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第12章 道化師は集めきる
第273話 対 空帝のウェルメス
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「これで首謀者は殺した」
クラウンは地面に落ちていく首なしの体と左腕を見下ろすとすぐさまこの島型飛空艇から脱出する。この飛空艇のアグネスがやられたのだから、制御下に置かれなかったこれは海に落ちるだろうと。
そして、この島の森林地帯を抜けて崖を見下ろす。
「なっ!?」
しかし、クラウンの予想とは裏腹に飛空艇の一斉射撃は終わっていなかった。むしろ、余計激しさを増しているようにも思える。
つまり、マスターがやられたにもかかわらず、自動プログラムとかで勝手に動いているということだ。非情にはた迷惑な話だ。
―――――――ギュイイイイイィィィィンッ
突然鳴り響いたのは耳をつんざくような音だ。何かを収束させているようにも感じる。その時、クラウンの脳裏にアグネスが言っていた「ガレオン砲」という言葉が過った。
もし、その予想が当たっているとすれば、あれが竜宮城に当てられればひとたまりもない。
クラウンはすぐさま空中に飛び出すと獅子の顔がある方へと回り込む。すると案の定、獅子は口から砲台を出して光を集めていた。
あの水柱を作り出す威力なのだとしたら、リルリアーゼの比ではない高火力のエネルギー弾が発射されることになる。島一つは確実に消し飛ぶ威力を持っている。
クラウンは獅子の顔まで接近するとそこに向かって思い切り刀を振り下ろす。しかし、反動で刀が弾かれるだけでビクともしない。
となれば、次は<極震>を纏わせた一撃だ。防御無視の一撃なら何らかのダメージを与えられるかもしれない。
「クソ野郎がああああああ!」
気合一発。両手で頭上に掲げた刀を思いっきり頭に向かって振り下ろした。衝撃が伝わっていってるのがなんとなくわかる。
獅子のアゴから刀の形をした衝撃が抜けていく。つまり貫通したということだ。
―――――――ギュイ"イ"イ"イ"イ"イ"ィィィィンッ
しかし、飛空艇は相変わらずエネルギーの収束を続け、先ほどよりもやや低い重低音を響かせている。それがどういう意味を持つものかわからないが、時間が差し迫っていることだけはわかる。
一度がダメならもう一度。それでもダメなら何度でも。同じように衝撃を与えていく。すると、獅子の頭に少しずつ窪みが出来始めた。
それが効いているのかはわからない。だが、今は考えるよりも手を動かせ。一秒でも多く攻撃を与え続けろ。
やがて獅子の口から音が聞こえなくなり始めた。周囲から光エネルギーを集めるような動作もなく、沈黙し始めた。
クラウンにはわかっている。これは止まったわけではない――――――発射数秒前であるということを。
「一刀流猿の型――――――――剛腕両断斬り!」
クラウンは両腕の筋力を意図的に発達させて膨張させる。コートの裾に張りが出てピッチリと伸びていく。そして、全身全霊の<極震>を加えた刀を振り下ろす。
ガギンッという音ともにわずかに頭が下がったような気がした。しかし、砲撃は止まらなかった。
――――――――ゴオオオオオオォォォォ
光を収束させたエネルギー弾は島に向かって一直線に飛んでいく。その発射口にいたクラウンは咄嗟にその場から離れたものの、発射の爆風に思いっきり吹き飛ばされていく。
きりもみするように回転しながら島近くの海へと叩き落されていく。海中に入ってもしばらく勢いは止まることなく、岩場に思いっきり叩きつけられた。
目を開ければ海の中が暗く感じる。あの飛空艇が太陽を遮っているからであろう。するとその時、横から強烈な衝撃が伝わってきた。
堪えようにも海中であり、水中装備もつけていないので弄ばれるままにその岩場から吹き飛ばされていく。
少しして勢いが弱まってきたのですぐに海面へと浮上する。そして、海面から顔を出すと太い水柱が海に落ちている途中であった。それから、すぐ隣には竜宮城の姿が残っている。
クラウンは急いで海から上がると空中を走ってラグナの下へと急行する。
近づいていくと気配を感じた。複数の気配だ。その気配の中には知っている気配もある。ベルの気配だ。どうやら生きてくれているらしい。
気配の状態からも生死にかかわるようなか弱い気配ではない。その周りにある気配も今にも消えそうな気配は感じられなかった。
「ベル! 無事か!?」
「けほけほ.......なんとかです。さすがに死ぬかと思ったです」
クラウンはベルに近づくとそのまま抱き寄せる。全身ずぶ濡れであるがしっかりと体温を感じるし、見たところ外傷は見られない。
ベルはそれほどまでに心配してくれるクラウンに嬉しそうに尻尾を振りながらも、すぐに距離を放した。
「何があった?」
「わからないです。砲撃が向かってくると思っていたら、突然その砲撃の軌道を逸らすように外部から砲撃が当てられたです」
「外部から?」
「おーい! クラウン! 大変だ!」
クラウンがベルから情報を聞き出していると遠くからラグナが慌てるように走ってきた。どうやらよっぽどのことらしい。恐らくベルの発現に関連することだろう。
「ラグナ、無事だったか」
「ああ、おかげさまで。それはそうと、やばいぞ! 敵の援軍が現れやがった!」
「敵の......!?」
「ああ、現在島の反対側に大量の竜がいるんだ! 先ほどのブレスは運良くあのデカブツの砲撃と重なったみたいだが、どう考えても俺達を狙った砲撃だ!」
「.......竜?」
クラウンとベルは思わず顔を見合わせる。その竜がどんな姿をしているか実際に見たわけじゃないので確定ではないが、二人が知っている竜と言えばあの種族しかいない。
「それで? その竜がどんな色をしていたかわかるか?」
「え、色? あー、確か、白と赤の竜が先頭を飛んでいた.......と聞いたような?」
クラウンとベルは再び顔を合わせた。そして、嬉しそうな笑みを浮かべていく。
「安心しろ。そいつらはこっちの援軍だ」
「え、こっち?.......ってまずい! さっき言ってた白と赤の竜がやってくるぞ!」
クラウンはベルに合わせていた立ち膝状態から立ち上がると上空にいる二体の竜を見る。その竜は当たりをキョロキョロとしながら、クラウン達を見つけるとそのまま降りていく。
そして、白い竜は空中で人型の形になると水色のボブヘアーを風で揺らしながら、両手を広げてクラウンに急降下。
「旦那様ー!」
「久しぶりだな――――――エキドナ」
クラウンはそのまま落ちてくるエキドナを両腕を広げてキャッチする。ドンッとおおよそ再会のハグをするだけでは鳴らなさそうな音を出してもなんのその。
そして、隣では安全な着地をしたシルヴィーがベルに向かってダイビングハグをしている。こういうところは姉妹で似ているのだろうか。
「エキドナ。心配かけて悪かったな」
「いいわよ。無事であるならそれで」
エキドナはこれまでの温もりを取り戻すようにギューッと抱きしめるとすぐに距離を取った。それは現状を把握しているからの行動だ。
「それで旦那様は相変わらず危険地帯が好きなようね」
「好きでいるんじゃねぇよ。俺のいる場所が勝手にそうなるだけだ」
「まさに死神ね」
「嫌か?」
「まさか。それじゃあ、私達は何をすればいい?」
「話が早くて助かる。先ほどのお前達があの砲撃を逸らしてくれたおかげでこの島が助かった」
「砲撃の角度がわずかでもズレていたからよ」
「それでもだ。感謝してる。だが、来たところ悪いんだが、お前達にはあの砲撃に真正面から打ち合ってもらいたいんだ」
「正面から? でも、あれって古代兵器よね? 私達のブレスだけどうにかなるとは思えないんだけど」
「わかっている。だから、あいつの砲撃を利用するのさ。あいつは島の破壊が優先事項になっている。マスターは既に殺したから自立プログラムが最後に命令されたことを優先して行おうとしているのだろう。しかし、周りについている砲台は別の処理に回してる。そうなれば、使えるのは主砲のみ。またあの砲撃を撃って来るに違いない」
「つまりは砲撃が放たれている最中に制御装置を破壊して、砲撃を止めさせる。そして、私達は受け止めていた砲撃を上乗せしたブレスを直撃させればいいというわけね」
「ああ、そういうことだ。だが、とても危険だ。俺の破壊が出来なかったり、お前らが主砲の猛撃に耐えられなかったらお前らは死ぬぞ」
「ふふっ、何を今更。私の命はとっくの昔から旦那様に預けっぱなしよ。それに私の信じる旦那様ならきっと皆も信じてくれる。そうでしょ、シルヴィー?」
「そうなのー!」
「......そうか。なら、任せた」
クラウンはそう言うと空中を駆けていき、ガレオン砲がクールタイムに入っている間に森林にあるであろう制御室に向かって行く。
エキドナはベルと話し合うとすぐに解散し、ベルはラグナとともに地上からエキドナ達の邪魔が入らないように防御姿勢になり、エキドナは総勢三十体の竜を集めると主砲の正面に立った。
一方、クラウンは飛空艇の背中の森林地帯のさらに上に飛んでいき、上空から施設がないか探していく。すると、一際目立つ白い建物を見つけた。
もしあれがフェイクだとしても、行って確かめるしかない。そう思うとすぐさま風よりも速く駆け抜けていく。
森林がその突風にザワザワと葉音は立てていくのを後方に聞きながら、二階建ての制御装置の天井を思いっきり斬り払う。しかし、そこはただの研究室のようで空になった培養液がいくつかあるぐらいだった。
************************************************
エキドナ達の方では緊張の面持ちで獅子の口と向かい合っていた。なぜなら、クールダウンを終えた獅子がもう一度あの砲撃を放とうというのだから。
そして、クラウンの邪魔が無かったせいか先ほどよりも速くチャージし終わると一気に撃ち放った。そのタイミングを合わせるようにエキドナ率いる竜軍団総勢三十体が一斉にブレスを放ち、それが巨大な一つのブレスとなって、ガレオン砲とぶつかり合う。
************************************************
クラウンは背後からの突風に襲われた。遠くに吹き飛ばされることはなかったが、それはもう時間が残されていないということだった。
そして、クラウンは己の信じる直感に賭けてその建物を壊しながら、二階から一階に降りると地面に手を付けて<気配察知>でこの建物を中心とした立体構造を把握していく。
すると、この建物に地下があることを把握した。また、制御装置のような機械があることも。
************************************************
空中で二つの砲撃がぶつかり合う。それは周囲にあった雲を払いのけ、眩い光源を作り出していた。だが、その光源は少しずつ動いていた。
それはエキドナ達の方に向かってだ。ジリジリと少しずつ押されている。エキドナ達も持ちうる魔力を全てぶつけているが押し返すことすら難しそうだ。
しかし、信じている。きっとやってくれると。
************************************************
「見つけた!」
クラウンは一階の床を破壊して強制的に降りてくるとすぐ目の前に飛空艇の全体像が映し出されたディスプレイがあったり、それぞれの砲台の制御情報、主砲へのアクセスコード画面などいろいろ映し出されていた。
しかし、その一切合切がどうでもいい。全て破壊してしまえ!
「これで終わりだああああああ!」
クラウンはその機械に向かって全力の斬撃を叩きつけた。
************************************************
エキドナ達に変化があった。それはガレオン砲の勢いが急速になくなったからだ。これは間違いなくクラウンがやってくれたものだ。
エキドナ達はその変化がわかると最後の力を振り絞ってブレスを放った。すると、追加分のエネルギーが波打って加わっていき、ガレオン砲の砲撃エネルギーも乗せたまま獅子の顔から直撃――――――飛空艇を貫通した。
クラウンは地面に落ちていく首なしの体と左腕を見下ろすとすぐさまこの島型飛空艇から脱出する。この飛空艇のアグネスがやられたのだから、制御下に置かれなかったこれは海に落ちるだろうと。
そして、この島の森林地帯を抜けて崖を見下ろす。
「なっ!?」
しかし、クラウンの予想とは裏腹に飛空艇の一斉射撃は終わっていなかった。むしろ、余計激しさを増しているようにも思える。
つまり、マスターがやられたにもかかわらず、自動プログラムとかで勝手に動いているということだ。非情にはた迷惑な話だ。
―――――――ギュイイイイイィィィィンッ
突然鳴り響いたのは耳をつんざくような音だ。何かを収束させているようにも感じる。その時、クラウンの脳裏にアグネスが言っていた「ガレオン砲」という言葉が過った。
もし、その予想が当たっているとすれば、あれが竜宮城に当てられればひとたまりもない。
クラウンはすぐさま空中に飛び出すと獅子の顔がある方へと回り込む。すると案の定、獅子は口から砲台を出して光を集めていた。
あの水柱を作り出す威力なのだとしたら、リルリアーゼの比ではない高火力のエネルギー弾が発射されることになる。島一つは確実に消し飛ぶ威力を持っている。
クラウンは獅子の顔まで接近するとそこに向かって思い切り刀を振り下ろす。しかし、反動で刀が弾かれるだけでビクともしない。
となれば、次は<極震>を纏わせた一撃だ。防御無視の一撃なら何らかのダメージを与えられるかもしれない。
「クソ野郎がああああああ!」
気合一発。両手で頭上に掲げた刀を思いっきり頭に向かって振り下ろした。衝撃が伝わっていってるのがなんとなくわかる。
獅子のアゴから刀の形をした衝撃が抜けていく。つまり貫通したということだ。
―――――――ギュイ"イ"イ"イ"イ"イ"ィィィィンッ
しかし、飛空艇は相変わらずエネルギーの収束を続け、先ほどよりもやや低い重低音を響かせている。それがどういう意味を持つものかわからないが、時間が差し迫っていることだけはわかる。
一度がダメならもう一度。それでもダメなら何度でも。同じように衝撃を与えていく。すると、獅子の頭に少しずつ窪みが出来始めた。
それが効いているのかはわからない。だが、今は考えるよりも手を動かせ。一秒でも多く攻撃を与え続けろ。
やがて獅子の口から音が聞こえなくなり始めた。周囲から光エネルギーを集めるような動作もなく、沈黙し始めた。
クラウンにはわかっている。これは止まったわけではない――――――発射数秒前であるということを。
「一刀流猿の型――――――――剛腕両断斬り!」
クラウンは両腕の筋力を意図的に発達させて膨張させる。コートの裾に張りが出てピッチリと伸びていく。そして、全身全霊の<極震>を加えた刀を振り下ろす。
ガギンッという音ともにわずかに頭が下がったような気がした。しかし、砲撃は止まらなかった。
――――――――ゴオオオオオオォォォォ
光を収束させたエネルギー弾は島に向かって一直線に飛んでいく。その発射口にいたクラウンは咄嗟にその場から離れたものの、発射の爆風に思いっきり吹き飛ばされていく。
きりもみするように回転しながら島近くの海へと叩き落されていく。海中に入ってもしばらく勢いは止まることなく、岩場に思いっきり叩きつけられた。
目を開ければ海の中が暗く感じる。あの飛空艇が太陽を遮っているからであろう。するとその時、横から強烈な衝撃が伝わってきた。
堪えようにも海中であり、水中装備もつけていないので弄ばれるままにその岩場から吹き飛ばされていく。
少しして勢いが弱まってきたのですぐに海面へと浮上する。そして、海面から顔を出すと太い水柱が海に落ちている途中であった。それから、すぐ隣には竜宮城の姿が残っている。
クラウンは急いで海から上がると空中を走ってラグナの下へと急行する。
近づいていくと気配を感じた。複数の気配だ。その気配の中には知っている気配もある。ベルの気配だ。どうやら生きてくれているらしい。
気配の状態からも生死にかかわるようなか弱い気配ではない。その周りにある気配も今にも消えそうな気配は感じられなかった。
「ベル! 無事か!?」
「けほけほ.......なんとかです。さすがに死ぬかと思ったです」
クラウンはベルに近づくとそのまま抱き寄せる。全身ずぶ濡れであるがしっかりと体温を感じるし、見たところ外傷は見られない。
ベルはそれほどまでに心配してくれるクラウンに嬉しそうに尻尾を振りながらも、すぐに距離を放した。
「何があった?」
「わからないです。砲撃が向かってくると思っていたら、突然その砲撃の軌道を逸らすように外部から砲撃が当てられたです」
「外部から?」
「おーい! クラウン! 大変だ!」
クラウンがベルから情報を聞き出していると遠くからラグナが慌てるように走ってきた。どうやらよっぽどのことらしい。恐らくベルの発現に関連することだろう。
「ラグナ、無事だったか」
「ああ、おかげさまで。それはそうと、やばいぞ! 敵の援軍が現れやがった!」
「敵の......!?」
「ああ、現在島の反対側に大量の竜がいるんだ! 先ほどのブレスは運良くあのデカブツの砲撃と重なったみたいだが、どう考えても俺達を狙った砲撃だ!」
「.......竜?」
クラウンとベルは思わず顔を見合わせる。その竜がどんな姿をしているか実際に見たわけじゃないので確定ではないが、二人が知っている竜と言えばあの種族しかいない。
「それで? その竜がどんな色をしていたかわかるか?」
「え、色? あー、確か、白と赤の竜が先頭を飛んでいた.......と聞いたような?」
クラウンとベルは再び顔を合わせた。そして、嬉しそうな笑みを浮かべていく。
「安心しろ。そいつらはこっちの援軍だ」
「え、こっち?.......ってまずい! さっき言ってた白と赤の竜がやってくるぞ!」
クラウンはベルに合わせていた立ち膝状態から立ち上がると上空にいる二体の竜を見る。その竜は当たりをキョロキョロとしながら、クラウン達を見つけるとそのまま降りていく。
そして、白い竜は空中で人型の形になると水色のボブヘアーを風で揺らしながら、両手を広げてクラウンに急降下。
「旦那様ー!」
「久しぶりだな――――――エキドナ」
クラウンはそのまま落ちてくるエキドナを両腕を広げてキャッチする。ドンッとおおよそ再会のハグをするだけでは鳴らなさそうな音を出してもなんのその。
そして、隣では安全な着地をしたシルヴィーがベルに向かってダイビングハグをしている。こういうところは姉妹で似ているのだろうか。
「エキドナ。心配かけて悪かったな」
「いいわよ。無事であるならそれで」
エキドナはこれまでの温もりを取り戻すようにギューッと抱きしめるとすぐに距離を取った。それは現状を把握しているからの行動だ。
「それで旦那様は相変わらず危険地帯が好きなようね」
「好きでいるんじゃねぇよ。俺のいる場所が勝手にそうなるだけだ」
「まさに死神ね」
「嫌か?」
「まさか。それじゃあ、私達は何をすればいい?」
「話が早くて助かる。先ほどのお前達があの砲撃を逸らしてくれたおかげでこの島が助かった」
「砲撃の角度がわずかでもズレていたからよ」
「それでもだ。感謝してる。だが、来たところ悪いんだが、お前達にはあの砲撃に真正面から打ち合ってもらいたいんだ」
「正面から? でも、あれって古代兵器よね? 私達のブレスだけどうにかなるとは思えないんだけど」
「わかっている。だから、あいつの砲撃を利用するのさ。あいつは島の破壊が優先事項になっている。マスターは既に殺したから自立プログラムが最後に命令されたことを優先して行おうとしているのだろう。しかし、周りについている砲台は別の処理に回してる。そうなれば、使えるのは主砲のみ。またあの砲撃を撃って来るに違いない」
「つまりは砲撃が放たれている最中に制御装置を破壊して、砲撃を止めさせる。そして、私達は受け止めていた砲撃を上乗せしたブレスを直撃させればいいというわけね」
「ああ、そういうことだ。だが、とても危険だ。俺の破壊が出来なかったり、お前らが主砲の猛撃に耐えられなかったらお前らは死ぬぞ」
「ふふっ、何を今更。私の命はとっくの昔から旦那様に預けっぱなしよ。それに私の信じる旦那様ならきっと皆も信じてくれる。そうでしょ、シルヴィー?」
「そうなのー!」
「......そうか。なら、任せた」
クラウンはそう言うと空中を駆けていき、ガレオン砲がクールタイムに入っている間に森林にあるであろう制御室に向かって行く。
エキドナはベルと話し合うとすぐに解散し、ベルはラグナとともに地上からエキドナ達の邪魔が入らないように防御姿勢になり、エキドナは総勢三十体の竜を集めると主砲の正面に立った。
一方、クラウンは飛空艇の背中の森林地帯のさらに上に飛んでいき、上空から施設がないか探していく。すると、一際目立つ白い建物を見つけた。
もしあれがフェイクだとしても、行って確かめるしかない。そう思うとすぐさま風よりも速く駆け抜けていく。
森林がその突風にザワザワと葉音は立てていくのを後方に聞きながら、二階建ての制御装置の天井を思いっきり斬り払う。しかし、そこはただの研究室のようで空になった培養液がいくつかあるぐらいだった。
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エキドナ達の方では緊張の面持ちで獅子の口と向かい合っていた。なぜなら、クールダウンを終えた獅子がもう一度あの砲撃を放とうというのだから。
そして、クラウンの邪魔が無かったせいか先ほどよりも速くチャージし終わると一気に撃ち放った。そのタイミングを合わせるようにエキドナ率いる竜軍団総勢三十体が一斉にブレスを放ち、それが巨大な一つのブレスとなって、ガレオン砲とぶつかり合う。
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クラウンは背後からの突風に襲われた。遠くに吹き飛ばされることはなかったが、それはもう時間が残されていないということだった。
そして、クラウンは己の信じる直感に賭けてその建物を壊しながら、二階から一階に降りると地面に手を付けて<気配察知>でこの建物を中心とした立体構造を把握していく。
すると、この建物に地下があることを把握した。また、制御装置のような機械があることも。
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空中で二つの砲撃がぶつかり合う。それは周囲にあった雲を払いのけ、眩い光源を作り出していた。だが、その光源は少しずつ動いていた。
それはエキドナ達の方に向かってだ。ジリジリと少しずつ押されている。エキドナ達も持ちうる魔力を全てぶつけているが押し返すことすら難しそうだ。
しかし、信じている。きっとやってくれると。
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「見つけた!」
クラウンは一階の床を破壊して強制的に降りてくるとすぐ目の前に飛空艇の全体像が映し出されたディスプレイがあったり、それぞれの砲台の制御情報、主砲へのアクセスコード画面などいろいろ映し出されていた。
しかし、その一切合切がどうでもいい。全て破壊してしまえ!
「これで終わりだああああああ!」
クラウンはその機械に向かって全力の斬撃を叩きつけた。
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エキドナ達に変化があった。それはガレオン砲の勢いが急速になくなったからだ。これは間違いなくクラウンがやってくれたものだ。
エキドナ達はその変化がわかると最後の力を振り絞ってブレスを放った。すると、追加分のエネルギーが波打って加わっていき、ガレオン砲の砲撃エネルギーも乗せたまま獅子の顔から直撃――――――飛空艇を貫通した。
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