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第12章 道化師は集めきる
第262話 討伐クラーケン#1
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「これが魚人族の宝の服である流水速鎧か。感覚としてはウェットスーツだな」
「体に張り付くような感覚は少し慣れないです」
クラウンとベルが着ているのは集めてきたウォータースライム、シーマン、ハイドロシャークの素材で作った水中潜行用の服であった。
ハイドロシャークの藍色の鮫肌を基調色とした服で、頭にサメの鮫肌と歯、ウォータースライムの水膜で作られたヘルメットがある。
また手はグローブになっていて指の間には水かきがあり、靴も五本脚タイプで小さく水かきがある。それから、両腕と背中にはヒレが、そして腰には尾ヒレもあった。
なんともモ〇スターハ〇ター辺りでありそうな装備に、魚の着ぐるみを掛け合わせたような服装であると思えなくもない。
しかし、この服装が割に高性能で、まず海に入れば一度も呼吸のために海面に上がる必要はなく、海の中で立ったり、急停止したりすることが出来る。
それから、潜行の速さは言わずもがな、海流に捕まって自分の向いている方向がわからなくなっても自動で調整する機能が備わっている。
耐久性も服自体の強度が落ちるだけで、服が破れたりして壊れたりすることはなく、どれだけの水圧にも耐えれるようになっている。
欠点としてはやはりピッチリとしたウェットスーツ感は否めなく、多少違和感と動きが制限されてしまうことだが、余りある性能の良さでかき消していると言えよう。
「悪いな、ベル。尻尾は尾ヒレにしまうのが精いっぱいだった。違和感あるだろ」
「大丈夫です。少し尻尾が触れないのはムズムズする感じですが、動くことに関して支障はないです」
ちなみに、二人が着ている服はクラウンのお手製である。クラウンが自分自身の動きやすいように改造してあるのはもちろんのこと、ベルのヘルメットはしっかり耳が収まるような形になっている。
「おう、良く似合ってんじゃねぇか」
「さすが、クラウン様! それでこの国を救って、私を迎えに――――――」
「来るわけないです」
「なにをー!」
そして、いつも通りのベルとシスティーナのいがみ合いが始まるところで、クラウンはラグナへと尋ねる。
「ラグナ、準備はどうだ?」
「ああ、バッチリだ。いつでも行ける」
「なら、行こう。俺達も急ぎの用があるんでな」
クラウンは悲しみに暮れるシスティーナに見送られながらラグナとともに海岸線までやってくる。そこから見えるのは相変わらず大シケの海。
この海に船があれば大きさに限らずどれだけ海中に引きずり込むのだろうか。そう思わせるほどうねる波の大きさは大きいのだ。
ビッグウェーブといえば聞こえはいいが、それがいくつも連続で、しかも四方八方から起きていれば、ただの恐怖でしかない。
そして、その海に降り注ぐ雷の雨。もちろん、実際の雨みたいに細かくないが、それでも避け切れない速さで予測も出来ない場所に落ちてくるのは脅威だ。
もっとも、海中であれば、あまり関係はないのだが。
クラウンは背後にいる恐らく戦闘部隊と思わしき槍を持った魚人兵士を見た。誰も彼もが屈強に鍛え抜かれてある。
いつか来る討伐の日のために鍛えていたのか、それとももとより筋肉質的な種族なのかそれは定かではないが、少なからずこの部隊が過去にやられているので警戒をすべきだとクラウンは思った。
「それじゃあ、行くぞ」
号令したラグナの後に続くように海へと飛び込んでいく。バシャバシャと水しぶきを立てながら何人もの人が入っていく。
クラウンは少しだけ魅入られた、海の世界というものに対して。海面に近ければ揺れるが、少し深度を上げると途端に並みの動きに体が持っていかれることはなくなった。
そして、服のおかげで思わずその場に立ち止まると薄暗くも少し透明度の残る海の中の景色を眺めた。きっと晴れていればもっときれいだったと思うのは言わずもがなだが、海の中というのはなんとも不思議な感覚にさせた。
僅かに波で揺られながら、全身を包まれて浮いているかのような浮遊感。水の中独特の少しだけ動きが鈍る感じ。音が少し遠く聞こえる感じ。
服の性能でほぼ感覚は地上と一緒になっているはずなのだが、やはり環境が違うと感じ方も違うらしい。
「化け物がいるポイントはもう少し奥だ。ついて来い!」
ラグナの声が聞こえる。やはり魚人族は海中でも平然と話せるらしい。恐らくクラウンも話せるだろうが、頷いて返事を返すとその場を蹴ってバタ足していく。
服のおかげで海の中でもスイスイと泳いで行ける。まさしく空を飛んでいる気分になる。もちろん、クラウンは空を飛べるのだが、<天翔>はどちらかというと空を駆ける感じなので、体を横にして進むという感覚はまた違った魅力を感じるのだ。
クラウンは時折ベルの様子を見てはついてきていることを確認する。この広大な海で迷子になったらまず見つけるのは難しい。
それにラグナ率いる舞台はさすが魚人族と言うべきか圧倒的に進むのが速いのだ。まだ慣れてないとはいえ、クラウン達はついていくのがやっとである。
そしてしばらくすると、ラグナ達が止まった。やや遅れてきたクラウン達もその舞台に合流するとラグナ達と同じように下を見る。
太陽の光がないせいか下の方は暗くて見えない。周囲の色も水色から濃い青、黒に近い青とグラデーションになっている。
クラウンは<気配察知>で下から気配を探る。小さい反応や中くらいの反応は恐らく魚の反応だろう。それとは全く違う一際大きい反応が恐らくあの化け物。
「全員、その場から離れろ!」
クラウンは急速に何かが上がってくるの感じるとすぐさま全員に声をかけた。そして、その場から全員が散らばった瞬間、深淵のような穴から白く丸太よりも圧倒的に太い足が伸びてきた。
その足はもと部隊があった場所を通り抜けると海の外へと勢いよく飛び出していく。その光景に思わず目を奪われているとさらに九本の足がそれぞれ魚人兵が固まっているところへと伸びていく。
幸い、その不意打ちでやられた魚人兵はいなかったが、激しく動いていた足によって作り出された水流で一時的に飛ばされる者がいた。
すると、当たらなかったことにイラ立った様子の何かが暗いそこからゆっくりと浮上してくる。その何かは白いボディに十本足をうねらせて三角形のような頭をしている全長二十メートルはありそうなイカ――――――否、クラーケンであった。
ついに現れたこの海の元凶とされているクラーケン。もとの世界でも船を海中に引きずり込んだというクラーケン伝説はあるが、目の前にいるクラーケンはその伝説を体現させるような容姿をしていた。
「部隊を三つに分ける! 僕、クラウンさん、ベルさんを筆頭に十人ずつ別れろ! 指示は各々のリーダーに聞いてくれ! ともかく、奴を倒せばこの海は救われる! 祖国のために、家族のために死ぬ気でかかれ!」
「「「「「おおおおおおぉぉぉぉ!」」」」」
ラグナの士気を高める掛け声とともにラグナは正面、クラウンは右側、ベルは左側と三方向から同時に仕掛けた。
クラーケンは十本ある足のうち三つをベルとクラウンに差し向け、残り四つを正面に当てた。どうやらラグナを優先して潰すようだ。
ラグナに向かって四本の巨大な足が向かって来る。その方向、大きさ、幅を考えながら当たらない距離を作って避けていく。
しかし、上手く通り過ぎても太い足が通り抜けた勢いが遅れてやって来て動きが止められる。すると、背後から進路変更してきた四つの足が向かって来る。
ラグナは後ろを警戒しながら逃げまわる。しかし、一本の足は必ずピッタリとくっついてきて、もう一つの足が時折挟み撃ちするように襲ってくる。
背後と正面同時に来たラグナは直角方向転換し、海面の方へと浮上する。すると、その足は互いにぶつかって威力を相殺しながら、真上にいるラグナに迫り始めた。
その行動を予測していたラグナは真下に向かって左手で狙いを定め、右手に持った槍を振り下ろした。
その槍は三又から一本鎗に切り替わるとその槍の周りに二本の水流を螺旋状に纏わせて、向かってきた二本の足を抉り飛ばす。
「ラグナ様! そこを離れてください!」
「!」
突然の兵士からの警告命令。しかし、足元には先ほど弾き飛ばした二本の足があるし、周囲を見ても足が向かってきている感じはない。
――――――ザッパァン!
突然巨大な水しぶきの音が聞こえたとともに自身の体に影が差していく。そして、何か強大な勢いで迫ってくる。
ラグナは咄嗟に上を見た。すると、巨大な白い足が眼前へと迫っている。どうやら先ほどのとは別の海面の外に出した足を海面に叩きつけた音らしい。
ラグナはすぐに上体を真下に向けて海中を蹴った。少しでも距離を取るために。しかし、それは圧倒的大きさの前では遅すぎる行動であった。
「ぐあぁ!」
直撃する直前で手元に戻ってきた槍を足に突き刺すが、ほとんど意味はなく、重たい一撃のまま海底に落とされていく。
筋肉に血管が浮き出るぐらいの力強さで押し返そうとしてもビクともしないし、圧力であばらにヒビが入った感じがする。
このままいけばあばら何本折られかねないし、近くにある岩場に叩きつけられかねない。しかし、自分ではどうしようもない。
もうこうして一撃を受けてる以上、他の魚人兵に止められる術はなし。他に止める方法があるとすれば、化け物自身が動きを止めることだがそれも難しいだろう。
「しま―――――――った!?」
ラグナがもう少しで岩場に叩きつけられようとしていた時、突然ラグナを押していた足は引き上げた。ラグナは押された勢いをなんとか岩場の直前で殺しきると周囲を見渡す。
突然足を引き上げるということはよっぽどのことが起こったからだと言えるからだ。そして、その原因を見つけた。
「ギャシャアアアアアァァァァ!」
「この世界のクラーケンはそんな鳴き方するのか。まあ、知ってるわけじゃねぇけどな」
クラウンがクラーケンの足一本を半ばから思いっきり切断していたからだ。どうやらその痛みで足を引いたらしい。
それを見てラグナは確信した。「この戦い、勝てる」と。
「体に張り付くような感覚は少し慣れないです」
クラウンとベルが着ているのは集めてきたウォータースライム、シーマン、ハイドロシャークの素材で作った水中潜行用の服であった。
ハイドロシャークの藍色の鮫肌を基調色とした服で、頭にサメの鮫肌と歯、ウォータースライムの水膜で作られたヘルメットがある。
また手はグローブになっていて指の間には水かきがあり、靴も五本脚タイプで小さく水かきがある。それから、両腕と背中にはヒレが、そして腰には尾ヒレもあった。
なんともモ〇スターハ〇ター辺りでありそうな装備に、魚の着ぐるみを掛け合わせたような服装であると思えなくもない。
しかし、この服装が割に高性能で、まず海に入れば一度も呼吸のために海面に上がる必要はなく、海の中で立ったり、急停止したりすることが出来る。
それから、潜行の速さは言わずもがな、海流に捕まって自分の向いている方向がわからなくなっても自動で調整する機能が備わっている。
耐久性も服自体の強度が落ちるだけで、服が破れたりして壊れたりすることはなく、どれだけの水圧にも耐えれるようになっている。
欠点としてはやはりピッチリとしたウェットスーツ感は否めなく、多少違和感と動きが制限されてしまうことだが、余りある性能の良さでかき消していると言えよう。
「悪いな、ベル。尻尾は尾ヒレにしまうのが精いっぱいだった。違和感あるだろ」
「大丈夫です。少し尻尾が触れないのはムズムズする感じですが、動くことに関して支障はないです」
ちなみに、二人が着ている服はクラウンのお手製である。クラウンが自分自身の動きやすいように改造してあるのはもちろんのこと、ベルのヘルメットはしっかり耳が収まるような形になっている。
「おう、良く似合ってんじゃねぇか」
「さすが、クラウン様! それでこの国を救って、私を迎えに――――――」
「来るわけないです」
「なにをー!」
そして、いつも通りのベルとシスティーナのいがみ合いが始まるところで、クラウンはラグナへと尋ねる。
「ラグナ、準備はどうだ?」
「ああ、バッチリだ。いつでも行ける」
「なら、行こう。俺達も急ぎの用があるんでな」
クラウンは悲しみに暮れるシスティーナに見送られながらラグナとともに海岸線までやってくる。そこから見えるのは相変わらず大シケの海。
この海に船があれば大きさに限らずどれだけ海中に引きずり込むのだろうか。そう思わせるほどうねる波の大きさは大きいのだ。
ビッグウェーブといえば聞こえはいいが、それがいくつも連続で、しかも四方八方から起きていれば、ただの恐怖でしかない。
そして、その海に降り注ぐ雷の雨。もちろん、実際の雨みたいに細かくないが、それでも避け切れない速さで予測も出来ない場所に落ちてくるのは脅威だ。
もっとも、海中であれば、あまり関係はないのだが。
クラウンは背後にいる恐らく戦闘部隊と思わしき槍を持った魚人兵士を見た。誰も彼もが屈強に鍛え抜かれてある。
いつか来る討伐の日のために鍛えていたのか、それとももとより筋肉質的な種族なのかそれは定かではないが、少なからずこの部隊が過去にやられているので警戒をすべきだとクラウンは思った。
「それじゃあ、行くぞ」
号令したラグナの後に続くように海へと飛び込んでいく。バシャバシャと水しぶきを立てながら何人もの人が入っていく。
クラウンは少しだけ魅入られた、海の世界というものに対して。海面に近ければ揺れるが、少し深度を上げると途端に並みの動きに体が持っていかれることはなくなった。
そして、服のおかげで思わずその場に立ち止まると薄暗くも少し透明度の残る海の中の景色を眺めた。きっと晴れていればもっときれいだったと思うのは言わずもがなだが、海の中というのはなんとも不思議な感覚にさせた。
僅かに波で揺られながら、全身を包まれて浮いているかのような浮遊感。水の中独特の少しだけ動きが鈍る感じ。音が少し遠く聞こえる感じ。
服の性能でほぼ感覚は地上と一緒になっているはずなのだが、やはり環境が違うと感じ方も違うらしい。
「化け物がいるポイントはもう少し奥だ。ついて来い!」
ラグナの声が聞こえる。やはり魚人族は海中でも平然と話せるらしい。恐らくクラウンも話せるだろうが、頷いて返事を返すとその場を蹴ってバタ足していく。
服のおかげで海の中でもスイスイと泳いで行ける。まさしく空を飛んでいる気分になる。もちろん、クラウンは空を飛べるのだが、<天翔>はどちらかというと空を駆ける感じなので、体を横にして進むという感覚はまた違った魅力を感じるのだ。
クラウンは時折ベルの様子を見てはついてきていることを確認する。この広大な海で迷子になったらまず見つけるのは難しい。
それにラグナ率いる舞台はさすが魚人族と言うべきか圧倒的に進むのが速いのだ。まだ慣れてないとはいえ、クラウン達はついていくのがやっとである。
そしてしばらくすると、ラグナ達が止まった。やや遅れてきたクラウン達もその舞台に合流するとラグナ達と同じように下を見る。
太陽の光がないせいか下の方は暗くて見えない。周囲の色も水色から濃い青、黒に近い青とグラデーションになっている。
クラウンは<気配察知>で下から気配を探る。小さい反応や中くらいの反応は恐らく魚の反応だろう。それとは全く違う一際大きい反応が恐らくあの化け物。
「全員、その場から離れろ!」
クラウンは急速に何かが上がってくるの感じるとすぐさま全員に声をかけた。そして、その場から全員が散らばった瞬間、深淵のような穴から白く丸太よりも圧倒的に太い足が伸びてきた。
その足はもと部隊があった場所を通り抜けると海の外へと勢いよく飛び出していく。その光景に思わず目を奪われているとさらに九本の足がそれぞれ魚人兵が固まっているところへと伸びていく。
幸い、その不意打ちでやられた魚人兵はいなかったが、激しく動いていた足によって作り出された水流で一時的に飛ばされる者がいた。
すると、当たらなかったことにイラ立った様子の何かが暗いそこからゆっくりと浮上してくる。その何かは白いボディに十本足をうねらせて三角形のような頭をしている全長二十メートルはありそうなイカ――――――否、クラーケンであった。
ついに現れたこの海の元凶とされているクラーケン。もとの世界でも船を海中に引きずり込んだというクラーケン伝説はあるが、目の前にいるクラーケンはその伝説を体現させるような容姿をしていた。
「部隊を三つに分ける! 僕、クラウンさん、ベルさんを筆頭に十人ずつ別れろ! 指示は各々のリーダーに聞いてくれ! ともかく、奴を倒せばこの海は救われる! 祖国のために、家族のために死ぬ気でかかれ!」
「「「「「おおおおおおぉぉぉぉ!」」」」」
ラグナの士気を高める掛け声とともにラグナは正面、クラウンは右側、ベルは左側と三方向から同時に仕掛けた。
クラーケンは十本ある足のうち三つをベルとクラウンに差し向け、残り四つを正面に当てた。どうやらラグナを優先して潰すようだ。
ラグナに向かって四本の巨大な足が向かって来る。その方向、大きさ、幅を考えながら当たらない距離を作って避けていく。
しかし、上手く通り過ぎても太い足が通り抜けた勢いが遅れてやって来て動きが止められる。すると、背後から進路変更してきた四つの足が向かって来る。
ラグナは後ろを警戒しながら逃げまわる。しかし、一本の足は必ずピッタリとくっついてきて、もう一つの足が時折挟み撃ちするように襲ってくる。
背後と正面同時に来たラグナは直角方向転換し、海面の方へと浮上する。すると、その足は互いにぶつかって威力を相殺しながら、真上にいるラグナに迫り始めた。
その行動を予測していたラグナは真下に向かって左手で狙いを定め、右手に持った槍を振り下ろした。
その槍は三又から一本鎗に切り替わるとその槍の周りに二本の水流を螺旋状に纏わせて、向かってきた二本の足を抉り飛ばす。
「ラグナ様! そこを離れてください!」
「!」
突然の兵士からの警告命令。しかし、足元には先ほど弾き飛ばした二本の足があるし、周囲を見ても足が向かってきている感じはない。
――――――ザッパァン!
突然巨大な水しぶきの音が聞こえたとともに自身の体に影が差していく。そして、何か強大な勢いで迫ってくる。
ラグナは咄嗟に上を見た。すると、巨大な白い足が眼前へと迫っている。どうやら先ほどのとは別の海面の外に出した足を海面に叩きつけた音らしい。
ラグナはすぐに上体を真下に向けて海中を蹴った。少しでも距離を取るために。しかし、それは圧倒的大きさの前では遅すぎる行動であった。
「ぐあぁ!」
直撃する直前で手元に戻ってきた槍を足に突き刺すが、ほとんど意味はなく、重たい一撃のまま海底に落とされていく。
筋肉に血管が浮き出るぐらいの力強さで押し返そうとしてもビクともしないし、圧力であばらにヒビが入った感じがする。
このままいけばあばら何本折られかねないし、近くにある岩場に叩きつけられかねない。しかし、自分ではどうしようもない。
もうこうして一撃を受けてる以上、他の魚人兵に止められる術はなし。他に止める方法があるとすれば、化け物自身が動きを止めることだがそれも難しいだろう。
「しま―――――――った!?」
ラグナがもう少しで岩場に叩きつけられようとしていた時、突然ラグナを押していた足は引き上げた。ラグナは押された勢いをなんとか岩場の直前で殺しきると周囲を見渡す。
突然足を引き上げるということはよっぽどのことが起こったからだと言えるからだ。そして、その原因を見つけた。
「ギャシャアアアアアァァァァ!」
「この世界のクラーケンはそんな鳴き方するのか。まあ、知ってるわけじゃねぇけどな」
クラウンがクラーケンの足一本を半ばから思いっきり切断していたからだ。どうやらその痛みで足を引いたらしい。
それを見てラグナは確信した。「この戦い、勝てる」と。
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