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第12章 道化師は集めきる

第274話 災来の知らせ

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 飛空艇から急いで脱出したクラウンは海に落ちていく飛空艇を見ながら、他に何かが現れないか気配を確認していく。

 飛行艇は獅子の顔の方から大きな風穴が空いており、その船体に見る限り危なっかしい紫電を纏わせている。すぐに爆発しなかったのは幸いなのだろうか。

 やがて、飛空艇はそのまま海面に大きな水しぶきを上げながら着水していく。すると、穴の開いた部分に海水が侵入していき、海に紫電が伝っていく。

―――――――ドガアアアアアアアァァァァンッッッ!

 船体が海に入ってから数秒後、巨大な水柱が天高く昇っていく。その衝撃の余波は竜宮城まで余裕で届いており、飛空艇が落ちた海岸線付近にいたベルやラグナ、その他家屋は吹き飛ばされていく。

 当然、クラウンもエキドナ達も例外ではない。クラウンはそれだけで体の制御が利かないほど上空へと回転しながら吹き飛ばされていき、エキドナ達はブレスを放つため密集形態になっていたにもかかわらず、それも関係ないかのように遠くへ吹き飛ばした。

 水柱は十数秒経とうとしても未だ天を目指してどこまでも上に伸びていた。それは一体何メートルあって、太さはどれぐらいなのだろうか。

 少なくとも、普通の山よりも圧倒的に高い位置まで水が昇っている。三千メートル近く伸びているんではなかろうか。

 そして、一分ほどしたところでようやく半分の高さまで水が落ちていった。それからさらに、三十秒ほどで全てが海に沈んだ。

 海面は大きく波打ち、嵐でもないのに大シケである。それもいくつものうねりがある感じではなく、一つの大きな波が右往左往と動いているような揺れ。

 加えて、上空からは大きすぎる雨粒が豪雨のごとく降り注ぐ。水柱が出来た時の影響なのだろうが、バケツどころか浴槽をひっくり返したような雨であった。

 それは凄まじいほどの青天でありながら、雨は豪雨の如く。しかし、これも数分も経てば次第に弱まってきて、やがて降らなくなった。

 クラウンは回転とは逆方向に<極震>を回数を重ねて打つことで回転数と速度を徐々に減らしていき、ある程度速度が落ちた所で無理やり止める。

「.......酔った........」

 クラウンが頭を抱えてまず言った言葉がそれであった。まるで自身が駒となったかのように回転していたのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 しかし、普段は三半規管がしっかりしているクラウンが酔いに犯されるとどうなるか。結果は――――――落ちるだ。

 空中を足場にすることも魔力を集中して使うことで出来る魔法だ。それをいくら無意識に近い状態でやっているとはいえ、そもそも集中できる状態になければ使うことはできない。

 そして、クラウンは雲の中にいるような高さから下に落ちていく。だが、クラウン自身は身の安全を全く心配していなかった。

 なぜなら、おせっかいなほどに近くにやってくる仲間がいるからだ。

「旦那様! 無事かしら!?」

「ああ、少し酔っただけだ」

 クラウンが重力加速度で加速していく前にエキドナが両手でクラウンをキャッチする。そして、その場で止まると手のひらに乗ったクラウンの様子を見て嬉しそうな笑みを浮かべる。

「悪いな。俺達を探していただけだろうに余計な戦いに巻き込んでしまって」

「いいわよ。旦那様がいる場所が私のいる場所だもの。それよりも今はゆっくり休んだ方がいいわ。外傷はなさそうだけど、あれほどの衝撃波に近くで直撃したんですもの。内臓が傷つけられている可能性もあるわ」

「超回復を使っていればなんとなかる」

「ダメよ。そんな状態でも無事なことは知っているけど、それでもダメ。私の心配が拭えないし、何よりまだ会ってないあの子が生霊になって出てくるかもよ?」

「それは怖いな。なら、仕方ないか」

 エキドナはクラウンを手のひらに乗せたまま竜宮城に向かって滑空していく。その風を浴びながらクラウンは体の治療に専念し、片手間に話しかける。

「そう言えば、どうしてここに俺達がいることがわかったんだ?」

「たまたまよ。それも見つけたのは私じゃなくて、シルヴィー。私達竜人族ってね、獣人族程じゃないけど鼻がいいのよ。遠くからでも仲間のニオイが見つけられるってことかしらね。それでそのニオイがする方向を見つけたって言うから探したのよ」

「ニオイって.......俺はお前にニオイの服とか嗅がせた覚えないよな?」

「何言ってるの。この体に刻み付けてくれたじゃない。私を一生自分のものと示すようなニ・オ・イ♡」

「捏造するな。俺はお前に一度もそんなことをした覚えない」

「まあ、あの時の夜は嘘だったのね!......というのは冗談で、本当はニオイのついた私のお気に入りを嗅いでもらったの」

「.......お気に入り」

「ええ、お気に入り」

 なんだろうか。とてもつもなく知りたくない。自分に関わることなのにこれほどまでに知りたくないとは不思議な気分だ。

「.......ちなみに、周りの反応は?」

「シルヴィーも含めて複雑な表情だったわ。もしかしたら、私の旦那様がまた消えてしまったことに悲壮感を浮かべていたかもしれないわね」

 ポジティブなことだ。実際見たわけではないが、その言葉だけでわかるぞ。本当は「引いてた」だけなんだろうと。なんせ竜王からも変態娘として認知されてるぐらいだからな。

「探すのは苦労したわよ。ニオイは見つけたけど、爆発による焦げ臭さも混じっていたから嗅ぎ分けるのが大変だったし、それに爆風で吹き飛ばされたせいか散らばっていて明らかにいないだろう海の上を飛んでいたし」

「それじゃあ、ここはどうやって突き止めた? 捜索隊にしてもあんな数でそれも散らばりもせずにやってくるなんて、この島にいる確信があるからじゃなかったのか?」

「ええ、それはいくつかの要因があったからこっちにやってきたのよ。といっても、行くときはほぼ賭けに近かったけれどね」

「というと?」

「まず一つ目の要因は先ほどから言っているニオイね。さすがに海中に溶けているニオイまでは追えないから、あくまで参考程度だったけどそれでもニオイの割合がある方向に多くあったから」

 エキドナは大きく翼を羽ばたかせるとブレーキをかけていく。それで砂浜に着地するとゆっくりとクラウンを降ろしていく。

 さらに、エキドナはクラウンの肩を持つとそのまま歩き始めた。人手が必要なほどクラウンは重症ではなかったが、失敗してのことであるため好きにやらせた。

「二つ目は海ね。ニオイの偏った部分を重点的に捜索しているとある場所から不自然に海が荒れていたの。風も強くて、雷もあって、魔国大陸みたいに曇天空。そのくせに風によって雲の流れが全くなかったのよ。普通は地上で強い風が吹けば上空では尚更強い風が吹いているはずなのに」

「三つ目もあるのか?」

「ええ。とはいえ、これが最後で決め手になる情報だったからね.....とこの子は?」

 エキドナがクラウンに肩を貸しながら歩いていると正面からドレスのスカートをたくし上げながら全力疾走してくるシスティーナの姿があった。

 そして、システィーナは勢い余って一度クラウン達を通り過ぎるとすぐさまグイグイと近寄ってくる。

「私はシスティーナという者でクラウン様に大切な兄様の命を救ってもらったその妹でございます! そして、絶賛アタック中であります!」

「あら、あらあらあら。全く隅に置けないわね」

 何をもって「あら」なのか。そして、どうしてそんなにも嬉しそうな顔をしているのか。それから、この娘はどうしてこうも爆弾をホイホイ作って投げるのか。

「ま、まあ、なんというかその――――――」

「英雄色を好むと言いますし! 私は一向にかまいませんよ! むしろ、もっと広げるべきであると思います!」

「あら、面白い子ね。後でたくさん知らないこと教えてあげる」

「おい、やめ―――――」

「本当ですか!?」

「ええ、本当よ。だから、今少し大切なお話をしてるから後でね。それから、お城に向かってるのだけど、空き部屋を確保してきて欲しいわ」

「わっかりましたー!」

 システィーナはバビューンと城に向かって走り出してしまった。その後ろをエキドナは空いている手でひらひらと振りながら見送っていく。

 凄まじくシスティーナの扱いが上手い。これが母の力というものなのだろうか。初めて戦慄を覚えた。

「それじゃあ、話を戻すわね」

「ああ......」

「三つ目は旦那様の目的よ」

「.......なるほど。俺が竜王国で宝玉を集めて七つ目と知っていて、宝玉を集めることを目的としている俺が次に目指す場所はここしかないわけだな。そして、お前は情報屋として当然そういう情報も持っているというわけだ」

「全く。聡いから話し甲斐というものがないわ。とはいえ、そういうことよ。それら三つの要因で私は旦那様が竜宮城にいると思ってやってきた」

 どうやらエキドナはエキドナでいろいろと心配してここまでやってきてくれたみたいだ。そのことが嬉しく感じる。しかし、気になることもある。

「ここまでどうやってきたんだ? 雷が雨のように降っている環境だったはずだ。お前らとはいえさすがに雷を避けれるわけでもあるまい」

「ええ、そうよ、けど、それがどうかしたのかしら?」

「どうかって.......お前まさか?」

「被ダメ覚悟で行ったに決まってるじゃない。多少近くに落ちた側撃雷を受けたけども。愛に勝るものなどなかったわ! とはいえ、途中で晴れてくれなければさすがに危なかったけどね」

 なんという男気。クラウンでも躊躇したあの環境の中を飛んで迎えに行くとは。そこまでやってくれるとなると自分の行動が小さく見えてしまう。

「全く無茶しやがって」

「あら? あなたの妻となろう者が何の覚悟もなしで隣にいられると思ってもらったら大間違いだわ」

「リリスみたいなこと言いやがって......」

 クラウンは増々勝てなくなっていきそうなエキドナにため息を吐きつつも、ふと自分が言葉にしたリリスに想いを馳せる。

「ここにいないってことはあいつにはまだ会ってないんだよな?」

「ええ、実はそのことでとても大切な話があるの」

「なんだ?」

「それは.......いえ、ここで聞くべきではないわ。もう少し気を落ち着かせて―――――」

「構わない。それにその前振りである程度のことは覚悟した。言え」

 エキドナはクラウンに対して申し訳なさそうな表情をすると告げる。

「リリスが――――――聖王国に捕まったの」
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