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第11章 道化師は狩る

第252話 リベンジマッチ#4

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 一足先に神獣を討伐したクラウンは立ったまま動かないラズリへと急行する。すると、ラズリの体が突然変化し始めた。

 それは魔王城で見たレグリアの変化のように体が内側からボコボコと膨張し始め、気持ち悪くその体積を大きくしていく。

 両手両足は大木のような太さになりそれを支える胴体はまるで巨大な岩のようにゴツゴツした体つきになっていく。まるでオーガのようだ。

 そこに先ほどまでのラズリの面影はなく、全く別の何かであった。その目の前から伝わってくる威圧感にクラウンは思わず攻撃するのを止めた。直感が危険だと訴えているからだ。

 ラズリの大きさは三メートルぐらいになった所で止まり、着ていた黒い法衣ははちきれんばかりに肉体に張り付いており、手や首筋には血管がいくつも浮き出ていた。

 その姿を見てクラウンは思わず冷や汗をかく。先ほどのような互角とはならず、恐らく一方的な攻撃が続くだろうと。

「お前はレグリアの細胞でも取り込んだのか?」

 ラズリの能力を全て知っているわけではないが、神の使徒にそれぞれ特異の能力があると思われる。だとしたら、ラズリは恐怖によるデバフ効果で、レグリアが肉体を変化させるものだと認識している。

 しかし、今目の前にいるラズリはまるでレグリアの姿をトレースしたような感じだ。それに僅かに別の魔力を感じることからもして。

 すると、ラズリは答えた。

「そうだ。お前らを殺すためにおれっちの全てを捨てて、レグリアの一部を取り込ませてもらったネ。それは全てお前らを殺すためネ!」

「速い!」

 クラウンが気づいた時には目の前にラズリが現れて、固く握った拳を叩きつけようとしていた。その攻撃に対して、クラウンは咄嗟に刀でガードする。

 拳と刀が接触する。刀で当てているのは刃の方だというのに拳に刀が刺さることもない。そして、刀から伝わる震えを感じながらクラウンは吹き飛ばされていく。

 地面を転がりながらすぐに体勢を立て直すと自身を覆う影に気付いた。咄嗟に上を向くと拳を振りかぶったラズリがすぐ目の前に存在していた。

 クラウンはその場から跳躍する。その動作のコンマ数秒に地面が耳鳴りがするような音を立てながら爆発した。砂煙と共に周囲に瓦礫が飛び散っていく。

 その瓦礫に頬や腕を切り裂かれながらも直撃を防いだクラウンは砂煙に隠れているラズリを睨む。すると、ズシズシと重たそうな体を動かしてラズリが現れた。

「ちょこまかと逃げやがって!」

 ラズリはイラ立ちが隠せないようだ。口を歪めながら歯を強く食いしばっている。握った拳は僅かに微振動している。

 クラウンは咄嗟に思考する。このラズリを倒す手段は他にないか。まず把握できることは先ほどよりもパワーもスピードも上がっているということ。

 しかし、魔法を使う様子はない。恐らくあの変化で使えない可能性がある。また厄介なのがラズリの固さだ。

 刀の刃に拳を当てて全く刃が刺さらないというのは非常に厄介だ。いくら攻撃してもそれは自身の体力を削っているだけなのだから。
 
 最も楽な方法は固さを打ち破るほどの強さを手に入れることで、その方法は使、これ以上使うのは危険な可能性があるので出来れば使いたくないところ。

 他に何か有効な手段を考えたいところだが、どうやらタイムアップらしい。それはラズリがクラウンに突貫してきたから。

 ラズリはクラウンに近づくと右手を頭上に上げ、手刀の形に変えると一気に振り下ろした。その瞬間、地面に亀裂が入り、裂けていく。

「チッ!」

 クラウンは僅かな身のこなしでその攻撃の直線上から外れるとラズリの横側に回りながら脇腹を斬る。しかし、まるで木の棒を鉄の板で擦らせているような感じで全くダメージを与えられない。

 すると、クラウンの背後からラズリの裏拳が迫ってくる。クラウンは咄嗟に地面へと飛び込んでいくように跳ぶ。

 そして、その状態で裏拳を回避してから、左手を地面につけて逆立ちへと移行する。それは次なるラズリの攻撃を予測するためだ。

 現状ではラズリの攻撃を見てから動くというのは出来ない。ある程度の先読みをしなければいけない。そして、次に来るのは―――――――左拳を大きく振りかぶった。

「がはっ!」

 ラズリは拳をクラウンに叩きつけるように振るう。逆さ状態のクラウンはそれを回避するように刀でガードしようとした。

 だが、ラズリは拳を寸止めさせるとすぐさま重心を左足に移して、右脚で回し蹴りをし始めた。その攻撃はクラウンの右脇腹に入り、ミシミシと音を立てあばらを三本破壊していく。

 クラウンは口から吐血しながら、車に思いっきり轢かれたかのように地面を擦りながら転がっていく。クラウンが感じている全身に走る激痛はそれだけで意識を失いそうになるが、気合で何とかしている。

 しかし、ダメージが回復できない。内臓を傷つけたのか口から感じる大量の血の味が味覚を狂わせていく。

 通常のラズリとの戦闘で<超回復>を使い過ぎて今使ったとしても微々たるもので、ほとんどやってないのと変わらない。

 震える腕で何とか立ち上がろうとするが、モロにくらった一撃があまりにも大きかったのか中々力が入らない。

 そんなクラウンにラズリはゆっくりと近づいていく。ギ〇ンテスのような巨体は歩くだけで地面を軽く揺らしていく。

「これで終わりネ」

「ああああああ!」

 ラズリはクラウンの頭を右手で鷲掴みするとその頭を握り潰そうとする。万力以上の圧力で絞められたかのような痛みに思わずクラウンは叫ばずにいられなかった。

 このままでは本当にやられてしまう。もはや躊躇している場合ではない。そう思ったクラウンは咄嗟に肉体からさらなる黒いオーラを解き放ち、体に纏わせていく。

 そして同時に、それで強化された肉体で刀を振るい、頭を掴んでいるラズリの右腕を切り離した。ラズリは突然離れた腕に思わず後ずさりしながら、傷口を抑えてあとずさる。

 全身を凶悪なに身を包んだクラウンは頭にくっついている手を取り、投げ捨てた。

 すると、その頭にはこめかみから角が生えており、目の下には血の涙を流したような赤いラインが入っている。瞳は黄色くなり、背中には黒い翼がある。

 リリス達やベル達が見たのは丁度この辺りからである。

「道化の魔王さ。お前らが作り出したお前らを殺すための兵器の名だ」

 好戦的な目をしているクラウンはラズリと戦うことを嬉々としている様子で、口元が不敵な笑みで歪んでいる。

 これがクラウンの切り札である<魔王化>である。レグリアの呪いを倒した後に体に染みついた感覚が覚えていたもので、使うと全ての力が強化され好戦的になる。ただ使うだけのリスクが伴うが。

「圧倒的な力で持ってお前を蹂躙してやる!」

 クラウンはその場から消えるとラズリの側面へと現れて左手で顔面を掴みながら、地面へと叩きつけていく。さらに、その顔面を足で踏みつける。

 叩きつけられた時点で地面に埋まった顔は蹴りの追撃でさらに埋まり、首から下は勢いで浮いていく。ラズリの頭から放射状にヒビが入り、砕けていく。

 クラウンはラズリの浮き上がった脚を掴むと遠心力を使って思いっきり投げ飛ばした。吹き飛ばされたラズリは空中で体勢を立て直しながら、地面に着地すると凶悪な笑みを浮かべる。

 ラズリは咄嗟に斬られた右腕を生やし、剣のような形状に変えてクラウンの振るわれた刀を防いだ。しかし、その刀は剣に刺さり、あまつさえ斬り上げ、落とした。

 だが、ラズリはそれによって生じたクラウンの僅かな隙を狙って反対の拳を脇腹を狙って叩き込もうとする。

 しかし、クラウンは向かってきた拳を、左手を右腕の脇の下から通すように出すと受け止める。そして、その拳を掴んだまま自身の体戻すように横回転させ、その勢いのまま下から上に袈裟切りにしていく。

 ラズリの胴体に入った大きな斬り込みから大量の血が噴き出し、クラウンの顔にかかっていく。そんなことを気にする様子もなく、斬った回転の勢いを利用したままさらに左拳でラズリをアッパーした。

 ラズリの体は死に体となって空中に浮き上がり、クラウンは地面に着地すると両手に持った刀を下段に構え下から上に袈裟切りした。

 ラズリの胴体にはバツ印がつき、再び胴体から血がドバッと溢れ出る。

「死ね」

「まだネ!」

「!」

 クラウンはそこから刀を頭上に掲げると両断するように振り下ろした。しかし、その攻撃はラズリが右腕から瞬時に右手を生やすと左手とともに白羽取りされた。

 その勢いは地面を軽くへこませるほどでもあったが、それでもラズリはその刀を頭に直撃する前に受け止めた。

 ガッチリ抑え込んでいるのかビクともしない。するとすぐに、クラウンは攻撃を変え、胴体に思いっきり蹴り込んでいく。

 ラズリは傷口を蹴られて思わず怯んだ。その隙を見逃さず、すぐさま両腕を斬り払う。その腕から青い鮮血が舞っていく中、クラウンは大きく足を踏み出して鋭く刀を横に振るう。

 空気すら薄く削いでいくように、動いていく黒い刃は少しずつラズリの首元に近づいていき――――――

「嘘だ――――――」

「死ね」

 スパンッとクラウンが刀を振り終えたと同時にラズリの頭が空中で回転していく。斬られた勢いでグルグルと回転して、そして地面へと落ちていく。

 今度こそ確実にラズリの頭を刎ねた。それを目の前で確認したクラウンは刀を鞘に納めると<魔王化>も解いて振り返る。

 これで戦いは終わったのだ。三度目の正直というやつだ。

 すると、斬り落とした腕が僅かに動いていることに気が付いた。

 そのことにとてもつもなく悪寒を感じたクラウンは咄嗟に背後を振り返る。すると、首から腕を生やしたラズリがいきなりクラウンの肩を掴んだ。

「お前も道連れネ」

「な―――――――」

 ラズリが開けた口には小さな球体のようなものがあり、それは周囲から光を集めるように収束し始めていた。それはまるでリルリアーゼの高エネルギー砲を撃つときのような感じであった。

 クラウンは思わず焦ったように目を見開く。ラズリは自爆するのだと気づいたからだ。そして、咄嗟にラズリの頭を掴んで離そうとするが、<魔王化>を解いたことにより反動で力が入らない。

 光はどんどんと収束していき、その度に輝きを増していく。一定の熱量を超えたのか顔が炙られているかのように熱い。

 その時、ガサッガサッと何かが勢いよく駆けて来る音がする。そして、その何かは横からラズリの頭を掻っ攫うと後ろ足でクラウンの胴体を思いっきり遠くへ飛ばすように蹴った。

 クラウンはまるで走馬灯のように過去の記憶を思い出しながら、手を伸ばし叫んだ。

「ロキいいいいいぃぃぃぃ!」

――――――瞬間、辺りは一瞬にして白い光で包まれた。
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