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第11章 道化師は狩る

第248話 天空の箱庭 スカイクロノア#6

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 「裏切り者」――――――その言葉はどこか悲しさを抱いた怒気であった。そして、その言葉は「今いるメンバーの中できっと自分が言われているのだろう」とクラウンは思った。

 そう思うきっかけは壁画に書かれていた絵に描かれていた。あの壁画は竜人族が生まれる遥か昔の出来事。長寿であるエルフでもとても長い過去であると思わせるような前の出来事。

 人間と竜が関係を結んだ過去でもあり、同時に破綻した過去でもある。だが、時代は流れ再び竜人族は人族と手を取り合うのもおかしくなくなった時代にてこの発言。

 全身の黒い竜鱗はさながら色の濃さだけ恨みを募らせたような感じであった。そして、鋭い牙や爪は裏切り者を抹殺できるようにしているかのように尖っていた。

「裏切り者? 言っておくが、俺は過去の人間のことなぞ知らん。もとよりここの人間ではないのだからな」

「そんなことはどうでもいい。ワシはもう我慢しきれぬ。僕を殺され、騙し、裏切った人族を殺したくて殺したくてたまらなかった。恨んで恨んで地に堕ちた。それが今のこの姿。それで裏切り者はどういうつもりだ? まさか姿とでも?」

「.......はあ、俺はお前の恨みをどうにかするつもりもなければ、必要なのは宝玉だ。それさえ手に入ればお前を殺す必要も無い」

「殺す?.......くくく、グガガガガ! 貴様が! ワレを! 殺す!? ふざけるのもいい加減にすることだな! 貴様らに与えるものはもう何もない! 宝玉はワレの宝ぞ! そんなものを渡すわけがない!」

「なら、力づくになるが良いんだな?」

「ほう? 味方に竜人を連れてるから勝てると? 始祖を舐めるなよ!」

 黒竜は口に高熱の炎をため込むと数発の弾丸のように吐き出した。その一発が五メートルほどもありそうな巨大な火球でそれが隕石が空気摩擦で炎を纏ったかのように降り注ぐ。

 しかし、速度は大して早いものではない。その僅かな隙間を縫ってクラウンは空中を蹴って突き進んでいく。

 そして、黒竜に接近すると大降りに構えた刀を顔面に向けて袈裟切りに振り下ろす。しかし、刀は固い鱗によって防がれた。

「ぐっ!」

 瞬間、クラウンは黒竜に頭突きされた。体の前面が同時に全て叩きつけられていき、黒竜の額にある尖った突起が体を突き刺していく。

 クラウンが落下していくのを歯噛みしながらも、エキドナはベルを乗せて黒竜へと突っ込んでいく。そして、エキドナは通常状態から人型への<竜闘変化トランスバトル(闘)>に変化すると大降りに拳を振った。

 その拳は黒竜に胸元に直撃するが黒竜はピクリともその場に滞空したまま動かない。だが、そこで攻撃は終わりではなく、ベルがエキドナの腕を伝って走っていくと片方の壁に糸をくっつけ、その状態で空中を蹴りながら黒竜の首を一周していく。

 そして、黒竜の首を強靭かつ極細の糸で繋げるとそれを一気に引っ張る。いわば糸で物体を切断しようとしているのだ。

「ウザったい!」

「うっ!」

 だが、その糸はベルが引っ張っても全く動かず、黒竜に首を振り回されてベルが壁に叩きつけられている。

 それから、エキドナの拳を左手で払うと右手で思いっきり殴り飛ばした。そして、下にいたシルヴィーともどもマグマに叩き落す。

 マグマのすぐそばにいたクラウンは上空から降ってくる二つの巨体に向かって行くと刀をしまって押し返しにかかった。

 竜というもとより超重量級の存在が二体もいるというのはさすがのクラウンであっても堪えるものがあったが、なんとかマグマ手前で踏みとどまることが出来た。

「皆、道を開けて!」

 リリスが叫ぶ声が聞こえる。クラウン達は横にズレて、ベルは回収に向かったロキが口で咥えることでマグマ溜まりから一直線上に黒竜への道が出来た。

 リリスはそこでマグマに向かって超重力をかける。生半可な魔力では動かないらしいので古代サキュバスの力も借りて。

「行きなさい! 溶岩龍!」

 リリスはマグマを上に上に引っ張り上げるとそのまま黒竜に向かって放った。そのマグマはさながら東洋の龍のように長い胴体をうねらせて黒竜に向かっていく。

 黒竜は口の中に思いっきり空気をためてブレスを放つが、もとより火の塊のような存在に近いマグマの龍には通用しない。

 そして、マグマの龍は口を開けたまま黒竜の胴体に直撃した。

「ガアアアア!」

 その瞬間、初めて黒竜が痛がる叫び声を上げた。防御力が高い竜であってもさすがに熱のダメージは防ぎきれないようだ。火道に住んでいるから多少の熱耐性はあっても直撃ならダメージを与えられる。

 しかし、そのマグマを操作するのは存外繊細の作業らしく、リリスの魔力は黒竜に与えた一撃で限界を迎えた。

 とはいえ、リリスの一撃はクラウン達にとって非常にありがたいダメージであった。なぜなら、直撃した部分の鱗が溶けて火傷を負っているから。

 つまりは底を狙えば攻撃が与えられる。しかし、それはきっと相手も考えているであろうことで、他にダメージを与えられる手段があればそれに越したことがないのだが.......。

 クラウンは僅かな間で時間で思考する。ただ刀を振っただけでは固い鱗に阻まれてしまう。その鱗を壊すには何度も同じ場所に当てるのが一番手っ取り早いがそれは実に難しいことで、当てた場所を覚えていなければいけない。

 それに一撃一撃で通るダメージが少なすぎる以上あまりいい策とは言えない。他に、他に何かないのか?

「ダメージを与えられたけど、まだ少ないわね。後もう少しダメージを

「.......ああ、そうだな」

 クラウンはエキドナの言葉を聞いて不敵な笑みを浮かべると刀に魔力を纏わせて一気に駆け出した。そして、ロキとベルに「撹乱を頼む」と指示を出す。

「ウザい!」

 二人は黒竜の顔の近くで近づいたり離れたりしながら視線を注目させる。その行動がウザったらしくなった黒竜は右手を顔の近くで大きく横なぎに振るった。それによって、下側に死角が出来る。

「エキドナ! リリス! 両腕を塞げ!」

「「了解!」」

 エキドナは(闘)から(空)に変化するとまるでジェット機のような形になってリリスを乗せて、クラウンを抜き去る。

 そして、リリスが左腕側に降りるとエキドナは右腕側に逸れていく。それから、リリスは僅かな魔力で重力を作り出して左腕を拘束、エキドナはタックルしながら右腕を弾き飛ばす。

 それによって黒竜の胴体はがら空きになる。そこにクラウンが突っ込む。しかし、黒竜はそうはさせまいと鋭い尻尾をクラウンに向かって放った。

「させないの!」

 だが、その攻撃はシルヴィーのタックルで弾かれる。その隙にクラウンは直進して刀を上段に構えながら進撃する。

「一刀流狼の型――――――――双狼対」

 クラウンは黒竜の胴体に右から左へと袈裟切りに振り下ろすと同時に左から右へと切り裂かれていく。その瞬間、胴体からは大量の血がドバッと溢れ出始めた。

「ガアアアアア! 痛い! 痛い!」

 苦しむように黒竜は体をよじらせる。そして、力任せに腕や尻尾を振りエキドナ、リリス、シルヴィーを払う。その光景を見ながらクラウンは「浅い」と感じた。

 クラウンがやったのは刀に<斬翔>の斬撃を纏わせて作ったお手製の高周波ブレードである。

 それによって鎧のような鱗を削り、ダメージを食らわせるということに成功したが、思っているよりもダメージを与えられていない。そのことに歯噛みしてしまう。

「ああああああ! もう痛いのは嫌だああああああ!」

「!」

 黒竜が苦しそうに叫んだ瞬間、言葉に反応したのは背中に背負った黒い輪っか。それは妖し気な光を放つと一斉に同色の球体を作り出し、それをクラウン達に放っていく。

 それを避けようとするクラウン達だがホーミング弾のように追撃してきて逃れることが出来ない。黒竜を盾にして自滅させようとすれば、痛みに暴れているため近づけば余計なダメージを食らってしまう。

 しかし、それはいずれ追いつかれることを意味していて―――――――

「ぐっ!」

 ダメージを食らわざる負えないことを意味していた。そして、その球体は黒い輪っかから量産されていて、このままではジリ貧になってしまう。

 ということは、殺られる前に殺れということである。

「全員、行くぞ!」

 ダメージ覚悟の特攻。そうするしか現段階で追いかけて来るホーミング弾をどうにかする方法はない。そして、クラウン達は進撃を開始した。

 まず特攻として先行したのはロキとベル。ベルを乗せたロキはエキドナの投げによって勢いよく射出されるとそのまま高速で空中を駆けていく。

 そして、簡易的な雷核を作り出すとそれを口に含む。その一方で、ベルは糸でロキに体を固定して仁王立ちすると両手の逆手に持った短剣を思いっきりクロスさせた。

 それによって、前方にはバツ印の斬撃が飛んでいき、そのすぐ後方にロキが圧縮した雷核を放つ。

 しかし、その攻撃に気付いた黒竜はその斬撃と雷核を撃ち落とそうとするが――――――

「そうはさせないわ!」

「そうはさせないの!」

 それらの攻撃よりも先にエキドナとシルヴィーが向かってきてエキドナは右拳をシルヴィーは左拳を揃えて打ち出し、黒竜のアゴを捉え弾き飛ばす。

 それによって、黒竜は大きく体を仰け反らせると丁度胴体の切り込み部分にベルの斬撃が直撃し、瞬間に眩い光と共に爆発が起こる。その通絶に黒竜は叫び声を上げずにいられない。

「クラウン、準備はいい?」

「ああ、頼む」

 リリスは咄嗟に取り出した魔力ポーションで魔力を一時的に回復させるとクラウンを黒竜に向かって超重力で押し出した。

 それによって、クラウンはグングンと加速していき、その状態のまま黒竜へ高速接近していく。そして、クラウンはというと突きの構えをするようにわずかに腕を引く。

「一刀流牛の型―――――――一撃心角」

 周囲が歪み、まともに息も出来ない超高速の中、迫って見えるのは煙の奥から見える黒竜の胴体。そして、その鋭い一撃は黒竜の捉えられる速さを超えていて直撃―――――――貫通した。

 その瞬間、黒い輪っかは砲撃を止め、ヒビが入り砕け散る。そして、黒竜は全身の負の感情が抜けていくように黒い色素が抜け落ち、代わりに見えて来たのは金色の表面であった。

 本来がこの姿であったのだろう。そして、この姿から黒竜と神竜はやはり同一の存在だったらしい。すると、神竜は告げた。

「ありがとう。人の子よ。我が力は負の力によって増幅されておった。人族を恨んでいたのは確かなことであったが、それでも傷つけようとは思わなんだ」

 神竜は力なく真下にあるマグマ溜まりへと落ちていく。その最中で胸元から光を集めると球体を作り出す。

 宝玉だ。それをクラウンに向かって放った。

「貴殿が求めていたものだ。持って行け。そして、気をつけよ。殿

 神竜はマグマ溜まりへと沈んでいく。その光景にクラウンは哀悼の意を捧げた。
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