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第12章 道化師は集めきる
第270話 海底の箱舟 ウォルテジア#4
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甲羅に剣山のごときトゲを生やしたウミガメは手足を引っ込めて甲羅だけになりながらも、水中を我が物顔で駆け巡る。
十階建てマンション並みの大きさを誇るその巨体でありながら、高速で動き回り壁にぶつかろうと回転を止めることなくまた移動する。
ただでさえ、ウミガメが回転した勢いで出来た吸い込まれそうな水流があるというのに、縦横無尽に動くことで水の乱流が起き始めて身動きが取りづらくなり始めた。
その癖にウミガメは平然と突っ込んでくることから、完全なクラウン達の不利感がうかがえて来るというものだ。この状況を終わらせたければ、ウミガメを止めるしかない。それも出来るだけ早く。
クラウンはウミガメが特定の誰かを狙わずに暴れまわっている隙に壁へと移動していく。そして、その壁に最高強度であり、極細の糸をくっつけると引き伸ばしながら反対の壁へ移動する。
そして、同じように壁から壁へと糸を張り続けていく。ウミガメがこちらうの動きを警戒して、襲って来る前に。
幸い、魚は目が悪いと聞く。ウミガメがそうである可能性を裏付けるものは何もないが、もとの世界でビニール袋をクラゲと間違ってくってしうまう事例があるくらいだ。ここの海の基準が元の世界と似ているのなら、糸の存在には気づかないはずだ。
加えて、糸は壁につけたといっても、ここら辺の壁はたくさんの大小さまざまな石が積み重なって出来ている。それを利用すれば捕獲できる。あわよくばダメージも入る。
「ラグナ、ベル、そこら辺のものを集めて早くこちらに来い!」
クラウンは遠くに見えた二人をすぐさま呼びつける。すると、当然ウミガメもクラウンの不審な行動に気付いて二人よりも先にクラウンに突撃する。
「そっちに行ったぞ!」
「主様!」
「わかってる」
クラウンは<超集中>を使ってウミガメの接近のタイミングを計る。このままだと糸で威力を殺しきるのは難しい。
いや、向かってくる速さはあったに越したことはないのだが、相手は岩と同等だ。半端じゃ行かない。
そこでクラウンは糸を張りながら考えていたことがあった。それは刀の振りに<極震>を乗せたらどうなるかということ。
通常、拳の一点から放射状に延びるように衝撃は放たれる。しかし、ここで刃先―――――――点が連続した線として考えたならどうなるのか。
クラウンは糸が張ってある前で大げさに頭上に刀を持つ。これは背後にある糸の存在を気づかなくさせるためのフェイクであり、全力で放つための構えである。
「ラグナ! ベル! 下がれ!」
クラウンはより力が入るように柄を小指の方から巻いていくように掴む――――――一閃。
水中でありながらサッと静かな音を立てそうな一振りは残像をやや残しながら頭から足の方へと刃先が降りる。
その瞬間、クラウンが降った数秒後に伴った衝撃波が僅かなズレで連鎖的に衝撃を与えていき、陽炎のように僅かに周囲と歪む水圧で出来た強大な刀の衝撃を作り出した。
それは形を変えることなく、斬撃のように真っ直ぐウミガメに迫っていき、直撃した。
しかし、それでも威力を殺しきることはできなかった。通常の数倍遅い速さでありながら、巨体はクラウンに向かって迫りくる。
それがクラウンにとっては好都合だった。水中でありながら、全力で振るった攻撃があまり通用しなかったことに腹立たしさはあるものの手のひらの上では転がしている。
クラウンは自分だけが知っている糸の隙間から抜けていくと糸の後ろに回る。丁度、ウミガメと糸を挟む位置にいる。
ウミガメは回転を殺されたのが気に食わなかったのか、クラウンに迫りつつも回転数を上げていく。しかし、先ほどまでは上がりきらない。
そして、ウミガメが糸に突っ込んでいく。糸は突撃の勢いに耐えるように強く糸を張る。しかし、長さが決まっていてワイヤー以上の強度でありながら、タコ糸並みの細さになるとどうなるか。
ウミガメが甲羅にどれだけ鋭いトゲを背負っていても簡単に切断することは敵わず、トゲである以上尖っているのは先の方だけだ。
そして、トゲというのは一点に強くて搦め手には弱い。つまり甲羅のトゲに糸が絡まっていくということだ。
ウミガメが無駄に上げた回転数はクラウンが張った疑似蜘蛛の巣に自ら絡まっていく。さながらウミガメは蝶に等しい。
さらに仕掛けはそれだけではない。クラウンが糸にくっつけるためにチョイスしたのは巨大な岩石だ。
先ほども言った通り、ここは大小さまざまな岩が積み重なって出来た縦穴。積み重なる以上、このような奇麗な空洞は出来上がらない。恐らく、このウミガメが住処にする際に回転して削りあげたものだろう。
そして、積み重なった岩であるために崩すことは可能。加えて、好き勝手に暴れて壁を傷つけて崩しやすくしてくれた。
クラウンの糸は一度くっつければ簡単に外れることはない。それに糸は力を伝える中間役みたいなものだ。
故に、壁は一気に崩落する。そして、崩落した岩は下に向かって落ちていく。ウミガメは糸に絡まったまま動けないし、糸に繋がった岩の重さで下へ下へ沈んでいく。完全にただ投網にかかったウミガメだ。
「くくく、ははははは! 強者が過信して足元をすくわれる! 力に溺れ過ぎなんだよ!」
「なんか、あいつ敵に回さないのは正解だったな」
「久々に黒い部分が漏れている気がするです。でも、またそこがいいです」
ラグナは若干テンションハイになっているクラウンとそんなクラウンを慕う言葉を言うベルに思わず引いた。そして、「こいつらだけは絶対に敵に回さないようにしよう」と心に強く誓った。
「ガアアアア!」
「奢ったな。ここはお前のホームでなければ、ただの墓だ」
クラウンは落ちていくウミガメに憎たらしい不敵な笑みを浮かべる。すると、ウミガメは引っ込めた首を一気に射出してクラウンを襲おうとする――――――が、糸によって阻まれ、逆に糸に食い込んで自身でダメージを追っていく。
その飛び出た頭にクラウンは一度上に上がると真下に落ちるように水中を蹴って、そのまま一回転しながら<極震>を使ってかかと落とし。
固い外皮であろうと貫通する衝撃波はウミガメに確実なダメージを与えていく。だが、ウミガメはすぐに大きく口を開けていくと大量の水を吸い込み始めた。
その動きを警戒したクラウンであったが、近くにいたために徐々に引きずり込まれていく。しかし、ここでその行動はとても不審に感じた。
なぜなら、口から吸いこんだものは吐き出すのも口からだ。水のブレスを放っても範囲は精々首の可動域ぐらい。しかし、それなら、反対側に移動されてすぐに躱されるのがオチ。
まさかヤケになったのか? 生き物が生きるためにヤケになるのはありそうな感じだが、他に打開策があるからということなのか。
「ガア"ア"ア"ア"ア"!」
いつもより数段低い声で唸るように叫ぶと絡まった糸の中で頭の向きを無理やり九十度ほどに曲げ始めた。そして、吸い込んだ水流を一気に吐き出した。
すると、その水の勢いは強固な糸を切断して、壁へと到達した。しかし、そこで終わりではなく水の勢いはそのままに、その勢いで自身の体を回転させ始めたのだ。
一つの方向から力が加わり続けて回転していく。それに加え、一定の勢いまで戻ってくると自身の回転も加えていく。
甲羅に絡まった糸に伸びる岩はその回転の遠心力によって暴力的なまでに振り回される。ウミガメを中心に回り続けるそれはさながら地獄のメリーゴーランドとも言うべきか。触ったら岩の勢いで全身の骨を砕かれ、激しく吹き飛ばされ壁にぶつかって絶命エンドだが。
加えて、一定数以上の回転が得られたせいか、ウミガメに引き寄せられる水流が発生し、引き寄せられれば回ってきた岩にぶん殴られる。
力押しでクラウンの作戦を逆利用してきた。先ほどよりも危険な状況だ。しかし、全く変化がないわけじゃない。
ウミガメは自身の状態がわかっているのか、穴の中心位置から動こうとせずにその場で回転を続けている。
それは少しでもズレればまたもや糸に絡めとられると理解しているからだろう。それにここまでの力押しは生命の危機を感じているということだ。
ウミガメに与えたまともなダメージはクラウンのかかと落とし一発だけだが、もしかしたら先ほどの刀の衝撃波もかなりのダメージを与えられているかもしれない。
あのウミガメは固い甲羅や外皮という鉄壁の防御力をアドバンテージとしていたかもしれないが、クラウンが与えた攻撃は全て内部ダメージ。どれだけ防御力が高かろうと振動は何であれ伝わっていく。
となれば、もしかしたらあと一発強い衝撃を与えれば倒せるかもしれない。希望が見えれば後は実行するのみ。
「ラグナ! ベルの指示で動け! そして、ベル......タイミングは任せた」
「わかった」
「了解です」
クラウンは刀を収め、<超集中>で白黒の限られた景色の中で必要な情報だけを取得していくとウミガメの暴水流圏に突入していく。体が勢いよく引きずられる。
その状態でも水中を蹴って前に突き進む。それは振り回される言わを避けるためでもあり、その岩に繋がっている糸に触れるため。
クラウンの作り出した糸は物質としての効果を持つ。とはいえ、もとは魔法で作り出したものだ。その糸はクラウンによって破壊できる。
そして、クラウンはその糸をもとの魔力へと分解しながらも、一つだけ中途半端な長さで切断した。そして、水流に乗りながら本体へと接近していく。
クラウンは切断した(岩の繋がっていない)糸の切れ端を左手で掴むとその糸から魔力を流していく。糸から魔力を伝達させて一斉に絡まった糸を魔力へと分解していく。
すると、ウミガメはただ回転しているだけになる。だが、それはウミガメにとって自由に動けるというチャンスも与えしまう。
ウミガメは途端にクラウンに向かって直進すると、こいつだけは確実に仕留めよう、と回転したままヒレ出してクラウンに直撃させようとする。
「そうはさせないです!」
しかし、それは真上から振り落とされた岩石によって防がれる。
ベルが糸に繋がった岩を思いっきり振り下ろしたのだ。水中であるために多少は浮力で軽くなるし、クラウン仕込みのベルが巨大な岩石を振り回せないわけがない。
それによって、ウミガメの回転軸が不安定になり、ゆらゆらと止まりかけの駒みたいに揺れ始める。そこにクラウンは刀を引き抜いて突撃する。
だが、ウミガメは刀の間合いにいれらるのを防ぐために咄嗟に頭を砲弾のように射出して、先に攻撃を仕掛ける。
「そう来ると思ったぜ!」
「ガァ!?」
その瞬間、クラウンは刀を放して振りかぶった右手で拳を作った。そして、その浮かべた笑みはウミガメに食物連鎖の上はどちらかはっきりさせるのに十分な表情であった。
クラウンは飛びだだしてきた頭に向かって鋭く拳を振り下ろす。そして、頭に直撃すると頭にあったゴツゴツした外皮が崩れ落ち、軽くへこむほどの衝撃が与えられた。
振り下ろした拳には対巨体戦のための<剛腕>と<極震>をほぼ同時的に使ったのだ。当然、当たった威力が強くなればなるほど、衝撃も強くなる。
ウミガメは白目になりながら、頭から末尾にかけて衝撃が貫通していく。
「ラグナ。トドメは任せた。これまでの恨みを全てぶち込め」
「ああ、当然だ―――――――水激閃!」
クラウンの衝撃で沈みかけているウミガメだがそれはまだ息の根を止めたわけじゃなく、気絶しているだけ。
その最後を彩るのにふさわしいのはやはり長年苦しめ続けられてきた魚人族であるラグナであろう。
ラグナは一本鎗となった王家の槍を大きく掲げると左手で狙いを定めて、投擲。その槍は固い外皮が無くなった頭に突き刺さっていく。
ウミガメはそのまま海底へと沈んでいく。クラウンの<気配察知>からも気配が消えたので、これにて水中戦は幕を閉じた。
十階建てマンション並みの大きさを誇るその巨体でありながら、高速で動き回り壁にぶつかろうと回転を止めることなくまた移動する。
ただでさえ、ウミガメが回転した勢いで出来た吸い込まれそうな水流があるというのに、縦横無尽に動くことで水の乱流が起き始めて身動きが取りづらくなり始めた。
その癖にウミガメは平然と突っ込んでくることから、完全なクラウン達の不利感がうかがえて来るというものだ。この状況を終わらせたければ、ウミガメを止めるしかない。それも出来るだけ早く。
クラウンはウミガメが特定の誰かを狙わずに暴れまわっている隙に壁へと移動していく。そして、その壁に最高強度であり、極細の糸をくっつけると引き伸ばしながら反対の壁へ移動する。
そして、同じように壁から壁へと糸を張り続けていく。ウミガメがこちらうの動きを警戒して、襲って来る前に。
幸い、魚は目が悪いと聞く。ウミガメがそうである可能性を裏付けるものは何もないが、もとの世界でビニール袋をクラゲと間違ってくってしうまう事例があるくらいだ。ここの海の基準が元の世界と似ているのなら、糸の存在には気づかないはずだ。
加えて、糸は壁につけたといっても、ここら辺の壁はたくさんの大小さまざまな石が積み重なって出来ている。それを利用すれば捕獲できる。あわよくばダメージも入る。
「ラグナ、ベル、そこら辺のものを集めて早くこちらに来い!」
クラウンは遠くに見えた二人をすぐさま呼びつける。すると、当然ウミガメもクラウンの不審な行動に気付いて二人よりも先にクラウンに突撃する。
「そっちに行ったぞ!」
「主様!」
「わかってる」
クラウンは<超集中>を使ってウミガメの接近のタイミングを計る。このままだと糸で威力を殺しきるのは難しい。
いや、向かってくる速さはあったに越したことはないのだが、相手は岩と同等だ。半端じゃ行かない。
そこでクラウンは糸を張りながら考えていたことがあった。それは刀の振りに<極震>を乗せたらどうなるかということ。
通常、拳の一点から放射状に延びるように衝撃は放たれる。しかし、ここで刃先―――――――点が連続した線として考えたならどうなるのか。
クラウンは糸が張ってある前で大げさに頭上に刀を持つ。これは背後にある糸の存在を気づかなくさせるためのフェイクであり、全力で放つための構えである。
「ラグナ! ベル! 下がれ!」
クラウンはより力が入るように柄を小指の方から巻いていくように掴む――――――一閃。
水中でありながらサッと静かな音を立てそうな一振りは残像をやや残しながら頭から足の方へと刃先が降りる。
その瞬間、クラウンが降った数秒後に伴った衝撃波が僅かなズレで連鎖的に衝撃を与えていき、陽炎のように僅かに周囲と歪む水圧で出来た強大な刀の衝撃を作り出した。
それは形を変えることなく、斬撃のように真っ直ぐウミガメに迫っていき、直撃した。
しかし、それでも威力を殺しきることはできなかった。通常の数倍遅い速さでありながら、巨体はクラウンに向かって迫りくる。
それがクラウンにとっては好都合だった。水中でありながら、全力で振るった攻撃があまり通用しなかったことに腹立たしさはあるものの手のひらの上では転がしている。
クラウンは自分だけが知っている糸の隙間から抜けていくと糸の後ろに回る。丁度、ウミガメと糸を挟む位置にいる。
ウミガメは回転を殺されたのが気に食わなかったのか、クラウンに迫りつつも回転数を上げていく。しかし、先ほどまでは上がりきらない。
そして、ウミガメが糸に突っ込んでいく。糸は突撃の勢いに耐えるように強く糸を張る。しかし、長さが決まっていてワイヤー以上の強度でありながら、タコ糸並みの細さになるとどうなるか。
ウミガメが甲羅にどれだけ鋭いトゲを背負っていても簡単に切断することは敵わず、トゲである以上尖っているのは先の方だけだ。
そして、トゲというのは一点に強くて搦め手には弱い。つまり甲羅のトゲに糸が絡まっていくということだ。
ウミガメが無駄に上げた回転数はクラウンが張った疑似蜘蛛の巣に自ら絡まっていく。さながらウミガメは蝶に等しい。
さらに仕掛けはそれだけではない。クラウンが糸にくっつけるためにチョイスしたのは巨大な岩石だ。
先ほども言った通り、ここは大小さまざまな岩が積み重なって出来た縦穴。積み重なる以上、このような奇麗な空洞は出来上がらない。恐らく、このウミガメが住処にする際に回転して削りあげたものだろう。
そして、積み重なった岩であるために崩すことは可能。加えて、好き勝手に暴れて壁を傷つけて崩しやすくしてくれた。
クラウンの糸は一度くっつければ簡単に外れることはない。それに糸は力を伝える中間役みたいなものだ。
故に、壁は一気に崩落する。そして、崩落した岩は下に向かって落ちていく。ウミガメは糸に絡まったまま動けないし、糸に繋がった岩の重さで下へ下へ沈んでいく。完全にただ投網にかかったウミガメだ。
「くくく、ははははは! 強者が過信して足元をすくわれる! 力に溺れ過ぎなんだよ!」
「なんか、あいつ敵に回さないのは正解だったな」
「久々に黒い部分が漏れている気がするです。でも、またそこがいいです」
ラグナは若干テンションハイになっているクラウンとそんなクラウンを慕う言葉を言うベルに思わず引いた。そして、「こいつらだけは絶対に敵に回さないようにしよう」と心に強く誓った。
「ガアアアア!」
「奢ったな。ここはお前のホームでなければ、ただの墓だ」
クラウンは落ちていくウミガメに憎たらしい不敵な笑みを浮かべる。すると、ウミガメは引っ込めた首を一気に射出してクラウンを襲おうとする――――――が、糸によって阻まれ、逆に糸に食い込んで自身でダメージを追っていく。
その飛び出た頭にクラウンは一度上に上がると真下に落ちるように水中を蹴って、そのまま一回転しながら<極震>を使ってかかと落とし。
固い外皮であろうと貫通する衝撃波はウミガメに確実なダメージを与えていく。だが、ウミガメはすぐに大きく口を開けていくと大量の水を吸い込み始めた。
その動きを警戒したクラウンであったが、近くにいたために徐々に引きずり込まれていく。しかし、ここでその行動はとても不審に感じた。
なぜなら、口から吸いこんだものは吐き出すのも口からだ。水のブレスを放っても範囲は精々首の可動域ぐらい。しかし、それなら、反対側に移動されてすぐに躱されるのがオチ。
まさかヤケになったのか? 生き物が生きるためにヤケになるのはありそうな感じだが、他に打開策があるからということなのか。
「ガア"ア"ア"ア"ア"!」
いつもより数段低い声で唸るように叫ぶと絡まった糸の中で頭の向きを無理やり九十度ほどに曲げ始めた。そして、吸い込んだ水流を一気に吐き出した。
すると、その水の勢いは強固な糸を切断して、壁へと到達した。しかし、そこで終わりではなく水の勢いはそのままに、その勢いで自身の体を回転させ始めたのだ。
一つの方向から力が加わり続けて回転していく。それに加え、一定の勢いまで戻ってくると自身の回転も加えていく。
甲羅に絡まった糸に伸びる岩はその回転の遠心力によって暴力的なまでに振り回される。ウミガメを中心に回り続けるそれはさながら地獄のメリーゴーランドとも言うべきか。触ったら岩の勢いで全身の骨を砕かれ、激しく吹き飛ばされ壁にぶつかって絶命エンドだが。
加えて、一定数以上の回転が得られたせいか、ウミガメに引き寄せられる水流が発生し、引き寄せられれば回ってきた岩にぶん殴られる。
力押しでクラウンの作戦を逆利用してきた。先ほどよりも危険な状況だ。しかし、全く変化がないわけじゃない。
ウミガメは自身の状態がわかっているのか、穴の中心位置から動こうとせずにその場で回転を続けている。
それは少しでもズレればまたもや糸に絡めとられると理解しているからだろう。それにここまでの力押しは生命の危機を感じているということだ。
ウミガメに与えたまともなダメージはクラウンのかかと落とし一発だけだが、もしかしたら先ほどの刀の衝撃波もかなりのダメージを与えられているかもしれない。
あのウミガメは固い甲羅や外皮という鉄壁の防御力をアドバンテージとしていたかもしれないが、クラウンが与えた攻撃は全て内部ダメージ。どれだけ防御力が高かろうと振動は何であれ伝わっていく。
となれば、もしかしたらあと一発強い衝撃を与えれば倒せるかもしれない。希望が見えれば後は実行するのみ。
「ラグナ! ベルの指示で動け! そして、ベル......タイミングは任せた」
「わかった」
「了解です」
クラウンは刀を収め、<超集中>で白黒の限られた景色の中で必要な情報だけを取得していくとウミガメの暴水流圏に突入していく。体が勢いよく引きずられる。
その状態でも水中を蹴って前に突き進む。それは振り回される言わを避けるためでもあり、その岩に繋がっている糸に触れるため。
クラウンの作り出した糸は物質としての効果を持つ。とはいえ、もとは魔法で作り出したものだ。その糸はクラウンによって破壊できる。
そして、クラウンはその糸をもとの魔力へと分解しながらも、一つだけ中途半端な長さで切断した。そして、水流に乗りながら本体へと接近していく。
クラウンは切断した(岩の繋がっていない)糸の切れ端を左手で掴むとその糸から魔力を流していく。糸から魔力を伝達させて一斉に絡まった糸を魔力へと分解していく。
すると、ウミガメはただ回転しているだけになる。だが、それはウミガメにとって自由に動けるというチャンスも与えしまう。
ウミガメは途端にクラウンに向かって直進すると、こいつだけは確実に仕留めよう、と回転したままヒレ出してクラウンに直撃させようとする。
「そうはさせないです!」
しかし、それは真上から振り落とされた岩石によって防がれる。
ベルが糸に繋がった岩を思いっきり振り下ろしたのだ。水中であるために多少は浮力で軽くなるし、クラウン仕込みのベルが巨大な岩石を振り回せないわけがない。
それによって、ウミガメの回転軸が不安定になり、ゆらゆらと止まりかけの駒みたいに揺れ始める。そこにクラウンは刀を引き抜いて突撃する。
だが、ウミガメは刀の間合いにいれらるのを防ぐために咄嗟に頭を砲弾のように射出して、先に攻撃を仕掛ける。
「そう来ると思ったぜ!」
「ガァ!?」
その瞬間、クラウンは刀を放して振りかぶった右手で拳を作った。そして、その浮かべた笑みはウミガメに食物連鎖の上はどちらかはっきりさせるのに十分な表情であった。
クラウンは飛びだだしてきた頭に向かって鋭く拳を振り下ろす。そして、頭に直撃すると頭にあったゴツゴツした外皮が崩れ落ち、軽くへこむほどの衝撃が与えられた。
振り下ろした拳には対巨体戦のための<剛腕>と<極震>をほぼ同時的に使ったのだ。当然、当たった威力が強くなればなるほど、衝撃も強くなる。
ウミガメは白目になりながら、頭から末尾にかけて衝撃が貫通していく。
「ラグナ。トドメは任せた。これまでの恨みを全てぶち込め」
「ああ、当然だ―――――――水激閃!」
クラウンの衝撃で沈みかけているウミガメだがそれはまだ息の根を止めたわけじゃなく、気絶しているだけ。
その最後を彩るのにふさわしいのはやはり長年苦しめ続けられてきた魚人族であるラグナであろう。
ラグナは一本鎗となった王家の槍を大きく掲げると左手で狙いを定めて、投擲。その槍は固い外皮が無くなった頭に突き刺さっていく。
ウミガメはそのまま海底へと沈んでいく。クラウンの<気配察知>からも気配が消えたので、これにて水中戦は幕を閉じた。
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