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第13章 道化師は奪還し、刃を立てる

第287話 光と闇が共闘する時

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 時は少し戻ってクラウンがリリス救出へと乗り出した一方の響サイド。

 響は目の間にいるレグリアに向かって思いっきり聖剣を振り下ろしていた。しかし、方腕を剣状に変えたレグリアがその腕一本で響の両腕を使った剣攻撃を耐えていて、もう反対の腕の裾から拳銃を取り出すとスッと響に向ける。

 パンッと銃声が鳴るがそれよりも素早く身をひるがえしたおかげで響は被弾を逃れる。そして、すぐに斬撃を幾重にも発射する。

 レグリアはもう隠すこともやめたのか手に持っていた拳銃を投げると拳銃を持っていた腕を剣状に返る。そして、背中から四本の腕を生やし、そのうち一つで投げた拳銃を受け取る。

 さらにもう三本は既に銃を持っているのか銃口を響に向ける。しかも、それぞれ違う銃だ。一つが一般的な拳銃、一つがハンドマシンガン、一つがショットガン、一つがライフルであった。

 そして、迫ってきた斬撃を両腕で蹴散らすと右肩の上からセットされたハンドマシンガンを射撃し始めた。一直線に広範囲の乱弾が響に向かっていく。

「それがお前の能力か!」

「ええ、そうですよ。もっともあなた方には私をことは出来ないので早く降参することをおススメしますが」

「まだ始まったばかりだろ!」

 響は大きく旋回するように動き始めるとその無数に放たれる銃弾を避けていく。そして、ある程度距離が取れると一気に近づいていく。

 すると、レグリアの左脇の方からショットガンの銃口が顔を覗かせ、接近してきた響にマシンガンよりも範囲は狭いが強力な散弾の雨を降らせていく。

 響はその散弾の雨を驚異的な動体視力と反射神経で必要な弾丸だけ斬って前に進む。すると、いきなり明らかに威力や速度で劣る拳銃を射撃してきた。

 緩急をつけて銃を撃つにしても速いのから遅いのにしても意味がない。しかし、接近してきて小回りが利くからといって拳銃をレグリアが選ぶとは思えない。

―――――――バッ!

「かっ!」

 その瞬間、左の太ももに鋭く激しい痛みが走った。何かが貫通した感じが痛みとともにわかってくる。それによって、思わず体が前方に倒れていく。

 響はふと見つけた、何が起こったのかを。それはレグリアの右脇腹から僅かに覗かせている銃口。あれはライフルだ。

 拳銃も当たればダメージになるし、当たりどころが悪ければ一撃死する。それに音も出るので思わず注意がレグリアの左腕方面に向いていたところを影から高速の弾丸で撃たれた。

「くくく、やはり兵器とやらは素晴らしい。この英知を授けてくださった主には感謝しないと」

「こんな所で終わると思うなよおおおおおぉぉぉぉ!」

 レグリアは響に向かって鋭いブレードとなった両腕を振るって三等分に切り刻まんとす。しかし、響は地面に倒れ込む直前に片手を地面につけて、そのまま地面スレスレに足を前に動かしていく。

「んなっ!」

 そして、振り下ろされてきた両腕を前に出したそれぞれの足で受け止める。一瞬のレグリアの硬直のうちに脚を戻し、聖剣を持ったを思いっきり横に振るい斬撃を放った。

 ゼロ距離からの光瞬く斬撃。しかも、レグリアは防がれると思っていなかった体勢から防がれたので、反応がコンマ遅れる。その結果は―――――両断だ。

 レグリアの体は上半身と下半身にキレイに別れて、放たれた斬撃とともに前に吹き飛んでいく。その後を追うに上半身を腹筋を使って立たせ、しゃがんだ状態になって素早く跳躍する。

「甘く見ないことですね」

 するとその時、逆さになっているレグリア上半身は両腕を大きく広げると残りの四つの腕から銃弾を一斉射出させた。

 速度の違う高速の弾や広範囲の乱弾が一気に迫りくる。しかし、響は冷静だった。その弾丸がしっかりと迫りくることを読んでいた。

「それはさっき見たからもう通じない。それに勇者この力を与えたのはお前達だろ?――――――不浄の絶盾たて!」

 響は手に持っていた聖剣を地面に突き刺すとその聖剣が光り輝き、響の正面に光の壁が出来る。そして、その光に銃弾が当たると一瞬にして消失していく。

 レグリア上半身はそのまま地面を転がっていく。それが咄嗟の攻撃だったのか受け身もしようとせず。否、魂胆はわかっている。

 響は聖剣から手を放し素早く背後を振り向くと同時に回転した勢いで足を高速で打ち出す。すると、レグリア下半身が同じようにして回し蹴りをしてきていた。

 二つの蹴りは同時に激しく打ち付けあい、バヂンッと一瞬大気が爆ぜたような音がした。しかし、それで互いの蹴りは収まることはなくどちらかが負けを認めるまで引かない様子だ。

 とはいえ、両者には大きな違いがある。それは上半身があるかないかだ。レグリアは上半身と下半身を独立して動かしている。故に、動かせるパーツが圧倒的に少ないのだ。

 対して、当たり前の話だが響には上半身がある。それにたとえ聖剣が無くても使える魔法はある。そう、例えば皮肉たっぷりなこの魔法とか。

「光罰!」

  この世界に最初にレグリア教皇から教えてもらった魔法であり、操らていたとはいえ親友をその手にかけようとした忌むべき魔法。

 どうせ忌むべき魔法を使うなら、もっとも敵だと思う存在に使うのがベストだろう。その敵が誰かは言わずもがなだ。

 響は咄嗟に左手を突き出すとその手のひらから収束させた光を放ち始めた。その光は正面にいたレグリア下半身を容赦なく襲い、地面を抉り、家の次々を貫通し破壊していった。

 打ち出した反動で少しよろめきながらも、すぐに体勢を整えると背後にある聖剣を手に取って、その奥にいるレグリアを見た。

「......やっぱり、もとに戻るよな」

「くくく、だから言ったでしょう? 私を殺しきることは出来ないと」

 響の目線の先には下半身が元通りに生えたレグリアの姿があった。正直、こうなることは予感していた。

 最初にレグリアがクラウンに刎ね飛ばされた首をつけた時には再生能力を持つアンデッドか何かだと思っていた。

 しかし、腕を生やした時点でアンデッドという選択肢は消えた。アンデッドはあくまで人の屍が動くものだ。魔法で再生能力があったとしても、腕を生やすとかはない。

 しかし、再生能力を持っているという時点でほとんどの候補を潰えるだろう。そんな魔法はスライムのような粘液状の魔物か、人の手によって作られたキメラだ。

 そして、そのどちからで判断するならばまず間違いなく後者と選択するだろう。雪姫達の聞いた話によるとレグリアはもとは神に作られた存在と聞く。

 まあ、きっと神に作られたという時点でそれだけの判断は不味いのかもしれないが、逆に言えばそれ以上に判断する情報材料が無いのだ。

 推測的戦いは確証が無くて不意打ちに弱いから出来れば避けたいのだが、ここまで来た以上はその判断こそ愚策だろう。

 そして何より、自分がこの場から逃げたくないのだ。ようやく、ようやくこれまでの屈辱を全て晴らせる時が来たのだ。

 相手が斬っても死なないからって逃げ出す理由にはならない。それに人であれ、人形であれ動くならば必ず弱点があるはずだ。それが現状わからないだけで、逃げ出す理由にはならない。

「くくく、斬っても死なない相手に臆せず戦うあたり......これこそ勇者と呼ぶのでしょうか。はたまた蛮勇と呼ぶのでしょうか。どちらにせよ、私は

「!」

 レグリアがそう吐き捨てるとレグリアの体が横の伸び始めた。体の縦の中心線から両サイドの引っ張られるように。

 するとやがて、伸びた頭が分裂し始めた。ケルベロスのように一つの胴体から二つの頭が出来上がったのだ。

 それだけに収まらず、レグリアの体はどんどん分かれていき、やがて体積をそのままに二人のレグリアへの分裂した。

 恐らくわざとゆっくり見せたのはこれがただの分身ではないと示すためのものかもしれない。はたまた、そう思わせることを目的としたデコイか。

「それが本当の魔法か?」

「ええ、私達神の使徒は司る大罪によって使える魔法が違います。過去に死んだ色欲は相手を欲情色香で翻弄するという意味から精神魔法を使い、強欲はわがままに欲するのですから相手の能力値や魔法を奪うという強奪魔法を使います。怠惰なんかは怠けるということですから、相手の行動を遅くさせるという遅動魔法ですかね」

「なら、お前のは?」

「くくく、真正面から聞いてくるとは、まあ別にいいでしょうあなたにどうこうできるとは思いませんし」

 一体のレグリアは両腕をブレードに変えると響に向かって突っ込んでくる。もう一体のレグリアはその場を動かず背中から生えた腕に持った銃を両方ともライフルに変えている。

 突っ込んできたレグリアにも分裂した際に残った腕が肩の上から銃を持って構えており、ハンドマシンガンとライフルを見せつけるようにして、威嚇する。

「仕方ない。もう使うか」

 響はそう呟いて上段に構えると一回だけ大きく息を吸った。その瞬間、響の周りには輝かしい白い魔力は溢れ出し、黒かった髪を真っ白に染め上げて、背中に光の翼を生やしていく。

 響の<神格化>だ。相変わらずの代償持ちだが、それでもここを乗り切るためには覚悟していたことだ。

 向かって来るレグリアはハンドマシンガンで広範囲に銃弾を撃ち放つ。そして、もう一つのライフルがハンドマシンガンの乱弾に紛らわせて高速の銃弾を撃つ。

 しかし、響の<神格化>は全ての能力を引き上げるもの。それは動体視力や反射神経とて例外ではない。向かってきた死の鉛玉の一つを斬る。オレンジ色の火花を上げながら、聖剣の左右を飛んでいく。

 それから、ガガガガガッと連続で向かって来る銃弾を全て斬り払って行くとそのままレグリアの振りかぶった右腕に合わせて聖剣を振るう。

「私が司るのは傲慢。簡単に言えばプライドですね。プライドは生物が持つ最低限度の意地です。そして、それによる感情は無数にある。故に、私の魔法は取り込んだ魂の数ほど命のストックがあるのです。その数は105ほど。思ったよりも減ってしまいましたがこれほどあるのです」

 響はレグリア一体のブレードを斬り裂くと聖剣を右手に持ち替えてそのまま腕を素早く引き、肩から見える二本の腕を突きで斬り飛ばす。

「そして、分身しても能力値はほとんどかわらない。しかも、人を殺すようにしっかりと殺さなければ死ぬことはなく、ストックも当然消費されない」

 一体のレグリアが悠然と解説する一方で、響と交戦しているレグリアは残りの左腕を横薙ぎに振るう。その攻撃を響は余っている左手で右腕の下から通すようにして、レグリアの腕を掴む。

「なら、一体一体着実に倒すだけだ」

 響はレグリアの胴体を蹴ると少し距離を取り、伸ばしたままの右腕をそのまま振るってレグリアを袈裟切りに両断する。

 すると、両断したレグリアの先にもう一体のレグリアが肩に携えた二つのライフルで狙いを定めていた。

「―――――そういうことだな」

 ふと声が聞こえた瞬間、突然目の前にいたレグリアの頭が刎ねて空中に飛び出していく。そんなことをやってのけるのは一人しかいない。

「仁、思ったよりも早かったな」

「お前が手間取ると思ってな」

「相変わらず変に勘の鋭いやつだな」

 響の目の前に現れたのは仁ことクラウンである。そして、しかもクラウンはすでに<魔王化>していた。

 斬られたレグリアはその数を二乗の数に変えていく。つまり斬られて別れたのは四つなので、その二乗の数の十六。

 それらは響とクラウンを囲むようにして立ちすくんでいる。すると、二人は背中合わせになって互いに武器を構える。

 そして、不敵な笑みで告げた。

「「さあ、勇者と魔王の共闘を始めようか!」」
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