上 下
58 / 303
第11章 道化師は狩る

第246話 天空の箱庭 スカイクロノア#4

しおりを挟む
 クラウン達は巣穴の中に入るとまず目に入ったのは巨大すぎる洞窟であった。いくつもの土の橋のようなものがいろんな方向から繋ぎ合わさっている感じはまさに迷路といった感じであった。

 クラウンはすぐさまこの洞窟内で<気配察知>を行う。周囲に目立った気配は感知しない。遠くには反応を見せているが、少なくともここにはいないことは確かだ。

 加えて、この洞窟内は結界の影響を受けないらしい。恐らく地上に触れているのが条件で、その地上の中にいてしまっているからだと思われる。

 つまり制限がないということだ。「ようやく本領発揮できる」とクラウンはふと息を吐く。するとその時、シルヴィーが突然ドンッと横に倒れた。

「どうした?」

「はぁ、はぁ、はぁ.......ん、はぁ.......」

 呼吸のペースが乱れているうえに速い。先ほどからずっと飛んでいたから疲れたという可能性もあるが、表情が想像以上に苦しそうだ。

「ウォン」

「ロキ、どうした―――――――チッ」

 ロキの吠えた方向を見ると腹部の部分に三本ほど毒針が刺さっていた。ハチに襲われたとは考えにくい。だとすれば、アリが投げた毒針という辺りか。

 クラウンはシルヴィーが刺さっていたことをずっと黙っていたことに思わず舌打ちするとロキと共に毒針を抜いた。すると、シルヴィーの体は段々と小さくなり赤竜からもとの人型に戻っていく。

 ダルそうに寝転がるシルヴィーを抱えると額に触れる。酷いほどの高熱だった。通りで息切れが早いわけだ。

「バカが」

 腰のポーチから解毒薬を取り出すとシルヴィーの口に容器を押し付けて無理やり飲ませていく。

 普通の人間なら明らかに死んでそうな体温だが、それは竜人族という種族の強靭な肉体の影響があるからかもしれない。

 クラウンはシルヴィーに解毒薬を飲ませた後、背中に背負うとさらにロキへと乗った。そして、ロキに「あいつらの場所まで行ってくれ」と頼んだ。

 それから十数分後、シルヴィーの様態が安定してきたと同時にシルヴィーと同じような状態のエキドナを抱えたリリス達を発見した。

 だが、一旦その場を離れると途中で見つけた洞窟に身を隠し、ほんの少し空気の通り道を作るとそれ以外は土で埋めた。

「一先ず、これでひと段落だな」

「ええ、そうね。まさかあんた達の方でも同じことになっているとは思わなかったけど」

「ということは、そっちでも下から毒針投げられていたことを黙っていた口です」

「はあ、俺も気づかなかった責任があるからして強くは言えないが、少なくとも黙っていたことに関しては説教してやる」

 そう言いつつも、二人が無事であったことにクラウンは安堵の表情を浮かべていた。熱くなったタオルを交換しているリリスとベルもその表情には気づいていた。

 すると、おもむろにリリスは話題を提示する。

「そういえばなんだけど、ここに来る途中で石碑を見つけたわ。ほら、神殿とかでよく見るやつ」

「なんて書いてあった?」

「えーっと確か―――――――」

「『大地に蠢く蟲を避け、至るべき神の道しるべのままに空の王者へと会いに行け』です」

「そうそう、それそれ。ベルの瞬間記憶は便利だわ。それでそれを聞いてどう思う?」

 クラウンは壁に寄り掛かると顎に手を付けて考え始めた。

 ひとまず、最初の句読点までの一文の意味はそのままだろう。絶賛襲われ中でむやみな戦いを避け(あれほどの数とまともに戦うべきではない)ている今はその文にピッタシだ。

 となると、次の分にある「至るべき神の道しるべのままに」とはどういうことなのだろうか。どこかに印のようなものがあってそれを頼りに進んでいけばいいのだろうか。

 現状発見していない以上、これ以上は考えようがない。そうすると次だが、「空の王者」とはもしかしなくても竜のことではなかろうか。

 この世界にある種族で唯一空を自由に飛べる種族だ。この世界の一般的な常識としても、空の王者は竜の別称として使われている。

 そこに対しての一番の問題は「会いに行け」だ。今までは全くなかった試練だ。会いに行けばその時点で終わりということか? いや、そもそもここに竜がいるのか?

 この島は黒竜が住み着くはるか前から存在していたという。だとすれば、この島の大地にある石碑も当然ながら存在していたということになる。

 そう仮定すると.......本当に実在していたのか―――――神竜というやつは?

 竜であっても神の末席ならほぼ悠久の時を過ごすかもしれない。そう考えるといたという裏付けはないが、いなかったと証明できるものも何もない。

 そう考えて浮かび上がった仮定がある以上、蔑ろにするのは良くないだろう。いないに越したことはないが、いると仮定して考えた方がいいだろう。

 クラウンは一先ずこれまでの情報からここまでを整理するとリリスに話していく。すると、リリスは「あんたってやっぱこういうこと考えるの早いわよね。なんというかリスク計算ってやつ?」と呆れた表情をしていた。

 クラウンは思わず「解せぬ」という思いを抱くも言葉には出さない。この考えに至った過程も含めてエキドナとシルヴィーが起きてから全員で話し合うことが最善策。

 それまではクラウンもロキも待機と言ったところだ。しかし、何もしていないわけではない。クラウンは<気配察知>でロキは聴覚と嗅覚で周囲に敵がいないか調べている。

 現時点ではほぼ空っぽだ。どうやらクラウンの判断は正しかったようだ。というのも、クラウンが巣穴に入る理由は虫が暑さを嫌がるという理由以外にも、総力戦で数が少ないからという理由があった。

 虫の、それもアリとハチの争いとなれば基本総力戦のぶつかり合いだろう。人間のような頭脳があるわけではないから、ある程度の知能は見せても陣形を組んでその都度その都度考えて動くというのは難しい。

 故に、結局のところどうしても数で押すゴリ押しプレイになりがち。しかも、クラウン達が見かけたのは黒い波と思わせるほどの数だ。大半は外に出払っている。

 そう考えれば、後は内部にいる女王護衛隊のアリや卵を守っているアリに避けてさえ進めばいい。しかし、いつ戻ってくるかわからず、早々に決着がついて戻ってきたり、逆に押し負けてハチがなだれ込んできたりとなる可能性もあるが。

 移動は慎重にかつ迅速に出来るだけ(時間的に)早く進んだ方がいいのだが、エキドナとシルヴィーが復活しないままに最終層に辿り着いて守護者ガーディアンと戦うなんてことになれば目も当てられない。

 だからこそ、ここは一人も欠けないようにエキドナとシルヴィーの回復を待つ。最悪、どっちか来てもゴリ押しで突破していく。

 クラウンはふと思い出したように塞いだ土を壊し、今いる場所から出た。リリスは思わず何か言おうとしたが、その前に「塞いどいてくれ」と言ってクラウンはどこかへ行ってしまう。

 そんなクラウンの姿を見てリリスは思わずため息を吐く。しかし、もう慣れているかのように「しょうがない奴ね」と呟くと少しだけ隙間を作り、穴を塞いでいく。

 それからしばらくすると、エキドナとシルヴィーの二人は目を覚ました。

「あれ.......ここは.......?」

「クラウン兄さんの姿が見えないなの.......」

「二人ともまだ少し安静にしてなさい。ここはあなた達が入ったアリの巣の中の.......どこかよ。一先ずあんた達の治療が優先だから避難してきたの。それから、クラウンは現在手掛かりを探しに外に出ていってる。帰ってきたら怖いわよ。まあ、私も言いたいことがあるんだけどね」

 エキドナはリリスの言葉に思わず目を瞑って笑みを浮かべる。大体言われることはわかっていて怒られることも承知なのだが、それ以上に生きていたことに。

 実のところ毒針の毒の回りはかなり早く、エキドナとシルヴィーはロキが大爆発の一撃を与える少し前からグロッキーだった。

 しかし、エキドナもシルヴィーも普段と変わりないように態度を装ていたためにリリス達もクラウン達も気づかなかった。

 特に、こういうことにいち早く気づきそうなクラウンが気づかなかったのは、純粋のシルヴィーが嘘をつかないし、ついてもすぐわかるだろうと過信していたからという理由があったりする。

「全く、いいこと? 次から黙って我慢しない! わかった!」

「ふふっ、そうね.......」

「うん.......」

「返事が違う! わかった?」

「「はい.......」」

「ならばよろしい。私からの説教は以上よ」

 二人はふとまだ両親が生きていた頃に一緒に母に怒られたことを思い出した。その時と全く同じ言葉を言われたような気がした。

 悪さの原因はやった本人が一番分かっているから、その原因を見てもいない人物がやたらめったら起こっても意味がないし、疲れるだけという理由で。

 するとその時、壁の外からクラウンの声がした。その声に二人はビクッとする。辛さはないがまだ少し痺れが残っているためにその場から逃げることが出来ない。

 クラウンが入ってくると二人は顔を少し上げながら苦笑いを浮かべる。そんな表情とリリスの顔をチラッと見るとクラウンは大きくため息を吐いた。

 そして、エキドナとシルヴィーの寝ている間に座り込むと雑に両方の頭を撫でていく。髪がグシャグシャになろうと関係ない。むしろ、その乱れた分だけ言いたいことなんだぞと言わんばかりに。

 それから、一言呟く。

「心配かけさせんじゃねぇ」

「「.......ぷっ、あははははは!」」

「なにがおかしい」

 その言葉に二人は思わず吹き出して笑った。その言葉も行動もまるで父親をトレースしたような動きであったから。

 母親似のリリスに父親似のクラウン。確かにお似合いだ。そう思うと二人には怒られている最中にもかかわらず笑いが溢れて止まらなかった。

 さらに言えば、今は身を隠している最中でもある。しかし、どうにもおかしく、二人には止めることが出来なかった。故に出たのは――――――――

「静かにしやがれ」

「「いたっ!」」

 こめかみに怒りマークをつけたクラウンの拳骨であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶
ファンタジー
仲間はモフモフとプニプニなモンスター?関わる悪党は知らないうちにざまぁされ、気づけば英雄?いえ無自覚です。これが新境地癒し系ざまぁ!?(*´ω`*) あらすじ ディフェンダーのバンは無能だからとダンジョンに置き去りにされるも、何故かダンジョンマスターになっていた。 8年後、バンは元凶である女剣士アンナに復讐するためダンジョンに罠をしかけて待ちながら、モフモフとプニプニに挟まれた日々を過ごしていた。 ある日、女の子を助けたバンは彼女の助言でダンジョンに宿屋を開業しようと考えはじめるが……。 そして気がつけばお面の英雄として、噂に尾びれがつき、町では意外な広まりを見せている事をバンは知らない。 バンはダンジョンを観光地にする事でアンナを誘き寄せる事ができるのだろうか? 「あの女!観光地トラップで心も体も堕落させてやる!!」 仲間にはのじゃロリ幼女スライムや、モフモフウルフ、モフモフ綿毛モンスターなど、個性豊かなモンスターが登場します。 ー ▲ ー △ ー ▲ ー マッタリいくので、タイトル回収は遅めです。 更新頻度が多忙の為遅れております申し訳ございません。 必ず最後まで書き切りますのでよろしくお願いします。 次世代ファンタジーカップ34位でした、本当にありがとうございます!! 現在、だいたい週1更新。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

『私、シン・デレラさん。今から、継母と2人の義姉を殺しに行くの』

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 継母「お願い許してシン・デレラ。私が悪かったわ(信じられない)!どうかそんな事しないでちょうだい(罪を重ねるのは)?」と家の中から飛び出して、シン・デレラから逃げる為に近くの森に入って行きました。  シン・デレラ「あっははは。何処行くのお義母様、待ってよ〜(逃がさない)!こんな夜更けに1人で森の中に入るのは危ないわよ、お義母様〜(誰も助けに来ないわよ)!」と棍棒を持って追いかけて行きました。  シン・デレラ「お義母様。私、今まで生きてきて今日が1番楽しいの、これからお義母様の髪の毛を全部引き千切って、手足の爪を剥ぎ取るの(ゾクゾクするわ)!最後にこの棍棒でお義母様の両手足を、爪先から付け根まで粉々に砕いて行くの、楽しそうでしょう。お義母様(ウフフ)?」とゆっくりと棍棒を振り上げていきました。

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

処理中です...