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最終章 道化師は神逆する

第295話 決戦の幕開け

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 陽が昇り始める。辺り一面に広がっていた暗がりは次第にその姿を消していき、オレンジ色の日差しの新しい一日が始まる。

 時は明朝。空に昇る太陽はこの世界に希望の光をもたらすように隅々まで光で満たし、同時にこの日だけは最後の光になる可能性すらあった。

 クラウン達は空中を眺める。誰しもが武器を手にして、始まる戦を今か今かと待ち続ける。空には竜人族が竜となっていつでも動けるように待機中だ。

―――――チャプンッ

 水面に一つの滴を落としたような音が僅かに響く。すると、変化は一気に起き始めた。それは空中の空間が波紋を作りながら、大きく揺らいだのだ。

 そして、その波紋の中心には半透明な両開きの扉が現れ、開いていく。その扉から膨大な気配がやってくる。

 白い獣たち―――――神獣だ。天界に住むことが許された神聖なる生き物にして、魔物よりもはるかに優れた力と知能を持つ。さらに、使徒モドキもいる。

 それが現れた扉を覆い隠すように一斉に飛び出してきたのだ。到底まともに相手にする数ではない。ということなので――――――

「第一射撃! 竜人族、放て!」

 響の声とともに空を飛ぶ竜人族総数五十体にも及ぶ竜が一斉にブレスを放った。空に五十本の高威力ブレスが飛び交っていく。

 一つが島半分を消し飛ぶと呼ばれているのだ。それが響の覚醒魔力<勇者に集え戦士達よオールステータスインフィニティ>によって、ステータスが上限まで解放されている。

 なので、その威力は一つのブレスで中くらいの島なら一つは破壊できるほどのデタラメな威力となっている。
 
 その死の一斉射撃は扉から出たばかりの神獣を次々と襲い、焼き殺していく。避けていても熱波で大ダメージを襲うそれはまさに死の一撃と言っても過言ではない。

 だが、そのブレスでもってしても扉を壊すことは出来ず、扉の中にはただ吸い込まれていくのみ。加えて、神獣はそのブレスから避けるようにしながらも、その数を増やしていく。

「第二射撃。リルリアーゼさん、準備はいいですか?」

「システム、オールグリーン。魔力チャージ充填完了。敵の数及び魔法効果範囲の誤差情報、0.2から0.3の範囲、クリア。いつでも発射できます」

「よし。なら、魔術師部隊とリルリアーゼさんは放て!」

 背中から触手のように生やしたいくつものコードの先には小さな砲台があり、さらに五つに先が分かれた主砲から放たれる高エネルギー砲が神獣を襲っていく。

 魔術師部隊の方ではあらかじめ仕掛けてあった魔法陣からさらに大きめの魔法陣が浮かび上がり、太陽光を集めた高エネルギー方が神獣に放たれた。

 リルリアーゼの高エネルギー方は一つ一つに貫通ホーミング性能があり、空中で対象物を狙ってそのエネルギーが尽きるまで縦横無尽に駆け抜ける。

 それを辛うじて避けれたとしても、巨大な高エネルギー砲で跡形もなく消滅されていく。衝撃でも近ければ半身がもげる勢いだ。

 しかし、それでも神獣と使徒モドキは際限なく扉から現れていく。消しても消しても溢れてくるので、とてもラチが明かない。

 そして、その数を活かして強引にもクラウン達場所に詰め寄ってくる。そうなれば、さらに次の手を使うしかない。

「第三者撃! 放て!」

 響がそう言った瞬間、一人一人銃火器を持った兵士達が一斉に上空に砲弾の雨を降らせていった。

 マシンガンのようなものもあれば、ロケットランチャー、ミサイルランチャー、アサルトライフル、グレネードランチャー、スナイパーライフルと多種多様な銃火器に放たれる弾が、太陽の光に輝いて一つの黄金の生物が襲い掛かっていくように着弾していく。

 その雨は一切の神獣と使徒モドキの侵入を許さなかった。小さくて、速くて、避けずらいものが隙間なく襲いかかってくるのだ。逃げる暇すら与えてくれない。

 加えて、竜人族やリルリアーゼの砲撃、魔術師の砲撃も止んだわけではない。それがさらに隙間なく襲い、神獣と使徒モドキをただの肉片と変えて地上にばら撒いていく。

 しかし、限界は来る。魔力に関しても、銃弾に関しても限界はやってくる。一時的に扉から溢れ出てくるところまで押し戻せたけど、弾が尽き初めてその数が衰え始めた時、再び神獣があふれ出し始めた。

 加えて、ブレスや高エネルギー砲を撃つ魔力も尽き初めてきたので、流れを取り戻すように神獣と使徒モドキが向かって来る。

 そうなれば、後は力比べと我慢比べだ。軍の数では神の方はほぼ無限に湧いてきそうなので、数で制圧するのは難しい。

 そうなれば、どちらかが先に大将首を取るかで決着が着く戦いになる。加えて、数がもともとフル人数の世界同盟軍が神の軍勢に制圧される前にという制限時間つき。

「クラウン、準備はいいかしら? これで私達は立派な神逆者よ」

「そうだな。とてもいい響きだ。この日のこの時をずっと心待ちにしていたんだからな。もう後は全てを終わらせるだけだ」

「仁、気を付けて」

「ここの防衛なら任せろ」

「お前さんならやってくれると信じてるぜ」

「朱里達は帰って来るまで必ず耐えるから」

「皆さんに私の御加護を」

 雪姫、ラグナ、カムイ、朱里、スティナの応援の声が飛んでくる。それは先陣メンバーであるクラウン、リリスとその道中を守護するエキドナ、ベル、響に対してだ。

 神はきっと高みの見物しているだろうから、こっちから赴いて殺しに行くしかない。しかし、相手が天界に簡単に潜入させてくれないことは理解している。そのためのメンバーだ。

 行くメンバーは必要最低限で機動力、攻撃力がともにあるもの。そして、残りのメンバーは一般兵ではてこずるであろう使徒モドキに討伐を任せてある。

 防衛重視なのは神なら基本何でもありでえると踏んだからだ。そしたら案の定、ほぼ無限に湧き続ける神獣と使徒モドキが現れた。

 いずれ数で押されるのは目に見えている。それでもせめてもの時間が稼げるような人選でもあるのだ。そして、何よりやってくれると信じているから。

「旦那様、早いとこ行きましょ。敵がもうすぐそこまで来てるわ」

「ああ、わかった。それじゃあ、お前達はアシストを頼む」

「わかりました。無事に通り抜けられるよう空間を維持しておきます」

 クラウンは大精霊に扉の維持を頼むと大精霊は恭しくお辞儀した。それを見届けるとクラウン、リリス、ベル、響は竜化したエキドナ(空)に乗って飛び立っていく。

 空中を最速で飛び回れるようにしてあるエキドナの竜化はまるでジェット機のように高速でい移動して敵陣に突っ込んでいく。

 大抵の神獣や使徒モドキが高速の翼に打ち付けられて絶命していく。そして、正面にいるそれらはエキドナのブレスによって消滅する。

 音速に近い速さで移動しているため、衝撃波で周囲のそれらは吹き飛ばされていく。それでもなお襲いに来る者はベルと響の斬撃の餌食になった。

「三人、強烈な存在感を放つ人がいるわ」

「恐らくトウマが言っていた残りの大罪シリーズだろう。ならば、運ぶのはここまででいい」

「後は私達でいくわ。別に飛べないわけじゃないんだし。あんた達だって魔力は必要でしょ?」

「わかったわ。気を付けて」

「主様の道は必ず作るです」

「仁、派手に決めてこい!」

「ああ、俺は道化師だからな」

 正面から太めの男とガタイの良い男と荒々しい髪をした女が向かって来る。それに対し、エキドナがそのまま突っ込んでいくのを確認するとクラウンとリリスはエキドナの背中から離脱した。

 そしてさらに、ベルと響が離脱してそれぞれの三人に相対する。

「オデ、お前、食う」

「邪魔はさせないです!」

 スキンヘッドをした黒い修道服を着ている太った男―――――暴食を司る神の使徒ブラン対ベル。

「ふん、さすが竜人族というところか。大した力だ」

「こんなもんだと思わないで欲しいわね」

 オールバックで四角い顔をし、黒い修道服を着たゴツイ筋肉隆々の男――――――憤怒を司る神の使徒アグリル対エキドナ。

「ああ! ああ! 羨ましい羨ましい羨ましい! あなたのそのサラサラの髪! つやのある肌! その全てが羨ましくて醜い!」

「あんまりヒステリックにならず、髪を大事にすることが一番だと思うよ」

 黒く長いぼさぼさの髪をして黒い修道服を着ている細身の女―――――嫉妬を司る神の使徒ベネティス対響。

 ブランとベルは長剣と二本の短剣を混じらわせ、アグリルと(闘)スタイルとなったエキドナは拳を突き合わせ、ベネティスと響は硬化したぼさぼさの髪と聖剣をぶつけている。

 そして、三人がそれぞれを足止めしている間にクラウンとリリスは間を抜けて溢れ出る神獣と使徒モドキを退けながら、門の中に突入していく。

 少し粘り気のある膜のようなものを突破すると宇宙空間に誘われたかのような場所に映った。周囲は黒や紫、濃い青といった色が何重にも重なったような色をしていて、星のように光っているのもいくつか確認できる。

 しかし、呼吸は出来るようだ。それにふと後ろを見ると扉の形をした膜の奥に地上の風景が見えている。ということは、これが次元の狭間を移動しているということなのか。

 そして、移動していると次第に正面から同じように扉の形をした出口のようなものが見え、思わず手で光を遮るような眩い輝きを感じる。

 その扉の先をそのまま抜けるとそこは空だった。いや、もっと正確に言えば空に浮かぶ巨大な雲の上。他に雲一つ見えない青空に浮かぶ巨大な積乱雲の上という感じだろうか。

 その雲は少し特殊な構造をしていた。それは雲の床が地面のように固く、そして両端に巨大な柱があって高い天井の屋根を支えている。

 それから、上げるべき特徴は目の前にあるいくつもの階段。その最上段の椅子に座る足を組みながら、見下ろす中性的な顔立ちとスタイルで、ブロンドの一つ縛りをした腕や頬に緑色の蔦のようなタトゥーがある男。

 着ている袖のない修道服の姿はさながら真っ当な神をしていたと言わんばかりの神の使徒と真逆の白色をしている。

 さながら、ここは王の間と言ったところだ。なるほど、決戦場所にはふさわしいところではないか。その醜い王の座を引きずり下ろすという意味でな!

「やあやあ、こんなにも早く来てくれて僕は嬉しいよ。ずっとこの日を待ち望んでいたんだ。希望を抱いて攻めに来る君達を絶望へと叩き落すという、ね」

「御託はいい。さっさと始めようぜ。お前が俺達で弄んだ報いの方が強いか、貴様の愉悦の方が強いか」

「そうだね、始めようか。神話に語り継がれる愚かな者どもの終焉の先をな!」
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