上 下
60 / 303
第11章 道化師は狩る

第244話 天空の箱庭 スカイクロノア#2

しおりを挟む
 クラウン達はロキとベルの体力が回復するとさらに密林の奥に進んでいく。奥に進めば進むほど、太陽の光は生い茂った大きな葉っぱに防がれて地上まで届かない。

 少し薄暗い足場の悪い道を木々の間を縫っていくように歩いて行くと目の前に不自然に抉れた木の跡があることに気付いた。

 その抉れた感じは何かで削ったというより、かみ砕いた感じの方が近かった。そして、それがいくつもあり、跡が多いところでは倒れた木々がたくさんある。抉った大きさからかなりの大きさかの何かが存在しているかもしれない。

「随分と多く存在してるわね。葉っぱの部分はキレイに残されていて、幹の部分はキレイさっぱりなものがちらほら。竜って木とか食べるの?」

「さすがに食べないわよ。遥か昔には植物を食べるだけの竜種もあったらしいけど、もう絶滅してしまってるわ。それに、食べるとしても幹じゃなくて葉の方よ」

「でも、この感じって普通じゃんないと思の。考えうるに幹は何かに使うために運ばれていったと思うの。ほら、一部だけやらたと木のカスが落ちているなの」

「ということは、ここには竜とは違う生命体がいるということです?」

「生き物なんてどこにでもいるだろ。いなきゃ島が成り立たないだろうしな」

「いわゆる相互関係ってやつね。とはいえ、この島から何かが出てきたようなことは過去の一度も見ていないのだけれど」

「この島だけで自己完結できるってことだろ。そもそも、俺達の前に何が現れようとも前に進むことには変わりない」

 クラウンはそう告げながら周囲に気配を飛ばし、入り口からひたすら真っ直ぐ歩いて行く。そして、やがて日が暮れるまで歩き続けたが、その日は神殿の場所を見つけられなかった。

 リリスとエキドナが夕食を作っている間、クラウンは木に登って天辺から辺りを見渡すが、どこもかしこも見渡す限り生い茂った木ばかりで神殿の「し」の字も見つからない。

 クラウンはため息を吐きながら大人しく地上に降りると近づいてきたロキをそっと撫でる。まるで日頃の疲れをペットに癒してもらうように。

 それから、夕食を取るとリリスが張った結界内で、クラウンとロキ以外の女性陣は全員が早めの睡眠に入った。

 リリスの結界がある以上、クラウン達に夜番など必要ないのだが、なんとなく寝付けないクラウンは木々の葉の隙間から見える星を眺めていた。

 その体勢は当然、丸くなったロキを枕にするという安定のスタイルだ。いつもならすぐに寝付くはずの極上のモフモフの毛並みが妙に名残惜しく感じているのだ。

 まるで今のうちに触っておけと急かされているように。もしかしたら、魔王化の間に一切ロキの毛並みを触っていなかったための禁断症状か何かなのかもしれないが。

「ロキ、起きてるか?」

「クゥ~ン?」

「どうしたってか。まあ、そうだな.......なんか急に話したくなったんだよ。ほら、なんだかんだで案外蔑ろにしてしまってるだろ? その埋め合わせって言うかなんというか」

「ウォン!」

「嬉しいのはわかったが、もう少し小さな声でな」

 クラウンは嬉しそうに尻尾を自身に打ち付けてくるロキを見てほころぶも、さすがにリリス達が起きるほどの声は不味いとなだめる。

 ロキは頭がいいのでその言葉を理解するとすぐに口を閉じ、尻尾を動かすのもやめた。しかし、目は嬉しそうに細めている。

 クラウンは頭の下にある胴体を手で撫でながら、星空を眺めているとふと呟く。

「お前との付き合いはリリス以上に長いよな」

 クラウンとリリスが出会う前、丁度クラウンが「道化師クラウン」として成り立ての頃、クラウンはロキと出会った。

 初めは疑っていたクラウンも動物は嘘をつかないと思い、最初に信じた相手であった。もちろん、完全に信じたわけではないが。

 それから、数が月後にクラウンはリリスと出会う。ロキとリリスの時期の差はたったそれだけであったが、体験した思い出はそれ以上の時間を共にした気分であった。

「あの時のお前を思うと、お前はもしかしたら同じ匂いを辿って俺のところまでやって来たのかもな」

 ロキはもともとグレイファウンドという魔物の種族で暗い森に擬態するために全身は真っ黒なのだ。しかし、ロキは対照的な真っ白―――――遺伝情報の欠損によって引き起こされるアルビノであるのだ。

 本来真っ黒のはずの魔物が真っ白。それはもはや「狙ってください」と言っているようなもので、ロキは生まれた頃からほとんど村八分状態であった。

 誰も味方がいない状態で誰にも頼ることが出来ずに、自分の力だけで生き残らなければいけなかった。それはその当時のクラウンのほとんど同じ境遇だった。

 故に、出会い相棒としてここまで過ごしているのはもはや運命と言うべきなのだろう。運命のが手繰り寄せたものだとしたら、このような状況も少しは報われるというものだ。

「本当にお前はずっと変わらないでいてくれるな。俺がどんなに迷っても、血迷ってもお前は気高く、凛々しい。本当は俺が最初に惚れたのはお前かもしれないな」

「ウォフ」

「ドヤ顔気味に吠えたな、お前。やっぱり、リリスに対しての密かな敵対心とかあったんじゃねぇか」

「クゥ~ン」

「『そんなことないよ』ってそれこそそんなことないだろ。少なくとも、最初の頃はリリスがお前を枕にするのちょっと嫌がってたじゃねぇか」

「ウォン」

「『リリスをそれ以上悪く言うな』っていつの間にそんなに仲良くなってたんだ? まあ、ここまでずっと一緒にやって来ておいてずっと敵対心持っていたらそれはそれでおかしいか」

 クラウンは少しだけ口角を上げながら、手を頭の後ろに組む。そして、そっと目を瞑る。

「ロキ、お前は俺の果たす目的を見届けてくれよ」

 そのそっと投げかけた言葉に対して、ロキは答えることはなかった。

 ***************************************************

 翌日、クラウンは周囲から近づいて来る大量の気配に気づいた。そして、勢いよく目覚めるとすぐさま近くの木に登る。

 その木の上から周囲を眺めるとクラウンは思わず「昨日結界内で寝なくてよかった」と内心で思った。

 それはクラウンでも冷汗をかくほどのが地上を侵食するように迫って来ていたからだ。

「お前ら起きろ! すぐさまここから対比する準備をしろ!」

「クラウン? どうした?」

「いいから早く!」

 リリス達は普段見せないクラウンの切羽詰まったような声を聞くとすぐさま動ける準備を整えて、クラウンがいる木の周辺の木へと登っていく。

 そして、クラウンが指差す方向を見ると思わず全員がそのあまりの数に引いた。

「何のかしらあの数......」

「もしかして、あれは全部――――――アリ?」

 リリスがそう告げたのは正解で、一斉に黒い何かがひしめき合ってクラウン達に向かって進んでくるのは全てアリであった。

 その数は軽く数万はいくだろうか。しかも、それがよく見るアリのサイズでなく、クラウン達よりも大きい二メートルほでどであった。

 それがガサガサと不快音と出しながら木々を埋め尽くしている。まさに黒い波。かなり広い範囲まで黒でジャングルが塗りつぶされていく。

 このままここにいればアリの大波に襲われるのは必須。さすがに相手にしていられる数ではない。

「エキドナ! シルヴィー! 一旦ここを離れる! 竜化しろ!」

「わかったわ」

「了解なの」

 エキドナとシルヴィーはすぐさま白い竜と赤い竜に姿を変えるとクラウン達を乗せて空中を羽ばたいていく。

 上空からアリの進軍を見てみるとまさしく気持ち悪いほどの数であった。どこもかしこもアリ、アリ、アリで一体どこから湧き出ているのか。

 そのせいか頭に浮かんだ気配察知レーダーはあり得ないほどの敵の数を示している。さすがに量が多すぎて脳が悲鳴を上げそうだ。するとその時、ベルが叫んだ。

「主様! 後ろを!」

「なっ!」

 その声にクラウンは振り向くと大量のスズメバチは空中を埋め尽くすように存在していた。しかも、その数はアリと一緒で数万匹ほど。

 もう一生分の虫の数を見た気がする。どうやらそのせいでクラウンの<気配察知>はキャパを超えるほどの異常な数に悲鳴を上げていた頭痛がしていたらしい

 地上はアリの波が黒く塗り潰していて、空中はハチの大軍が青空を覆い隠している。そして、そのアリとハチはクラウン達に目もくれず衝突しようとしている。

 なんだろうかここは巨〇列島か何かだろうか。現時点で確認できている虫はアリとハチしかいないが、他にもなにかいたりするかもしれない。ともかく、今はとにかくこの争いに巻き込まれないように避けなければ。

 そして、クラウン達はその二軍から距離を取るとアリとハチが激突した。ハチは有利な空中からおしりについている毒針をショットガンのように射出している。

 それに対し、アリは飛べずに一方的にやられている――――――と思っていたら、アリの死体に乗ったアリ.......の上にさらにアリが乗って、またそのアリに他のアリが乗ってと繰り返していき、アリのタワーを作っている。

 あの動きは軍隊アリにあったような動きだ。仲間の体をアゴで咥えて、加えられたアリは別の仲間をアゴで咥えて道なき道を体を使って作っていく.......どうやらそれで空中すら徐々に自分達の行動範囲にしているらしい。

 ハチがそのタワーを壊そうと毒針を射出しても、壊れたそばから別のアリが補強していく。そして、ハチが少しでもアリにアゴで掴まろうものなら地上の集団で一斉に襲いかかられている。

 昆虫バトルをまさか実写で見る日が来ようとは。いや、そんな感想よりももっと端的に表せる言葉がある。そうそれは―――――――

「「「「気持ち悪い」」」」

 リリス、ベル、エキドナ、シルヴィーは揃って同じ言葉を吐いた。「それはそうだろうな」とクラウンも苦笑いでその光景を見て思っていた。

 力量差は丁度五分五分といったところでいくつものアリタワーが出来ている一方で、ハチも無限に射出している毒針で殺しまくっている。

 そんな他人事みたいに静観しているクラウン達に二軍の魔の手が迫っていることをまだ彼らは知らない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える

昼から山猫
ファンタジー
没落寸前の貴族家に生まれ、親族の遺産争いに嫌気が差して王都から逃げ出した主人公ゼフィル。辿り着いたのは荒地ばかりの辺境領だった。地位も金も名誉も無い状態でなぜか発現した彼のスキルは「農地再生」。痩せた大地を肥沃に蘇らせ、作物を驚くほど成長させる力があった。周囲から集まる貧困民や廃村を引き受けて復興に乗り出し、気づけば辺境が豊作溢れる“黄金郷”へ。王都で彼を見下していた連中も注目せざるを得なくなる。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

不死鳥契約 ~全能者の英雄伝~

足将軍
ファンタジー
【旧タイトル】不死鳥が契約してと言ったので契約してみた。 五歳になると魔法適性がないと思われ家族からその存在を抹消させられた。 そしてその日、俺は不死鳥と呼ばれる存在に出会った。 あの時から俺は、家族と呼んでいたあのゴミ達には関わらず生きていくと誓った。 何故?会ったらつい、ボコりたくなっちまうからだ。 なろうにも同時投稿中

処理中です...