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最終章 道化師は神逆する
第294話 集えよ、意志
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「あ~、なんとか疲れが抜けきったな。返ってきても丸一日寝っぱなしって一体どうなってんだあの水は」
クラウンとリリスが聖王国に戻ってきてあと二日になった夜の日のこと。クラウンはようやく軽くなった体の感触を確かめるように腕を回すと思わず思ったことをぼやいた。
九割ほど準備は整ってきているので、後は当日に備えるためか城下町は思っているよりも静かであった。少し広めの通りにあるベンチに星空を眺めながら、クラウンは座っている。
「そんな大変だったのか?」
すると、横からぼやきに対する質問が帰ってきた。誰が聞いてきたなんて見なくても声で分かる。この声は響で間違いない。
「まあな。いわば切り札の調達だ。もっとも切り札が一つしかない心もとなさはあるがな」
「切り札ってのは自分が出せる最強の技だから『切り札』って言わないか? 切り札がいくつもあったら、それはゲームでいう強攻撃と大して変わらないと思うんだが」
響はクラウンの隣のベンチに座るとクラウンの言葉に返答していく。当たり前のように話せる距離。これがどれほどまで遠かったか二人の想いは計り知れない。
響はクラウンとは対照的に前のめりに俯くとクラウンに突然切り出した。
「仁、これまで悪かった。たとえ全て敵に仕組まれていたことだとしても、僕はずっと謝りたかった。ほんと今になってのタイミングだと思うけど。もうすぐ戦が始まるってことで、後顧の憂いとしてこの言葉だけは先に言いたかったんだ」
「律儀な奴だ。俺が逆の立場だったら、謝ることすらしなかったと思うぞ。現にこうして話しているし、俺自身もお前から謝罪を求めていたわけじゃない。原因はわかっているしな」
「そういうお前の器の広さは相変わらずだな。いや、逆の立場でもこんな風に会話できたのかもな」
クラウンは横目で響を見る。そして、「顔を上げろ」と一言だけ言うと響に返答する。
「俺とお前だぞ? ......肩書は魔王と勇者。表裏一体となるような存在が今こうして夜中に二人で話している時点で、もうこの世界の常識では語れないものになっている。だが、それは当たり前だ。俺とお前はこの世界で生まれたわけじゃない。どちらか一方しか存在できないという仕組みを壊すには十分な理由だろ」
「確かに、正反対の割りには、しっかりと命の取り合いをしたにもかかわらず今や同じ目的のための仲間ってな。今日の敵は明日の友ってことか? 一体いつ時代の青春不良マンガなんだか」
「いや、ストーリーの流れはともかくこれはれっきとしたファンタジーだ。俺達は剣と魔法の世界を生きている。まあ、銃なんて無粋なものもあるが、それでも俺達の人生をマンガに例えるなら、そのジャンルはファンタジー一択だ」
「.......そうだな。生きてて魔法を使うことやましてや剣を振るうこと自体やってくるとは中々に思わないもんな。現にこうして使っている以上、これがファンタジーなのかもな。だったら、俺達が出会ってきた人たちもファンタジーの住人ってことなのかな」
「お前がどっちを信じたいかだ。お前がこれまで死に物狂いで体験してきた出会いや出来事、光景を全て別の夢物語のようにして閉じるのか、現に普通に食わなきゃ死ぬ現実の中でその記憶をこれからも書き綴っていくのか。それによって、決まるだろ」
「仁はどっちなんだ?」
「決まっているろ。これは紛れもない現実だ。俺が経験してきた全て、流してきた涙も血も全て俺の記憶に深く刻みつけられている。そして、その中には死んでも忘れたくない記憶や出会いだって含まれている。俺は俺を救ってくれた今までの仲間達のことを無下には出来ない。したくもない。終わらせたくもない」
「欲望に忠実だな。けど、そういう風に言えるのは素直にすごいと思うよ」
「お前だって言えるだろ。下手に抱え込むな。さっきお前自身が言っただろ『後顧の憂い』って。言いたいことも言えなければ、それがお前の本番での足かせになって死神が命を刈り取るぞ」
「.......」
響はクラウンと同じく空を見上げる。夜空には幾千もの星々が輝いている。見た感じ知っている星座は見つけられないが、それでも星が見えるということはきっと宇宙のどこかでもとの世界と繋がっているのだろうと思われる。
そう考えると、確かにこの世界は現実なのかもしれない。感じてきた怒りも焦りも悲しみも後悔も、そして喜びも楽しさも興奮も安心も尊敬も全て本物だ。
それにこの世界で出会った人との思いを忘れたくない。これからも、一緒にこの先を見ていきたい人だって、いつまでも憧れの人と仲良く話したい人だっている。この気持ちに決して嘘はない。
「僕もこの世界は現実だと思う。手放したくない想いがもう心の中に溢れんばかりであるんだ。それを全て夢物語でしたなんてしたくないし、それこそ寝覚めが悪そうだ。まだ紡ぎ始めた新たな想いだってあるんだ。こんなしょうもないことで僕はこの思い出を汚したくない」
響は不意に立ち上がる。そして、座るクラウンの前に立つと自分の想いを宣言するように拳を握り、ハッキリとした声で告げた。
「僕は勇者だ。肩書でもなんでも構わない。けど、『勇気ある者』として居続けたいことは確かなんだ。だから、この想いを無駄にさせないためにも僕はどんなことがあろうとも力強く立ち向かうよ。皆が挫けそうになった時に、一番に前に立って引っ張っていく存在―――――それが僕の勇者としての在り方だ」
「......そうか。まあ、聞いてる分にはテンプレの勇者そのままだがな」
「おいおい、茶化さないでくれよ。これこそ勇気出して言ったことなんだぞ......って、あ」
「どうした?」
「なんか覚醒魔力を得たみたい」
「.......ぷっ、くくく、はははははは!」
「あ! 今、お前! 『こいつ、しょうもない感じで固有魔法得たな』と思って笑ってるだろ!」
「ち、ちが......ははははは!」
「こんの! それは思っても笑わないのが優しさってもんだろ!」
恥ずかしがって顔を赤面させる勇者とそれを笑う魔王。夜は一段と更けていった。
************************************************
時は進み、決戦まで残り30分を切った。
「急に呼び出して悪かったな。だが、お前達の協力が不可欠だ。よろしく頼む」
「私が思っていたのとは少し違いましたが、これもまたあなた様とのあり方なのかもしれませんね。まさか、その力を有しているとは思いませんでしたが、あなた様がその力で契約してくださったおかげで私達は十全に動くことが出来ます。その力をあなた様のために振るえるのでしたら、なんなりと」
クラウンの言葉に返答したのは女性なら羨ましがる美貌を持ち、ブロンドの髪が艶やかに伸びる羽を生やした大精霊であった。
実はクラウンが聖王国に戻る前に急いで竜宮城の大精霊に会いに行って頼みごとをしたのだ。それは戦力のためでもあり、クラウン達が移動中に天界とこの世界のパスが切れないための保険でもある。
「ねぇねぇ、雪姫。あの人ってまさか......」「いや、仁に限ってそれは......でも、仁ってこの世界に入って急に天然ジゴロになったし」「ベル、もともとあんなに距離近かったの?」「いえ、私達があった時はほとんど話したところは見てないです。ですが、もしかするともしかするです」「ふふっ、何人でもOKよ。受け入れ準備万全よ」「ま、まままマスターがついに精霊にまで手を出して......!」
「なにやらすごいことになってますね」
「あれはかかわるも地獄、かかわらないも地獄の厄介な奴だ。無視しろ。無視」
もちろん、そのためだけに呼んだのだが、関係性をあまりしならいリリス達女性陣はあらぬ噂に大盛り上がり。
女性は三人寄れば「姦しい」と言われるが、六人で「姦姦しい」の場合はなんと言われるのだろうか。そんなくだらないことが頭をよぎっていくし、後ろのざわめきがうるさい。
「ちょっと、騒がしいから蹴散らしてくる」
「火に油と思いますが.......」
クラウンはリリス達に詰め寄っていくと事情を説明しに行く。しかし、アリ地獄にはまったアリのようにリリス達の猛攻する質問攻めとくだらない話でクラウンは引きずり込まれるように取り囲まれる。
そんな様子を見ていたカムイとラグナは大笑い。「どうやら魔王も嫁には勝てまい」と言いながら、面白おかしく一杯だけ酒を煽っている。
また別の場所では混ざりたそうにしているシスティーナを止めているルナの姿もあったり、決戦前のボディメンテナンスを行うエルフの姿があったり、自慢の道具を決戦前のために磨き上げるドワーフがいたりする。
そして、また一方では緊張気味でソワソワしている響の背中をさするスティナとそんな二人を見るエルザの姿があった。
「だ、大丈夫かな。なんか、すごい緊張してきた」
「大丈夫ですよ。響さんなら皆の心を動かすことが出来ます。私は信じてますから。だって、未来の夫なのですよ?」
「ちょ、スティナ? なんかサラッととんでもないこと言わなかった? それは逆にプレッシャーだったからね?」
「そうだそうだ。大丈夫だ。魔王を殺し損ねるほどの甘ちゃんなんだから、皆の甘いところならよく突き刺さるだろ」
「エルザ様! それってなんのフォローにもなってないです! むしろ、心抉ってますから!」
響はとんちんかんな励ましをする二人に思わず突っ込む。しかし、大声を出したおかげか少しだけ心に余裕が生まれた気がした。
すると、リリス達女性包囲網から抜けたクラウンが響の肩を叩く。
「時間だ」
「.......わかった」
響はコクリとうなづくと整列した世界同盟軍の目の前にある少し高い台に上っていく。少し見ただけでものすごい数の人達がいる。
そして、その周りにはいくつもの砲台や等間隔で穴の開いた壁。大きく描かれたいくつもの魔法陣と様々なものが見える。
響は一つ深呼吸すると大声で告げた。
「諸君! よく集まってくれた! 今宵はこの世界を滅ぼそうとする神―――――否、邪神との聖なる一戦となるだろう! 敵は邪神とはいえ神だ! 想像にもつかない過酷な戦いが待ち受けている! 神という存在だけで戦意を失っているものもいるかもしれない!」
響は少し悔しそうに拳を握るとさらに大きな声を出した。
「だが!! それでもこうして戦いを選んだのは、絶望をまき散らそうとする邪神を許せないからだ!! 僕達が体験した、多くの血が流れた出来事は全て邪神が仕掛けたこと!! このままにして良いだろうか!! 断じて否だ!! このままにしておけるわけがない!!」
響の声にビクッとした兵士一同は思わず響に注意を向ける。人心掌握開始だ。
「僕達には愛すべき人がいる!! 僕達には守るべき家族がいる!! 僕達には歩むべき未来がある!! ともに過ごしたい大切な人達とのこれからに一生をこんな所で邪神ごときに潰されていいものだろうか!! いいわけがない!! 人によって守る想いは様々だ!! その様々な想いを胸に心を震わせろ!!」
響は聖剣を鞘から抜くと天高く掲げる。徐々に空が明るくなり、昇ってきた太陽の光が聖剣に当たり眩く輝く。
「僕はこの世界を守りたい!! どうかその力添えをして欲しい!! 僕は勇者であるが同時に人でもある!! 人は互いに助け合うことで様々な困難を乗り越えて今に至る!! そう僕達は心を一つに戦えば邪神すら倒せる力が湧くのだ!!」
その瞬間、兵士一同の体に黄色いオーラが纏い始めた。そのオーラは冷え切った心を温めるように心地よく、同時に力が漲ってくる。
これは響が得た覚醒魔力<勇者に集え戦士達よ>による効果。人が持つステータスの上限まで意図的に能力を上げるのだ。
それを兵士一同は力が漲ってきたと勘違いしている。人心掌握、完了。
「僕に集った本物の勇気ある者達よ!! この力を持ってして僕達が望む世界を手に入れようぞ!!」
「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉ!!!」」」」」
「決戦の時だ!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
クラウンとリリスが聖王国に戻ってきてあと二日になった夜の日のこと。クラウンはようやく軽くなった体の感触を確かめるように腕を回すと思わず思ったことをぼやいた。
九割ほど準備は整ってきているので、後は当日に備えるためか城下町は思っているよりも静かであった。少し広めの通りにあるベンチに星空を眺めながら、クラウンは座っている。
「そんな大変だったのか?」
すると、横からぼやきに対する質問が帰ってきた。誰が聞いてきたなんて見なくても声で分かる。この声は響で間違いない。
「まあな。いわば切り札の調達だ。もっとも切り札が一つしかない心もとなさはあるがな」
「切り札ってのは自分が出せる最強の技だから『切り札』って言わないか? 切り札がいくつもあったら、それはゲームでいう強攻撃と大して変わらないと思うんだが」
響はクラウンの隣のベンチに座るとクラウンの言葉に返答していく。当たり前のように話せる距離。これがどれほどまで遠かったか二人の想いは計り知れない。
響はクラウンとは対照的に前のめりに俯くとクラウンに突然切り出した。
「仁、これまで悪かった。たとえ全て敵に仕組まれていたことだとしても、僕はずっと謝りたかった。ほんと今になってのタイミングだと思うけど。もうすぐ戦が始まるってことで、後顧の憂いとしてこの言葉だけは先に言いたかったんだ」
「律儀な奴だ。俺が逆の立場だったら、謝ることすらしなかったと思うぞ。現にこうして話しているし、俺自身もお前から謝罪を求めていたわけじゃない。原因はわかっているしな」
「そういうお前の器の広さは相変わらずだな。いや、逆の立場でもこんな風に会話できたのかもな」
クラウンは横目で響を見る。そして、「顔を上げろ」と一言だけ言うと響に返答する。
「俺とお前だぞ? ......肩書は魔王と勇者。表裏一体となるような存在が今こうして夜中に二人で話している時点で、もうこの世界の常識では語れないものになっている。だが、それは当たり前だ。俺とお前はこの世界で生まれたわけじゃない。どちらか一方しか存在できないという仕組みを壊すには十分な理由だろ」
「確かに、正反対の割りには、しっかりと命の取り合いをしたにもかかわらず今や同じ目的のための仲間ってな。今日の敵は明日の友ってことか? 一体いつ時代の青春不良マンガなんだか」
「いや、ストーリーの流れはともかくこれはれっきとしたファンタジーだ。俺達は剣と魔法の世界を生きている。まあ、銃なんて無粋なものもあるが、それでも俺達の人生をマンガに例えるなら、そのジャンルはファンタジー一択だ」
「.......そうだな。生きてて魔法を使うことやましてや剣を振るうこと自体やってくるとは中々に思わないもんな。現にこうして使っている以上、これがファンタジーなのかもな。だったら、俺達が出会ってきた人たちもファンタジーの住人ってことなのかな」
「お前がどっちを信じたいかだ。お前がこれまで死に物狂いで体験してきた出会いや出来事、光景を全て別の夢物語のようにして閉じるのか、現に普通に食わなきゃ死ぬ現実の中でその記憶をこれからも書き綴っていくのか。それによって、決まるだろ」
「仁はどっちなんだ?」
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「お前だって言えるだろ。下手に抱え込むな。さっきお前自身が言っただろ『後顧の憂い』って。言いたいことも言えなければ、それがお前の本番での足かせになって死神が命を刈り取るぞ」
「.......」
響はクラウンと同じく空を見上げる。夜空には幾千もの星々が輝いている。見た感じ知っている星座は見つけられないが、それでも星が見えるということはきっと宇宙のどこかでもとの世界と繋がっているのだろうと思われる。
そう考えると、確かにこの世界は現実なのかもしれない。感じてきた怒りも焦りも悲しみも後悔も、そして喜びも楽しさも興奮も安心も尊敬も全て本物だ。
それにこの世界で出会った人との思いを忘れたくない。これからも、一緒にこの先を見ていきたい人だって、いつまでも憧れの人と仲良く話したい人だっている。この気持ちに決して嘘はない。
「僕もこの世界は現実だと思う。手放したくない想いがもう心の中に溢れんばかりであるんだ。それを全て夢物語でしたなんてしたくないし、それこそ寝覚めが悪そうだ。まだ紡ぎ始めた新たな想いだってあるんだ。こんなしょうもないことで僕はこの思い出を汚したくない」
響は不意に立ち上がる。そして、座るクラウンの前に立つと自分の想いを宣言するように拳を握り、ハッキリとした声で告げた。
「僕は勇者だ。肩書でもなんでも構わない。けど、『勇気ある者』として居続けたいことは確かなんだ。だから、この想いを無駄にさせないためにも僕はどんなことがあろうとも力強く立ち向かうよ。皆が挫けそうになった時に、一番に前に立って引っ張っていく存在―――――それが僕の勇者としての在り方だ」
「......そうか。まあ、聞いてる分にはテンプレの勇者そのままだがな」
「おいおい、茶化さないでくれよ。これこそ勇気出して言ったことなんだぞ......って、あ」
「どうした?」
「なんか覚醒魔力を得たみたい」
「.......ぷっ、くくく、はははははは!」
「あ! 今、お前! 『こいつ、しょうもない感じで固有魔法得たな』と思って笑ってるだろ!」
「ち、ちが......ははははは!」
「こんの! それは思っても笑わないのが優しさってもんだろ!」
恥ずかしがって顔を赤面させる勇者とそれを笑う魔王。夜は一段と更けていった。
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時は進み、決戦まで残り30分を切った。
「急に呼び出して悪かったな。だが、お前達の協力が不可欠だ。よろしく頼む」
「私が思っていたのとは少し違いましたが、これもまたあなた様とのあり方なのかもしれませんね。まさか、その力を有しているとは思いませんでしたが、あなた様がその力で契約してくださったおかげで私達は十全に動くことが出来ます。その力をあなた様のために振るえるのでしたら、なんなりと」
クラウンの言葉に返答したのは女性なら羨ましがる美貌を持ち、ブロンドの髪が艶やかに伸びる羽を生やした大精霊であった。
実はクラウンが聖王国に戻る前に急いで竜宮城の大精霊に会いに行って頼みごとをしたのだ。それは戦力のためでもあり、クラウン達が移動中に天界とこの世界のパスが切れないための保険でもある。
「ねぇねぇ、雪姫。あの人ってまさか......」「いや、仁に限ってそれは......でも、仁ってこの世界に入って急に天然ジゴロになったし」「ベル、もともとあんなに距離近かったの?」「いえ、私達があった時はほとんど話したところは見てないです。ですが、もしかするともしかするです」「ふふっ、何人でもOKよ。受け入れ準備万全よ」「ま、まままマスターがついに精霊にまで手を出して......!」
「なにやらすごいことになってますね」
「あれはかかわるも地獄、かかわらないも地獄の厄介な奴だ。無視しろ。無視」
もちろん、そのためだけに呼んだのだが、関係性をあまりしならいリリス達女性陣はあらぬ噂に大盛り上がり。
女性は三人寄れば「姦しい」と言われるが、六人で「姦姦しい」の場合はなんと言われるのだろうか。そんなくだらないことが頭をよぎっていくし、後ろのざわめきがうるさい。
「ちょっと、騒がしいから蹴散らしてくる」
「火に油と思いますが.......」
クラウンはリリス達に詰め寄っていくと事情を説明しに行く。しかし、アリ地獄にはまったアリのようにリリス達の猛攻する質問攻めとくだらない話でクラウンは引きずり込まれるように取り囲まれる。
そんな様子を見ていたカムイとラグナは大笑い。「どうやら魔王も嫁には勝てまい」と言いながら、面白おかしく一杯だけ酒を煽っている。
また別の場所では混ざりたそうにしているシスティーナを止めているルナの姿もあったり、決戦前のボディメンテナンスを行うエルフの姿があったり、自慢の道具を決戦前のために磨き上げるドワーフがいたりする。
そして、また一方では緊張気味でソワソワしている響の背中をさするスティナとそんな二人を見るエルザの姿があった。
「だ、大丈夫かな。なんか、すごい緊張してきた」
「大丈夫ですよ。響さんなら皆の心を動かすことが出来ます。私は信じてますから。だって、未来の夫なのですよ?」
「ちょ、スティナ? なんかサラッととんでもないこと言わなかった? それは逆にプレッシャーだったからね?」
「そうだそうだ。大丈夫だ。魔王を殺し損ねるほどの甘ちゃんなんだから、皆の甘いところならよく突き刺さるだろ」
「エルザ様! それってなんのフォローにもなってないです! むしろ、心抉ってますから!」
響はとんちんかんな励ましをする二人に思わず突っ込む。しかし、大声を出したおかげか少しだけ心に余裕が生まれた気がした。
すると、リリス達女性包囲網から抜けたクラウンが響の肩を叩く。
「時間だ」
「.......わかった」
響はコクリとうなづくと整列した世界同盟軍の目の前にある少し高い台に上っていく。少し見ただけでものすごい数の人達がいる。
そして、その周りにはいくつもの砲台や等間隔で穴の開いた壁。大きく描かれたいくつもの魔法陣と様々なものが見える。
響は一つ深呼吸すると大声で告げた。
「諸君! よく集まってくれた! 今宵はこの世界を滅ぼそうとする神―――――否、邪神との聖なる一戦となるだろう! 敵は邪神とはいえ神だ! 想像にもつかない過酷な戦いが待ち受けている! 神という存在だけで戦意を失っているものもいるかもしれない!」
響は少し悔しそうに拳を握るとさらに大きな声を出した。
「だが!! それでもこうして戦いを選んだのは、絶望をまき散らそうとする邪神を許せないからだ!! 僕達が体験した、多くの血が流れた出来事は全て邪神が仕掛けたこと!! このままにして良いだろうか!! 断じて否だ!! このままにしておけるわけがない!!」
響の声にビクッとした兵士一同は思わず響に注意を向ける。人心掌握開始だ。
「僕達には愛すべき人がいる!! 僕達には守るべき家族がいる!! 僕達には歩むべき未来がある!! ともに過ごしたい大切な人達とのこれからに一生をこんな所で邪神ごときに潰されていいものだろうか!! いいわけがない!! 人によって守る想いは様々だ!! その様々な想いを胸に心を震わせろ!!」
響は聖剣を鞘から抜くと天高く掲げる。徐々に空が明るくなり、昇ってきた太陽の光が聖剣に当たり眩く輝く。
「僕はこの世界を守りたい!! どうかその力添えをして欲しい!! 僕は勇者であるが同時に人でもある!! 人は互いに助け合うことで様々な困難を乗り越えて今に至る!! そう僕達は心を一つに戦えば邪神すら倒せる力が湧くのだ!!」
その瞬間、兵士一同の体に黄色いオーラが纏い始めた。そのオーラは冷え切った心を温めるように心地よく、同時に力が漲ってくる。
これは響が得た覚醒魔力<勇者に集え戦士達よ>による効果。人が持つステータスの上限まで意図的に能力を上げるのだ。
それを兵士一同は力が漲ってきたと勘違いしている。人心掌握、完了。
「僕に集った本物の勇気ある者達よ!! この力を持ってして僕達が望む世界を手に入れようぞ!!」
「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉ!!!」」」」」
「決戦の時だ!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
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