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第11章 道化師は狩る

第245話 天空の箱庭 スカイクロノア#3

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 クラウンはもはや脳内処理が追いつかなくなって役に立たなくなった<気配察知>をオフにすると目視で周囲を確認していく。

 とりあえずわかることは、どこを見渡しても変わらないほどの虫、虫、虫の数。最初の頃に比べれば多少勢いが減ったようにも感じるが、あくまで多少である。

 見るだけで吐き気を催さなくもない状況に出来る限り近づきたくないが、そうなるとこのいつまで続くかわからない争いのために神殿捜索を待たなければいけないということになる。

 そう長くかかることではないが、響の件もあるために出来るならば早くした方がいいだろう。そう思って確認していくが<遠視>でも限界がありな、なにより地上で死んでいる虫の残骸のせいでわかりづらい。

 後片付けなんて虫に知能があると思えないので、ここは自分達も殴り込みに行って終結させるか、下手に手出しして一人でも巻き込まれたら事なので静観しているか。

 悩ましい。なにより嫌がっているリリス達を無理やり突っ込ませるのもどうかと思う。なら、ここは後者を選ぶべきなのだろうか―――――――!

「エキドナ! シルヴィー! 全力で前方に進め! 来るぞ!」

「「!」」

 クラウンの言葉に二人は振り返ることもなく、大きく翼を動かして前方に移動していく。すると、後方からカサカサカサと何かが風圧で崩れていくのを感じた。

 そして、少し移動した後にその他全員が見ると思わず顔を青ざめさせる。それは丁度クラウン達の高度までタワーが積み上がっているからだ。

 ことの本末を見届ける前提だったので、クラウン達はアリとハチに巻き込まれないような高度で滞空していた。しかし、ここまでやって来ているということはどうやら狙いをつけられたらしい。

 すると、エキドナが「下を見て」と全員に投げかけた。その言葉に反応して下を見ると「ここに雪姫や朱里がいたら卒倒するだろうな」という光景が繰り広げられていた。

 その光景は二つあって、それを例えるのならアリの監獄とハチの包囲網というところだろう。

 アリは組み上げたいくつかのタワーからさらにタワー同士を繋げる橋まで作り上げていて、それがいつの間にやら三段ほどあったのだ。そして、放たれた毒針をアゴで掴み狙いを定めて器用に投げている。

 また、ハチは空中という有利をがぜん活かして集団でタワーを囲むような球体状の包囲網を作っている。そして、そのタワーから回転しながら一斉射出。効率よくタワーを破壊している。

 どうやらただ闇雲に突っ込んで戦っているわけでは無さそうだ。少なからずの知能があるということ。ということは、クラウン達の存在に気付かないはずがないということ。

 クラウン達に迫っていたのはアリだけではなかった。周囲を囲むように現れ始めたハチの群れ。どうやら標的にされたのはアリだけではなかったらしい。

「エキドナ! シルヴィー! ここから緊急離脱しろ!」

 その言葉を聞いた瞬間、二人はそれぞれ逆方向に飛んでいき、ハチに囲まれる前に包囲網を突破する。

 しかし、横を抜けられそうだというのにハチがみすみす逃すはずもなく、一体どこから補充しているんだと言わんばかりの毒針を敵味方関係なく発射していく。

「ロキ、撃ち落とすぞ!」

「ウォン!」

 クラウンは刀を引き抜くとその勢いで横一線に大きな斬撃を放っていく。そして、ロキは口を大きく開け<雷咆>を横なぎに放つ。

 しかし、それで仕留められたのは十数体程度。もともと空中を飛んで暮らしていたハチの方が分があるらしい。

 出来ることならば接近して進みたいが、島から離れると結界の領域に入るらしく両足を放し過ぎれば結界の外に追い出される。そうなれば、戻ってくるのは再び竜人族に届けてもらわない限り不可能。

 恐らくここで一番強いのはリリスの重力操作なのだろうが、現状いないので仕方がない。ここは耐久戦ということなのだろう。

「シルヴィー、お前は飛ぶこととどこか巣穴のようなものを見つけてくれ!」

「す、巣穴!? もしかして、入るとか言わないなの?」

「.......そのまさかだ」

「――――――!」

 シルヴィーは長い首だけ振り返りながら、クラウンに見開いた目で見る。赤竜だから表情にはわかりづらいが、恐らく元の姿だと青ざめていること間違いなしと思える。

 クラウンは周囲から降りかかる毒針を弾きながら、その理由を告げ始めた。

「いいか? この戦いはいわば自然界の戦いだ。ということは、どちらかが完全敗北するまで終わらない。それだけの間、俺達は空中にも地上にも居場所はないんだ」

「なら、火山の方は? あそこなら休めると思うなの」

「観察してわかったことだが、その火山は恐らくアリの方の巣穴だ」

「え?」

「移動してきた方向を辿ってみると火山に辿り着く。そして、火山にはよく見ると所々に穴が開いている。恐らくあれは巣穴の出入口だろう」

「なら、逃げ場ないじゃんなの!」

「いや、だからこそ火山に行くんだ。俺の仮説が正しければ、アリは火山に巣穴があり、ハチは俺達が進んできたどこかの地面に巣穴がある。そして、その二匹は互いに潰しあって、どちらかの巣穴が駆逐されるまで終わらない。とはいえ、火山の方が圧倒的責めにくい。火山の地熱があってここの地面よりも明らかに温度が高いからな」

「なるほど。火山の奥に行くんだね?」

「ああ。アリがいるのは百も承知だが、少なからず火山の中心に近づけば近づくほどアリの数は減るだろう。体がいくら巨大でも虫であることに変わりないなら、熱すぎるところは避けるはずだ」

「それって、私達が蒸し風呂状態にならない?」

「俺達には魔法って便利なものがあるだろ? 少なくともリリスがいれば問題ない」

「それじゃあ、次にそれをどうやって伝えるの?」

 シルヴィーは通信手段がないことに気付いているのか疑問を投げかけるようにクラウンに尋ねた。すると、クラウンは左手をおもむろに上げるとそれ腕に絡まっているものを見せる。

「もう伝わっている。糸電話でな」

 実のところ、エキドナとシルヴィーが離れたところでクラウンはベルに糸を飛ばしていたのだ。それはベルなら幾度となく糸を使っていて、さらに獣人であるために感覚に長けているから。

 もちろん、その糸は咄嗟に飛ばしたために気付くかどうかは博打であるが、クラウンは信じているのだ。ベルなら気づいてくれると。

「さて、作戦は決まったことだし」

 後は入りやすそうな巣穴を見つけ、中に入るだけ.......と行きたいのだが、現時点で空中にはハチが地上にはアリが蠢いている。

 無理やり入ることも出来るのだが、そうなるとアリが同じ巣穴からなだれ込んできて数で押し切られる可能性も少なくない。

 出来ることならば、追いかけて来るアリとハチを殲滅して、尚且つエキドナ達と合流するのがいいのだが.......はてさて、どうしたものか。

 一度に殲滅できる攻撃はクラウンにはあまり持ち合わせておらず、シルヴィーが動き回る背中の上では狙いをつけるの難しい。

 リリスの重力に頼るのもありだが、それだと自分達の居場所を隠すことは出来ない。二軍三軍とこっちへやってきかねない。

 一番ベストは相手を殲滅出来て尚且つ、自分達の姿を眩ませられること。エキドナとシルヴィーのブレスなら可能だが、魔力消費の大きい竜化ですでに長時間乗ってしまっている。さらに、捕まらないように動いているのだとしたら、あまりいい選択肢ではない。

 最悪、自分が囮になるしか――――――――

 その時、ロキがクラウンに向かって吠える。その顔は「普段見せ場ないんだから、見せ場よこせ」と言っていなくもないドヤ顔であった。

 すると、ロキは大きく口を開けるとにかく周囲の空気を飲み込み始めた。まるで掃除機かのようにグングンと吸っていく。

 それが終わると、今度はその状態で<雷咆>を放つための核である雷核を作り出す。その球体は激しくバチバチと紫電を走らせ、高エネルギーが圧縮され眩い光を放ち始める。

 その瞬間、ロキはその球体を口の中に放り込んだ。そして、ボンッと口の中で音を立てると歯茎の隙間から煙が外に漏れ出ていく。

 それから一気にロキは吸い込んだ空気ともども雷核を外へと吐き出した。その雷核はロキが口の中に入れるよりも明らかに二回りぐらい小さくなっていた。

 クラウンは嫌な予感がした。その球体から感じるあまりの高エネルギーはリルリアーゼの高エネルギー砲を彷彿とさせたから。だから、咄嗟に叫ぶ。

「全員、耳と目を塞げえええええええ!」

 その瞬間、球体は一気に膨張し始め、音もなくその場に光の大爆発が起こった。その光はあらゆるものを飲み込んでいき、アリもハチも木も地面も何もかもを一緒くたに消滅させていく。

 音が遅れてやってくる。竜であるシルヴィーでさえも吹き飛ばされそうな衝撃波がクラウン達に襲いかかり、つんざくような爆音が周囲一帯に轟いていく。

 光と音は一切合切をなかったことにするように何もかもを襲う。半円状の光がただそこに出現しただけ。それだけを示すような光量とそれに伴う熱が周辺にいたアリやハチを焼いていく。

 確かに、追ってくるアリやハチは殲滅出来て、さらに自分達の姿も眩ませることが出来る。とはいえ――――――

 光が小さくなっていく。大量の煙は上空へと立ち昇り、巨大なキノコ雲を作っていく。本来あり得ないほどの高度で出来るキノコ雲が次第に薄れていくとそこには熱によって出来たマグマと抉れた地面だけが残っていた。

 明らかにやり過ぎである。求めていたものはそういうものであったが、求めている以上のものをロキは提供してしまった。

 ロキは「褒めて褒めて」と言わんばかりのドヤ顔で尻尾をフサフサと振っていくが、この光景を見て素直に褒めた方がいいのやら。

 とはいえ、確かに求めたものとは一致しているので、少しだけ頭を撫でていく。

「あー、怖かったー」

「シルヴィー、とりあえず近くの巣穴に潜ってくれ」

「わかったなの」

 クラウンの言葉に了承したシルヴィーは火山にある巣穴へと入っていった。
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