拳が押し負けるということが発生していた。
エキドナはその事実を払拭するように再び憤怒の使徒―――――アグリルへと大きく拳を振り上げながら、突っ込んでいく。
そして、腕を組んだままのアグリルに加速した勢いを乗せた強烈な一撃を叩き込む。
「ぬるいな。それでは、我の怒りの炎を鎮めることは出来ん」
「かはっ!」
しかし、その一撃はアグリルの左腕一本で受け止められた。それから、そのまま回転し始めると体重差も何も関係なく投げ飛ばした。
エキドナはそのまま地面に叩きつけられる。地面からは地響きが鳴り渡り、僅かに地面が揺れていることがわかる。
「なんのっ!」
エキドナはすぐに立ち上がるとアグリルに向かってブレスを放つ。高温のブレスは空気を灼熱に変えながら、アグリルに突っ込んでいく。
しかし、アグリルは大きく構えた右拳をブレスの前に叩きつけると拳圧だけで蹴散らしていく。だが、その次にはエキドナが迫っていた。
エキドナは手刀に変えた左手を鋭く突き出す。それをアグリルが突き出した右手で受け止めるとすぐにエキドナは右拳でフックを決める。だが、それも反対の手でアグリルに受け止められた。
とはいえ、それでエキドナの攻撃が終わったわけじゃない。竜と人の違いは翼と尻尾だ。エキドナは大きく翼を動かすとアグリルを強引に押し込む。
すると、アグリルは押し込まれまいと力を加えてくる。だが、それはあくまで前方へ力が加わっているだけで、踏ん張っているとしてもそれは空中だ。しかも、それは下向きに力が加わっているということ。
「それっ!」
「ぬっ!? ―――――――ぐっ!」
エキドナは尻尾を使ってアグリルの足を掴むとそのまま真下の地面へと投げ飛ばした。その勢いでアグリルは地面を突っ込んでいく。
エキドナはすかさず急降下しながら、大きく拳を振りかぶって、叩きつけた。
「その程度の速度と威力じゃ話にならんぞ」
「がっ!」
しかし、再び右腕一本で受け止められる。しかも、服が少し土埃がついただけでアグリル本人はほとんどノーダメである。
そして、アグリルはエキドナの拳を振り払うと反対の手で思いっきり腹部に叩きつけた。その瞬間、かなりの大きさの差がありながら、エキドナの体はくの字にひん曲がっていく。
そして、真上に飛ばされると先回りしていたアグリルがエキドナの顔面に回し蹴りを入れて、再び吹き飛ばす。
エキドナはきりもみ状態になりながらも、すぐさま翼で急停止する。しかし、内臓にダメージが入ったのか口元から血が流れ出ている。
「くっ、馬鹿力も厄介ね」
「これが我の唯一にして最強の魔法だからな」
アグリルの魔法は実に単純明快だ。司っている怒りを糧にしてそれを身体能力や攻撃力防御力に回しているのだ。
故に、特に目立った魔法は使えない。しかし、それを上回るほどの圧倒的なまでの力と速さ。ただタフで攻撃力バカだったなら未だしも、異常なまでのタフさで、とんでもない破壊力を持った攻撃力を有しているのだ。
単純な力だけで言えば、クラウン以上だ。だから、もしクラウンがこの相手と戦っていればかなりの苦戦を強いられただろう。
「......何がおかしい?」
「いえ、別に。気にしないで」
だから、嬉しい。こうしてクラウンの役に立てている自分という存在がいることに。クラウンの代わりを出来ていることに。
どこかで役に立ちたいとずっと思っていた。しかし、クラウンは役に立ってくれていると言ってくれていた。
でも、それでは物足りないのだ。自分の気が済まないのだ。自分が抱いた気持ちは、受け取った希望はこんなもので済むほど小さくないから。
ああ、だから思わず嬉しくなる。役に立てているような気分で高揚してくる。そして、勝ったらたくさん褒めて欲しい。
そのためには勝つことが必要で、勝つには力と速さが必要だ。それにこんな大きさの図体では相手に攻撃チャンスを増やしているようなものだ。
もっとコンパクトに、もっと力強く、もっと高速に。自分の覚醒魔力は何だ。<竜闘変化>――――――戦いや環境に応じて自身の肉体を変化させること。
そう、たとえば今のような状況だ!
「む?」
エキドナは魔力を高めていく。そして、自分のイメージする形に体を再構築していく。すると、エキドナの体は光に包まれると同時に、その体積を小さくしていった。
二十メートルほどの大きさがその半分の十メートルほどまで小さくしていく。顔も体も小型の竜種のようなシャープな顔つきと体つきになった。
そして、白い竜鱗はまるで白い鎧を着ているようになった。腕や脚にも所々篭手やすね当てみたいなものがある。
「.......小さくなったな。それで機動力を確保したつもりか?」
「試してみればいいでしょ!」
「!」
エキドナは翼をはためかせると一気に加速した。そして、数十メートル先にいたアグリルの眼前まで近づいていく。
その勢いのまま顔面を思いっきり殴った。その一撃はアグリルを回転させながら吹き飛ばしていく。だが、僅かに鼻血を出させるだけだった。
「威力も増しているな。だが、それまでだ!」
「がはっ!」
エキドナが気づいた時にはアグリルが振りかぶった状態で目の前に現れた。そして、思いっきり振り切った拳をエキドナの頭に直撃し、地面に叩き落される。
大きくできたクレーターの中心に額を切って血を流しているエキドナの姿がある。ボロボロで満身創痍といった感じだ。
しかし、エキドナの闘志は未だ燃えている。力を振り絞り体を起こすと立ち上がり、すぐに思考の再構築を行う。
今ので攻撃力も速さも増した。だが、それでもアグリルに通じるほどではなかった。ならば、通じるまでに再び構築していく。
エキドナの体は再び光に包まれ、さらに半分の大きさの五メートルほどになった。すると、顔は未だ竜の顔だが、体つきは人間味になり始めていた。三又だった手が五本指のある手に変わっている。
「これでどうよ!」
「ぬっ!?」
エキドナは地面を蹴ると翼をはためかせて先ほどよりもさらに速い速度で飛んでいく。そして、アグリルの顎に向かって思いっきり膝蹴りした。
それはアグリルの上体を大きく逸らさせるほどであり、大きくがら空きになった胴体に向かって回し蹴りをしていく。
蹴り飛ばすとアグリルの後を追いかけていく。そして、口から細切れにしたブレスを何発も放っていく。
「まだだ!」
「ぐはっ!」
しかし、アグリルは大きく胸を張ってその場に急停止すると大きく右ストレート。その拳圧はブレスを蹴散らしながら、エキドナを物理的に殴っているかのように反対側へ吹き飛ばした。
そして、エキドナを追って超加速して、追い抜くと真上に上がり、エキドナに向かって急降下。エキドナの胴体に両膝が叩き込まれ、そのまま一緒に地面へと叩きつけた。
エキドナ内臓を大きく傷つけられ、口から盛大に血反吐を吐く。すると、アグリルはすかさずエキドナ胴体を殴りにかかる。
「――――――まだよ」
「ぐぬっ!」
だが、その前にアグリルはエキドナの尻尾によって吹き飛ばされた。地面を少し転がったものの、すぐに体勢を立て直すとアグリルはエキドナを見る。
エキドナはさらに半分ほどの大きさになっていた。そして、顔は頬や額に竜鱗が残るもののエキドナの顔をしており、少し長かった首も人らしい長さになり、三又に分かれていた足は竜鱗で出来た靴を履いている。
所々血が流れていて、美しく白い竜燐は血濡れの赤に染まっている。そして、瞳孔は獣の目のように鋭く細くなっている。
「......貴様、どこまで進化するつもりだ」
アグリルは狂気的な笑みを浮かべるエキドナに恐怖のようなものを感じ始めていた。殴れば殴るほど強くなる敵など、確かに恐怖そのものだろう。
「どこまでも......どこまでもよ。ふふ、ふふふふふ、あなたが強くなり続ける限り、私も際限なく強くなる。ああ、これが戦闘本能というやつなのね。強くなることに笑みがこぼれてくる」
「......愚問だったな。貴様は竜人族であった。ならば、そうなることも必然なのだろう―――――とでも納得すると思うか!」
「ぐっ!」
アグリルは激情を爆発させると一気に加速してエキドナを殴り飛ばした。敵が自分を超えるために強くなるのだとしたら、強くなる前に倒すだけのこと。
それだけの一心で、吹き飛ばしたエキドナの尻尾を掴むとそのまま振り回して地面に何度も叩きつけていく。
そして、大きく叩きつけるとすかさずエキドナに渾身の拳を何度も叩きつけていく。それはやはり潜在的に感じた恐怖からの行動かもしれない。
殴って殴って殴って殴り続ける。相手の存在が一部も残らないほど粉々に粉砕して――――――
「痛いじゃない」
「ぐむっ!」
目が合った。鋭い瞳孔をした黄色い目だ。その目と言葉によって一瞬止まってしまったのが悪かった。その隙を逃さなかったエキドナによって、顔面を鷲掴みにされる。
アグリルは咄嗟に顔面を掴むエキドナの手を放そうとした。しかし、微動だにも動かない。ならば、と思って殴っても放す様子はない。
「女の顔をそんなに殴ることないじゃない」
「!」
立ち上がったエキドナの大きさは普段の大きさと変わりないほどまでになっていた。顔の頬や額にあった竜鱗も消えていて、アグリルを掴む手も素肌だ。
それでいて、エキドナを包む体は白い竜装甲で包まれている。少しゴツイパワードスーツを着たような恰好であるが、アグリルはその潜在的に感じる力に恐怖が隠しきれなくなっていた。
「女の顔は夫を立てるためにあると言っても過言じゃないの。その顔を散々殴ってくれるなんて......死んでも許さないわよ」
「がはっ!」
血の付いた顔から放たれる不敵な笑みを浮かべた脅しは普段のエキドナからしたら想像にも出来ない凶悪的なものだった。
エキドナはアグリルの腹部を思いっきり蹴り飛ばすとすぐに一つ息を整える。自分の可能性を信じた究極進化。
「顔は守らなくちゃね。竜闘変化――――――闘の極」
エキドナは光に包まれると大きさをそのままに少しだけ細身になった。そして、光が消えるとエキドナは頭に竜のヘルメットを被り、全身を白い装甲で纏った姿になった。同じく装甲で出来た尻尾と翼の存在がよく目立つ。
「我が.......我が力で負けるだと!? 認めん! 認めんぞおおおおぉぉぉぉ!―――――んなっ!?」
「ただの力馬鹿は私って嫌いなのよね。やっぱり、芯に骨がないと」
アグリルは怒りで自分を振るいだたせるとエキドナの顔面に向かって殴りつける。だが、その攻撃はエキドナの装甲によって弾かれた。
エキドナは防御すらしていない。ただ殴ってきたアグリルを傍観していただけだ。しかし、むしろダメージを受けたのはアグリルの方。
「これまでの全ての痛みを返してあげる」
「んがはっ!」
エキドナは目の前で無防備になっているアグリルに向かって殴りつける。それをアグリルは為すすべもなくボコボコに殴られ続ける。
エキドナはアグリルを思いっきり蹴り上げた。その瞬間、上空に飛んでいったアグリルの姿は瞬く間に小さくなっていく。
その後を追ってエキドナは飛んだ。いや、それはもはや消えたに等しく、一瞬にしてアグリルを抜き去ってその上に立っていた。
そして、今度は殴って地面に叩き落していく。すると、すぐに殴った右手のひらを向けて、左手で支える。
「存在価値すら消してあげる―――――逆鱗の息吹」
エキドナは手のひらに高エネルギーの魔力を溜めていくとそれを一気に撃ち放った。それはアグリルを容赦なく襲い、その姿すらも無くして巨大な爆発を起こした。
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